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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第4部.裏切りの連鎖
78/112

再開と再戦

「──それで、なんで君達はこんな面倒くさい仕事を僕達に頼むかなぁ…ここに来る用事が無かったら、本来は手を貸す義理なんてないと思うんだけど」


 街中を駆け抜けながら、不機嫌に声を漏らすスミレ。

 同行していた護衛(・・)の男は、一瞬バツの悪い表情を作ると、そっとスミレからその視線をそらした。


「…姫様を攫ったあの女は、只者じゃなかったんだ。ほんの一瞬で一人殺して、護衛として立ち向かおうとした俺達を簡単にあしらいやがった」


 そう言って、何処か悔しそうに拳を握る男。

 熱の籠もったそんな言葉に、走っていたスミレが彼の方へ身体を向けた瞬間、不意に周囲に鳴り響いていた爆音が鳴りを潜めた。



「──もしそれが本当なら、何故貴方達は()()()に突っ立っていただけだったんですかね」



 静まり返った空気の中、2人の鼓膜を震わせた、透き通るような美しい声。

 唐突に固まった男を余所に、咄嗟にスミレが振り返ると、そこにはアネモネを抱きかかえた少女(・・)の姿があった。


「この女…あのときの…」

「…ユウ、やっぱり君だったのか」


 驚いた様子の男を横に、ポツリと漏らしたスミレの声。

 その言葉の意味を悟ったのか、少女(・・)は、困惑した様子のアネモネをゆっくりと降ろすと、諦めたように溜息をついた。


「流石に、直接話すのは今回が初めてとはいえ…私のことを知っている貴女には髪型を変えたくらいでは騙せませんか…」

「…当たり前だよ、ユウ。…僕だって、また君に会うのに待ち焦がれていたんだ」


 三編みにした髪を撫でながら、残念そうにそう言う少女ユウ

 流れ込むスミレの()に、ようやく状況の理解ができたアネモネは、ユウとスミレの顔を一瞥すると、ユウを庇うように2人の間に割り込んだ。


「ひ、姫様!?何を血迷って…」

「うるさい!護衛の皮を被った人でなしめ!」


 突然のアネモネの行動に、慌てた様子で声を上げる男。

 アネモネは、そんな男の言葉を語り終わらせる間もなく怒鳴り散らすと、勢いよく男を指差した。


「ひ、人でなし!?この俺が人でなしだと!?」


 唐突のアネモネの言葉に、思わず反論の声を上げる男。

 驚いた様子もなく視線を移すスミレを横目に、ユウは呆れたように溜息をつくと、指差すアネモネの腕をそっと降ろすように促した。


「…貴方、まだわからないんですか?」

「ぁ?何を言って─」

「自分達のことしか禄に考えず、挙句の果てには護衛対象に手を出す輩を黙認する…もし先程、貴方がその女に言ったあの言葉が本当なら、何故攫われたはずのアネモネが私を庇うような発言をしたんですかね?」


 にっこりと笑いながら、淡々と言葉を繋げるユウ。

 狼狽する男と対象に、堂々としたアネモネとユウのその態度。

 そんな光景を目に、スミレは心に引っかかっていた違和感がそっと腑に落ちた感覚を覚えると、男に向かって半目を作った。


「何を、根拠にそんな…」

「ユウは私を貴方達から守ってくれたのよ!なのに…護衛の責務も果たさず、あろうことか黙認しようとした貴方の言葉が信用できるとでも思っているの!?」

「…ッ!そ、そうだ!姫様はきっとその女に洗脳されてるんだ…!おのれ小娘めッ!姫様、今すぐ我らが助け──」


 往生際悪く、突然ユウがアネモネを洗脳したと言い出した男。

 そんな台詞も言い終える間もなく、不意にだんまりを決め込んでいたスミレがその足を踏み込むと、勢いよく男の首を締め上げた。


「…ゥ…な…なに、を…」

「お前…いい加減にしろよ…?さっきから聞いていれば自己保身の言葉ばかり…挙句の果てには、ユウが姫様を洗脳?…そんなことする人じゃないってのは、僕らが1番知ってるんだよ。勝手なこと抜かすんじゃないよ」


