モノクロとカラフル~君のいない世界は白と黒しかないけれど、これはきっと私の生み出した幻~
「結月早く起きなさい!」
「行きたくない――」
「そんなこと言わないの! ほら、行きなさい!」
中学の時、あんなにキラキラと輝いていた朝が、今は鉛のようにどんよりと重い。
前は家族の誰よりも早く起きて、誰にも吸われていない朝の空気を味わっていたのに。
高校に入ってから毎朝、粘土でできた布団と格闘したような気分になる。
息もうまくできない。
桜も鮮やかなピンクから白と黒に変わってしまった気がする。
卒業式の日は綺麗な桜だったはずなのに。
いつからか、モノトーンに変わってしまった。
毎日夜遅くまで受験勉強して、景色が変わってしまったのなら、そんなことしなければよかった。
◇
「ここテストに出すからな!」
「はい!」
生徒たちのまじめな声が教室に響く。
ド・モルガン?
メンデル?
モル質量?
あんなに得意だったはずの数学や理科ですら私の心を締め付けてくる。
積極的に手を上げて答えていた昔が嘘みたいだ。
今は少しでも頑張ろうと思うと、途端に冷たくまとわりつく汗が全身から出てくる。
◇
「ねぇご飯食べに行こう?」
「ここの食堂美味しいんだってね!」
「中庭で部活の勧誘してるって!」
「マジで! 行こうぜ! 高校でもレギュラーになってやる!」
彼らの明るさが他人事のように感じる。
チープなバラエティ番組でも見ているようだ。
なにを見ても、なにを聞いても何も感じない。
友達の作り方なんてずっと昔に忘れてしまった。
小、中で仲良かった子とずっと一緒だと思っていた。
人生はそんなに甘くない。
砂味のご飯を無理矢理水で流し込んだ。
◇
学校帰りに食べた菓子パンも、部活帰りに見た夕日も君がいないと味気ない。
世界の全てが二色で構成されているかのようだ。
いつから単純になってしまったんだろう。
君のことを考えるだけで、胸が締め付けられる。
「結月! 結月!」
ああ、ついに君の声が聞こえるようになってしまった。
私、もうだめかもしれない。
「待てってば! 結月!」
モノクロの世界の中に君との思い出が流れ込んでくる。
そんなに私の名前を呼ばないで!
耳をふさいでも声だけが妙にくっきりと聞こえる。
突然の視界の中に君が表れた。
嘘よ。
これはきっと私の生み出した幻。
「無視すんなよ! 俺のこと忘れたのか?」
忘れられるわけない。
忘れたいとも思わない。
「ほんとに? 本当にそうなの?」
「どうしたんだよ? 大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫」
「泣いてるじゃん? ほんとに平気か?」
私の目からは止めどなく涙があふれた。
けど大丈夫!
だって君のいる世界はこんなにもカラフルなんだから!