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「……で? なぜついてくるんですか?」
「ん? ライリーと君の大切な大切な姉君が上手くいきそうかどうかを確かめるために、かな?」
そう言って少しだけ首を傾げるようにして、レアンドルは微笑んだ。
(ちっ、自分の容姿がイケメンだって分かってやっているところがイラッとするわ〜)
レイチェルは心の中で盛大に舌打ちする。
チラチラと視線をレアンドルに向けている令嬢達は、そんな彼のあざとい笑みを見て顔を赤く染めていた。
……とりあえず一曲はダンスに付き合ったのだから、その後はてっきり開放されるだろうと思っていたのにーー。
何とも楽しそうについてくるレアンドルに、レイチェルは小さく溜息を一つついた。
「あのですね、あなたが近くにいると、わ・た・し・が、他のご令嬢達に睨まれるんですよ。要らぬ軋轢を生まないためにも、さっさと離れてもらえませんかね?」
「おや、つれないな。もう少しくらい楽しい時間を共有してもいいだろうに」
大袈裟に肩を竦めるレアンドルに、レイチェルは苛立ちを必死に隠しながらどうにかしてこの青年から離れる術はないかと頭を働かせる。
ふと視線を感じてそちらに顔を向ければ、扇で隠してはいるが、こちらを射るような目で見ている女性がいた。
(ほ〜ら、こうなるのが面倒だからついてくるなって言ったのに)
あの趣味の悪……個性的な扇を好んで使用しているのは、ルバイン侯爵家の令嬢イヴェットだろう。
ルバイン侯爵家は事業に失敗し、かなりの借金を背負うことになったとの噂を耳にした。
少しばかりキツい顔立ちではあるが、中々に美しい容姿のイヴェットの側には常に見目麗しい青年達がいたのだが。
借金の話が社交界に広まると、彼らは蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまったのだ。
そのあからさまな様子に、レイチェルは彼らに何とも呆れた目を向けたものだが。
どうやら彼女側にもそうされるだけの問題はあったらしい。
金のある間はチヤホヤ持ち上げたとしても、それがなくなってしまえばいくら美人とはいえ、あのように人を睨みつける女性の相手はしたくないだろう。
「生憎と私は刺すような視線を向けられて楽しめるような性癖など持ち合わせておりませんので」
レイチェルは『あんたのせいなんだから、どうにかしなさいよ!』とばかりに、ニッコリと瞳の笑っていない笑顔を向けるが。
「私もそういった性癖はないんだけどね。とりあえずライリー達は先ほどの場所から移動はしていないみたいだから、また一緒にテラスで二人の様子を観察でもしようじゃないか」
レアンドルは眩しい笑顔をレイチェルへと向けて、サッと手を繋ぐとテラスに向けて歩き出した。