 過去一ドスの効いた声で、ギリギリと男の首を握り締めるスミレ。

 目を逸らすアネモネを横に、ユウは小さく溜息をつくと、呆れたように腰に手を当てた。


「貴女が、そこまで私を庇ってくれたのは意外ですが…まぁ、そもそも私は洗脳なんて使えないんでね」


 反抗も虚しく、泡を吹きながら白目を剥く男。

 スミレは、息の根の止まったその身体を投げ捨てると、再びユウと対峙するように向き直した。


「屑とはいえ、味方に殺されるとは憐れですね」

「…僕は最初から、味方だなんて思ってなかったけどね」

「…まぁ、そういうものですか」


 スミレの一言になんとなく察したのか、それ以上深堀はしないユウ。

 聞こえた()により、状況を把握したアネモネ。

 スミレを見つめたユウは、一瞬思考するような動作をとると、アネモネの肩へとそっと手を乗せた。


「ユウ…?」


 唐突のユウの行動に、驚いたような表情をつくるアネモネ。

 そんな反応から一拍遅れてユウから流れ込んできた、安堵のその感情に、アネモネはわけがわからないといった様子で視線を向けると、それに気付いたのか、ユウは優しく微笑んだ。


「アネモネ、貴女は彼女に付いていきなさい。…少なくとも、そこに転がっていた()()()()のとは違って貴女を守ってくれるはずです。私は少しだけ、所要を思い出したので」

「でも…」

「大丈夫、またすぐに会えますよ」


 頑なにユウから離れようとしなかったアネモネに、子供をあやすように頭を撫でてそう言うユウ。

 渋々納得したアネモネが、ゆっくりスミレの方へと向かうと、不意に黙っていたスミレが口を開いた。


「ユウ!」

「はい…?」


 唐突なその声に、ピタリと動きを止めたユウ。

 2人の()を聞きながら、その顔を見比べるアネモネを横に、スミレはそっと息を吐くと、落ち着いた声音で言葉を続けた。


「なんで、僕にこんな…」

「根拠なんてありませんよ。…ただ、先程も言ったとおり、貴女はそこの人でなしよりは信用できる…と、何故かそう思っただけです」


 自分でも疑問、といった様子で言葉を紡ぐユウ。

 何処か引っかかるような、そんな彼の言い回しを前に、ふと一筋の光が差したような感覚を覚えるスミレ。

 永遠かとも思われるような、無音となったその一瞬は、流れ込むスミレの思考と共にアネモネの頭の中をかき乱す。

 そんな2人の心情を知ってか知らずか、ユウは三編みにされた髪をなびかせながら振り返ると、歩き出そうとしたその足をピタリと止めた。


「そうそう、一つだけ…言い忘れていたことがありました」


 背を向けながら、首を動かして2人を見るユウ。

 静寂、もとゐ2人の思考を破ったその一言に、2人の意識が一瞬にしてそちらに向かうと、ユウはそっと言葉を続けた。


「一応、この街に住む()()()()は郊外の森に飛ばしてあります。この辺りではなさそうですが、森に住まう魔物にさえ襲われていなければ、全員無事なはずです。…最も、これをどう使うかは貴女達次第ですけど」


