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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第5部.王家の末裔
84/112

繰り返す世界

「兄様がおかしくなった原因、ですか」

「あぁ…」


 コウスケが目覚めて(・・・・)から(・・)6日(・・)経った(・・・)日。

かつて王国と帝国が争った戦場の地で、相見えるコウスケとローズ。

今までの記憶・・を用い、彼女と接触を果たしたコウスケは、聞き返したその言葉に小さく頷く。


「…まさか、貴方が私を訪ねてくるとは思いませんでしたが…まぁ、事が事ですし、別にいいでしょう」

「…そう言ってくれると助かる」


 何処か複雑な表情の彼女に、静かに返すコウスケ。

 ローズは、そんな彼を前にその瞳を閉じると、頭に流れる映像(・・)を目に溜息を吐く。


「はぁ…そういうことですか」


 呆れたように、ポツリと呟くローズ。

 コウスケは、一瞬意味もわからず口を開けようとするも、思い出したように思いとどまる。


「貴方は異質だと思っていましたが、まさかそんな後ろ盾がいたとは…道理で父様の事が上手く運ばない訳ですね」

「…そうか…お前、俺の記憶を読んだのか…?」

「えぇ、正確には『読む』ではなく『見る』でしたけど」


 不敵に口角を上げながら、コウスケの言葉に回答するローズ。

 納得したように頷く彼女に、コウスケはそっと頷く。


「なら、話はわかってるはずだ。…お前の力なら、どうしてユウさんが暴れているのかわかるはずだろう?」


 期待半分、願望半分でそう問いかける。

 ローズは、ただそのままコウスケを見ると、少しの間を空けて言葉を紡いだ。


「そもそも、私の固有スキル、〈記憶操作〉は、私の半径1メートル以内にいるヒトやモノの持つ記憶(・・)を、見たり改ざんしたりできるもの。…貴方は、その記憶を見るという力を使って私に何かを見ろ、と言いたい訳ですか」

「…あぁ、その認識でかまない」

「はぁ…」


 コウスケの回答に、突然大きく溜息を吐くローズ。

 彼女は、何処か憐れむような、呆れ返った瞳を向けると、そっと言葉を続ける。


「貴方、本当に詰めが甘いですね」

「詰めが甘い…?」

「えぇ、言葉通りの意味です。私の持つ〈記憶操作〉の詳細がわかっているにも関わらず、その効果の行き届く範囲まで自ら近付いている…その行動は、記憶が改ざんされる可能性をまるで考えていない」

「どういう、ことだ…?今のお前じゃ、記憶の改ざんなんて──」

「─確かに、貴方の記憶通り、普通なら記憶の改ざんはそもそもできないのも事実。しかし、それは経験値(・・・)と呼ばれる記憶に合わせ、肉体自体が強化(レベルアップ)され、その記憶と肉体は同一の存在となっているから。…今の貴方のような、肉体の進化が止められ、記憶との差異が生じている状態では、記憶の改ざんなんて殺すよりも簡単にできる」

「─なん、だと…」

「それに、貴方もよく知っているでしょう?


 …ただ一人だけ、記憶を改ざんされたヒトを」


「──まさか…ユウさん!?」


 コウスケのその言葉に、にんまりと頬を緩めるローズ。

 正解とでも言っているような、彼女の無邪気なその笑みに、コウスケは唇を噛みしめる。


「──まぁ、兄様の記憶を弄ったのは私ではなく、正確には、洗脳した(・・・・)私の力を(・・・・)使った父様(・・・・・)、なんですけどね。今の私では、何故か兄様の記憶に干渉できませんし」


