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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第5部.王家の末裔
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共闘

「お初にお目にかかります、モネフィラさん。わたくし、スズナと申します」

「アタシはライム。アネモネ様の護衛としてここにいる」

「…事の詳細はわたくし達の方から説明させていただきます」


 モネフィラの訴えに応えるように、前に出てそう言うスズナとライム。

 混乱する彼女(モネフィラ)を横目に、2人は互いの顔を見合わせると、静かに首を縦に振る。


「まずは、いきなり呼び寄せておいて手荒に起こしたことを謝罪する。すまなかった」

「…わたくし達は今回、イヨ(・・)の依頼で貴女に接触…そして護衛としてここにいるのです」

「私の、護衛…?」

「えぇ」


 スズナの返事と重なるように、コクリと頷く4人。当の本人モネフィラは、まるでピンときていない様子で口を開けると、その両目をパチクリさせる。


「…えっと、たしかにさっき誰かに襲われそうになった気もしますけど…どうして関係のない私なんかを──」

「関係なくなんてないわ。…だって貴女、ユウと関係(・・)を持っているんでしょ?」


 煮えきらないモネフィラの言葉を遮って、何処か苛ついた口調でそう叫んだイヨ。

 モネフィラは一瞬肩を震わせると、弱々しくも口を開ける。


「それは…いえ、でもなんで…」

「貴女があそこで殺されたらユウが悲しむからに決まってるでしょ!──…別にユウのことだし、初めての相手が私じゃないことなんてこれっぽっちも気にしてないけど!!気にしてないけど!!…ユウがまた(・・)壊れないようにするためにも、貴女には生きてもらわなきゃいけないのよ!」


 自信のないモネフィラの言葉に気が障ったのか、ギリギリと拳を握って早口で捲し立てるイヨ。一瞬怯えたようなモネフィラを他所に、「姉様…」というローズの同情の声と共に3人小さく息を吐く。


