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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第4部.彼らの後を追いかけて
68/112

向かった先に

「─もし、あの帝国から向かうならこの道を真っ直ぐ通ってるはずだ。…一応、ワイバーン(コイツ)には場所を教えてある」


 そう言って隣にいるワイバーンの頭を叩くカズヤ。

 店の外へと出たコウスケ達5人は、カズヤの用意したワイバーンを前に顔を見合わせた。


「おっちゃん、このワイバーンってもしかして…」

「あぁ、いつかあんちゃん達と一緒に闇の街(トレーター)に飛んでったヤツだ。嬢ちゃんの召喚獣ワイバーンには悪いが、今回はワイバーン(コイツ)に乗っていってもらいたい」


 カズヤの言葉に黙ってワイバーンを見つめるスミレ。

 スズナとライムが不思議そうにその様子を見つめる中、不意にワイバーンがその頭を下げると、それに答えるようにスミレはその額をそっと手を当てた。


「…よろしくね」


 ポツリと呟くスミレにコクリと頷くワイバーン。

 カズヤはそんなスミレ達の行動に頬を緩ませると、意識を向けさせるようにパンッと手を叩いた。


「そんじゃ、任せたぞ!あんちゃん達!」


 カズヤの声に力強く頷いた5人。

 スミレ、スズナ、ライムの3人がワイバーンに跨がると、不意に翼を広げようとしたコウスケの服の裾を先程まで黙っていた少女・・が掴んできた。


『…』


 何かを訴えように視線を向ける少女を前に、コウスケはそっとその肩に手を置くと、視線をカズヤへと戻した。


「…おっちゃん、この娘の事は頼みます」

「おう、あんちゃんも気を付けてな」


 察したようにそう言うカズヤ。

 コウスケはそっと少女の肩から手を離すと、カズヤから貰った小さな箱(キューブ)握り潰して銀色の翼を展開した。


「…それじゃあ、行ってきます」


 コウスケの声に合わせるように、翼をはためかせるワイバーン。

 コウスケとミリンも翼を広げると、先導するワイバーンを追うように空へと飛び立った。




 コウスケ達が見えなくなった頃、見送っていたカズヤは店のレジにある椅子に腰掛けると、まるでそれを真似するように空いていた椅子にちょこんと椅子に座った少女。

 カズヤはしばらくの間客の対応に追われると、一段落付いたのか、不意に少女のほうへと視線を向けた。


「…それで、あんたの目的はなんなんだ?悪魔の嬢ちゃん」


 カズヤの言葉に目を見開いた少女。

 カズヤはそっとその視線を少女から離すと、何をするでも無く自身の手元を見つめなおした。


『…いつから、気付いていたの?』


 何処か怯えたように口を開く少女。

 カズヤは再び視線を少女に戻すと、浅い溜息を吐いてから口を開いた。

「最初からだ。…俺はこれでも一応、元竜王だからな」


『でも、どうして…』

「確かに悪魔(あんたら)(俺達)は敵対関係だ。…だが、あんたからは殺意を微塵も感じなかったからな。敵対する必要の無い、何か別の目的があるってことだろう?」


 そう言って、頬杖をつくカズヤ。

 少女はそんなカズヤの言葉にそっと肩の力を抜くと、何処か観念したような様子でカズヤから視線をそらした。


『…私の目的は、この世界のを知ること。人の身でありながら、強大な力を持つあの少年と、何故か再び存在している竜人がこの世界に何をもたらすのか、それを見極めること』

「…そうか」


 独り言のように語る少女を前に、カズヤは一言そう呟くと、そっと立ち上がって少女から視線を外した。


「それは、お前自身の目でしっかり確かめてくるといいさ。…この先の未来を決めるのは俺達じゃない、息子達(あいつら)だからな」


 そう言って店の奥へと入っていくカズヤ。

 少女はしばらくその背中を見つめると、何かを決めたようにそっと立ち上がった。



ーーー



「コウスケ!スミレ!一旦止まって!」


 ワイバーンに先導されながら、災いの森の外れにある街道上空を飛んでいたコウスケ達。

 その移動速度のせいか、周囲に乾燥した砂が舞い上がる中、不意に地上を見ていたミリンがそんな声を上げると、前を飛んでいたコウスケとワイバーンはそっとその速度を落とした。