 ゆっくりとコウスケの横を歩きながら、軽い口調でそう溢すローズ。

 そんな言葉を前に、半信半疑のまま、コウスケは振り返る。


「記憶に干渉できないって…それじゃあ…」

「えぇ、私は兄様の記憶を見ることはできません。…ですが、貴方の言っていた『原因』自体を探すのであれば、わざわざ兄様の記憶を直接見る必要はありません」


 コウスケの声に対し、ローズは確信を持っているかのようにそう言い切る。

 初めて出会った、人形のようなものとは全く違う、真剣な目をした彼女を前に、コウスケは疑っている自分の思考をかき消すように頭を掻き毟った。



ーーー



「──チッ…まさか、私達の同胞にまで手を出すとはね…」


 水没都市の海上にて、翼を広げながら、忌々しく声を漏らすユウ。

 彼の視界に映る、蛇のような蒼い竜(・・・)は、憎たらしい笑みを見せる白衣の男(・・・・)を乗せながら、ティーフゼーを取り囲むように浮いていた。


「ふっ…フハハハハッ…流石の貴様も、同胞相手じゃ分が悪いか!」

「エイズ…ッ!貴方って奴は…ッ!」

「ハッ…勝手に言ってろ。竜の力を手にした俺は、もう貴様らなんかに負けはしねぇ!」


 ユウを挑発するように、高笑いをしながらそう叫ぶエイズ。

 それに共鳴するように、蒼い竜は咆哮を上げると、その口を大きく広げる。


『〈水竜の吐息(ハイドロ・ブレス)〉──』


 蒼い竜の口から放たれた、巨大な高圧水流の()

海面を割くようにして、一直線に飛んできたその竜の吐息(ブレス)を前に、ユウはひらりひらりと宙を舞うと、踊るようにしてそれを躱してみせた。


「貴様ッ…!さっきからちょこまかと…!」


 一向に当たらない竜の吐息(ブレス)を目に、苦虫を噛み潰したような顔をするエイズ。

 息継ぎが必要になったのか、蒼い竜は不意に口を閉じると、絡めていた身体をティーフゼーから離してみせる。


『──────────ッ!!』


 奇声を上げるような、蒼い竜の咆哮。

 ビリビリと海面を波立たせるその声を前に、ユウは一瞬舌打ちをすると、距離を取るように後退する。


「これも避けるか…まぁいい」


 忌々しそうに、そんな声を漏らすエイズ。

 竜の真下を中心に、ぷかぷかと海面に魚の死体が浮き上がる中、ユウは進撃するエイズとの距離を一定に保つ。


「咆哮と掛け合わせた範囲的な魔力吸収、ですか…また、面倒なものを…」

「ハッ…!流石の貴様もこれで俺には近づけまい」


 勝利を確信したような、エイズのそんな声。

 それに反応するように、エイズを頭に乗せた竜は、ユウに追撃を仕掛けようとするかのように移動速度を上昇させる。


「〈雷竜の吐息(サンダー・ブレス)〉」


 不意にユウが放った、雷撃の竜の吐息(ブレス)

