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「君って……お姉さんのこと大好きなんだね」
「そうよ? 大好きよ。悪い?」
「いや、悪くないさ。それで? 今日はその大好きなお姉さんの相手を探しに来たわけか」
「ええ。ここで見つけないと、クソオヤジがミリーをヒキガエルの嫁にするのを止められないの! だから邪魔しないでくれる?」
レイチェルは鼻息荒く両の手の拳を握り、キッと青年を睨みつけた。
「邪魔って……まあいいけどさ。でもそれなら、あの男はやめておいた方がいいんじゃないかな? 上手く隠してはいるけど隣国に隠し子がいるよ?」
「はぁぁああ!?」
「ばっ! 大きな声を出すな!」
青年は慌てたようにレイチェルの口を塞ぐ。
「もごっ、んぐぐ」
「今から手を外すから、大声出すなよ?」
レイチェルがコクコクと頷くと、青年はレイチェルの口から手を離した。
「プハッ。ちょっと、それ本当なの!?」
今にも掴みかかりそうな勢いでレイチェルは青年をギロリと睨みつけながらも、何とか怒りを抑えて小声で聞く。
青年はヤレヤレと言った風に、だがちゃんと答えてくれた。
「ああ。相手の女性が私の知り合いの幼なじみでね。ちなみに言っておくと、相手の女性が望んだことではないよ」
その言葉によっていかに伯爵令息がクズなのかが分かり、レイチェルはフルフルと怒りに体を震わせながら再度拳をギュッと握った。
伯爵令息にも怒りを覚えるが、一番腹立たしいのはそこまできちんと調べることが出来なかった自分への怒りである。
このまま知らずにミリアムと伯爵令息が上手くいってしまっていたら……そう考えてレイチェルの背筋に冷たい汗がツツーッと流れていくのを感じた。
「……結婚前から隠し子とか、しかも同意なしなんて。そんな不誠実なクズに大切な姉様はやれないわ!」
ミリアムの前に立つ男を、先ほどとは打って変わって憎々しげに睨み付けるレイチェル。
「国外だからバレていないだけで、バレるのも時間の問題だとは思うけどね。……あ、君の大切なお姉さん。あの男に気に入られたみたいだよ?」
「な、ダメよ! ミリー、今すぐ離れて! って、ここからじゃ伝えられないじゃない! 何とかあの男からミリーを引き離さなきゃ……」
「引き離すって、どうするんだい?」
レイチェルは少し考えてから隣のイケメンにニヤリと笑いかけると、
「こうするのよ!」
スクッと立ち上がり、足早にミリアムの元へと向かった。