 真偽の判断は2人に委ねる、とでも言うように、淡々とそう語るユウ。

 何処かへ向かおうとする彼の後ろ姿を目に、スミレは何故かその理由を聞かなければいけない気がして、思考するよりも早く口から言葉が漏れ出した。


「この情報を僕達に渡して…君は、これから何をするつもりなんだ?」


 唐突なその疑問を前に、立ち止まるユウ。

 そうですね、という思案の言葉の後、ユウはその視線をそっと空へと向けると、納得したように口を開いた。


「…少しだけ、人に押し付けた玩具オモチャの後片付けを、ね」


 背を向けたまま、そう言い残して影に沈むユウのその姿。

 その言葉を語る間、終始顔も見えなかった2人には、何故か、ユウが笑っていたような、そんな気がしてならなかった。



ーーー



「なんだ、人工魔物コイツが戦ってると思えば、あのときの小僧共かよ…あの男、上手く逃げやがって…」


 コウスケとミリンが人型の人工魔物コンストラクト・モンスターと戦う中、不意に響いてきたそんな声。

 襲いくる人型(・・)の攻撃をすんでのところで交わした2人は、そのまま後方に下がるようにして距離をとると、声の聞こえた方へと視線を向けた。


「お前は、エイズ…ッ!」

「なんで、ここに…」


 屋根の上に立つ声の主(エイズ)を視界に捉え、反射的にそんな声を漏らす2人。

 そんな言葉の意図を余所に、エイズは着ていた白衣をなびかせながら人型(・・)の横に飛び降りると、何かを思いついたように口角を上げた。


「…久しぶりだなぁ?小僧。…どうだ?あれから()()()()()()を救えたのかぁ…?」

「…ッ!」

「ふっ…フハハハハッ!…いいねぇその顔ッ!…予定とは少し違うが…まぁいい、さァ…ホルマリン漬けにしてやるぜェ…」


 相変わらずの気色悪い笑みを浮かべながら、何処からか取り出した複数のメスを投げながら走り出すエイズ。

 一瞬言葉を詰まらせたコウスケは、飛び道具のように飛んできたメスを《ダークスレイヤー》で弾き返すと、迎え撃つように構え直した。


「ミリンッ!」

「えぇ、あっちの怪物・・は任せて!」


 コウスケの掛け声に同調するように、エイズと共に襲いくる人型(・・)の相手を引き受けたミリン。

 互いに干渉しないよう、距離をとるように人型(・・)を誘導させる彼女の動きを横目に、コウスケは肉薄したエイズの蹴りを受け止めると、受け身を取るようにして後方に退いた。


「オイ、オイオイ…どうした小僧?…ぁ?こんなんでへばってんのか?」

「…ッ!言わせておけば…ッ!」

「おぉ…いいねぇ、その目つき…これは楽しめそうだ…ッ!」


 コウスケを煽るように、終始笑いながら言葉を連ねるエイズ。

 不快すぎるふざけたその態度を前に、コウスケは魔法陣から《アベンジャー》を引き抜くと、2本の剣でエイズを斬りかかった。


「おっと危ない…危うく首を掻き切られるとこだったぜ」

「…ッ!貴様ァ…ッ!」


 のらりくらりとコウスケの攻撃をかわしながら、嘲笑うように口を開けるエイズ。

 そんな彼に乗せられるように、コウスケが感情のままに剣を振るも、単調になったその剣はただ虚空を切り裂くだけだった。


「そうだ、もっとッ…もっと感情的になれッ!…この俺を楽しませてみろッ!」

「ッ!誰がッ…貴様を楽しませるなんて──」


 エイズに反論しようとして、不意に頭に激痛が走ったコウスケ。

 久しく忘れていた、全身の毛が逆立つようなその感覚。

 攻撃の手を一瞬止めたコウスケの行動に、エイズは笑いを堪えられないといった様子で更に口角を上げると、ここぞとばかりにコウスケの腹を蹴り上げた。


「…ゥ…ァ…ッ」


 受け身をとる間もなく、後方の民家へと突き飛ばされたコウスケ。

 吐血しながらも、理性で気持ちを落ち着かせようとするその姿を目に、何を考えたのか、満面の笑みを浮かべたエイズはゆっくりとコウスケ歩み寄ると、その襟を掴んで頭を上げさせた。


「どうした?どこか具合でも悪いのかぁ?」

「…ッ…貴様、わかって言って──」

「ふっ…フハハハハッ!そんなもん、当たり前だろう?ほら、もっと抗ってみせろよ!」

「──ッ」


 コウスケの思考を落ち着かせる暇もなく、高揚した様子で、気色悪い笑みを並べながら叫び散らすエイズ。

 自らを襲う怒りと破壊衝動を前に、全身の痛みなど忘れ、冷静さを取り戻そうと奮闘するコウスケは、睨みつけていたその視線を目の前の男(エイズ)から、人型(・・)と交戦しているミリンへと移した。


