11
時はほんの少し遡り、レアンドルがレイチェルを連れてダンスホールへと足を向けた頃。
その場に残されたミリアムとライリーは、ぼんやりとレアンドルとレイチェルの後ろ姿を眺めていた。
「まあ、いつの間にか仲良くなって……」
のほほんと勘違いな言葉を発して微笑むミリアム。
この場にレイチェルがいたならば全力で否定の言葉を口にしていただろうセリフであったが、生憎とこの場にそれを否定する人間はいない。
「アイツのあんな楽しそうな(悪そうな)顔を見るのは久しぶりだな」
ポツリと呟くライリーの顔にはほんの少しだけ、驚きのようなものが浮かんで見える。
「バートン侯爵令息様は、どんなお方ですの?」
ライリーの呟きに対しただ純粋にどんな人物なのかを尋ねただけのミリアムだったが、ライリーはそれを悪い方に受け取ったらしく、眉間の皺を更に深く、視線を鋭くして言った。
「何を期待しているのかは知らんが、私からアイツの情報を得ようとしてもムダだ」
ミリアムは目を丸くして、驚いたような表情を浮かべる。
「期待、ですか?」
「どうせあなたも、アイツの婚約者の座を狙っているのだろう?」
「婚約者の座、ですか?」
全くの見当はずれな言葉に、ミリアムは小首を傾げた。
「ああ。パーティーが始まってからの令嬢達による質問攻めに、いい加減うんざりしていたところだ」
ここまで深く刻むことができるのかと感心するほどに深く刻まれたライリーの眉間の皺を目にし、ミリアムは納得したとばかりに一人ウンウンと頷く。
「まあ、それはそれは大変でしたのね。であれば、喉は渇いていらっしゃいますか?」
「え? 喉? いや、今は大丈夫だが……」
いきなり笑顔で『喉は渇いているか?』などと聞かれ、困惑しているのだろうライリーの眉間の皺が、若干薄くなる。
「ではあちらで少し食事をしながら、ゆっくり休みませんか?」
こういったパーティーでは何部屋か休憩室的な部屋が用意されているため、本来であればそこでゆっくり休んでもらうのがいいのだろうが、ライリーはレアンドルからミリアムの相手をするように頼まれている。
生真面目そうな彼はきっと、パーティー会場ここから離れることをよしとしないであろう。
それに、婚約者でもない二人が休憩室で二人きりというのはあまり好ましいことではない。
「あ、ああ」
ミリアムの意図を図りかねているライリーは中途半端な返事を返し、ミリアムはニッコリ笑顔を向けると、
「では参りましょう」
と、たくさんの食べ物が並べられたブッフェへと足を向けた。




