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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第4部.裏切りの連鎖
77/112

交差する思惑

「カズヤ兄さん、よかったのか?…さっきのあの嬢ちゃん、この前一悶着あったんだろ?…なのに、あんなにあっさり了承して…」


 誰もいなくなった店内で、椅子に座ってるカズヤに毒づくような口調でそう言うガウラ。

 しばらくの沈黙を挟み、カズヤはそっと立ち上がると、ガウラの方へと視線を向けた。


「…あの嬢ちゃんの目は本気だった。ただ、それだけだ」

「でも…」

「嬢ちゃんが自分なりに答えを出したんだ。…だから、俺達大人がそれをとやかく言う必要はない」


 目を逸らさず、キッパリと言い切ったカズヤ。

 彼のそんな表情を前に、ガウラは「カズヤ兄さんらしいや」と呟くと、呆れたように息を吐いた。


「…それで、どうせカズヤ兄さんのことだから何かしら仕掛けてあるんでしょ?」

「…いや、今回に至っては何もしていない。…あの嬢ちゃんが自壊(・・)するか…はたまた覚醒(・・)するか、それは彼女次第だ」


 何処か期待するように、口元を歪めながらそう言うカズヤ。

 ガウラは、再び大きく息を吐くと、カズヤに渡されたスマホ(・・・)へと手を伸ばした。



ーーー



「へぇ…じゃあ、今回はその、不思議な力(・・・・・)()()()()()、とやらの情報を探しに来たのね」

「えぇ、そうなりますね」


 ダイバーシティの一角。

 騒いでいた民衆に紛れ、追っ手を撒いたユウとアネモネは、他愛もない談笑をしながら、街の経営する巨大な図書館へと訪れていた。


「多種多様な民族種族によって形成された、王国に並ぶ巨大国家。…様々な情報が集まるここなら、私の探している情報の一欠片くらいはあると思います」


 大量に並ぶ本棚の間を歩きながら、無心(・・)で呟くユウのその言葉に、何を考えるでもなく、ただその後ろに付いていたアネモネは、壁のように埋め尽くされた本へと視線を向けた。


「信じがたい話ね…王宮にいたときは、そんな話聞いたことも無かったのに…」

「王宮…?」

「ぁ…いや、なんでもないわ」

「…そう、ですか」


 アネモネの一言に、疑う感情と共に、無理矢理自分を納得させようとするユウ。

 断片的に、彼女(・・)のその感情が流れ込んできたアネモネは、謂れのない罪悪感に襲われると、そっと視界に映っていた彼女(・・)から視線を逸した。


「その…なんかごめんなさい…」

「あ、いえ…別に、私も似たような者なので」


 後ろめたさと共に放たれたその言葉に、思わず顔へと視線を戻したアネモネ。

 明後日の方向をみていたユウは、何かを察したように動かしていたその足を止めると、アネモネの身体を隠すようにその腕を広げた。


「…貴方、一体何の用ですか」


 静かな図書館に響き渡る、ドスな効いたユウの声。

 不意にコツコツと反響する誰かの足音。

 得体の知れない恐怖に襲われたアネモネが、目の前に立つユウの服の裾を握りしめると、近付いてきたその音がピタリと止まった。


「まさか、ここまで気配を消したのに気付くとはな…」

「今はこちらが質問している番です。さっさと答えなさい…エイズ(・・・)


 冷たいユウのその口調に、何処かから聞こえる諦めたような溜息。

 2人がその場に立ち止まっていると、本棚の物陰から謎の機械コントローラのようなものを持ったエイズが現れた。


「理由なんて、それはもちろん、貴様に会うために決まってるだろう?」

「…」

「ここしばらく遊べなかったんだ…()()()()()()()()()共々、相手してくれるよなァ…?」

「…チッ」


 ニチャァと笑うエイズに、反射的に舌打ちをしたユウ。

 頭に流れ込んできたエイズのその()に、アネモネは背筋が凍るような感覚を覚えると、掴んでいた手をより強く握りしめた。



ーーー



 受付嬢に案内されるまま、ギルドの裏にある火葬場へとやってきたペストとヤナギ。

 中に入った2人は、床一面に置かれた棺桶を目にすると、受付嬢へと視線を向けた。


「…ここにある遺体は全て、私達が死神(・・)と呼ぶ存在に殺された者達です。…ここ数日、彼等のような死神(・・)に殺された人達が増加していて…貴女達の足元にあるその遺体の方も、昨夜は仲間と一緒にギルドで呑んでいました」