「どうしたんだい、ミリン?」


 上空で静止するワイバーンに跨がりながら、不思議そうに声をかけるスミレ。

 ミリンは下を向いていた顔をそっとスミレの方へと向けると、下を指さしながら口を開いた。


「アレって…きっと何かあったんじゃない…?」

「アレ…?」


 ミリンに促されるようにワイバーンの上から下を見下ろすスミレ達。

 スミレ、スズナ、ライムの3人が何を指差されているのか理解できていない中、不意に視界の端にソレが映り込んだコウスケは、そっと口元を抑えるとその視線をミリンの方へと戻した。


「ミリン、あれって…あの死体の事、だよな…?」


 コウスケの声にコクリと頷くミリン。

 そんな2人の反応に、何があるのかを理解したスミレ達は、一瞬複雑そうな表情をすると、そっとワイバーンを街道の上へと着地させた。


「…これは、ハーピィの雄ですね。基本的には人は襲わない魔物の1種ですが…死因としてはこの糸で絞めつけられたのが原因なんですけど、それにしては出血箇所が多すぎますし…一体何故このようなことに…」


 ワイバーンから降り、コウスケ達の見ていた死体の方へと歩み寄ったスズナ。

 コウスケ達が見つめる中、スズナは赤く染まった糸(・・・・・・・)に締め付けられている死体を観察すると、呟くようにそう言った。


「…ねぇ、コウスケ」

「ん?どうしたミリン…?」

「この死に方って、どこかで見たことあると思わない…?」


 遠目に死体を見ながら、コウスケに声をかけたミリン。

 コウスケは一瞬首を傾げると、スズナに代わるように死体を見つめ直した。


「…全身からの多量出血…確か、この前のアラクネもそうだったような…」


 

「─秘術、〈デッド・プレイバック〉か…」



 コウスケの独り言に続くように、ポツリと呟いたスミレ。

 スズナとライムは何を言っているのかわからないといった様子で首を傾げると、コウスケとミリンは思い出したようにその顔を上げた。


「確かに、それならこの状態なのも説明がつくな…」

「でもスミレ、どうして貴女がソレを…?」


 納得したようにうんうんと頷くコウスケを横に、そう聞き返したミリン。

 スミレは2人がソレ(・・)を見たような口ぶりが意外だったのか、一瞬驚く表情を見せると、説明するように再び口を開いた。


「まだ学園に入る前、聞いたことがある。確か、何処かの種族の長が使ったとされる秘術…これを発動した状態である条件を満たして相手を殺すと、殺した相手の知識や能力、魔力を奪って自分のものにする…という魔法だったはず。…そんな強力な魔法、もちろん何処にも乗ってなかったし、僕はただの都市伝説だと思ってたんだけど…」


 何処か自信のない様子でそう語るスミレ。

 そんな話を前に、コウスケとミリンお互いの顔を見合わせると、まるで同じことを考えていたようにコクリと頷いた。


「…スミレさん、ここは一旦俺達に任せてくれないか?」

「え…?」

「わたし達の考えが正しければ、もしかしたらまだこの近くにこの魔法を使った本人がいるかもしれないしね。一度、わたしとコウスケでこの辺を確認してみようと思うんだけど…」


