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第9話 「放課後吸血鬼退治部」

一日の授業と終礼が終わった。時刻は16時。欠伸をして開かれた口にオレンジ色の夕陽が注がれ広がる。


生徒達はいそいそと各々のコミュニティへ走っていく。家の高校は部活動に入る人間が非常に多い。今は廃止されたが元々部活動強制だった校則もあり、その名残がまだ残っているのだろう。最も僕はいついなくなる身か分からなく、迷惑はかけられない為に入っていない。


「部活動か・・・夜遅くまで学校に人がいると困るんだがな」


困るとは、吸血鬼の襲来の事だろうか。


「でも、人が多い所だと彼らも顔を出しにくいんじゃないの?」


「いや、建物というのは死角が多い。完全に一人になった状態の所を襲われれば誰も気付かないだろう。若い人間の血は生命力も高い、リスクは重々だ」


確かに、仮に僕が消灯直後の校舎二階奥のトイレに一人でいて、そこで襲われでもすれば完全犯罪だ。僕の食われ残しが残らない限り、突如消えた事になる。

まあ、食い残しが事件発覚の原因になっている以上そこまでの頭脳は彼らには無いのだろうが、どちらにしろ助けを呼べないのは確定だ。


「パトロールがてら、夜まで学校で待ちだな」


頭の後ろで手を組みながら、海斗はそう言う。

彼らが人間との交友を目的とするなら、芽は潰さなければならない。確実にこの市にはいるのだ、闇に溶け込み、人を食らう者達が。


「これもさしずめ、部活動みたいな物だな」


「お、学生っぽいな!俺達の失われた青春を取り返す!」


「失われた青春?」


思えば僕も、ちゃんと学校の行事に打ち込んだ事は無い気がする。

それは決して無気力では無くて、どこか1cm分遠慮していた形の。


「俺達は生まれた時から人間と戦う兵士として育てられた。既に人間との戦争状態の中に生まれたからな。だから知り合いも、こいつらだけ」


そう指を指した先には無言のレイジ。

それにしても二人は一体いつ生まれたんだ・・・?


「中世より続いた因縁だ、いい加減断ち切らなければならない」


中世だった。


「えっと、じゃあ二人は何百歳?」


「厳密に言えば、私、レイラ、海斗は冬眠していた。次代の吸血鬼軍に未来を託す、とのご指示でな」


と、そう言えばレイラがいない。


「あれ、あの、妹さんは?」


まだそこまで喋っていない為、名前で呼ぶのを憚ってしまう。


「マユの所だろうな。同年代で同性の誰かと絡む機会など無かったから」


友達や青春を求める彼ら。

吸血鬼だとしても人間だとしても、本質的には一緒なのかもしれない。


教室の扉が開く。

マユさんとレイラが並んで入ってくる。


「お、何してたんだ」


「食べさせ合いっこをしてました」


「へ?」


思わぬ答えに驚く。


「マユさんは、食事は心と心の受け渡しだと言ってました。それを確かめたかったんです。私には兄様といる時以外に自分が生きているという実感を感じられないから」


自分の心臓に手を当てて語るレイラ。

彼女はミステリアスというか、未だに良く分からない。


「いや、あれはなんか、私の謳い文句というか、矜持というか、そういうノリというか、だからあんまりちゃんと受け取らないで・・・?」


確かに、どういう意図を持っての台詞なのかは気になっていた。正直今時あんな事を言ってくる店主なんていない。


マユさんの顔が赤みがかってくるが、それを無かった事にするかの如く振る舞う。


「そういえばさ、まだ連絡来てない?」


「連絡?」


メッセージを見る。メールはおろか、電話も来ていなかった。

向こうからすれば勝手にいなくなって、厄介払いが出来て良かったと思っているかもしれない。


「無いね・・・」


なぜ、親戚達の僕への扱いが冷たいのか分からない。だからそれを当たり前として過ごしてきた。単純に余所者とも言える自分が嫌いだったのか。でも、だからといってそこまでするか?考えれば、この状況はかなりおかしいのではないか?


