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「ただ一つ心残りがあるとすれば、『恋』を、してみたかっ

たですね」

「恋、ですか?」

「ええ、恋です。恥ずかしながら私、この歳まで恋をしたことがありませんの。物語に描かれているような、ドキドキしたり、キュンとしたり、ギュウッと胸を締めつけるような、そんな甘くも辛い想いを知りたかった……。今となってはもう、叶わぬことですわね」


 ミリアムはキラキラと光り輝くシャンデリアを見上げながら、力なくふふっと笑った。


◇◇◇


 その儚い笑みはライリーに『ミリアムが消えてしまうのではないか』という感情を湧き上がらせた。

 ーー先ほど会ったばかりの、妖艶な美しい女性。

 見た目通りの女性ならば、男など選り取りみどりといった感じだろうか。

 自分としてはあまり積極的にかかわらないようなタイプの女性ではあったが、幼なじみのレアンに頼まれて仕方なく彼女の相手をすることに。

 ……言い訳になってしまうが、その時点で私は精神的にかなり疲弊していたのだ。

 数年ぶりに留学先から帰ってみれば、レアン目当ての令嬢達がどうにかしてアイツと仲良くなれないものかと、情報欲しさやあわよくば私から紹介してもらおうと、入れ代わり立ち代わり私に擦り寄ってくる。

 普段であれば大きな体躯に常に仏頂面をした私に、大抵の女性は怖がって寄り付かないのに、である。

 そこまでしてレアンと繋がりを持ちたいのかと呆れるのと同時に、ほんの少しだけ感心したりもしたが。

 だからと言って、協力しようなどという気持ちは一切ない。

 勝手に期待して擦り寄り、期待が外れると睨みつけて離れていく令嬢達の姿に辟易する。

 だからつい、彼女の内面を見ようともせずに見た目だけで彼女もそちら側(・・・・)の女性だと勝手に思い込み、キツい言い方をしてしまった。

 だが彼女は大変失礼な言葉を吐いた私に労いの言葉をかけてくれて、そして疲れている私に『食事をしながらゆっくり休もう』と提案してくれたのだ。

 話せば話すほどに、見た目のイメージからは遠のいていく。

 彼女ののんびりとした穏やかな話し方は耳に心地良く、さり気ない気遣いに彼女本来の優しさが見え、気付けば彼女から目が離せなくなっていた。

 ヒキガエル様とトカゲ様のどちらかに嫁がなければならないという彼女の言葉に、はっきりと嫌悪の気持ちが湧いた。

 彼女の恋がしたかったという言葉にドキリとした。

 まだ彼女は誰とも恋をしていないということに、仄かな喜びを感じたのは気のせいではないだろう。

『会ったばかり』だとか、『なぜ』『どうして』などという思いは、今のミリアムを前にしてしまえばどうでもいいとさえ思えてくる。

 そして気付けば、ライリーの口からは自然と言葉が紡がれていた。


「では、私と恋をしてみませんか?」

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