 コウスケとミリンのその言葉に意味不明といった様子で眉をひそめるスミレ。

 そんなスミレとは対照的に、2人の意図をなんとなく汲み取ったスズナとライムは、それを止めようと口を開けようとしたスミレの肩にポンと手をおいた。


「姐さん、ここはミリンの姐さんの提案に乗るべきだ」

「えぇ、わたくしも同意見ですよ」


 2人にそう言われ、戸惑った様子でミリンの方を見るスミレ。

 しばらくの沈黙の後、ミリンの真っ直ぐなその瞳を前に、スミレそっと息を吐くと、いつの間にか入っていた肩の力をそっと抜いた。


「…じゃあ、ここは2人に任せるよ。…僕達は一足先に目的地に行かせてもらうよ」

「おう、すぐに追い付く」

「スミレ達こそ、油断はしないで」

「わかってる」


 スミレの返事に静かに頷く2人。

 スミレ、スズナ、ライムの3人は待機していたワイバーンに再び跨がると、そっとその背中から2人を見下ろした。


「それじゃあ、行ってくる」


 スミレがそう言い終えると同時に、翼を広げて咆哮を上げるワイバーン。

 コウスケとミリンは再び飛び立ったワイバーンのその後ろ姿を見送ると、どちらともなくお互いの顔を見合わせた。


「…さて、俺達も探しますか」

「…うん」



ーーー



「スズナ、ライム」

「はい?」

「なんでしょうかお姉様」


 コウスケ達と別れてからはや数十分間、ワイバーンの背中に乗り、馬車の跡を辿るように街道上空を飛んでいたスミレ達。

 不気味なほど魔物が出現しないその道を進む中、不意に声を出したスミレ。

 2人の聞き返すようなその反応に、スミレは一瞬視線を2人に向けると、言葉を続けるように口を開けた。


「…どうして君たちはあの時、僕のことを止めたんだい?」

「お姉様、それは…」

「あの秘術はただでさえ危険だし、やっぱり僕はあの2人を行かせない方がよかったんじゃないかって思うんだけど」


 そんなスミレの言葉に、黙り込むスズナ。

 ライムはそんな2人の様子しばらく見つめていると、じれったいといった様子で口を開いた。


「姐さん、あの口振りから察するに、ミリンの姐さん達はきっと、その秘術を使った相手と戦ったことがあるんじゃないか?」

「…確かに、そうだね。でも、それだけなら放置しておけば…」

「アタシの予想が正しければ、ミリンの姐さん達の想像してたその相手ってのが多分、虐殺の女神なんだと思う。…いや、きっとそう」


 ライムの言葉に、コクコクと頷くスズナ。

 スミレはそんな2人を一瞥すると、何処か腑に落ちた様子でそっと息を吐いた。



ーーー



「…はい、これで大丈夫なはずですよ」

「ありがとう…ございます…」


 まるで獣道のように茂みに隠れた細い道。

 周囲に血の匂いが漂う中、道上に放置された荷台を覗き込んだユウは、大きな麻袋に包まれていたハーピィ達に回復魔法をかけると、一際大きく頭を下げているハーピィの雌に笑いかけた。


