もしも天使が居たのなら。
『もしも天使が居たのなら
あなたを忘れない
白い羽根の翼に
いつも涙を見せないようにして
黒い影と闘っている』
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「ラナ!!」
「シュナ……」
燃え盛る人工最高知能フェイトの灰色機械塔機関部の最上階。
魔女のメアデスが、ラナの天使の力を抽出することに成功し、時計塔機関部の歯車のような光の輪を背中に光らせて、黒のドレスの先端から白い指先に青い炎を灯らせて、周囲一帯を闇に照らしていた。
ラナには、人とは違う白い翼が背中に生えている。
けれど、力のほとんどを奪われたラナは、燃え盛る炎迫る冷たい大理石の床に横たわるばかりだった。
「ラナ!! 生きて!!」
「シュナ。ありがとう。もう、良いんだよ……」
ラナの力を失った瞳が虚ろに僕を見つめた。
それを見ていたのか反対に、魔女のメアデスが紅い唇の口角を上げて微笑む。
「フェイトは世界。やがて力が闇を覆うでしょう。けれども、ラナの力は世界を照らす。私が代わりに世界を見届けます」
「ば、バカなっ!!」
天威転移装置の水槽から助け出したラナが、僕の腕の中でグッタリとしている。
「良いんだよ、シュナ……」
「け、けどっ!!」
グッタリとした青白いラナの横顔が、僕を見つめる。
十七歳の生誕祭の祝福を、ウミルの洞窟で星から受けたばかりなのに……。
「観念したようね? 人工最高知能のフェイトも欲しがってるわ?」
「だ、だまれっ……!!」
魔女メアデスが、背中の黒い翼をはためかせると──、纏っているメアデスのドレスが、左手の雷玉の風に空気を引き裂くように靡く。
(オオォ……。天使ラナ。魔女メアデス……)
人工知能から生まれた機械塔の主──フェイトが、電光の眼差しから流線型の光の涙を頬に流している。
人のカタチを模したフェイトの青い金属の輝きが、闇夜の今、炎に揺れる。
まるで、フェイトの指先が魔女メアデスと元天使だったラナを、掴み入れるように。
「世界は、平等だ!! 誰にだって生きる権利はある!!」
腰に差した短剣を左手に握りしめ、僕は身構える。
けれど、僕に何が出来るだろう。
機械塔は燃え盛り、目の前の人工最高知能のフェイトと魔女のメアデスは、燃え盛る炎を目の当たりにして、背にしても平気だ。
「世界は、不平等よ。シュナ。けど、世界は消えてもまた生まれるわ。心配しないで」
冷たい大理石に横たわるラナが、焼け落ちそうな機械塔の炎に赤く照らされている。
だけど、僕はラナの命だけは守りたいって想う。
世界より、僕にはラナの命が大事だ。
(魔女を呑み込む炎。メアデスを滅ぼす……)
「あぁ、フェイト……。私との夢はどうするのかしら?」
機械塔の炎が足もとに僕とラナに迫る寸前、まるで風向きが変わったかのように後退する。
魔女メアデスの左手の光玉の魔力が、人工最高知能フェイトの青く光る機体へと、機械塔と一体化したその暗闇の先に向けられた。
「世界は終わりかしら、フェイトさん──?」
(終焉の力、葬るべし。魔女メアデス。我が闇とともに──)
──それからの事は、僕の記憶には残らなかった。
星の賢者──、パトトと出会うまでは。
「シュナ……。シュナ……」
何故だろう。ラナの温かい声が聞こえる。
僕の新しい記憶──、その眩しい光に向かって。