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レイチェルにとってミリアムは誰よりも大切で大好きな姉であることは、この先もずっと変わらない。
ただ立場が変わり、ずっと一緒にいられなくなるだけだ。
少し……いや、だいぶ寂しくはあるが、ミリアムが幸せでいてくれるならそれでいい。
自分一人であれば、何だかんだと要領よく逞しく生きていけると思う。
だから、ミリアムにはそんな悲しい顔をしてほしくないと思いつつ、二人の様子を眺めていたわけだが。
デロデロ甘々な姿をこうも見せつけられると、胸焼けして口から砂糖が吐き出せそうだ。
……まあ、ライリーにとってレイチェルはミリアムのオマケの中のオマケ程度だろうが、それでも、多少なりともレイチェルの今後について考えてくれたことはとてもありがたいことだし、感謝している。
心配してくれる人がいるというのは何よりも嬉しいことだけれど、これ以上ミリアムのお荷物になりたくない。
口を開きかけたレイチェルよりも先に、
「それは私にとっても都合がいいな」
と、レアンドルがニヤリと笑った。
……何を言っているんだ、この男は。
思わず胡散臭いものを見るような視線をレアンドルへと向けたレイチェルの眉間には、その可愛らしい顔には似つかわしくない深い溝が刻まれている。
大袈裟にハァと溜息を一つつくと、レイチェルはコメカミをグリグリと押した。
何だかとっても嫌な予感がする。
ここは出来るだけ早くバフェット家へミリアムへの結婚申し込みをしてもらうようライリーにお願いし、今日のところは解散に持ち込もうと口を開きかけたレイチェル。
だが、再度被せるようにしてレアンドルが爆弾を投下した。
「ステラート伯爵家の娘ということであれば、バートン侯爵家との婚約も何の問題もなくなるな」
「……は?」
……何を言っているんだ、この男は。
バートン侯爵家との婚約? 誰が? 何のために?
全く意味が分からずフリーズするレイチェル。
ミリアムはライリーの腕の中で少し首を傾げるようにして不思議そうな顔でこちらを見ている。
ライリーは言わずもがな、ミリアムしか見ていない。
そんな三者三様の様子を気にするでもなく、レアンドルは胸の前で腕を組むと一人ウンウンと頷いた。
「留学から帰って早々に婚約者探しとか正直言って面倒でしかなかったんだが……」
そこまで言ってチラリとレイチェルへと視線を向けると、爽やかな笑みを浮かべた。
「相手が君なら今後も楽しく過ごせそうだ」