 淡々とそう言いながら、棺桶の中に眠っている、首と胴が皮一枚で繋がった死体を指差す受付嬢。

 彼女のその顔は既に疲弊しきっていて、軽口で済ませられるような状態ではなかったことを物語っていた。


「…私は、貴女達が求めている死神(・・)が何者かはわかりません。…ですが、この情報が少しでも貴女達に役だ──」


 そこまで言いかけて、突然崩れ落ちるように倒れる受付嬢。

 その光景を目の当たりにした2人は、しばらく唖然と立ち尽くしていると、理解が追いついたように声を上げた。


「だ、大丈夫ですか!?」

「待ってヤナギ!その死に方は──」


 駆け寄ろうとしたヤナギを静止するように、慌てて声を張り上げたペスト。

 ヤナギが受付嬢の身体に触れようとした瞬間、不意に何処からか刃が現れると、まるでその進行を阻むようにその首元に触れた。


「…ッ!?」


 全身から嫌な汗が吹き出る中、咄嗟に後方に退いたヤナギ。

 幸いにも首元は切れておらず、傷一つ付いていなかった。


「…でたわね、死神(・・)


 ポツリと呟いたペストの一言。

 ヤナギがそっと顔を見上げると、巨大な鎌を持ち、黒い布を身にまとった人型の『何か』がそこに立っていた。


「…この場合、『お久しぶりです』と言ったほうが正しいのかな…?」


 不意に死神と呼ばれた『何か』から聞こえた、変声機越しのようなノイズがかった低い声。

 そんな疑問符を浮かべるような死神のその口調を前に、ペストは奥歯を噛みしめると、流れるようにナイフを振りかぶった。


「おぉ…まさか、いきなり攻撃されるとは…」

「…チッ」


 驚いたような声を上げる死神(・・)を目に、苛立ちを隠すこともなく、ただただ睨みつけるペスト。

 確かに首元を捉えたはずの、彼女が放った先刻の一撃は、何故か死神(・・)を掠めることすらなく、何もない虚空を切り裂いていた。


「危ないですよ。戦意のない相手をいきなり攻撃を仕掛けるなんて」

「…チッ…どの口が言って…ッ!」

「えっと…確か()()()()()、だっけ?…貴女がどう思うかは勝手だけど、私達(・・)は貴女のお仲間が作った失敗作の後始末をしているだけだから。それだけは勘違いしないようにね」


 口を開く隙も与えず、一方的に語り、その場から消えていった死神(・・)