「─ッ…貴様の、思い通りには…ッ」

「チッ…強情な小僧め…だが──」


 必死に自らを抑え、エイズに抗おうとするコウスケ。

 頑なに音を上げないその姿に、エイズはふとコウスケの視線の先に目を向けると、話をすり替えるように口を開けた。


「──お前が大好きなあの女が戦ってる人工魔物アレを作ったのはこの俺だ。…いくら貴様でも流石にわかるよなぁ~?人工魔物アレが、()()()()()()()くらい」

「…ッ!?─まさか貴様ッ」


 煽るようなエイズのその台詞に、言葉の意味がわかったように振り返るコウスケ。

 そんな彼の反応を目に、エイズは御明察といった様子で手を離すと、コウスケの身体を投げ捨てた。


「そうだよ!アレは複数の人族を合わせた人工魔物コンストラクト・モンスターッ!…前回お前らに倒された、最高傑作に続く傑作ッ!…ダークエルフの身体能力に、ドワーフの怪力ッ…そして獣人由来の驚異的な索敵能力ッ!…理性を徹底的に排除したアレにはいくらかの竜人といえど負けるはずがないッ!」

「…ッ」

「楽しかったぜぇ…?意識のある人族を解体して繋げるのはッ!泣き喚きながらも抵抗できないあの姿がッ!──どれをとっても最高だった…!」

「貴様ァッ!人の命を、一体何だと思って──」


 取り戻しかけていた冷静さを欠くように、反射的にそう叫んだコウスケ。

 エイズは、そんなコウスケの反応を待っていたかのようにニチャァと笑みを浮かべると、過去一はっきりとした声で言い放った。



 ──ただの、実験道具だ。



ーーー



 人っ子一人いない街中で、コウスケから離れ、人型(・・)と交戦していたミリン。

 絶え間なく襲いくる、3つの頭を持った人工魔物コンストラクト・モンスターは、まるでミリンの行動を読んでいるかのように、攻撃の回避先へとさらなる攻撃を繰り返していた。


「…ッ!何よ、コイツ…ッ!」


 距離をとろうとするミリンに次々と繰り出される、鈍器のような人型(・・)の拳。

 そんな隙きのない人型(・・)猛攻を前に、単純な動きでは読まれると悟ったミリンはすんでのところで攻撃をかわすと、翼を広げて宙へと舞い上がった。


『─────ッ!』


 空を飛ぶミリンを捉えたのか、不意に鼓膜を震わせた、人型(・・)の咆哮。

 幾度となく聞いたことのある、苦しむようなその()に、ミリンは眉をひそめると、薙刀を魔法陣へ投げ捨て、自身の身体からペンデュラムを引き抜いた。


「やっぱり、人工魔物コイツらって…」


 自分の考えをまとめるように、ポツリとそう呟くミリン。

 目の前の人型(・・)はしびれを切らしたのか、助走をつけるようにして地面を踏み込むと、驚異的な脚力で一瞬にしてミリンとの距離を殺した。


「な─ッ!」


 ミリンが理解するよりも早く、俊敏な動きで宙を舞う人型(・・)

 咄嗟に身を翻し、人型(・・)踵落としをかわしたミリンは、勢いのまま地面に落ちる人型(・・)にペンデュラムを向けると、流れるようにその首の1つを切り落とした。


「はぁ…やっぱり、これじゃ駄目か…」


 人型(・・)と距離を取りながら、予想通りといった様子で肩を落とすミリン。

 重力加速度に従って地面に落ちた人型(・・)は、一瞬にして切り落とされた断面から()()()()()と、ゆっくりと立ちあがった。


『──────ッ!』


 咆哮を上げながら、3つの頭をミリンへ向けた人型(・・)

 狙いを定めたような6つの瞳を前に、ミリンは一瞬背筋が凍るような感覚を覚えると、警戒するようにペンデュラムを構えた。


「なんて再生力…」


 ミリンの呟きを余所に、再び助走をつけようとする人型(・・)

