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 泣きそうな、でもどこか嬉しそうな、そんな複雑な笑顔を向けてライリーを見るミリアムは、けれども静かに首を横に振った。


「私だけ逃げるような真似は出来ませんわ。もしここで私だけが逃げ出してしまえば、私の代わりにレイチェルが父や兄の犠牲にされてしまいます。……この三年間、彼女はバフェット家に振り回されて、血の滲むような努力を続けなければなりませんでしたの。これ以上、私の大切な妹に苦労させることはしたくありません。……こんな私と恋をしてみたいと言って頂けましたこと、とても嬉しかったですわ。それを一生の思い出に……」

「私は思い出になど、されたくはない!」


 ミリアムの話の途中で思わず遮るように、少しばかり大きな声を出し過ぎてしまったようだ。

 ミリアムが吃驚(びっくり)したような顔をしてライリーを見つめている。

 だが私の想いを無視して、私から逃げようとする彼女にどうしようもなく腹が立ったのだから仕方がない。


「頼むから、勝手に思い出になどしないでくれ。君の大切な妹ならば、私にとっても大切な家族のようなものだ。どうすれば助けられるのかを一緒に考えていけばいいだろう? 頼むから、簡単に諦めるなどという言葉を口にしないでくれ。頼む」


 頼むしか言っていない気がするが、彼女の中の私を、簡単に諦められるような存在にしたくはなかった。

 私がこれだけ必死でいるように、彼女にも私のために足掻いて足掻いて、最後まで諦めないでいてほしい。

 これは愛情というよりも執着といっていいかもしれない。

 だが今まで生きてきた中で、これ程までに心を揺さぶられる存在などいなかった。

 だからこそ、絶対に逃すつもりはない。


「ですが……」


 不安に瞳を揺らすミリアム。

 彼女のそんな姿を胸を締め付けられるような思いで見つめた。

 幸いにも我がステラート家は由緒正しい伯爵家であり、領地はなかなかに栄えている。

 商売もそれなりに順調であり、金に困ることはない。

 彼女の妹一人余分に面倒をみるくらいの余裕はある。

 もし彼女の妹に良い縁があって嫁ぐ時には、両親に養子縁組をお願いして私の妹として家から嫁がせればいいのだ。

 お願いだから、それを申し訳なく思わないでほしい。

 そこまでしてまで君が欲しいのだと、分かってほしい。

 そんな縋るようにミリアムを見つめるライリーの後ろから、聞きなれた声がした。


「いったい何をやっているんだ?」

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