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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第4部.彼らの後を追いかけて
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スミレ

「アタシは…ッ!今までずっと、姐さんに憧れてた…ッ!尊敬もしていた…ッ!それなのに…こんなのってあんまりだ…ッ!」


 感情に任せるように、次々と槍を前に突き出すライム。

 ジフテリアは、そんなライムの一撃一撃を的確に弾き返すと、何処か残念そうな表情をした。


「また、単調な動き…こんなの、面白くないわ」


 つまらなそうに、そう呟くジフテリア。

 そんな言葉が口から漏れた瞬間、ライムが突き出した槍は、ジフテリアの槍によって弾き飛ばされると、音を立てながらジフテリアの後方に突き刺さった。


「…ッ」


 その光景を横目に、咄嗟に受け身を取ったライム。

 そんな次の瞬間、不意に槍を地面に突き刺したジフテリアはそれを軸にするように身体を捻ると、その勢いに任せるように、強烈な後ろ蹴りをライムにお見舞いした。


「…ッ…ァ…」


 砂埃を立てながら、後方へと飛ばされるライム。

 槍から手を離したジフテリアは、その埃を払うように自らの身体をはたくと、地面に倒れ込んだライムへと視線を向けた。


「…ライムさん。私は今、非常に貴女に失望しています」

「…どういう、ことだ…ッ…」


 拳を握り締め、うつ伏せのままジフテリアを睨み付けるライム。

 ジフテリアは一瞬、呆れたように溜息を吐くと、地面に突き刺さったライムの槍を引き抜いた。


「…今の貴女と戦っても、何も得られないということですよ。同じ槍使いとして、貴女のように強い人族は初めてなのでね、期待していたのですが…どうやら見当外れだったようです」

「…なんだと…ッ!」

「あんな甘い動きでは、私は疎か魔王軍の下っ端にすら敵いませんよ」

「…ッ!」


 つまらなそうにそう言いながら、ライムの槍を投げ捨てるジフテリア。

 カランと音を立てながら地面に転がったその槍は、ライムの手元に来るとその勢いを止めた。


「…どうやら時間切れのようですね」

「…時間、切れ…?」

「えぇ、私の役目は貴女達の足止めなので。私の任務はこれで終わりです」


 倒れ込むライムに背を向け、何処か突き放すようにそう言ったジフテリア。

 朦朧としたライムの視界の中、そんなジフテリアは不意に思い出したように足止めると、地面に突き刺していた自身の槍を引き抜いた。


「…あ、そうでした。一つ言い忘れていましたが…あの時、エボラ様から貴女達を庇おうとした彼女の姿…あの行動はきっと、嘘ではないと思いますよ。…まぁ、私には関係ありませんが」


