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ミリアムの笑顔にそれ以上の謝罪は逆に失礼にあたると判断したらしいライリーは、一度グッと口を閉じてから思い出したように、「そうだ」と話し出した。
「今更ですが、先ほどまで一緒におられた彼は放っておいてよいのですか?」
ライリーの言う彼とは、格上の侯爵子息であるレアンドルに丸っと存在を無視されてそっとその場を後にした、レイチェルからクズと言われた伯爵子息のことである。
この男の存在もミリアムはすっかり忘れていたようだ。
「彼?」
「ええ、レアンが来るまで一緒におられた彼です」
「……確かに私、お話していた方がおりましたわね。そういえば、あの方はどこにいかれたのかしら?」
言われて思い出し、会場内をザッと見渡せば少し離れたところでどちらかの令嬢と楽しそうに話をしている姿が目に入った。
ライリーはミリアムの視線の先にいる二人を目にし、またしても申し訳なさそうな顔で謝罪した。
「その、すまない」
「何がですか?」
「いや、仲の良いところを邪魔してしまったようで」
お茶会や夜会は貴族の若い子息令嬢にとって、貴重な出会いの場である。
その貴重な出会いの邪魔をしてしまったと、あの伯爵子息のクズさを知らないライリーは再度大きな体を小さく丸めていた。
そんな姿にミリアムはクスッと笑みを浮かべると。
「別に構いませんわ。きっと彼とはご縁がなかったのでしょう。せっかく私のために手を尽くしてくれたレイチェルには申し訳ないけれど、父の望み通りヒキガエル様かトカゲ様に嫁ぎますわ」
「は? ヒキガエル? トカゲ?」
驚きでライリーの眉間の皺が消えている。
「ええ。実は私、お相手の方がどのような方なのかは存じませんの。ただ妹のレイチェルが父と兄が話していたのを聞いていたらしく、ヒキガエル様かトカゲ様のお二人のどちらかに嫁ぐことが決まりそうだと言っておりましたから」
「ではパーティーへ来たのは……」
「もしかしたら最後に良いご縁があるかもしれないと参加させていただきましたが、どうやら私にはご縁はなかったようですわ」
そう言ったミリアムの横顔は、なぜか晴れ晴れとした顔をしているように見えた。
もともとミリアムは、父の選んだ相手に嫁ぐつもりでいた。
貧乏子爵家とはいえ、貴族の結婚とはそういうものだと子どもの頃から覚悟はしていた。
だが自分のためにあれこれと動いてくれたレイチェルのために、やれるだけのことはしてみようと思ったのだ。
そしてその結果、自分には良いご縁がなかっただけで。
出来るだけのことをやってダメだったのだからと、ミリアムの心はスッキリとしていた。




