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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第5部.王家の末裔
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悪魔の力

 血肉が煮えたぎり、苦しむ余裕もなくなるほどに、急速に作り変えられる身体。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」


 戦場に響いた絶叫と共に、一瞬にして伸びた全ての触手が消え去る。

 触手に対抗していたミリンとスミレは、突然の事態に困惑するも本能に従ってその場を後退した。


『──なんダ!?ナニがおこッテいルンダ…!?』


 唐突の妨害によって触手(身体の一部)を消失させられ、驚いたように声を上げた怪物は、反射的に絶叫の元へと視線を向ける。



『──ッ!?そノ力はマサか…ッ!?』



 氷上に立った、化物(・・)


 かつて己を侵食していた右腕を、完全に取り込んだ絶叫の主(コウスケ)は、甲冑を禍々しく生物化させたような己の身体(モノクロの肉体)を熱視すると、わざとらしく叫ぶ。


「あぁ…感じる…感じるぞ!──これが、悪魔の…いや、神の力の一端か!」


『貴様キさまキサマきサマぁァァぁァぁッッッッッッ!ソレは…ワタくし達が魔王様に献上スルはズダッタものダといウのニッ!何故、なゼなのダッッッ!?!?』


 化物(コウスケ)の言葉に、現実逃避するように発狂する怪物。

 幾度となく見た、奴の触手を展開するような予備動作を前に、コウスケは変貌したその口元をニヤリと歪めると、見せつけるようにして両手に持っていた2本の剣を海中へ投げ捨てた。


『バかナ!?何故触手ガ展開デきなイ!?先程マデはデきテイたといウのニ…!?』


「──無駄だ。お前はもう、あの馬鹿げた全体攻撃はできない」


『──ッ!?貴様ぁッ!一体(ワタくし)に何ヲシた!?』


 自らの異変に気付き、自暴自棄のような無茶苦茶な動作で襲い来る怪物。

 コウスケは危なげなくその全てを受け流すと、ゆっくりとその口を開いた。



「あの瞬間からお前は、ただデカいだけの魚人族だ。


 ──俺が、お前の存在をそう固定した(・・・・)からな」



ーーー



「まさかあの男、本当に神の力を行使したというの…?」


 爆音に飲まれる、自問するような声。

 戦場を離脱したスミレは、ズレた眼鏡をそっとかけ直すと、剣を投げ捨て、純粋な肉弾戦で怪物交戦する化物へと視線を向ける。


「スミレ!」


 戦場へ意識を向けた瞬間、不意にかけられたミリンの声。

 合流した彼女は、担いできた憔悴しきったユウを氷上に横たわらせると、スミレの視線の向く方へと、その瞳を動かした。


「ねぇスミレ…あれって、コウスケ…なんだよね…?」


 ポツリと放たれた、確認するようなミリンの言葉。

 特に返事をするでもなく、スミレは静かに頷くと、補足するように口を開く。


「あれは悪魔の力だ。…サルモネラの口振りからも彼は、悪魔と契約した可能性が高い」


 交戦する2人の音をBGMに、視線を逸らさず淡々とそう語るスミレ。

 目先の戦場では、怪物サルモネラの拳をいなした化物(コウスケ)がその左腕を引きちぎった。


「悪魔と、契約…?それって本当に大丈夫なやつなの…?」

「あぁ…心配する必要はないよ、ミリン。君は、彼を信じているんだろう?」

「それは…そうだけど…」

「なら心配はいらないさ。悪魔…いや、彼女・・は名前ほど残忍な存在じゃないさ」



ーーー



 一撃、二撃、三撃…

 大量の返り血を浴びながら、コウスケは的確に怪物の攻撃を躱していく。


(これが〈魔力操作〉の本質…!視える(・・・)ぞ…奴の攻撃に転じる魔力の流れが!)