 まるで置き土産のようにそう言い残したジフテリア。

 ライムはそんなジフテリアの後ろ姿を眺めながら、力尽きたようにそっと意識を手放した。




「スズナ、危ないッ!」


 そんな声と共に、振り回された男の大剣を避けるようにスズナを突き飛ばしたスミレ。

 切られた体毛がひらひらと宙を舞う中、スミレはその足で大剣を持つ男の手を蹴り飛ばすと、四つん這いになりながら男を睨み付けた。


「…僕を狙うのは別にいいさ。…でもね、いくら君とはいえ、スズナ(彼女)達を傷付けることは許さないよ」

「…」


 2人と対峙するように、無言のまま再び大剣を構え直す男。

 何処か苦しい表情を浮かべたスミレは、男とスズナを交互に見つめると、威嚇するようにその姿勢を低くした。


「…エボラ様に逆らう者は、この我が排除する」


 鎧越しに、微かに聞こえた男の篭った声。

 そんな声を前に固まるスズナと対照的に、スミレはやっぱりといった様子で舌打ちをした。



ーーー



「ハアァァァ…ッ!」


 ユウがペンデュラムでミリンの薙刀をあしらう中、銀色の翼を広げ声を上げながら肉薄したコウスケ。

 手に持った2本の剣がユウの身体に近付いた瞬間、不意にスカートの中からチラついていた尻尾が振り回されると、コウスケの左腹を抉るようにしてその身体を突き飛ばした。


「…ぁ…っ…」

「…!コウスk─」

「よそ見を、するなァッ!」


 吐血するコウスケの姿を前に、声を上げようとしたミリン。

 ユウはミリンが一瞬目を逸らした瞬間、叫ぶ隙きを無くすようにペンデュラムを振り抜くと、その勢いのままミリンの身体を地面に叩きつけた。


「…ァハ…ッ…」


 気絶したように、炭の中で動きを止めたミリン。

 ミリンの元に降り立ったユウを目に、コウスケは火傷だらけの身体でヨロヨロと立ち上がると、その煤を払うように銀色の翼をはためかせた。


「…やめろ、ユウさん…ッ!」

「へぇ…貴方、まだ起き上がれたんですか」

「…ミリンには…手出し、するな…ッ!」


 火の粉を撒き散らしながら、軋む身体を動かし、ユウに向かって走り出すコウスケ。

 そんなコウスケを迎え撃とうと、ユウがペンデュラムを振り回そうとした瞬間、不意にそのペンデュラムは何かに引っかかるように動きを止めると、ユウのその足を止めさせた。


「…そうは、させない…ッ!」


 朧気な意識の中、ユウに向かって自らのペンデュラムを伸ばしていたミリン。

 絡まった2つのペンデュラムは、ギチギチと音を立てながら、死んだようにその動きを止めた。


「…チッ…面倒くさいことを…!」


 ミリンの行動に、反射的にそう吐き捨てるユウ。そんな一瞬の隙きを狙うように、翼をはためかせながらユウに飛びかかるコウスケ。

 突然のその行動を前に、ユウは咄嗟に右手で掴んでいたペンデュラムを離すと、スカートを翻しながら、身体を大きく捻ってコウスケの腹を蹴り飛ばした。


「…ァ…」


 火の粉を撒き散らしながら、再び地面に突き飛ばされるコウスケ。

 ミリンから興味を移し、ゆっくりと歩いてくるユウの姿を前に、コウスケは唇を噛み締めながら、火傷だらけのその両手を握り締めた。


(…今の俺じゃ、ユウさんの…足元にも及ばない。…もっと、もっと俺に、力があれば──)



『──3回だ。この状態となった我がソレを抑えこめるよはおそらくそれで限界だ。汝はそれまでにその力を己がものにしてみせろ』


 近付くユウを前に、不意に頭に過ぎった霊竜の言葉。

 コウスケはゆっくりと顔を上げると、握り締めた自身の右手をそっと広げてみせた。


(…もう、この力は2回使った。…でも、この力なら──)


 覚悟を決めたように、再び拳を握ったコウスケは、その拳を前に突き出すと、口元を緩めながらそっと口を開いた。



『〈解放〉───』



ーーー



「…ッ!」


 固まるスズナを庇いながら、男の攻撃を避け続けていたスミレ。

 しかし、そんな抵抗も虚しく男の無駄の無い動きは確実にスミレの体力を消耗させていた。


「…」

「…ァ…」


 不意に飛んできた男の回し蹴り。

 直前に受けた剣撃をかわしたスミレは、その予想外の攻撃に対応できずにいると、その腹部を抉られるようにしながら後方へと弾き飛ばされた。


「お姉様!?」


 硬直が解けたのか、そう叫びながらスミレに駆け寄ろうとしたスズナ。

 スミレは男を一瞥すると、スズナを睨み付けるようにしながらヨロヨロと立ち上がった。


「…来るな、スズナ…君はこんな僕を置いてさっさと逃げてくれ…!」

「でも!それではお姉様が…!」

「僕よこの姿を見てもわからないのか!?僕は見ての通り魔物なんだ!君達を騙して近付いていたんだ…!僕は…僕は、君に心配されるような資格は、無い…ッ!」


 獣のように、牙を剥き出しながらそう叫ぶスミレ。

 その返答に迷うように足を止めたスズナは、そんな醜い姿のスミレと大剣を引きずりながら歩いてくる男を交互に見ると、覚悟を決めたように2つの間に割って入った。


「スズナ!?なんで…!?」

「…貴女が何者であれ、わたくしにとって…貴女が、お姉様であることに変わりはありません…!」


 そう叫びながら前に出るスズナに、言葉詰まらせるスミレ。

 男はそんな2人の会話など気にも止めず、前に出たスズナに向かってその禍々しい大剣を振り下ろし──



「はいはい、そこまでよ」



 不意に聞こえたそんな声と共に、スズナの顔スレスレのところでピタリと止まった男の大剣。

 男はそのまま、剣を下ろして後ろに下がると、ゆっくりと声の聞こえた方向へとその視線を向けた。


「マラリア様…!?」


 驚いた様子で声を上げたスミレ。

 2人が男に釣られるように動かしたその視線の先には、何処か可笑しそうに口元を歪め、腕を組んだマラリアの姿あった。


「貴方の仕事はこれでお終い。さっさとエボラのとこに戻りなさいな」

「…」


 促すようなその言葉に、無言のまま静かにその場を後にする男。

 マラリアは暫くその背中を見送ると、やれやれといった様子で息を吐いた。


「マラリア様、どうして──」

「あたしが貴女達を助けたか、ってこと?」

「…はい」


 スミレの言葉を途中で切り、まるで知っていたかのようにそう言うマラリア。

 頷くスミレと立ち尽くすスズナを前に、マラリアは組んでいた腕を解くと、右手を出して人差し指を立ててみせた。


「貴女達が死んだら面白くなくなっちゃうから、かな。別にエボラの任務が達成できなかった訳じゃないし、あたしがただ、好きにやっただけよ」

「そう…ですか…」

「そう、こういうのことは面白くなくっちゃ意味ないからね!それじゃ、お姉さんはここで失礼させてもらうわ」


 何処か能天気に笑いながら、空気に溶けていくマラリア。

 口を挟んだスミレと対照的に、スズナは突風のように現れては消えていった彼女のその姿に、ただ呆然と立ち尽くしていた。

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