始まった異世界生活
「コースケさん、おはようございます。朝ですよ。はやく起きてください」
「…ん。わぁ…おはよう…ユウさん」
コウスケが異世界に来て1週間。
コウスケは眠たい目をこすりながら返事をすると声した方へと目を向けた。
「コースケさん、おそいですよ。もう朝食はできてますから」
一つにくくられた腰まである赤みがかった茶髪を揺らし、ルビーのような瞳でコウスケを見つめる少女(男だけど)、ユウは女性のような声でそう言うとスカートを翻し扉のほうへと歩いていった。
「ユウさん可愛いなぁ…なんで男なんだろ…」
コウスケはひとり呟くとベッドを降りた。
ーーー
「「「いただきます」」」
食堂へやって来てコウスケは席に着くと既にいた長い黒髪の小柄な少女、ミリンとユウとともに朝食を食べ始めた。
「どうですか…?美味しくできたでしょうか?」
不安そうに上目遣いで言うユウにコウスケは高まる動悸を抑えながら極めて自然に振る舞おうとした。
「う、うん。とても美味しいよ、ユウしゃん」
「コウスケェ…なに噛んでるの…わたしのときはそんな反応してくれないくせに…」
ジト目で少し拗ねたようにそう言うミリンにコウスケはあははと笑った。
ユウが作った料理は普通に美味しかった。ユウはこの宿に泊めてもらう際、「私も何かしないと、流石に無料で泊めてもらうのは気が引けます」と宿の手伝いもしていた。ユウは料理をしたことはなかったそうだが、物覚えがはやく、わずか2日で厨房に立つようになっていた。
「ところでこの後はどうですんですか?」
大量の食器を洗い終えたユウはミリンとともにコウスケの部屋に訪れていた。
「そろそろユウさんも一緒に依頼に行かないか?」
ユウはパーティに入るとは言ったもののあまりにも無知だったためギルドへ行ったことすら無かった。
「依頼…ですか?私、『ぎるどかーど』とやらは持ってないですよ?」
不思議そうに首をかしげるユウにコウスケは目を奪われていると明らかに不機嫌そうなミリンがコウスケの足を踏みながら口を開いた。
「じゃあ今日、ユウもギルドに行こう。わたしも『アイテム屋KAZU』に用があるしね」
「痛い…痛いよ、ミリン、踏むのやめて…」
涙目で訴えるコウスケ。ユウはそんな2人を優しい目で見つめるとにっこりと微笑んだ。
「2人って夫婦みたいに仲良しですね」
「「夫婦じゃない!」」
「息ぴったりですね!」
恥ずかしそうに顔を赤らめた2人を見てユウはいつまでもニコニコと笑っていた。
ーーー
──2年前
「ひぃ…こ、こないで…」
「あ…あぁ…」
少女達は絶望感に浸っていた。災いの森にやってきた2人の少女達は無数のオーク達に囲まれていた。
「い、いやぁ…」
「だ、誰か…」
少女達は声を絞るがオーク達は息を荒げ、じわじわと近づいてきた。
少女達はあまりの怖さに気絶してしまった…
「───大丈夫ですか?」
不意にそんな声かけ聞こえてくると少女達はゆっくりと目を開いた。
「よかった…怪我は無さそうですね」
「…あ、ありがとう…」
「ありがとうございます…」
黒い肌の銀髪の少女が言うと白い肌の濃い茶髪の少女も続くように頭を下げた。
「あ、気にしないでください…ん?その耳…エルフとダークエルフですか?こんなところに珍しいですね。私はユウ。あなた達は?」