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7.オウトリ・ケイスケ


「夕子が、第一の資格、つまり『戦士の剣』を扱える魔術回路を持っているという可能性だ」

「あ、そっか」

メンデロの指摘にコリンは虚を突かれたという風に答えた。


アルザーは言った。

「確かに、ユウコがその資格を持っているんだったら話は早いな。早速識別しようぜ」

「うむ。それがいい」

メンデロは答えて、続けた。

「本来は、生まれたときに魔術回路自体を識別するんだ。教会とかでね。だけど、今回はユウコのために特別に、第二の方法を取ることにしよう」

「…第二の方法って何ですか?」


「直接『戦士の剣』に触れる。そして、扱えるか確かめる。これって、王族しかやれない方法なんだぜ?」







応接室を出て、夕子たちは再び王城の迷路に繰り出した。

しかし、今度は夕子でもどんどん地下に向かっていることが分かった。


そして、たどり着いた。


そこは、広間だった。広大な空間に天井の小さな窓から日の光が差していた。地下のはずなのに不思議だった。そして、中央には台座があった。

その台座に、一本の剣が刺さっていた。

台座には『戦士の剣』と銘打ってある。


メンデロが言った。

「これは、初代勇者オウトリ・ケイスケが使っていたと言われている剣だ」


――オウトリ・ケイスケ。


夕子には、その名前に聞き覚えがあった。

しばらく考えて、思い出した。


――鶯鳥啓輔。


そうだ。鶯鳥啓輔さんだ。


夕子は、図書委員だった。

その一個先輩に二年生の鶯鳥啓輔という人がいた。

夕子と啓輔は、同じ曜日の当番で、一緒に図書室の整理をした。

だいたい三ヶ月ぐらい一緒だった。


啓輔は、眉が隠れるぐらいの黒髪に長身で、いつもYシャツがズボンから少しはみ出ていた。切れ長の目に高い鼻、唇は下唇だけが少し厚かった。温和でゆったりとした雰囲気があって、話し方にも誠実そうな感じがにじみ出ていた。


夕子の記憶に、啓輔は思いのほかはっきりと残っていた。

夕日の差す薄暗い図書室、棚の前に立つ啓輔さん。

啓輔さんはこちらを見て、こう言った。

「夕子さん、こっちも終わったよ。それじゃお疲れ様」


啓輔は、夕子にとって学校で一番会話をした人物と言っても大げさじゃなかった。

夕子は、啓輔と一緒に図書委員の仕事をする時間が嫌いではなかった。



その鶯鳥啓輔と、初代勇者が同姓同名…?

この奇妙な一致が頭から離れない。


夕子は、アルザーたちに話してみることにした。

元の世界にも、鶯鳥啓輔という人物がいたことを。


コリンは言った。

「確かに不思議ねえ。でも、同一人物って事はないんじゃない?だって、初代勇者なんて800年以上前の人なんだよ?」

「…うん。でも、気になるね」

「…話がそれてしまったな。ユウコ、あの剣に触れて、そして台座から抜いてみてくれ」


夕子は台座に近づいた。

『戦士の剣』は、橙色がかった刀身に、柄には緑色の宝石が埋まっていた。天井からの光を受けてまぶしいほどに輝いていた。


夕子は、少し緊張しながら、その剣を握り、抜こうとした。


――びくともしない。


「抜けないよ、これ」


アルザーは、大きく息を吐いて、言った。

「ふう。ユウコには『戦士の剣』を扱える素質はなかったみたいだな。全く、こっちも緊張したぜ」

「あは。まあ、これではっきりしたじゃない。アタシたちは、『勇者紀行』を辿って旅をすればいい」

「そうだな。資格がなかったことは残念だが、まあ仕方ないだろう」


夕子は、あまりがっかりはしなかった。なんとなく、自分にそんな資格はないと分かっていたからだ。それでも、三人ががっかりしているのをみて少し申し訳なかった。


だが、そんな思いもすぐに消え、代わりにあの疑問が頭を埋め尽くした。



オウトリ・ケイスケと、鶯鳥啓輔には、どんな関係があるのか?