 その場に停滞するように飛んでいたミリンは、覚悟を決めたように急降下をすると、その勢いのまま人型の身体を八つ裂きにした。


『─────ッ!』


 咆哮を上げながら、鮮血と共にバラバラに崩れ去る人型(・・)を目に、ホッとした様子でコウスケの方へと視線を戻そうとしたミリン。

 そんな彼女の思考も束の間、人型(・・)()()()()()は、バラバラになった自身の各部位を繋ぎ合わせると、一瞬にしてもとの人型(・・)へと再生した。


「もう、最悪…」


 平然と、五体満足な状態で立ち尽くす人型(・・)を前に漏れたミリンの声。

 再び襲いくる人型(・・)に、ミリンは再度ペンデュラムを振り回すと、もう一度人型(・・)を八つ裂きにした。


『───ッ!───ッ』


 さも当然もいった様子で、再び再生する人型(・・)

 防戦一方だった立場は逆転し、一方的に攻撃を繰り出すも、全く有効打とならない現状。

 何度も何度も、全身を斬られては再生を繰り返す目の前の光景を目に、ミリンが遂に疲弊し始めた瞬間、不意に久しく感じていなかった、嫌な胸騒ぎがミリンのその思考を支配した。


「…!コウスケ──ッ!」


 ─油断した。ほんの一瞬ミリンの頭に浮かんだその一言。

 ミリンの意識がコウスケへと逸れたその瞬間、それを好機と言わんばかりに襲ってきた人型(・・)

 瞬間的に、判断力が鈍っていたミリンは、突っ込んできた人型(・・)の踵落としを直接叩き込まれると、受け身を取る間もなく地面に叩きつけられた。


「ゥ…ァ…ッ…」


 衝撃と共に、グワンと揺れるその視界。

 はっきりとしない思考の中、ミリンは自身に回復魔法をかけると、離れそうになる意識を堪えるながら、その唇を噛む。


『──────ッ!────────!』


 鼓膜をビリビリと震わせる、人型(・・)の咆哮。

 ぼやけた視界の中、こちらに向かってきたそのシルエットは、ミリンに襲いかかる寸前、全身から何かを吹き出しながらその場で崩れ落ちた。


「──このタイプの人工魔物オモチャは、こうやって処分するんですよ」


 不意に耳に響いた、透き通るような高く美しい声。

 ミリンは急速にはっきりした意識で目を見開くと、視界に映り込んだ人物を前に口を開いた。


「ユウ…」


 綺麗に結わえた三編みをなびかせながら、ゆっくりと振り返ったその人物は、何処か呆れた様子で息を吐くと、不愉快そうに口を開けた。


「…気安く、私の名前を呼ばないでください」



ーーー



「おぉ…これが世界最強と呼ばれたあの竜人の()の形そのもの…!なんて美しい…!」


 実験道具と吐き捨てたエイズの言葉を境に、ピタリと動きを止めたコウスケ。

 突然その身体から漏れ出した、全身を覆う大量の『力』を前に、エイズは待っていたとばかりに光悦した表情を浮かべると、そんな声を漏らしていた。


『ヴゥゥゥゥゥ…』


 不意にコウスケの口から発せられた、苦しそうなうめき声。

 放出しては元の肉体へと戻るその『力』は、まるでマリオネットのようにその肉体を立ち上がらせると、コウスケの全身を化物のソレへと変貌させる。


『…フゥゥゥゥゥ…ヴゥゥ…』


 完全に自我と人の姿を失い、黒く禍々しい人型の()()となった『コウスケ』。

 まるで制御不能といった様子で、絶え間なく『力』を垂れ流すその圧倒的なまでのプレッシャーを前に、感極まったエイズは両目を見開くと、独り言のように自らに言葉を紡ぎ始めた。


