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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第5部.王家の末裔
85/112

n回目の事象

「悪いけど、そうはさせないよ」


 不意に部屋に響いた、何処か落ち着いた女性の声。

 反射的に目を閉じていたモネフィラが、恐る恐る瞼を開けた瞬間、何かに弾かれるようにしてサルモネラの身体が後方へと飛ばされた。


「スキルス…あなた…!」


 忌々しく視線を向けながら、吠えるようにそう呟くサルモネラ。

 相変わらず状況を理解できず、ただ狼狽しているモネフィラが周囲を見渡すと、不意に杖を構えた眼鏡の女性が、サルモネラを見据えながら彼女の横へと並び立つ。


「久しいね、サルモネラ…たしか、大会でミツバとして会った時以来かな?」

「──ッ!」

「生憎、僕はもうスキルスという名前はもう捨てていてね。スミレと呼んでくれると嬉しいな」


 女性─スミレは、何処かからかうような軽い口調で、睨み付けるサルモネラへとそう言葉を投げる。

 言葉と裏腹に笑っていない彼女の表情を前に、サルモネラは唇を噛みしめると、後方に立つコウスケを警戒しながら、飛び退くように距離を取る。


「流石スミレさん、タイミングバッチリでしたね」

「…ま、僕としてもユウが悲しむ姿は見たくないからね。これくらいはどうってことないさ」

「ハハ…それもそうか…」


 コウスケの声にそう返しながら、しっかりとサルモネラを見据えるスミレ。

 劣勢となったその状況を他所に、周囲へ視線を向けたサルモネラは、突然取り乱すように汗を海水に滲ませる。


「…ッ!?…あの女は何処に──」


 ポツリと漏れた、彼女のそんな声。

 それもそのはずであろう、見渡した彼女の視界の中には、先程まで殺そうとしていたモネフィラの姿が無くなっていたのだから。


「ねぇ…油断してる暇は、ないんじゃないか、な──ッ!」


 そんな好機を見逃すはずもなく、一瞬にして狼のソレへと姿を変えたスミレは、手に持った杖を槍のようにしてサルモネラへ襲いかかる。

 一拍遅れて反応したサルモネラが身体を捩ろうとした瞬間、その動きを封じるように、コウスケは壁を強く蹴り上げると、カジキのようにその距離を一気に詰めた。



ーーー



「──チッ…まさか、自害するとは…」


 海に沈む死体・・を見ながら、荒々しく言葉を吐き捨てるユウ。

 しばらくの沈黙の後、彼は下げていた顔をゆっくりと上げると、海上に立つ1つの影を射殺さんとばかりに睨み付ける。


「ミリン…一体何故、貴女がここにいるのです?」


 怒りを孕みながら、淡々と響くそんな声。

 影─ミリンはそんな彼に視線を合わせると、海面を歩くようにしてゆっくりと歩み寄る。

 質問に答えるように、彼女は懐から()()()()()を取り出すと、呟くように口開ける。


「約束…したからね…」

 

 まるで彼女の声に共鳴するように、激しく光り色を変える宝石。

 何処か不安定にも見えるその宝石を前に、ユウはより一層視線を鋭くする。


「確かに、私は貴女に『この石が反応したら駆け付けるように』と、約束はしました。…ですが、指定された座標へ向かうように、とも言っていたはずです。…なのに何故、貴女はここにいるのですかッ!?」


