3
ーー先日、強欲な父と兄が廊下で楽しそうに『近いうちにミリアムの相手をどちらかに決める』と話していたのを聞いてしまったレイチェル。
よりによって第一候補がヒキガエル、第二候補が祖父と言えるほどに歳上の、評判の良くない金回りだけはいい男爵家元当主のトカゲジジイだったのだ。
ヒキガエルとトカゲ、どちらに決まっても苦労するのが目に見えている。
大好きで大切な姉を助けるべく、その日のうちにレイチェルは動き出した。
相手が格上の家であれば、格下の子爵家からはお断り出来ない。
狙うは伯爵家以上の子息!
とはいえ、あまり爵位が高すぎても身分が釣り合わないし、もし仮にそんな人に見初められでもしたら、その後が大変である。
○○夫人として相応しい所作や知識を得るためにと、それはそれは厳しく教育されることだろう。
あの泥舟子爵家から逃れるのが目的なのであって、これ以上苦労するためではない。
となれば、高位貴族とはいえ公爵や侯爵ほど爵位が高くはない伯爵家一択である。
今日を逃せばあの強欲な父が、急ぎヒキガエルかトカゲのどちらかとミリアムの婚約を結んでしまうだろう。
レイチェルのカンだと父はヒキガエルを選ぶだろうが、そんなことは絶対にさせない。
どんなことをしても、今日のパーティーでミリアム(ついでに自分も)をあの泥舟から救い出して幸せにしてくれる相手をゲットしなければ。
チャンスの神様は前髪しかなくて後ろがツルツルなんだとか。
来た! と思った瞬間に前髪をガシッと毟る勢いで捕まえなければ、逃げられてしまうのだ。
だからチャンスを逃さぬよう、今日のために出来る限りの準備をしてきた。
レイチェルは鼻息荒く窓ガラス越しに会場内の様子を窺う。
「いい? あそこにいる亜麻色の髪の男性はヘイワード伯爵家の次男で、学園卒業後に騎士になることが決まっているわ。婚約者や彼女はいないはずよ。その奥のヒョロ長い茶髪を後ろで結んでるのはライズ伯爵家の次男で、卒業後は数少ない薬学研究所の研究員になることが決まっているエリートだけど、薬草にしか興味がない変人なんて言われているからパスね。で、あっちにいるのが……」
「レイチェル凄いわ。いつの間にそんなに調べたの?」
「そりゃ、調べるわよっ! ……ミリーのためだもの」
最後はモゴモゴと、恥ずかしそうに頬を染めてそっぽを向くレイチェルに、ミリアムはふわふわな笑顔でのんびり嬉しそうに「ありがとう」と言った。