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8.表彰、そして旅立ち


夕子は目を見張った。


その空間は恐ろしく広大で、豪華絢爛の一言だった。

下を見れば真っ赤で分厚い絨毯、上を見れば太陽よりもまばゆい無数のシャンデリア。左右は一段低くなっていて、そこには鮮やかなスーツとドレスの人々がひしめいていた。そして、中央の大きな玉座に繋がる通路が広々と伸びていた。

人々は、一斉に歓声を上げた。そして、けたたましい拍手の音が響いた。


これまでの城のイメージとは全く違う空間にすっかり唖然としている夕子を見て、アルザーは言った。

「この広間は、民を表彰し、賞賜が行われる際に使われる場所だ。当時の王の意向で、民が主役となり、一生に一度の栄誉を受けるこの場だけは、どこにも負けないぐらい豪華に仕上げさせたらしい。まあ、思う存分堪能しようぜ」


流石の夕子も、このように迎え入れられるのは悪い気はしない。

少し頬を紅潮させながら、中央の玉座に向かって歩いて行った。


玉座には、王が座っていた。

メンデロの面影を感じるその顔には深いしわが刻まれており、精巧な彫刻のように美しく、厳格さと優雅さを振りまいていた。


アルザーとコリンはひざまずいた。夕子も、慌ててそれに倣った。

周囲は水を打ったように静まり返った。


王は言った。

「アルザー・バハリ。コリン・エレン。アイダ・ユウコ。君たちの働きにより、王都は救われた。ありがとう」


厳粛な場に似合わない平易な台詞に、夕子は驚いた。

それから、王は玉座から降り、夕子たちをひとりひとり抱きしめた。

王の腕は力強く、分厚いローブからは香水のとても良い匂いがした。

それよりも、夕子の胸の内には驚きと戸惑いが渦巻いた。


…王様が、こんな風にしてくれるんだ。


夕子は、ちょっと嬉しくなった。

王は三人を抱きしめた後、言った。


「君たちには褒美として、爵位といくらかの財産を授ける。これからも、我らが国のため働いてくれることを祈る」


そう言った後、王はまた玉座に座った。

その後、玉座のそばに控えていた礼服の男が言った。

「これより、忠実にして辣腕なる臣民、アルザー・バハリ殿、コリン・エレン殿、アイダ・ユウコ殿の輝かしき功績について我らが偉大なる王に申し伝えると共に、アルザー・バハリ殿、コリン・エレン殿、アイダ・ユウコ殿に対して我らが王が下賜される褒美について、このような素晴らしき場所にお立ち会い頂いた忠実にして公明正大な皆様に…」


それからは、長くて退屈な儀礼が始まった。

夕子の鼻の奥には、ずっと王様の匂いが残っていた。







「俺もいたんだぜ。見つけられたか?」

「いいや。あんなに人がいちゃあ分からないな」


賞賜の儀礼の後、王城の一室でパーティが開かれた。

次々と参列していた人々が夕子たちの元にあいさつしに来た。

夕子は、愛想笑いを浮かべすぎて頬が筋肉痛になりそうだった。

それがしばらく落ち着いた後、メンデロが話しかけてきたのだ。


「ユウコもきれいだったな。あの藍色のドレスは良かった。もちろん、今着ている青のドレスも素敵だぜ?」

「ありがとうございます。王子様」

「はは、メンデロでいいよ。いやー、寒色系が似合うのは才能だな。俺には全く合わないんだ、これが」


夕子は、パーティで用意された料理を皿に盛って食べていた。

特に気に入ったのは、合鴨のローストだ。リンゴジュースによく合う。


メンデロは言った。

「アルザー、コリン、ちょっとユウコと二人きりになってもいいか?」

「別に良いけど口説くんじゃないわよ。あは」

それから、夕子とメンデロは少し離れたところにあるテラスに行った。



メンデロは聞いた。

「ユウコ、まだ旅をするという意思は変わってないか?」

「変わってないですけど、なんでですか?」

「だって、君は今日から貴族になったんだからね」

「え?ええ!?」


夕子は思わず声を上げた。

「はは。やっぱり分かってなかったか。夕子はさっきの儀礼で爵位を貰った。つまり、貴族になったんだよ。ある程度のまとまった財産も手に入るし、君が望むなら王都で貴族としてゆったり過ごすこともできる。どうする?」


夕子は少し考えて、言った。

「…別に、変わらないですかね。貴族ってのもいいのかもしれないけど、それよりはアルザーやコリンと一緒にいて、旅をしてみたい。勇者になるってのは、まだよく分からないですけど」

「そうか。良かった」



メンデロと夕子はテラスから夜空を見上げた。

アンラという世界にも、星はある。


「メンデロ様、アンラにも、星座ってあるんですか?」

「ああ、あるよ。例えば、勇者座なんてのがあるぜ。真上に一番輝いてる星があるだろ?あれを中心にうまいことつなげるんだ」

「へえ」


「…ユウコ。俺はまだ、君が勇者になるという確証は持てない。だけど、君からはなんとなくストロウの面影を感じるんだ」

「ストロウさんの?」

「ああ、あいつも君みたいな笑い方をしてた。…それで」


メンデロは夕子に向き直った。

「もし俺が君のことを勇者だと認められる日が来たら、君に話したいことがある。それは、王族の中でもごく一部しか知らないことだ。それを知らなければ、勇者としての役目を果たせないほどに重要で、それでも隠されるべき事だ。それを、君に伝える。だから」


メンデロは手を差し出した。

「頑張れ。俺はその日を楽しみにしてるぜ」


夕子は、その手を握り返した。

「はい。…なんとなく、頑張ってみます」







霧の立ち込める早朝だった。


夕子たちは、城門前の広場で、王城から贈られた馬車のそばに集まっていた。

特別な装飾は無いが、大きいし、座席も柔らかく、二匹の馬も力強かった。

城門前の広場は、最初に来た頃とは違って人気が全くなく静まり返っていた。

霧を纏った背高の噴水は、柔らかな音を立てながら夕子たちを見守っていた。


今日は、旅立ちの日だ。


エンヂが見送りに来た。

エンヂは、アルザーと抱き合った後、夕子に言った。


「気をつけてね。ユウコ。あなたのことは、家族と同じように思ってる。だから、無事で帰ってきて」

「うん。ありがとう、エンヂ。またね」


アルザーが馭者席に座って、夕子とコリンは座席に着いた。


「それじゃあ、行こう」



夕子の旅は、そんな風に実に静かに始まった。

これから始まる旅路とは、あまりにも対照的に。


ここまでご覧いただき、本当にありがとうございました!

これで、第一部が終了します。第二部も頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いします。

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