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今年十八歳になる貧乏子爵家長女のミリアム・バフェットは、ひと言で言うならば『妖艶な美女』である。
いや、正確に言えば『妖艶な美女風』か。
切れ長の大きなヘーゼルの瞳は少し垂れ気味で、ぽってりとした瑞々しい唇はまるでキューピッドの弓のような形をしており、何とも柔らかそう。
瞳の色と同じヘーゼルの髪を緩く纏め上げ、首筋にやわらかく掛かる後れ毛がとてもセクシーである。
大きく形の良い胸にくびれたウエスト、そしてプリンと上を向いた美尻。
余裕あるゆったりとした(ように見える)仕種もまた、ミステリアスな魅力を感じさせる。
バートン侯爵邸の豪奢なパーティー会場内で、ミリアムは同年代の子息達ではなく、親子ほどに歳の離れた紳士達の視線を一身に集めていた。
そして彼女の隣には、ちまっとした可愛らしい令嬢が一人。
ミリアムの妹、レイチェル・バフェット十七歳である。
父親の不貞によって生まれたレイチェルは三年前、流行病によってミリアムの母が亡くなったと同時にバフェット家に引き取られた。
レイチェルの母はミリアムの母より少し前に、同じ流行病によって亡くなっている。
バフェット家にはミリアムよりも二歳歳上の兄がおり、彼がバフェット家を継ぐことになるのだが。
父親である現バフェット家当主もこの兄も、女は家のための道具としか思っていない鬼畜である。
レイチェルを引き取ったのも、彼女の庇護欲をそそるクリっとした大きな瞳の可愛らしい容姿に、『使える』と判断してのことだった。
平均より少しだけ高めの身長の妖艶な美女(風)ミリアムと、平均より低めの身長の可愛らしい美少女レイチェル。
半分血の繋がった姉妹の似ている部分といえば、同じヘーゼルの髪と瞳を持つことくらいである。
レイチェルはミリアムを引っ張り、誰もいないであろうテラスへと向かった。
キョロキョロと辺りを見回し、テラスに人気がないことを確認すると、レイチェルはその可愛らしい容姿からは想像もつかないようなビシッとした物言いでミリアムに話し出した。
「私が言ったこと、ちゃんと覚えてる?」
「ええ、覚えてはいるわよ? でも……」
妖艶な美女(風)なミリアムは、困ったように頬に手を当ててのんびりと答えるが、そこにレイチェルが被せるように器用に小声で叫ぶ。
「でももへったくれもないわよ。これを逃したら、ミリーはあのヒキガエルのものにされちゃうのよ? ヒキガエルよ? ヒキガエル!」
「そんなに何度もヒキガエルって言わなくても……」
「うるさいわね、ヒキガエルだからヒキガエルって言ってるの! 私は嫌よ、ミリーがあんなヒキガエルのものになるなんてっ!!」
むうっと頬を膨らませるレイチェル。