 静かに流れる沈黙の中、目の前に起きたそのやり取りをただ唖然とみていたヤナギは、ふと我に返ったように瞬きをすると、ペストの方へと視線を向けた。


「失敗作、ね…」

「ペスト様…?」


 何処か呆れたように、ポツリと呟くペスト。

 心配そうに顔を向けるヤナギを前に、彼女はその思考を振り払うように頭を掻きむしると、一息吐いてから口を開いた。


「…とりあえず、あたし達はあの娘の合流しましょ。…後のことはきっと、あの娘がなんとかしてくれるはずだから」

「た、他人任せな…」

「別にいいのよ。…今は、ね」



ーーー



『──と、いうわけだ。虐殺の女神本人かはわからないが、アネモネと一緒にいるはずの女は相当手練れらしいから、十分に気をつけてくれ』


 スズナとライムを乗せたカズヤのワイバーンに先導されながら、ダイバーシティへと向かって空を飛ぶコウスケ達。

 遅れてきたスミレが合流するや否や、コウスケのスマホ(・・・)から聞こえてきたガウラの言葉に、5人は理解したように顔を見合わせると、再び視線を前へと戻した。


「虐殺の女神に似てる、ね…会ったことも無いくせによく言うよ」


 通話が切れた直後、吐き捨てるようにそう呟いたスミレ。

 共感するように頷くスズナとライムを横目に、コウスケは一瞬考えるような動作をとると、自分に言い聞かせるように口を開いた。


「仮に、その女性が本当にユウさん本人だったとして…俺には、あのユウさんが理由もなく人を殺すとは思えないんだよな…」


 空気を切る音と共に、抜けていったコウスケのその言葉。

 ミリンとスミレがそれに反応しようとした瞬間、不意に先頭を飛んでいたワイバーンが何かを見つけたように咆哮を上げた。


「な、何…!?」

「あ、姐さん…?これって…」


 自分達の乗っていたワイバーンの唐突なその行動に、驚いた様子で声を出すスズナとライム。

 話を振られたスミレは、自身の乗っているワイバーンをその隣に並走させると、前方を見ながら口を開いた。


「安心して2人共。…ほら、目的地が見えてきただけだから」


 そう言いながら、ワイバーン達の向かう方向を指差したスミレ。


「あれが、他種族国家『ダイバーシティ』…」

「ウワサ以上に大きな街ですね…」


 目先に映り込みだした巨大都市に、感嘆の声を上げるスズナとライム。

 そんな2人に続くように、コウスケとミリンが前を見た瞬間、不意に街の中心に上がった黒煙に少し遅れて、爆音がコウスケ達の鼓膜を震わせた。



ーーー



「チッ…これでは、資料も集まりませんね…」


 瓦礫だらけの周囲を眺めながら、怒気を孕んだ声で吐き捨てるユウ。

 背中にしがみつき、その後ろに隠れていたアネモネは、一瞬にして崩れ去った図書館の光景を目に、理解出来ずに硬直していた。


「ふっ…フハハハハッ!…その悔しそうな表情、最高だねッ!…エボラとペストのいない今、力を制御された貴様など虫ケラ同然…ッ!ルイン様には悪いが、この前の落とし前は付けさせてくれるわ…ッ!」


 不気味なほどに顔面を歪ませ、叫び立てるエイズ。

 唐突なその勝利宣言に、意味不明といった表情を浮かべたユウは、再び周囲を一瞥すると、何処か呆れたように息を吐いた。


「私には、貴方の言う『この前』とはなんのことだかわかりませんが…勝手な行動をして足並みを乱すことだけは謹んでください」

「チッ…利用されてるだけのクセにこの俺に説教だと…?相変わらず忌々しい奴め…ッ!」


 ユウの言葉を挑発と捉えたのか、吐き捨てるようにそう言うエイズ。

 次々と流れ込んでくるエイズの()を前に、アネモネはふらつく感覚を必死に堪えると、すがるような思いでユウの服を引っ張った。


「ユウ…」

「アネモネ…?」

「あの男は異常です…逃げられるなら、今すぐにでも逃げたほうが…」


 エイズに怯えるように、必死に声を出すアネモネ。

 そんな彼女とは対象的に、依然として冷静な表情を崩さないユウを目に、エイズは一瞬険しい顔を浮かべると、思いついたように口元を歪ませた。


「ハッ…そんなに俺には興味無いってか?」

「…えぇ、少なくとも、いなくても問題無いくらいには」

「…チッ…あぁそうかい…だが、貴様が余裕ぶってられるのも今のうちだぜ…ッ!」


 言葉の意図を把握出来ずに固まるユウを相手に、自信げに声を上げたエイズ。

 再び、アネモネの頭に流れ込むエイズのその()