 変貌した口を歪め、身体の激しい動きと対照に、冷静に馴染んだ力を分析するコウスケ。


 以前の数十倍に跳ね上がった、身体能力や最大魔力量。

 鋭利に変貌した爪や歯、自由に扱えるようになった己自身の()

 そして、金色に変わった彼の瞳は、周囲の魔力をぼんやりと可視化させる。


『クそ…ッ!何故だ!?悪魔の力を手に入れタとはイえ、何故こノ(ワタクシ)が…貴様のヨうな雑魚相手ニッッッッッッ!』


 片腕を失い、最早憐れを通り越して無様に喚きながら発狂する怪物。

 次々と飛んでくる体当たりや、それによって飛び散る氷片を前に、コウスケは荒れた海面を滑るようにして全て避けきると、落ち着いた様子で距離を取る。


(あの時放った俺とユウさんの雷撃は、他の攻撃と比べて確実に奴には有効だった。…あの再生能力だけは厄介だったが、奴の存在を()()()()()()今なら、きっと──)


『余所見ヲするナァァぁァぁぁぁッ──』

「ハッ!誰が余所見だって!?──来い!俺の相棒(ダークスレイヤー)ッ!」


 コウスケの言葉を待っていたように、勢いよく海中から飛び出す、禍々しく変貌した漆黒の竜剣(ダークスレイヤー)

