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「ちょっと、私はこんなところで踊っている暇なんてないんだけど!?」


 レイチェルが周囲の目を気にしつつ、笑顔を張りつけながら囁くようにしてレアンドルに文句を言えば、


「アイツは伯爵家の嫡男で婚約者も付き合っている彼女も隠し子もいない。真面目で浮気をするようなタイプでもない。君の言葉で言うところの『おすすめ物件』だと思うがな」


 そう言ってニヤリと笑った。

 レイチェルは笑顔でコメカミに青筋を浮かべつつも、彼の言うことが事実であるとするならば、ミリアムにとって願ってもないお相手ということになるのでは? と思案する。


「確かにそれだけ聞けばおすすめ物件かもしれませんけど、当のご本人であるステラート家の嫡男様にとって、ミリーはどうなのかしら?」

「どう、とは?」

「姉を見た目だけで判断する愚か者なのかどうかってことよ」


 レイチェルの歯に衣着せぬ物言いに、レアンドルは一瞬驚いたように目を丸くした後、小さく笑いだした。


「ハハッ。やはり君は面白いな。……ああ、心配しなくてもいい。あいつは外見だけで判断するような愚か者ではないよ。それは幼なじみである私が保証しよう」

「……一応その言葉を信じるとして、彼は姉を気に入ってくれるでしょうか?」


 外見で判断する愚か者ではなかったとしても、二人の相性が良いとは限らない。

 ミリアムの表情を見ていれば彼女はライリーに悪い印象を持っていないことが分かる。

 だが彼の方はずっと眉間に皺を寄せた仏頂面のままで、全く感情が読めないのだ。


「さあ? それはアイツに聞いてみないと分からないな」

「はぁ!?」


 飄々と答えるレアンドルにイラッとしたレイチェルは、態と、思いっきり、足を踏んでやった。


「ぐっ……」

「あらやだ、ごめんなさ〜い。態とじゃないんですぅ」


 全く気持ちの籠っていない謝罪にレアンドルが少しばかり眉間に皺を寄せる。


「このじゃじゃ馬が」

「そのじゃじゃ馬をダンスにお誘いしたのは、どこのどなただったかしら?」

「……悔しいことに私だったな」


 その苦虫を噛み潰したような顔に、レイチェルはクスクスと満足そうに笑った。


「ワタクシ粗忽者(そこつもの)ですので、いい加減なことを仰られるとまた(・・)慌てて高貴な方の御御足(おみあし)を踏んでしまうかもしれませんわぁ」

「全く、私に対してそんな態度をとる令嬢は君が初めてだよ」


 苦笑するレアンドルだったが、どことなく楽しそうに見えるのはきっと気のせいではないだろう。

 彼ほどの立場の者であれば、気安い関係の友人も限られてしまうのではないか。

 レイチェルには、彼の『侯爵家嫡男』という肩書きに群がる者がどれほどたくさんいたのかは分からないが、きっとそれで要らぬ苦労をしたこともあっただろうと思う。

 とはいえ、レイチェルにとってそんなのはどうでもいいことだ。


「何それ、自慢?」


 渋い顔で呟いたレイチェルに、レアンドルは何が面白かったのか小さく噴き出した。

 ここで曲が終わってしまったため、二人は挨拶を交わすとダンスの楽しむ者達の輪から抜け出した。

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