「あぁ…ルイン様が欲しがるのもわかる、宿主の肉体すら作り変える圧倒的な『力』…!これを移植すれば、史上最高の傑作が作れそうだ…!」


 饒舌になりながら、舐め回すように『コウスケ』を視姦するエイズ。

 何かに持ち上げられるように顔を上げた『コウスケ』は、ちょろちょろと周りを動き回るエイズを視界に捉えると、まるで威嚇でもするかようにゆっくりと腰を低くした。


『アァァァァァァァァッ!』

「…ッ」


 不意に苦しむような奇声を上げ、目にも留まらぬ速さでエイズへと襲いかかった『コウスケ』。

 一瞬にして()()()()()()、エイズの右半身。

 理性もなく、獰猛な野生動物のような『コウスケ』を前に、エイズは一拍遅れて自身の身体を見ると、鮮血を吹き出しながら狂ったように笑いだした。


「ふっ…フハハハハッ!俺の身体とはいえ、こうも簡単に…!なんて素晴らしい力なんだ…!」

『ヴゥゥゥゥ…フゥゥゥゥゥ…ヴゥゥ…』

「さぁ、もっとだ…!もっとこの俺を楽しませてくれ…!」


 ──ガシャン、という音と共に、エイズによって地面に叩きつけられたられた瓶のようなもの。

 いつか見たようなその()から、甘い匂いを放つ白い煙が噴き出すと、『コウスケ』は一瞬苦しむように全身を捩らせると、大空を仰いで奇声を上げた。


『フゥゥゥ…ヴァァァァ───ッ!』


 立ち込める煙をかき消しながら、衝撃波のようにビリビリと周囲を震わせる声。

 その光景を前に、まるで植物の脇芽が生えるように、一瞬にして右半身を修復したエイズ。

 一通り叫び散らした『コウスケ』は、ゆらりと身体を揺らしながらエイズを捉えると、呼吸をするようにその足を踏み込んだ。


「──ッ!」

『ヴァァァァッ!』


 エイズが反応するより一瞬早く、風のように横を通り過ぎた『コウスケ』。

 完全に再生していたはずのエイズの身体は、『コウスケ』の動きから一拍遅れて木っ端微塵に崩れ去った。


『──アァァァァァァッ!』


 咆哮と共に、手に残ったエイズの肉片を握り潰す『コウスケ』。

 新たな標的を探すかのように、『コウスケ』が首を捻ろうとした瞬間、突然上空から宝石のような剣が飛んでくると、『コウスケ』の足元に突き刺さった。


「…全く、世話が焼けますね」

「あはは…たしかに、ね」


 不意に周囲に響いたユウとミリンの2つの声。

 そんなを警戒するように、その音源(・・)視線を向けた『コウスケ』は、視界に捉えた2人の影を前に、狙いを定めたように身体を向けると、先程と同じ要領で踏み込んだ。


『ヴゥゥ…アァァァァァァッ!』


 一瞬にして、2人との距離を殺した『コウスケ』。

 突き出された化物のその腕は、ミリンの首元に触れる寸前、前に出たユウによって掴まれた。


「この力、予想以上に危険ですね…やはり、あの時に殺しておくべきだったかもしれません」


 淡々と語りながら、軽々と『コウスケ』の身体を投げ飛ばすユウ。

 瞬きをする間もなく、次々と起きた目の前のその光景に、ミリンは一拍遅れて思考が追いついたのか、無表情で手をはたくユウの肩を慌てて掴んだ。


「ちょっと!?殺したりしないでよね!?」

「…大丈夫ですよ。私が約束(・・)を破るわけないじゃないですか。…それとも、敵である私をそんなに信用できませんかね」

「それは…」


 落ち着いたユウの一言に、言葉を詰まらせるミリン。

 その反応を予想していたのか、呆れたように聞こえるユウの溜息。

 そんな茶番のような、気の抜けたやり取りをする2人を余所に、身体を起き上がらせた『コウスケ』は、ユウを危険とみなしたのか、威嚇をするように腰を落とした。


『ヴゥゥゥゥ…ヴゥァァ…』

「…はぁ…しばらく私が相手をしてますから、貴女はさっさとその秘策(・・)とやらを決行してください」

「あ、うん…」


 再び助走をつける『コウスケ』を目に、何処か突き放すようにそう言うユウ。

 落ち着いた様子で次々と攻撃をいなすユウと、咆哮と共にとてつもない勢いで襲いかかる『コウスケ』。もはや一方的なまでのその勝負を前に、ミリンは懐から()()()()()を取り出すと、祈るように握り締めた。