夕子たちは、先ほどの応接室に戻ってきた。


メンデロは言った。

「さて、これからの話をしよう。君たちには、王からの表彰を受けてもらう」

「よっしゃ。そう来なくちゃね」

「王都は今揺れている。中央魔道局の副局長が戦争中の敵国と関わりを持ち、王都全体を巻き込むクーデターを謀った。そして、実際に民間人にも被害を出した。まあ、君たちの活躍もあってその被害は最小限に抑えられたがね。だが、民が大きな不安を抱えているのが事実だ」

「それを、ごまかすためのお祭り騒ぎって訳ね」

「その通り。王からの表彰なんて、年に一回あるかないかだ。その機会に、王都を救った英雄として君たちを担ぎ上げて、民にある種の希望を与える。そして、不安や不満を抑え込む」

「なるほどぉ。よく考えるわね」

「ははは。つまり、君たちのことをたっぷりと利用させてもらうわけだ。旅に出る前に、ちょっとした箔をつけておくのも悪くないだろう?というわけで、よろしく頼むよ」


それから、夕子たちは王城を後にした。







数日後に、宿にまた使者が来た。前と同じ、オリリブだ。


「バハリ隊長、エレン殿、アイダ殿、お迎えに上がりました」

同じような馬車に乗り、同じように王城にたどり着いた。

しかし、今度は応接室には通されなかった。


夕子とコリンはアルザーと別れて、ある部屋に案内された。


そこには、ところ狭しときらびやかなドレスが掛けられていた。

一人の女性がその部屋で二人のことを待っていた。


「エレン様、アイダ様、お待ちしておりました。私、着付けを担当させていただきます、フェルと申します」

フェルは、短い白髪に上品なしわを浮かべる老齢の女性だった。一つ一つの所作が美しく、このドレスの部屋を支配するのに最適な人物と言えた。


フェルは、夕子たちにたくさんのドレスを次々と着せていった。

そして、鏡の前に立たせ、しばらく眺めてからまた着替えさせる。

そんなことを延々と続けて、いい加減うんざりしてきた頃に、フェルは言った。

「決まりましたわ。このドレスにしましょう」


夕子のドレスは、暁の雲のように深い藍色をした、落ち着いた雰囲気のものだった。

装飾も少なく、シンプルでほっそりとしている。夕子は、ふわふわと大きなドレスに着心地の悪さを感じていたので、ちょうど良いと思った。きっと、フェルもそれを感じ取ったのだろう。


コリンのドレスは、コリンの赤毛のように燃え上がるような赤色で、金色の刺繍が入っていた。スカートの部分が大きく膨らんでいて、コリンの活発な性格を反映したかのように派手な装飾が施されていた。


コリンは言った。

「フェルさんすごーい。私たちにぴったりなのをほんとに選んでくれたね」

「うん。フェルさんすごい」

「うふふ。ありがとうございます」

フェルは、本当に嬉しそうに笑った。


二人はそれから化粧をしてもらってからドレスの部屋から出た。すると、アルザーが待っていた。

アルザーはぴかぴかに磨き上げられた鋼の鎧を身に纏っていた。腰には、普段使っているよりも長い剣が刺してあり、それもきらきらと光っていた。

アルザーは言った。

「すごいよ、ユウコ。本当にきれいだ。黒髪と藍色のドレスはよく合う」

「あは。アタシはどーお?」

「ふん、お前もまあまあきれいだよ。馬子にも衣装というわけだな」

「はあ!?ウザいんだけど!」







三人は、鎧を着た兵士に連れられて、城を渡った。

そして、ある扉の前で止まった。


その扉は、真っ白に塗られていて、異質な雰囲気を纏っていた。扉は見上げるほど大きく、威圧感があった。

扉の脇には二人の鎧の兵士が立っていた。


そして、その男たちが扉を開けた。


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