 コウスケのオリジナルよりも数倍は強力なその一撃は、前進する蒼い竜に正面から直撃する。


『─────!?──────!』


 全身を流れる電流に、苦しむような声を上げる蒼い竜。

 一瞬のその出来事に、エイズが状況を把握しきるよりも早く、離れていたユウは竜との距離を殺す。


「誇りを捨てた、一族の恥晒し」


 事切れたように、その場で崩れ落ちる蒼い竜。

 ボソリと呟いたユウの声は、竜の上げる水しぶきと共にかき消される。

 海面に叩きつけられたエイズは、溺れそうになる身体を大きく動かすと、犬掻きでもするように海面から顔を出した。


「な、何が、起きて──」


 海に浮かぶ竜にしがみつき、言い聞かせるように呟くエイズ。

 彼が顔を上げた瞬間、いつの間に接近していたのか、竜の背に立ったユウの右手に握られた塩の剣(・・・)がその鼻先に向かって突きつけられていた。


「貴方、一体なんの真似ですか」

「──ッ」


 ドス黒く聞こえた、ユウのその声。

 剣先から垂れた、結晶化していく自分の血を前に、エイズは一瞬口を詰まらせると、見下ろすユウへと視線を向ける。


「…私は、貴方の殺し方を知っています。大人しく質問に答えなさい」

「…」


 流れる、しばらくの沈黙。

 一向に口を開かぬエイズに痺れを切らしたのか、ユウは塩の剣を強く握りしめると、エイズが捉えるより早くその左耳を切断した。


「…ッ…貴様ァ…ッ!」

「私は質問に答えろと言っているのです。それとも、永遠に五体満足ではいられない身体にしてあげましょうか?」

「ッ…!」


 結晶化した自身の耳を撫でながら、唇を噛みしめる。

 が、それも束の間、汚物を見るような、ドス黒く濁ったユウの瞳を目に、エイズは不意にその口を歪める。


「ふっ…フハハハハッ…!」

「…何がおかしい」

「ハッ…!確かに貴様は俺の殺し方を知っているみたいだが、今更俺を殺したところでもう遅い」

「…どういうことですか」


 気色の悪い笑みを浮かべるエイズを前に、不愉快といった様子でそう言うユウ。

 そんな彼の表情に、エイズはより一層口角を引き上げると、楽しそうに口を開ける。


「貴様が俺を殺すにせよ生かすにせよ、俺の目的はもう達成されているということだよ!…貴様が気にかけていた魚人族の女は、今頃サルモネラが始末してるはずだからな!」

「──ッ!?貴方って男は…ッ!」


 口車に乗せられ、血相を変えて左手でその首元を締め上げるユウ。

 気管が潰されそうになっても尚、エイズは笑い続けると、途切れながらも言葉を紡ぐ。


「例え…始末、で…きなくとも…あの…女、は…実験体に、されるは…ずだからな…どう、足掻い…たとこ、ろで…目的、は…達成、される…」

「────────ッ!」


 エイズの言葉に、声を殺しながら、腕に込める力を強めるユウ。

 その感情と共鳴するように、彼が意図した訳でもなく、その身体から漏れ出した、全身を覆うオーラのような『力』を前に、エイズは口角を上げ続ける。


(竜人の持つこの力…!これさえ引き出せれば、きっと──)