 流れる、しばらくの沈黙。


 落ち着きを取り戻したイヨは、自らの頬を両手で叩くと、ゆっくりと深呼吸をする。


「ごめんなさい、ちょっと取り乱したわ」

「あ、はい…」

「…貴女には多分、直接見てもらったほうが早いわね。ローズ、アレ(・・)をお願い」


 疑問符を浮かべる彼女を横目に、自己完結したようにそう言うイヨ。

 呆れ顔のローズは、再び小さく溜池を吐くと、懐から顔くらいはある水晶の珠をモネフィラの前へと差し出してみせる。


「──ユウ様が、戦って…」


 水晶を覗き込みながら、そんな言葉を漏らすモネフィラ。

 差し出された水晶の中には、魚人族と似たシルエットをした怪物サルモネラと戦うユウ達の姿が中継(・・)されている。


「これは、今あそこで起きてること。…ユウと一緒に戦っている3人は私達の協力者よ」

「協力者…?」

「えぇ…彼らは元々、ユウの仲間だからね。…本人の記憶が改ざんされているとはいえ、こうやってお互いのために戦ってる…」


 そこまで言って、不意に口を止めたイヨ。

 瞬きすらせず水晶を見つめるモネフィラ横目に、彼女は「それに…」と言葉を繋げると、意を決したように口を開ける。


「…この怪物は本来、貴女がなるはずだった可能性(すがた)の1つ。放置しておけば、無差別に周囲の生命体を吸収する厄災となりうる存在よ」


 何処か説明口調で呟くようなイヨのそんな声。

 水晶から目を離したモネフィラは、確認するように他の4人へと向かい合う。


「では、ユウ様が戦っているのは──」

「魔王軍の1人、サルモネラよ。大方、貴女へ向けていた薬物モノが使えなくなったから自分で…って感じでしょうけどね」

「どうしてそんな…」

「さぁ…?私もそこまではわからないわ」


 気が抜けるような声音で、淡々とそう言い放つイヨ。

 しばらくの沈黙と共に、モネフィラはその視線をアネモネとローズへと向ける。


「私は────」



ーーー



『サッキカラ──小賢シイ真似ヲ────ッ!』


 スミレの魔法によって凍った海面を裂きながら、伸縮自在な触手を無数に伸ばす怪物。

 コウスケ達は、鞭のように振るわれたソレをすんでのところで躱していくと、手に持った武器で一本一本引き千切る。


水素爆発ハイドロジェン・エクスプロージョン──ッ!」


 攻撃後の一瞬の隙きを見て、間髪入れずにそう叫ぶコウスケ。

 分厚い氷が砕ける音と共に、怪物の姿が爆発の中へと飲み込まれる。


「──ッ!?コウスケッ!」


 一瞬気を抜いたのも束の間、不意に響いた慌てたようなミリンの声。

 コウスケの思考が追いつくよりも先に、煙の中から飛び出した触手は、その体を貫かんとばかりに一直線に襲いかかって──


「──…ッ!」


 コウスケの元へ届く寸前、それは一瞬にして間に割り込んだユウによって受け止められた。


『ナ──!?…生身デ私ノ攻撃ヲ受ケ止メタ──!?』


 突然の介入に意味もわからず、素っ頓狂な声を上げる怪物。

 触手を引き千切ったユウは、流れるように複数の火の玉を怪物へ向けて放つと、コウスケを小脇に抱えて速やかに後退する。


「ユウさん…どうして…」

「今は共闘関係のはずです。貴方に倒れてもらうわけにはいきませんからね」


 氷の海面を滑りながら、言い聞かせるように呟くユウ。

 2人の元へ合流したスミレは、降ろされたコウスケの服についた血を前に、取り乱した様子で視線を上げる。


「ユウ、これは──」

「少し擦りむいただけですよ。心配するほどではありません」

「でも…」

「デモも抗議もありません。それより早く戦線へ戻りましょう。視界()を潰したとはいえ、彼女ミリン1人ではそこまでちません」

「…わかった」


 紅く滲んだユウの右脇を見ながら、渋々といった様子でその場を離れるスミレ。

 その背中を見送ったユウは、未だに五体満足な怪物を一瞥すると小さく舌打ちをする。


「アレも効果なし、ですか…」


 確認するように、ポツリとそう呟くユウ。

 上体を起こしたコウスケは、遠目で戦うミリンとスミレを確認すると、静かに視線をユウへと戻す。


「ユウさん」

「えぇ…貴方こそ、まだ戦えますか?」


 ユウに差し出された手を引いて、そっと立ち上がるコウスケ。

 位置を把握したのか、再び次々と襲い来る怪物の触手を前に、2人はすんでのところで躱していくと、手に持った武器で一本一本引き千切っていた。


「──あぁ…当たり前だ」



ーーー



「イヨさん…彼女(・・)のこと、本当に行かせてもよかったの?」


 薄暗い空間に木霊する、困惑するようなアネモネの声。

 隣に立っていたイヨは、そんな彼女からそっと姿勢をそらすと、静かに目元を手で覆った。


「そんなもの、別に言わなくたっていいでしょ…どうせ、アネモネは私の心を読めているのでしょう?」

「えぇ…しっかりと」

「──じゃあ…」

「だからといって伝えなくて良い理由にはなりませんよ。…言葉で伝えるから良いのだと、貴女が私に教えてくれたのだから」

「…っ」


 淡々と話すアネモネの言葉に、反射的に声をつまらせる。

 しばらくの沈黙の後、イヨはその両腕をだらりと下げるとゆっくりとアネモネへと振り返った。



ーーー



「クソ…!いくら切ってもきりがねぇ!」

「無限とも言える再生力、ですか…厄介ですね…」


 砕けた氷片を交わしながら、回復する触手を前にそう吐き捨てるコウスケとユウ。

 攻撃の手をミリンとスミレに任せ、誘導されるように背中を合わせた2人は、静かに武器を握り締めると怪物へと視線を向ける。


「…まさか、貴方に背中を預けることになるとは思いませんでした」

「──!…なんだ、不満なのかユウさん?」

「…いえ、残念なことに…謎の懐かしさに襲われて、いますよッ!」


 皮肉るような声と共に、ペンデュラムを振り抜いて触手を薙ぎ払うユウ。

 そんな彼に背を任せ、コウスケは空宙から怪物を翻弄するミリンを一瞥すると、急激に再生する触手を雷で焼き払う。


「…!今のは、まさか──」


 ボロボロと崩れ落ちる触手を前に、不意にそんな声を上げたユウ。

 一瞬だけ合ったその視線に、コウスケはその意図を理解したように頷いた。


「…ユウさん」

「えぇ…そちらこそ、外さないでくださいよ」


 そんな言葉を交わしながら、コウスケは取り出した小さな箱(キューブ)を静かに握りつぶす。

 2人の様子を横目に、怪物の意識を引き付けていたミリンとスミレは互いに目を合わせると、触手を薙ぎ払いながら後方へと退いた。


『─イイ加減──殺サレナサイ──ッ!』


 ビリビリと海面を揺らす吠えるような怪物の声。

 前のめりになるその姿を前に、コウスケとユウは待っていたとばかりに海面を踏み込むと、挟み込むようにして宙へ舞い上がる。


サンダーァァァ───ッ!」

「〈雷竜の吐息(サンダー・ブレス)〉───ッ!」


 同時に放たれた、2つの雷の柱。

 轟く爆音と共に、奇声を上げながら姿勢を崩す怪物。

 焦げた匂いが充満する中、ありったけの魔力を消費したコウスケは、高度を維持できずに海面へと身体を叩きつける。


『ア゛ア゛ア゛ァァァァ───ッ』


 動きは鈍くなったのも束の間、残った触手を無差別に広げる怪物。

 海面に浮かぶコウスケを視界に捉えたユウは静かに舌打ちをすると、海面を蹴っ──


「っ…!」


 右腹部の激痛に襲われ、踏み出しが一瞬遅れる。


「コウスケッ!」


 上空から聞こえる、焦るようなミリンの声。


 2人が駆けつけるよりも早く、コウスケの身体を射程に捉えた怪物は、一直線に触手を伸ばすと、貫かんとばかりにその距離を殺す。


「──ッ」


 幾度となく経験した、死期を悟ったときの、時間が引き伸ばされるようなそんな感覚。


 指一つ動かせない状態の中、ゆっくり(・・・・)と襲ってきたソレは、コウスケの身体に触れるその寸前、割り込んできた何か(・・)によってその勢いを止めた。


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