「しかし、人族に攫われたわたくし達のためにここまでしてもらわなくても…」

「いえ、私がしたくてやっているだけなので気にしないでください」

「でも…」


 続く言葉を塞ぐように、ハーピィの唇に指を当て、優しい笑みを浮かべながらそう言うユウ。

 ハーピィの雌は、その意図を理解したようにそっと口を閉じると、そっと膝をついた。


「竜人様…いえ、あるじ様。わたくしヤナギ、ここにいるハーピィを代表して貴方様に永遠の忠誠を…」


 ハーピィの雌─ヤナギのその言葉に、治癒を続けながら固まるユウ。

 しばらくの沈黙の後、ユウは治癒の終わったハーピィから手を離すと、そっと顔を上げたヤナギの頭に手を置いた。


「ヤナギ…私は別に、貴女に配下になってもらおうとして言ったつもりはありませんよ」

「…では、あの笑みは一体…」

「あれは『気にするな』という意味です。…それに、私は既に貴女達の仲間を何人も殺しています。こんな私が貴女を配下にするのは、やはり不条理かと」


 その一言に、言葉をつまらせるヤナギ。

 ユウはヤナギの頭から手を離すと、残ったハーピィ達の治癒を再開した。


「…そんなこと、関係ありません」


 しばらくの間を開けて、絞り出すように出てきたヤナギの声。

 うつむいていたヤナギは再び顔を上げると、先程までとは違った覚悟の決まったような瞳でユウを見つめ直した。


「たとえ貴方様が同族を殺していたとしても、そんなものは関係ありません…!わたくしは、自分自身の意思で貴方様に付いていきたいのです…!」

「…本気で言ってますか?」

「はい…わたくしには、貴方様がそう理由も無しに同族を殺すとは思えません。…それに、どんな理由であれ、今ここにいるわたくし達は貴方様に救われたのです」


 声を張り、目を逸らさずにそう言い切ったヤナギ。

 しばらく見つめ合った後、ユウはまるでその視線に耐えかねるように右手で顔を抑えると、そっと口元を緩ませた。


「…わかりました」

「…!ありがとうございます主様…!わたくしヤナギ、これから一生貴方様の元で…!」


 満面の笑みを浮かべ、心からの忠誠を誓ったヤナギ。

 ユウはそんなヤナギに微笑み返していると、不意に背後から服の裾を掴まれた。


「兄様、何故このようなことを…」


 表情を変えぬまま、淡々と話かけたローズ。

 ユウはヤナギに向けていた笑みを一瞬で掻き消すと、ゆっくりとローズの方へと視線を向けた。


「別に、たいした理由はありませんよ。私達が殺すのはあくまで敵意を持つ者のみ…それはローズも変わらないはずです」

「しかし、このハーピィ共は…」

「あの雄の仲間、ですか…?」


 ユウの言葉に無表情のままコクリと頷くローズ。

 ユウは、治癒を終えてスヤスヤと眠っているハーピィの頭をそっと撫でると、そっとその視線をローズの方へと向けた。


「確かに同じハーピィですが…この娘達は私達に対する敵対の意思はありません。種族ごと根絶やしにするのは簡単ですが、わざわざ敵意のない同族を無くすのは賢い判断とは言い難いですよ」