 何処か感情に任せるように、荒々しくも早口でまくしたてるユウ。

 胸倉を掴まれたミリンは、真っ直ぐにその顔を見つめ返すと、零れ落ちそうになった宝石を強く握りしめる。


「それは、ごめん…」

「…ッ!貴女、謝って済むと思って─」

「でも!…ユウの心配してるあの娘の元には今頃、コウスケ達が駆け付けてる!…少なくとも、あの娘の安全だけは保証させてほしい」

「…」


 視線を逸らさず、真っ直ぐな瞳で声を上げるミリン。

 しばらくの静寂の後、ユウは、胸倉を掴んでいた手をそっと離すと、確証を得たように安堵の息を吐く。


「…確かに、その言葉は事実のようですね」


 不意に口から漏れた、自身に言い聞かせるような、そんな声。

 波音が静まる中、ミリンは握っている宝石を見つめ直すと、そっと彼の方へと向き直る。


「ねぇユウ…どうして、わたしにこんなことを頼んだの?…わたし達、敵同士なんでしょ?」

「…」

「わたしには、ユウがあの娘のことをどう思ってるのかはわからない。…でも、あの時この話を持ちかけて、敵であるコウスケを助けてまでして、守ろうとしたのって──」


「どうして、ですかね…」

「──っ」

「正直な話、その理由は私自身わかりかねます。…ですが、こうして感情的になっている以上、きっとそういうことなんでしょうね」


 何処か他人事のように、空を見上げてそう語るユウ。

 それを聞き届けたミリンは、そんな彼の横顔を見ると、そっと自身の頬を緩めた。



ーーー



「──ッ!?」


 短く息を漏らし、左肩に刺さった折れた杖の先を引き抜くサルモネラ。

 大きく抉られた腹部から、大量の血を吐き出し続ける彼女は、赤く染まった海中でコウスケとスミレを視界に捉えると、ニタリと頬を緩める。


「何がおかしい」


 腹部を貫いた銀色の竜権(アベンジャー)を構えながら、訝しげに吐き捨てるコウスケ。

 そんな彼に続けるように、スミレは短くなった杖を再度握り締めると、流れる動作でそれを構える。


「アハ…アハハ───ッ!…流石、わたくしが唯一暗殺(任務)に失敗した御二方ですね──ッ!…本っ当に、忌々しい──ッ!」


 警戒を解かぬ彼らを前にして、唐突に笑い叫ぶサルモネラ。

 一瞬にして変わったその異様な雰囲気に、2人はどちらともなく背中を合わせると、深紅に成り行く空間で目を凝らす。


「スミレさん、これってまさか…」

「あぁ…これは、すごいのが来そうだね」


 2人が言葉を交わしたのも束の間。

 サルモネラは、不意に注射器(・・・)のような(・・・・)鈍器(・・)を取り出すと、抉れた自身の腹部へと、勢いよくそれを突き刺す。



「さァ…ウたげハじまリよ───ッ!』



 段々とノイズの走るその不気味な声と共に、何処からか現れた、大量の魚人族の死体が、サルモネラを核とするように一つの身体へと統合する。



『アハ、アハハハハハッ──────!


 アノ女ハ殺セマセンデシタガ、モウ暗殺ナンテ関係ナイッ!