「これがあれば、コウスケも…」


 ミリンの頭に反響する、「楽して逃げるなんて、端っから考えてねえ」というコウスケの言葉。

 しかし、その網膜に映る、苦しむような理性を失った化物コウスケを前に、ミリンはそんな思考を振り払うように頭を振ると、睨み付けるように『コウスケ』を視界に捉えた。


『アァァァァァァァァッ!』

「…ッ!単調な攻撃とはいえ…殺さずに無力化するというのは、流石に難しいですね…ッ!」


 次々に飛んでくる『コウスケ』の攻撃をかわしながら、その身体の節々にしっぺを食らわせるユウ。

 永遠と続いていそうな、そんな攻防の中、不意に『コウスケ』がバランスを崩したのか地面に膝をつくと、それを待っていたかのように、ユウは一気にその場を退いた。


「今ですッ!」


 周囲に響く、合図のようなユウの声。

 ミリンは、覚悟を決めたように化物コウスケに向かって走り出すと、紫色の宝石(セイゲンセキ)を『コウスケ』に押し付けた。



「お願い…戻ってきて、コウスケ…!」



 静寂に反響する、懇願するようなミリンの声。

 そんなミリンの願いが届いたのか、不意に光り輝く紫色の宝石(セイゲンセキ)

 それはまるで小さなブラックホールのように、『コウスケ』の身体から『力』を吸い取ると、役目を終えたようにその光を失った。


「…これが、貴女の言う秘策(・・)ですか」


 人の姿に戻ったコウスケを見ながら、呟くようにそう言うユウ。

 そんな言葉を余所に、ミリンは安堵したようにコウスケを抱きしめると、その胸に顔をうずめた。


「…ミ…リン…?」

「コウスケ…!よかった…本当に…」


 ぼーっとした意識の中、ゆっくりと薄目を開けながら、抱き返すように腕をまわすコウスケ。

 目の前のそんな光景に、ユウはそっと2人に背を向けた。


「ハジメ…?」 


 ぼやけた視界の中、ユウの後ろ姿にポツリと口を開くコウスケ。

 段々とはっきりしていく意識の中、その背中は不意に足を止めると、何処か忠告するように口を開けた。


「…約束(・・)、忘れないでくださいね」


 置き手紙のように、静かに残ったその言葉。

 再び歩きだしたその姿は、ゆっくりと影の中へと消えていった。



ーーー



 魔王城の一角。ペストによって部屋で休養をとっていたエボラは、自身の休んだことを直接説明するため、ルインがいるであろう部屋へと向かっていた。


「ペストのことだ、流石にルイン様に伝えているとは思うが…」


 ブツブツと自身に言い聞かせるように呟くエボラ。

 急ぎ足のまま、エボラが目的の部屋の前へと到着した瞬間、不意に中から聞こえた怒鳴るような声に、エボラは取手を掴みかけたその手を止めた。


「ルイン様…?一体、何に怒鳴って…」


 内なる興味本位からか、息を潜め、扉に耳を当てるエボラ。

 一瞬しんとなった室内からは、ガシャンという何かが割れるような音が聞こえると、それに続くように荒々しいルインの声が漏れ出した。


「──ふざけるなッ!俺は…俺はただ、()()()がいればそれで…ッ!───…だとしたら、貴様は──」


 普段とは異なる、感情のまま誰かに抗議するようなルインの声。

 扉からそっと耳を離したエボラは、そこによりかかるように身体を預けると、無言のまま、静かにその口角を上げてみせた。

 

 魔王ルインに…一体なにが…


 24章、いかがでしたか?

 思った以上に長くなって、多分私が1番驚いております。

 また、関係の無い街がめちゃくちゃにされたけど…まぁ、悪いのは大体エイズだし、別にいいよね!(よくない)


 さて、次回は25章!

 今回の戦いで紫色の宝石(セイゲンセキ)によって『力』を失ったコウスケ。一方、魔王城に戻ったユウ達のもとにはとある方から連絡が届いていて…


 次回もまた、首を長くして待っていただければ幸いです。

 


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