「連絡ないんならさ。折角だしみんなでいない?なんて・・・」


そう彼女はうつむきながら話す。口元は見えない。


みんな、か。

どちらにしろ、レイジの願いを僕は受諾した。あの時は精神がおかしくなっていた為それをすんなり受け入れたのかもしれない。そしてこれは半ば巻き込み事故だ。

僕があの時吸血鬼に襲われなければ、レイジが来なければ、普通に人と距離を置いた暮らしを繰り返しているだろう。だが逆に、彼がいなければ死んでいた。

そして感じた。こうやって、誰かに巻き込まれてる感覚は悪くなかった。それは相手が人であっても、鬼であっても、変わらない。

これって即ち、友達だという事では無いだろうか。


「いいよ、どうせ帰ってもだし」


僕も折角だし、一回くらい自分で何かを選んでみよう。今迄されるがままで、大人の都合で一つの場所に留まれなかったんだから。




突如、体が総毛立つ感覚がした。

秋だからではない、少し肌寒いからではない。

何かこう、深海の中にいるような冷ややかさ。


「鬼が出ましたね、行きます」


レイラが弾丸の如く駆け出すのを、レイジが止める。


「レイラ、お前の技はここで使うと危害を及ぼす。いざという時までお休みだ。一人でも巻き込まれた人間が出ればその時点で平和は崩れる」


すると妙に納得したかのように、彼女はこくりと俯き引き下がる。

学校の生徒の認識を改竄した際にも、何か煙のような物が見えていた。

恐らく毒か何かだと頭の中で推察する。


「初めての部活動だな」


続くレイジ。

それを、僕も追いかけていった。



○○○


 校舎裏の細路、突き当りのゴミ捨て場に二人はいた。

そして、制服の上に黒いフードパーカーを羽織った少年の姿。

彼の足元には、黒い肉片のような物が落ちていた。

スッパリと切られた断面から、服の繊維のように内部につまる肉が見えている。


「・・・やあ、吸血鬼。僕は霧崎暁。敵がゾロゾロとお出ましか」


その少年、朝から教室の中でずっと僕を睨んできた彼はすかしたように言葉を撃つ。


「よお、聖職者。お前が殺したのは人を襲った鬼か?」


僅かな怒りを滲ませた海斗の声。


「当然だ。吸血鬼は全て淘汰されるべき」


「ただこっそり血を吸って生きてる奴もか?迷惑をかけない奴もか?生まれたばかりの俺の妹もか?」


「当然だ。そもそも人の血を吸うという食事しか出来ないお前達の種族が悪い。不死身の吸血鬼には分からんかもしれんが、僕は困るんだよ。訳のわからない生き物に大切な誰かが殺されるかもしれないって事がさ・・・!」


「人の妹殺しておいて、良くそんな事言えるな・・・!」


「全員を一緒くたにするな、それは僕じゃない」


「お前が言える事かよ・・・」


海斗の仮面の内側が蒼く燃える。

足を踏みしめる。


「人々がお前達を敵とみなした。そして現に吸血鬼は人を殺している。だから僕達はここにいるんだ」


それと同時に黒フードの少年、暁は手に持つ剣を捻る。持っている手は見る限り義手だ。捻ると同時にスケルトンカラーの剣の内部に火花が飛び散り、義手は赤熱化する。


「Holy radiance kills vermin」


同時に聞こえる、剣の起動音声。



「ちょっと待て!ストップ!」


それを遮る為に、レイジが二人の間に割って入り手で制する。


「暁だったか?確かに、理性を失った吸血鬼は人を食う。俺達の目的はそんな奴らの掃討だ。だからといって、何もしてない海斗まで巻き込まないでいただきたい!」


「何もしていない?既に生徒の認識を改竄しているだろ」


「ぐぬぬ・・・俺達は身分が無い。違和感無く安全な場に身を置きたかっただけだ」


非常に正直に言った。


「甘いな・・・その甘さでこれからも生き残れると思うなよ」


苦笑いと共に、暁は夕陽の中の影に消えていく。


然し、この言い分だと、彼ら聖職者は吸血鬼全体を悪とみなし殲滅しようとしている。これではレイジの言う平和には近付けない。


「先は長そうだな・・・これでは頭打ちだ」


唸るレイジ。


「へっ、レイジの頼みだから付き合ってるだけだ。本来なら叩き潰していた所だよ」


「いや、さっき思いっ切り戦いかけただろ」


「お前は純粋すぎるからな、かかる火の粉は俺が振り払うまでだ」


「振り払っていれば、戦うしか無くなるだろ」


「頭が堅いんだよお前は」


だが、海斗は守りたいのだろう。レイジの事を。唯一の知り合いの一人を。


すると再び、心の中に悪寒がする。

恐らくこれは同族が近くにいるというセンサーだろう。


「やはり高校は狙い目になるか・・・」


「行くぞ、次だ」


こうして、吸血鬼退治部が自分の中だけで始まった。

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