 コノママ…コノ町ゴト此ノ世カラ消シ去ッテヤルワ!』



 いつか戦った怪物ガリを連想させるような、全身から触手を無数に生やした巨大な怪物・・

 かろうじて魚人族とわかるようなそのシルエットは、周囲の壁や床へと触手を這わせると、一瞬にして瓦礫の山を量産した。


「チッ…やっぱこうなるのか…」

「ま、僕としてはあの娘を核にされなかっただけマシだと思うよ」

「…スミレさんにそう言ってもらえるとは、ありがたい…ねッ!」


 次々と襲い来る触手を躱しながら、そんな言葉を交わすコウスケとスミレ。

 2人は、部屋に開いた穴から廊下へと飛び出すと、倒壊しかけた壁を蹴って逃げるように距離を取った。



ーーー



「オイ、起きろ」

「…?…ここは、一体…!?」


 ぼんやりとした視界の中、不意に聞こえた声に意識を覚醒させるモネフィラ。

 ぼんやりとした灯りに包まれた、右も左も分からない空間を前に、彼女は混乱した様子で周囲を見渡す。


「落ち着いてください、モネフィラさん。わたくし達は貴女の味方です。襲ったりはしませんよ」

「──ぇ…?仲、間…?」

「えぇ」


 不意に聞こえたその声に、反射的に復唱したモネフィラ。

 未だに混乱している意識の中、彼女がゆっくり振り返りと、5人の女が視界へと映り込む。


「なんで、わたしの名前を知って…」


 見知らぬ5人の姿を目に、混乱した言葉を漏らすモネフィラ。

 そんな様子の彼女を前に、不意に黒いローブを身に纏っていた女が一歩前に出ると、フードを外して全員を代表するように頭を下げた。


「急にこんな場所へ連れてきてごめんなさい、モネフィラさん」

「え…あ、はい…」


「私の名前はイヨ(・・)。…魔王ルインの娘にして、ユウの幼馴染よ」


 薄暗い空間に木霊した、女─イヨのそんな声。


 様々な憶測がモネフィラの脳内を走る中、不意にこちらを覗かれた、キラリと光る金色の瞳を前に、彼女は直ちに思考を放棄すると、落ち着かせるように息を吐く。

 イヨは、そんなモネフィラの行動を静かに見届けると、ずっと黙っている他の2人(・・・・)へと視線を向けた。


「お初にお目にかかります、モネフィラさん。…私はアール王国王女、アネモネと申します。このような状況での挨拶になりましたが、以後お見知り置きを」

「…私はローズ。元竜王、スカーレット・ドラゴンの次女にして、兄様─いえ、ユウの妹です」


 黙っていた口を開き、スカートの裾を掴み頭を下げる2人の女(アネモネとローズ)

 モネフィラは、そんな彼女達を前にしばらく固まると、説明を求めるように視線を戻した。



ーーー



「──ッ!?この気配、まさか…!」


 突然荒れ出した海面を滑りながら、自問するように声を上げるユウ。

 ミリンとの対話を終えた彼は、唐突の出来事にバランスを崩している彼女の腕を引くと、流れるようにしてティーフゼーから距離を取る。


「ちょっとユウ!いきなり何を──」

「少し、黙っていてください。…文句なら、後でじっくり聞いてあげますから」


 ミリンの言葉を遮りながら、低い声でそう言うユウ。

 そんな次の瞬間、不意にティーフゼーの中から2つの影が飛び出すと、それに続くようにしてその塔が爆散した。



『─────────────────ッ!!』



「まさか、古代の遺産であるティーフゼーを破壊するとは…中々面倒くさいものを作ってくれたものですね…」


 苦虫を潰したような表情で、ポツリと呟くユウ。

 嫌な風が吹き荒れる中、原型を失ったティーフゼーから現れた、触手だらけの魚人族のような怪物。

 咆哮をあげたその巨体を前に、ミリンは状況を理解したように唇を噛むと、ユウに続けるようにして胸部からペンデュラムを引き抜く。


「ミリン!ユウさん!」

「ミリン!ユウ!」


 不意に2人の耳に響いた、呼びかけるような男女の声。

 目先に佇む怪物を捉えながら、2人はその音源へと視線を向けると、反射的にその口を開けた。


「コウスケ!スミレ!よかった、2人とも無事だったんだね…」

「はぁ…そういうことでしたか…」


 再会を喜ぶようなミリンと対照的に、何処か納得したような溜息にも似た声を出すユウ。

 浮かぶ蒼い竜を足場にしながら、2人の元へ駆け付けたコウスケとスミレは、そんなユウを一瞥すると、各々武器を構えて怪物を見据える。


「…ユウさん」

「えぇ…私も、アレは仕留めておかないといけませんし…どうやらモネフィラを助けてくれたのは貴方達のようですしね…



 ──今だけは、共闘してあげますよ」



 ユウが言葉を放ったさの瞬間、不意に周囲に響く怪物の咆哮。

 ビリビリと周囲がしびれるような感覚の中、ミリンの横に立っていたコウスケは一歩踏み出すと、そんな彼の隣へと並び立った。



「さぁユウさん…久々にりますか…ッ!」

補足(時系列)


79話Aパート(n-1)回目

  BCDパート n回目

  Eパート 1回目~


80話Aパート ??

  Bパート n回目

  Cパート 1回目~

  Dパート n回目


81話Aパート n回目

  Bパート 1回目~

  Cパート n回目


82話ABCDパート n回目


83話Aパート 1回目~

  BCパート n回目

  Dパート(n-1)回目


84話Aパート(n-2)回目

  Bパート n回目

  Cパート(n-2)回目

  Dパート n回目


85話ABCDEパート n回目

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