「それは、そうですけど…」


 ユウの判断に納得のいかない様子で言葉をつまらせるローズ。

 そんな2人の会話に、何かを言いたげな表情を浮かべているヤナギを余所に、ユウは不意にピクリと耳を動かすと、その荷台の上でゆっくりと立ち上がった。


「…やはり来ましたか」


 ポツリと呟くユウの一言。

 しばらくの間を開けて、ガサガサと草木をかき分ける音が聞こえてくると、不意に2つのが茂みの中から飛び出してきた。


「兄様、あれって…」

「…まさか、本当にエサ(・・)が釣れるとは思いませんでしたが…予想よりも少し早かったですね」


 表情を変えぬまま、何処か驚いたように口を開くローズ。

 ユウは視界の端にそのを捉えると、吐き捨てるようにそう言いながら荷台の上から飛び降りた。



ーーー



「コウスケ…この匂いってやっぱり…」

「血の匂い…近くで何かが争ったか、それとも…」


 不自然に木々に巻きつけられている糸を辿りながら、誘導されるように森の奥へとやってきたコウスケとミリン。

 進むにつれ濃くなっていく血の匂いを前に、2人はそんな会話をかわしていると、不意に前を歩いていたコウスケがその足を止めた。


「コウスケ…?」


 ミリンの声にまるで反応の無いコウスケ。

 ただ立ち尽くすコウスケを前に、ミリンは不思議そうにその顔を覗き込もうとすると、不意にその視界の先に、無様に散乱した首の無い人間の死体がゴロゴロと転がっていた。


「コウスケ、これ…」

「…あぁ…きっと、コイツがこの匂いの元だろうな…」


 驚いたようなミリンの声とは対照的に、静かにそう答えるコウスケ。

 今のコウスケにとって、目の前に映る悲惨な光景は、この数日に起こったことと比べればもはや些細なものとなっていた。


「…ミリン」

「…何?」

「ユウさんだ。…この先に、ユウさんがいる」


 綺麗に切り落とされた首の断面から、まるで自分に言い聞かせるようにそう言うコウスケ。

 ミリンは一瞬疑問に思うように首をかしげるも、死体の上を這うように伸びる糸を見て納得したように頷いた。




 糸に沿い、茂みの中を進んでいたコウスケとミリン。

 死体の転がる獣道が続く中、2人が草木をかき分けていると、不意にようやく馬車1台通れるような、細い道へと繋がった。


「ここは…」


 まるで抜け道のような、草木に隠れていた道。

 コウスケが辺りを見渡そうとすると、不意に『グチャッ』という何かの潰れるような音と共に、笑っているような声がその鼓膜を震わせた。


「…ッ!?ユウさんッ!」


 瞬時に音のする方へと振り返り、そう叫ぶコウスケ。

 そんなコウスケに釣られるように、ミリンが首を動かすと、その視界の先にいくつかのが映り込んだ。




「…3日ぶり、ですかね。待っていましたよ」


 コウスケの声に反応するように、そう言い放ったユウ。

 そんなユウの視界の先に映るコウスケとミリンは、聞こえてきた声によって自分達が見ているがユウだと確信すると、警戒するように中腰になった。


「兄様」

「…どうやら当たりのようですね」


 何かを伝えるようなローズの声に、コウスケ達へ向けたその視線を逸らさずにそう言うユウ。

 しばらくの間を開けて、ユウは一度小さく溜息を吐くと、荷台の上からその様子を覗いていたヤナギへと、チラリとその視線を動かした。


「…ヤナギ」

「はい!主様!」

「えぇ…貴女の主として命令です。今すぐにこの場を離れなさい。寝ているは叩き起こして構いません」


 唐突なユウのその言葉に、戸惑った様子で慌ててハーピィ達を起こすヤナギ。

 ユウは状態を確認するように起こされたハーピィ達を一瞥すると、再びその視線をコウスケ達の方へと戻した。


「主様、これは…」

「理由は後で話します。…が、今は速やかに離れてください。…これは、命令ですよ」


 何処か突き放すようなユウの声音。

 ヤナギは、そんなユウの台詞を前にそれ以上の言及を諦めると、そっとハーピィ達と視線をかわした。


「ヤナギ様…」


 ヤナギの判断を待っているのか、ポツリと呟いた一匹のハーピィ。

 ヤナギは無言のまま、ユウの背中をちらりと見ると、覚悟を決めたようにその翼を広げた。



ーーー



 ワイバーンに導かれ、街道沿いに森を抜けていたスミレ達。

 その目下に映っていた街道はいつしかなくなり、ポツポツと建物が見え始めた頃、不意に声を上げながら身を捩ったワイバーン。

 振り落とされるようにワイバーンから飛び降りたスミレ達は、何が起きたのかわからないといった様子で空を見上げると、まるでワイバーンを迎撃するかのように何処かから炎を纏った何かが、とてつもない速さでスミレ達の乗っていた場所を通過した。