 まるで意思を持ったかのようなその剣は、旋回しながら怪物の右腕を切断すると、天に掲げたコウスケの右手へと綺麗に収まる。


 鮮血を撒き散らしながら、弧を描いて宙を舞う怪物の右腕。

 ほんの一瞬だけ、怪物の意識がそこへ逸れた瞬間。コウスケはすかさず海面を蹴り上げると、怪物の脳天へ向かって漆黒の竜剣(ダークスレイヤー)を振り上げる。


『──────ッッッッッッ!』



「これでも、喰らいやがれェェェェ───ッ!!」



 轟音と共に引き裂かれる、怪物の巨体。

 魔法によって雷撃を纏ったその刀身は、怪物の血肉を焼き焦がしながら身体をぬけると、勢いそのままにコウスケ諸共海中へと沈んでいった。



ーーー



「コウスケ!」

「…悪い、助かった…」


 水しぶきを上げながら、差し出されたミリンの手を引いて氷上へと上がるコウスケ。

 魔力を使い果たした影響か、元の姿へと戻った彼は力尽きたようにミリンへしなだれかかった。


「…コウスケ、お疲れ様」

「あぁ…ありがと…」

「ひとまずこれで、事件も解決して──」


「いや、まだだ。…まだ、終わってない」


「ぇ?」


 ミリンの言葉を遮るようにして、左右に別れた怪物を見据えながらポツリと声を漏らすスミレ。

 素っ頓狂な声を上げるミリンを他所に、コウスケは静かに奥歯を噛み締めると、その視線を怪物へと向ける。


「やっぱ保たなかった(・・・・・・)か…」


 視界に映る怪物の巨体は、まるでコウスケの発言を証明するかように引き裂かれた断面から無数の触手を生やすと──



 次の瞬間、全身からおびただしい量の血を吹き出すと、その場で静かに崩れ去った。


「今の…まさか…」


 目の前の出来事に、思い立ったように視線を背後に向けるコウスケ。


「…『今は』共闘、ですからね」


 不意に聞こえた言葉に、コウスケに続くように振り返る2人。

 彼女達の視界に映った声の主(・・・)は、横たわっていたその身体をゆっくりと起こすと、静かにペンデュラムを引き抜いた。


「ユウさん…」

「ユウ…」


 殺気のこもった彼の眼差しを前に、無意識に名前を呟くコウスケとミリン。

 そんな2人を庇うように、スミレは反射的に一歩前へ踏み出すと、腕を広げながら真っ直ぐにユウの目を見据えた。


「退きなさいスミレ。2人を殺せない」

「嫌だね」


 ユウの言葉に対し、即答するスミレ。

 状況の理解が追いついていない2人を他所に、ユウは小さく舌打ちをすると、引き摺ったペンデュラムを握りしめた。


「何故、私の邪魔をするのです?間接的とはいえ、この2人は──」

「モネフィラを殺した、と?」

「──ッ…えぇ」


 あからさまに顔を歪め、短くも肯定するユウ。

 真っ黒に塗り潰された彼の絶望したような瞳を前に、スミレは己の唇を噛み締めると、ゆっくりと言葉を続ける。


「ユウ…貴女の怒りは最もだ。僕もそこは否定しない」

「なら…!」

「たが、だからと言ってここを通すわけにはいかない。…彼女(・・)はこの男を庇って死んだんだ。それで生き残った男を殺して、貴女は彼女(・・)にどう顔向けできる?」

「ッ…でも──」


『そこまでよ、ユウ』


 ユウが口を開きかけた瞬間、突然声と共に現れた、男かも女かもわからない武士のような装いをした人物(・・)

 2人の間に割って入った人物(・・)は懐から刀を引き抜くと、傘を被った顔をユウへと向ける。


『彼らを殺しても何も解決しない。わかっているでしょう?』

「…ッ」

『今は引きなさい。…こっちでも話があるしね』


 何処かくぐもったその声に、観念したようにペンデュラムを手放したユウ。

 その姿を目にスミレはそっと腕を下ろすと、小さく息を吐く。


「…わかりましたよ、母さん(・・・)

『よろしい。すぐに帰ってくるんだよ』

「はいはい…」


 気の抜けたようなユウの返事を聞き、煙と共にやっこの(・・・・)折り紙(・・・)へと姿を変えた人物(・・)

 ひらひらと宙を舞ったその紙は、役目を終えたように発火すると、氷上へ落ちる前に灰となって消え去った。


「─それでは、私はこのあたりで。…できればもう二度と、任務でも会わないことを祈ってますよ」

「…ぁっ!ユウさん、待っ──」


 一方的にそう語り、コウスケが引き止めるより早くスカートを翻し影へと消えたユウ。

 足場の氷が溶け始める中、死屍累々の広がる海上に残された3人は、しばらくその場に立ち尽くしていた。



ーーー



「それで?アンタの言ってた助っ人とやらはまだ来ないワケ?」


 とある施設の中、天使の石像(・・・・・)を前に、つまらなそうに声を上げたマラリア。

 隣に立ったユアは、狐の面をから覗く瞳をそっと広げると、落ち着いた様子で口を開ける。


「そろそろ、ね」

「は?何を言って──」


「すみません母様、少し遅れました」


 悪態つこうとしたマラリアの言葉を塞ぎながら、突然部屋に響いたローズの声。

 待っていたとばかりに2人が振り返ると、そこにはローズと水浸しとなったユウの姿があった。


「ちょっ、血なまぐさいんだけど!?潮の匂いもするし…来るにしてもせめて身体洗って──」

「さて、始めますよ」

「さらっと長そうとするなユアァ!?」


 絶叫するマラリアを無視して、ユア、ユウ、ローズの3人は鎖や配線に埋もれた石像の前へ出ると、息を合わせながら静かにその瞳を閉じた。

 ユウ敵対と共に離れた最初期のヒロイン達は今──



 はい、ということで25章、いかがでしたか?


 コウスケのループ書いてたら前回以上に長くなって…『これは自分でもビックリだ』(cv.大塚芳忠)


 ちなみに、今回のエイズの策略で関係のない魚人族が絶滅しております。帝国に協力していたとはいえ、彼らに罪はないのです。(だいたいエイズのせい) 


 さて、次回は26章!

 悪魔の少女(=トイフェル)の助力により、本当の意味で力を制御できるようになったコウスケ。一方、モネフィラの死を目の当たりにしたユウはとある人物と再開して… 


 次回以降もまたのんびり投稿していくので、首を長くして待っていただければ幸いです。


 

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