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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第6部.分岐する2人
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歪曲された歴史

 ローブ越しでもわかる、女性然とした身体のラインに赤みがった長く綺麗な茶髪。

 目の前に映るその姿は、雰囲気こそ少し違うが間違いなくユイさんそのものだ。


 一体何処から入ってきたのだとか、どうして雰囲気が違うのかとか、色々聞きたいことはあるが…


「どうして…ここにユイさんが…?」


 そう、真っ先に俺の口から漏れたそんな声。

 そもそも、ユイさんと最後に会ったのは竜の里を出た時以来だ。彼女の言葉通りにここが俺の元いた世界だとして、何故異世界の住人である彼女がここにいるのだろうか。

 そんなことを考えて、近付く彼女へ顔を向ける。


「どうして、ね…ま、それは道中で話すとして、今は場所を変えようかしらね」

「場所を変える…?何を言って──」


 俺がそこまで言いかけて、不意にガチャリと開かれた部屋の扉。

 それとほぼ同じタイミングで、ドサリと何かが倒れる音がして、視線を扉へ向ける。


「ッ!レナさん──」

「大丈夫、少しだけ夢を見てもらってるだけだから」


 扉越しに倒れた家主(レナさん)に呼び掛けようとして、ユイさんに言葉を遮られる。


「大丈夫って、何をそんな…」

「私が眠らせたのよ。ちゃんと怪我はしないようにちょっと弄ったし、あなたが心配するようなことは何も無いわ」


 真っ直ぐな瞳でそう言って、倒れたレナさんを俺の隣へ運ぶユイさん。

 …言い方的に、きっと本当に大丈夫なんだろう。わざわざ寝かせたってことは、これから話すことが聞かれたりしたら困る内容か。


「…それで、ここまでするユイさんの目的はなんなんだ?生憎俺は今、動いたりできる状態じゃないんだが」


 そもそも俺は今、レナさんの行為に甘えてる要介助者なのだ。いや、彼女が寝ている今なら回復魔法を使う事ができなくもないが…いきなり全快しても不気味がられるだけだろう。


 そんな俺の思考などつゆ知らず、立ち上がったユイさんは、かけてあった制服を無造作に取ると、こちらへと投げてきた。


「さっさとそれを着なさい。ここを出ますよ」

「ぇ…?は?」


 ここを出る?

 何を言っているのが理解しかねて、反射的に身を乗り出そうとする。


「──!?治って…いや、なんで…」

「ほら、考えてる暇があったら早く着替える。後でちゃんと説明してあげるから、今は黙って言う通りにしなさい」



ーーー



 見覚えしかない景色に映る、キャッキャとはしゃぐ子どもの声。

 ユイさんに急かされるようにして、あのまま理由もわからず着替えた俺は、気付ば件の公園に立っていた。


「帰ってきたのか…」


 何を思うわけでもなく、無意識に漏れたそんな声。

 あの日、飛び出した時から13年が経っているのか。不思議な気分だ。


「そうだ、ユイさん。なんでここにいるんだ?俺がここに来たわけも…それに、レナさんに何をしたのかも、どうしてこうなってるのか、教えてくれるんだろ!?はやく──」


 早口で言いながら振り返り、続けようとした言葉が止まる。


「ユイさん…?なぁ、冗談はよしてくれよ…説明してくれる約束だっただろ」


 見覚えのあるトラックが公園前を通り過ぎ、俺の声は無惨に掻き消える。


 残ったのは制服を身に纏い、何故か鞄を持って公園に立ち尽くす俺。


 そんな状況を理解して、うるさい程に動悸が激しくなる。

 そう、まるで──



「何も起きなかったかのようだ、でしょ」



「──ッ!?」


 背後にから聞こえたその声に反射的に振り返って持っていた鞄を手放す。


 周囲の音が遮断されたように、無音に響くブランコのなる音。

 目前に映った幼女(・・)は、こちらを向くなり赤い瞳を開けると、手招きするように乗っているブランコを止める。


「やあ、コウスケ。…ボクのことは覚えているかい?」

「覚えている…?一体、何の話を──」


 彼女の言葉を返そうとした刹那、脳裏に過った存在したかも(・・・・・・)怪しい記憶(・・・・・)

 いつか、会ったことがあるはずなんだ。本能がそう訴えてきて、再び彼女へ視線を戻す。


「ま、仕方ないか…こうやって直接(・・)会ったわけじゃないし、君の体感(・・・・)ではもう8年以上も前の話だもんね」


 歳不相応な落ち着いた口調で、幼女は気味悪く笑って言う。


 見覚えは、ある。特徴的な赤い瞳も、ボクという一人称で気味悪く笑うこの顔も。


『またいつか僕と会えるといいですね』


「っ───!」

「…思い出したみたいだね」

「あぁ…おかげさまで、な──



 ───アザミ」



ーーー



「すみませーん、生姜焼き定食1つ」

「あ、こっちも注文お願いしまーす」


 とある昼下がりの定食屋で、次々に飛び交う常連客の声。

 忙しく人が入れ替わる中、厨房へ向かった金髪の女は、手に持ったメモを置いてタオルで汗を拭う。


「ハジメ、生姜焼き2唐揚げ1焼き肉2ね」

「はいよ。あ、カスミ、これ唐揚げできたから持っていって」

「はいはーい」


 出来立ての料理と共に、厨房奥から響く低い声。

 カスミと呼ばれた彼女は、料理を慣れた手つきでそれをトレイに並べると、厨房を出ようとしてその足を止めた。


「ハジメ、どうしたの?」


 彼女の視線の先に映る、三つ編みの長髪をした女のような後ろ姿。

 ハジメと呼ばれた彼は、止めていた手をピクリと動かすと、振り返るようにして赤い右目を彼女へ向けた。



「いや、ちょっとね…何かいいことが起きそうだなって、根拠も無くそう思っただけさ」

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