『─────ッ!』


 奇声のような声を上げながら、役目を終えたように魔法陣の中へと消えていったワイバーン。

 スミレ達はしばらくの間唖然とした様子で空を眺めていると、ザクザクと砂利を踏む音と共に、一つのが建物の間から姿を現した。


「まさか、直前で主を振り落とすとはな…召喚獣にしては賢い事をする」


 ポツリと呟かれたその声に、慌てて振り返ったスミレ達。

 3人の視界に入ったは、光の差し込む場所まで足を運ぶと、禍々しいプレッシャーを隠すことなくその姿を露わにした。


「エボラ…ッ!」

「…久しぶり、だな。確か…スミレと言ったか。まさかこんなところで会うとはな」

「…ッ!」


 吐き出すようなスミレのその声に、─エボラはスズナとライムの顔を一瞥すると、一瞬その顔を歪めた。


「…女ばかり…か、クソッ!どいつもこいつも…ナメた真似しやがって…ッ!」


 舌打ちをしながら、心底不機嫌そうに言葉を吐き捨てるエボラ。

 そんなエボラの姿を前に、スミレは2人を庇うように前に出るとギリッと奥歯を噛み締めた。


「…彼女達には、手を出すな…ッ!」


 声を絞り出すように、力強くそう叫ぶスミレ。

 しばらくの沈黙の後、エボラは顔を抑えると、人を食ったような笑みを浮かべた。


「ハッ…俺が貴様ら如きに手を出す…?寝言は寝て言えよ落ちこぼれのクソ女が」

「…ッ!」


 エボラのその台詞に、ただ歯を軋ませるスミレ。

 敬愛するスミレに対するその悪口に対し、スズナがエボラに言い返そうと口を開けた瞬間、不意に隣に立っていたライムが目にも留まらぬ速さでスミレの背後から飛び出した。


「ライム!?」

「姐さんを…ッ!馬鹿に、するなァァァァッ!」


 驚きの声を上げるスミレを余所に、怒り任せに槍を突きつけるライム。

 真っ直ぐに伸びたライム槍は、エボラに振れる事はなく、不意に横から割り込んできた別の槍によって弾かれた。


「エボラ様、この女は私が」

「…では、任せたぞジフテリア」

「はい」


 その言葉を受け、歩き出したエボラの進行を妨げぬように、槍を地面に突き立ててライムの前に立ちはだかるジフテリア。


「…ッ!」


 ライムは、文字通り横槍を入れてきたジフテリアを睨み付けると、再び槍を構え直した。



ーーー



 バサバサとハーピィ達が飛び立つ中、声は聞こえなかったものの、ユウ達のそんなやり取りを見ていたコウスケは、ユウの足元に散乱する大量の死体を一瞥すると、声を振り絞るように口を開いた。


「ユウさん…ッ!なんだってこんなことを…ッ!」


 拳を握りしめ、声を上げるコウスケ。

 コウスケのその視線に気付いたのか、ユウは不気味に口角を上げると、足元に転がっている首のない死体の一つを勢いよく踏みつけた。


「こんなこと…とは、これのことですかね?」

「…あぁ、どうしてこうも平気で人を殺して…!」

「私はハーピィ達(彼女達)盗賊(コイツら)に攫われていたので助けただけです。…あからさまに敵意を向けてきたので殺しただけですが?だからなんだと言うのです?」

「…ッ!」


 ユウのその台詞に、言葉を詰まらせるコウスケ。

 そんなコウスケの心中を察したのか、ミリンは握りしめられていたコウスケの拳に手を伸ばすと、まるで包み込むようにそっとその手を掴んだ。


「ミリン…これは…」

「コウスケ…とりあえず、今は一旦落ち着いて。…感情的になったら、わかるものもわからないよ」

「…そう、だな」


 ミリンの言葉に、そっと手の力を抜くコウスケ。

 まるでお互いを落ち着かせ合うように、手を取り合う2人の姿を前に、ユウは一瞬既視感のようなものを覚えると、すぐさまその思考を振り払うように、足元に転がっていた生首を無言で蹴り飛ばした。


「兄様…?」

「…ローズ、ここは私がなんとかします。貴女は先に、例のものを回収してきなさい」

「ですが…」


 表情を変えぬまま、しかし不思議そうにユウへ向かって声を出そうとしたローズ。

 得体の知れない怒りに侵され、コウスケ達を睨み付けるユウのその姿を前に、ローズは言いかけたその口をそっと閉じると、そのまま一歩後ろに下がった。


「…では兄様、すぐに終わらせてきます」

「…」


 ローズの言葉に視線を変えぬまま、無言を貫くユウ。

 覚悟を決めたのか、ユウと対峙しながら武器を構えるコウスケ達を余所に、ローズはゆっくりと後ろに下がると、気配を消すようにしてその場を立ち去った。


「ユウさん…」

「…いい加減、そう馴れ馴れしく私の名前を呼ばないでくれませんかね。とても…不快です…ッ!」


 ポツリと呟いたコウスケの声に、苛立ちを露わにするユウ。

 ピリピリとした空気が流れる中、不意にユウは翼を広げると、大きく息を吸い込んだ。


「〈火炎竜の吐息(ファイア・ブレス)〉──ッ!」


 宙を舞いながら、叫ぶようにしてユウの口から放たれた業火の竜の吐息(ブレス)

 周囲を巻き込んだその一撃は、コウスケとミリンの立つ周辺の草木を燃やし尽くすと、一瞬にして黒一色の開けた空間へとその姿を変えた。


「すまんミリン、助かった…」

「いや、気にしないで…」


 咄嗟に防御魔法を使い(障壁を展開し)、なんとか竜の吐息(ブレス)を凌ぎ切ったコウスケとミリン。

 熱気と共にパチパチと周囲に音が響く中、2人は煙の向こうに映るユウの姿を確かに捉えると、地面を強く踏み込んだ。

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