 頭を埋め尽くす、怒り感情のままに、ユウは首を掴んだまま、胸元目掛けて塩の剣を構え──


「ユウ──!」


 不意に聞こえた、第三者の声に、突き出された塩の剣は起動を変えると、エイズの脇腹に強く突き刺さった。


貴女(・・)ッ!?何故此処に…!?」


 そんな叫びと共に、一瞬だけ逸れたユウの意識。

 エイズはそんな隙を見逃すはずもなく、腹に刺さっていた剣を引き抜くと、何処からか取り出したメスで自身の首を掻き切った。



ーーー



「へぇ…此処が、兄様の逢引していた場所ですか…」


 物珍しそうに周囲を見ながら、そんな声を漏らすローズ。

 コウスケの〈ゲート〉によって、ティーフゼー内部へとやってきた2人は、螺旋状に続く廊下を急ぐようにして進んでいた。


「何か、わかったのか…?」


 不意に立ち止まったローズを前に、そう言葉を漏らすコウスケ。

 一拍間を空けて、ローズは壁へそっと手を触れると、頭の中に流れた映像を前に気まずそうに口を開ける。


「確かに、兄様が取り乱すくらいのことがあるとすれば、彼女しかいませんか」

「…?どういうことだ…?」

「…付いてくればわかりますよ」


 言われるままに、再び廊下を走り出すコウスケ。

 まるで目的地がわかっているかのように、ローズは迷い無くその道を引き返すと、隠し通路のようになっている道を次々と開きながら、水を裂いて突き進む。


「なんだ…この場所は…」


 ローズが歩みを止めた廊下の突き当り。

 もはや壁と同化している、人が1人入れるくらいの扉を前にコウスケはそんな声を漏らす。


「行きますよ」


 何処か足早に、扉を押して中へ入るローズ。

 それに続くように、コウスケが部屋へと足を踏み入れたその瞬間、まるで水槽に色水をぶちまけたように、中から紅く染まった海水が、廊下へと染み出す。


「なぁ、ここで一体何が起きt──」


 部屋の中へと入り、ローズへ向かって疑問を投げるコウスケ。

 口から出たその言葉は、網膜に映ったその光景を前に遮られる。


「なんだよ…これ…」


 反射的出た、唖然とするようなそんな声。

 穴の開いた外壁から差し込んだ光によって照らされた、積み上げられた魚人族の死体の山。

 無造作に転がるいくつもの死体を前に、コウスケはただただ立ち尽くす。


「──はぁ…やはり、そういうことですか…」


 部屋の中央に立ちながら、ポツリと呟くローズ。

 頭に流れ込んだ、大量の映像(・・)を前に、彼女は納得したように溜息を吐くと、棒立ちのコウスケへと視線を向ける。


「…まさか、姉様まで関与してるとは思いませんでしたが…まぁ、事実であることに変わりはないでしょう。…あとは、貴方のこれから次第ですね」


 助言するようにそう言いながら、〈記憶操作〉によって見たその記憶(・・)を〈イメージの具現化〉を用いてコウスケへ譲渡するローズ。

 容量オーバーにすらなり得る、大量の記憶(・・)は、コウスケの頭に激痛を伴いながら流れ込む。

 我に返ったコウスケは、流れ込んできた大量の記憶(・・)を前に頭を抑えて蹲る。


「──ッ…これが、ユウさんを狂わせた原因…」


 苦痛に顔を歪めるながら、拳を握り締めてそう呟くコウスケ。

 少しの間を空けて、ローズは肯定するように口を開く。


「えぇ…おそらくは、そうでしょうね。…兄様は前に、『私と生きるこの関係を守るために戦う』と言っていましたが…私も少し、その本当の意味がわかった気がします」


 何処か納得したように、ポツリと呟くローズのその言葉。

 その意味を測りかねて、聞き返そうとコウスケが立ち上がろうとしたその瞬間、不意に外から聞こえた爆音を耳に2人は驚いたように周囲を見渡す。


「この気配、まさか…」

「兄様…!?」


 2人の呟きを余所に、ホラー映画の怪物のように、壁の穴からやってきた竜人(異様の怪物)

 塩塊(・・)片手に持った、オーラを纏った竜人(・・)は、廃人のような瞳でコウスケを捕捉すると、一瞬にしてその距離を殺した。


『────』


 奇声のように発せられた、竜人(・・)の声。

 コウスケは、いつの間にか胸部に突き刺さっていたその腕を引き抜かれると、周囲の水を紅く染め上げながら意識を手放した。



ーーー



『──この奇妙な現象…やはり、貴女が起こしていたのね』


 闇のように暗い空間で、ぽつりと言葉を漏らす少女トイフェル

 少しの沈黙の後、暗闇に潜んでいたもう一つの()は、ゆっくりとその場に立ち上がる。


「その口ぶり…思った通り、貴女にはそこまで干渉していないのね。…ま、ここを当てられたのは予想外だけど」

『…その言葉、私の質問に対する回答と受け取っても?』

「えぇ、構わないわ」


 影─否、魔人(・・)は、少女トイフェルの言葉に静かにそう返す。

 その返答を前に、少女トイフェルは一瞬渋い顔をすると、本題に入るように言葉を紡ぐ。


『──貴女、コウスケ(あの男)を使って一体何をするつもりなの?…彼が死ぬ度に世界の時間を巻き戻して、世界の禁忌に触れても尚、その先に何があると言うの?』


 何処か怒りを隠しながら、吐き捨てるようにそう言う少女トイフェル

 魔人は、静かにその視線を少女トイフェルへと向けると、ゆっくりと口を開ける。


「私達の目的は最初からただ一つ。




 ────私達の存在(・・・・・)が、完全消滅(・・・・)することよ」

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