 アネモネがユウにリアクションを取ろうとした瞬間、エイズが持っていた謎の機械コントローラのようなものを破壊した。


「…ッ!ユウ…!」


 エイズ(・・・)の策略(・・・)に慌てて声を上げるアネモネ。

 それとほとんど同じタイミングで、2人の足元から頭の3つある、人型の何かがユウに襲いかかった。


「…獣人にダークエルフにドワーフ…そして核にトレント、ですか。…相変わらず気色悪い人工魔物(オモチャ)ですね」


 宝石のような剣を片手に、飛びかかってきた何かを流れるように一刀両断しながらそう吐き捨てるユウ。

 唖然として固まっているアネモネを横目に、ユウは目の前で急速に再生している人工魔物と、刃こぼれした宝石のような剣を見比べると、残念そうに息を吐いた。


「やはり、即席の鉱石剣では一撃が限界ですか…」


 納得したようにそう呟き、人工魔物に向かってその剣を突き刺すユウ。

 アネモネの頭に流れ込んでくる、ユウの焦りの感情。

 何処か悔しげに地団駄を踏むエイズを横目に、ユウは大袈裟に振り返ると、お姫様抱っこをするようにアネモネの身体を抱き上げた。


「ゆ、ユウ…?」

「すみません、アネモネ。少しだけ、辛抱してくださいね」


 人工魔物が再生し終えるより一瞬早く、アネモネを抱えたまま後方へと退くユウ。

 完全に再生した人工魔物は、そんなユウ達の姿を捉えると、瓦礫の山を破壊しながらそれを追うように動き出した。


「クソッ…この機を逃してたまるか…ッ!」


 逃走を開始するユウのその姿を目に、唇を噛み締めながらそう言うエイズ。

 一瞬だけ振り返った、何処か挑発するようなユウのその態度に、たまらず殴り込みにいこうとエイズが身体を動かしたその瞬間、いつの間に設置されていたのか、無数の糸がその身体に引っかかると、蜘蛛の巣にかかった虫のようにエイズを締め上げた。


「…ッ!?ふざけんな…ッ!あのクソガキがァァァァッ!」



ーーー



「…ハジメ(・・・)?…いや、あれは…」


 周囲に黒煙が立ち込める中、前方に見える人影に、ポツリと呟いたコウスケ。

 ダイバーシティに到着したコウスケ達一行は、連絡のあった護衛(・・)達と合流すると、アネモネを捜索すべく、手分けして爆音の轟く街中を走り回っていた。


「コウスケ…?」

「あ、いや…さっきあの先に知り合いによく似た人が…」

「やっぱり、疲れてるんじゃ…」

「いや、そんなことは…」


 心配するようなミリンの言葉に、自信無くそう返すコウスケ。

 そうして2人が立ち止まっていると、不意に共に街中を駆けていた護衛(・・)の青年が何かを思い出したように口を挟んだ。


「あの、今回は私達の厄介事に巻き込んでしまい、すみません」

「いや、別に…俺達も元々別件でここに来る予定だったし、あんまり気にする必要もないと思うけど」

「いえ…!そ、そんなことはありません…今回の一件、姫様を見失った私達にも責任がありますので…」


 段々と声を細めながら、弱々しくそう語る青年。

 そんな青年の言葉に、コウスケとミリンが互いの顔を見合わせた瞬間、突然周囲を纏っていた黒煙の中から何かが飛び出すと、一瞬にして青年の頭を吹き飛ばした。


「ぇ…?」

「何が、起きて…」


 バタリと倒れる青年の胴体を足元に、唐突に現れた、頭の3つある人型の何か。

 2人が固まった次の瞬間、その人型(・・)は大きく振りかぶると、大きく膨張した腕を2人に振り回した。


「…ッ!?」

「…重…ッ」


 咄嗟に武器を取り出し、すんでのところで攻撃を防いだコウスケとミリン。

 しかし、人型(・・)の攻撃の威力を殺しきれなかったのか、2人の身体は黒煙を引き裂きながら後方へ飛ばされると、背後に建っていた民家の壁に激突した。


「コウスケ、大丈夫…?」

「あぁ…咄嗟に、反転重力アンチ・グラビティで衝撃を抑えたからなんとか…」


 そんな言葉を交わしながら、地面に降り立った2人。

 煙が晴れ始める中、人型(・・)3つの頭をそれぞれ動かすと、コウスケ達捉えたのか、苦しむような咆哮を上げた。


「コウスケ、あれってやっぱり…」

人工魔物コンストラクト・モンスター…だな。…それも、魔物同士の組み合わせじゃなく、人族同士のやつ」


 人型(・・)の全容を把握し、何処か悔しげに声を漏らすコウスケ。

 本能的なものなのか、ゆっくりと近付いてくる人型(・・)のその姿に、コウスケは《ダークスレイヤー》、ミリンは引き抜いたペンデュラムをそれぞれ構えると、その姿勢を低くした。




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