夢見る宝石
デルムントは、宝石の鑑定に立ちあっていた。
「4Cとはダイヤモンドの品質等を評価する基準4つの要素のことで、カラット・カラー・カット・クラリティの各要素の頭文字に『C』がつくことから『4C』と呼ばれています」
入念に石の情報を書き込んでいくと、その石だけの鑑定書ができあがった。
「この石はかなりグレードが高いんじゃないかな?」
「カラーがねえ。少し黄色がかっているからグレードは下がるよ」
今や人工的に造られたダイヤの方が質が良くなってきているようだった。
「トリプルエクセレントだし、きれいなハート&キューピッドだね」
デルムントはその石の精霊を呼び出して、どんなことを思っているか聞いてみた。
結婚指輪になりたい!幸せなカップルの手に納まりたい。
「じゃあ、そうしようか」
デルムントは微笑んだ。
「すみません!指輪!捜してるんですが」
息せき切って青年が店に飛び込んできた。
「はい。どのようなものをお捜しで?」
「ダイヤのついた結婚指輪!」
「いろいろなデザインがございます。価格もルースや金属のものによって変わって参ります」
「彼女の」
「はい?」
「彼女の瞳のようにきれいな石がいい!」
彼はいつでも夢見るような眼差しの彼女を想って言った。
だいたいの見積もりを出して、発注をかけたあと、店員は「ほんと、嫉妬しちゃうわ」と仲間内で噂していた。できれば自分だってあんなふうに幸せになりたいものだ。
「こればっかりは順番待ちかもな」
デルムントがそう言ったが、だれも彼に気づかなかった。
「…万円になります」
「はい」
キャッシュで支払うと、青年は手にした小さな紙袋をカバンに仕舞って、足早に彼女の元へと急いだ。
「きれい」
うっとりする彼女を思わず抱きしめて、青年は指輪より美しい彼女の瞳に魅入った。
嫉妬しちゃうわ!
指輪のダイヤの精霊がむくれて言った。
「コラコラ。祝福してあげなきゃ、自分が汚くなっちゃうぞ」
デルムントが言うと、精霊は慌てて祝福の言葉を並べた。
言霊って言うし。いい言葉を使おうな。
デルムントはにこにこ笑っていた。




