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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第4部.謎の少女
66/112

戦う理由

 ミリンのゲートを潜り、ギルドへと戻ってきたコウスケ達。

 件の少女は起き上がったコウスケの服の裾を掴んだまま、コウスケ達とともにゲートを潜っていた。


「…で、どうするの?スミレ」

「うーん…どうしようか…」

「…あの子、妙にコウスケに懐いてるみたいだしね…あの村の生き残りって可能性もあるし、しばらく預かっておく?」

「懐いてる…のか?…まぁ、僕はそれでもいいと思ってるよ」


 コウスケ服を掴んで離さない少女を横目にそう話すミリンとスミレ。

 スズナとライムはそんな少女を少しでも笑わそうと奮闘するも、少女は人形のようにピクリとも反応しなかった。


「コウスケ」

「ん?どうした?」

「とりあえず、この子をしばらくウチで預かろうと思うんだけど…コウスケもそれでいい?」

「あー…いいんじゃないか?そもそも預ける先もよく分からんし、ハルナちゃんもいるからな」

「…そだね」



ーーー



「兄様、どうかしたのですか?」

「…何もありませんよ。どうかしたのですか?」

「いえ、難しい顔をしていたので」


 魔王城の屋根の上に腰を掛け、何を考えるでもなく城下に広がる広大な土地を眺めていたユウ。

 そんな中、不意に背後に出現・・したローズの言葉にユウは一度我に返るように顔を上げると、そっと立ち上がった。


「ローズ、一つ聞いていいですか」

「えぇ、兄様の頼みならなんでも」


 即答するローズ。

 そんな返事を聞いたユウは視線を外へ戻すと、傾きかけた日に向かってそっと腕を伸ばした。


「…ローズは、なんの為に戦っているのですか?」

「私は父様の─」

「ローズ、私は貴女の意志を聞いているのですよ」

「それは…」


 言葉に詰まるローズ。

 ユウはそんなローズの様子をしばらく見つめると、ポンと軽く叩くようにローズの頭に手をおいた。


「私は…ローズ、貴女と生きるこの関係を守るために戦っています。…一個人として、兄として。だから…」


 そこまで言いかけて、口を閉じるユウ。

 無表情のまま、何処か不思議そうに見つめるローズを前に、ユウは頭に置いていたその手を撫でるように動かすと、そっと視線をローズの方へと向けた。


「兄様…?」

「…やはり、今は答えなくてもいいです。…でも、いつかはしっかりと決めてください。魔王ルインの意志ではなく、ローズ自身の意志で」

「…はい」


 コクリと頷くローズ。

 ユウはそんなローズにそっと微笑みかけると、何処か安堵したような様子で再び視線を日の落ちた城下へと戻した。



ーーー



 宿屋に戻り、ハルナと共に夕食を食べ終え、各々の部屋へと戻ったコウスケ達。

 少女は、ハルナに促されるように出された料理を食べ終えると、無言のままコウスケに付いていくようにコウスケの部屋へと入っていた。


「コウスケ、入っていい?」

「あぁ…」


 ガチャリという扉の開く音と共に、部屋へと入って来たミリン。

 コウスケはベッドの端に座っていた少女の隣に腰を掛けると、ミリンをその反対側に座るようにポンポンとベッドを叩いた。


「…それで、何か用か?」

「うん…コウスケにって訳じゃないんだけどね」

「あー…」


 ミリンのその言葉に、何処か納得したように立ち上がったコウスケは、部屋に置いてある椅子を出して2人に向かい合うように座ってみせた。


「ねぇ…貴女、なんて名前なの?」


 優しい声音で少女に話しかけるミリン。

 無言のままコウスケを見つめていた少女は、そっとミリンの方へと視線を向けるも、すぐさまコウスケの方へと見つめ直した。


「む、無視…」

「ミリン…」

「あはは…大丈夫大丈夫、一応想定してたから…」


 少女の反応にあからさまに肩を落とすミリン。

 かける言葉が見つからないコウスケは、それ以上に何か言えるわけもなく声を詰まらせた。



『ねぇ』



「…!?」


 しばらくの気まずい沈黙の中、不意にコウスケの鼓膜を震わせた声。

 まるで幻聴のようなその声に、コウスケは驚いた様子で少女を見ると、少しの間を開けて少女が口を開いた。


『やっぱり…君は私の言葉がわかるんだね』

「どういう…ことだ…?」


 少女の言葉にそう聞き返すコウスケ。

 会話を始めた2人を前に、ミリンは何が起きているのかわからないといった様子で2人の顔を交互に見ると、その意識を向けるようにそっとコウスケの肩を叩いた。


「ねぇコウスケ」

「ん?どうしたミリン?」

「さっきから何話してるの…?」

「えっ…?ミリンはあの子の声が聞こえないのか…?」

「いや…聞こえてるは聞こえてるんだけど…」


 不思議そうに聞き返すコウスケに、歯切れ悪い反応をするミリン。

 コウスケは再び少女の方へと視線を向けると、ミリンの言葉を代弁するように少女が口を開いた。


『私は彼女にとっては未知なる言語で話してるからね。彼女が理解できなくても当然だよ』

「…未知なる言語…?」

『そう』

「いや…でも…」

「コウスケ…?さっきから本当に何話してるの?」


 少女に言い返そうとした瞬間、ミリンによって言葉を遮られたコウスケ。

 慌ててミリンに説明しようとするコウスケを前に、少女は何か思いついたように立ち上がると、コウスケに言い寄っているミリンの肩にそっと手を置いた。


『────』


 不意にミリンの鼓膜を震わせた聞き取れないような少女の声。

 ミリンは驚いた様子で少女の方へと視線を向けると、まっすぐと顔を覗き込んでいた少女とばっちり目があった。


「貴女…今何を…」

『あ、あー…どう?これで理解できる?竜人のお姉さん』

「…!?」


 突然の自体に固まるミリン。

 少女はその反応を肯定と受け取ったのか、再びコウスケの方へと視線を戻した。



ーーー



 災いの森を少し外れた街道にて、ジフテリアの引く馬車の客車の上に乗っていたユウ。

 しばらくの間、馬車に揺られていた客車の中で、不意にエボラは外へ視線を向けると、呟くように口を開いた。


「何故俺が…ローズ様はともかく小僧(貴様)なんかと…ッ!」

「…不服ですか?」

「…ッ!当たり前だッ!」


 エボラの言葉を前に、客車の上からぶら下がるようにして窓を覗き込むユウ。

 ユウと目があったエボラは、一瞬驚いたような表情を見せると、腹立たしそうに顔をそらした。


「…エボラ様、ユウ様、少しは落ち着いてください。あのルイン様の事です、私達が行動を共にしなければならない理由があるのだと思いますよ」

「…チッ」


 ジフテリアの声に舌打ちをするエボラ。

 ユウは逆さになっていた上体を起こすと、不意に何かを警戒するようにその姿勢を低くした。


「…ジフテリア、止まってください」

「…?何故ですかユウs─」

「止まれ!」


 声を荒げるユウに驚くように足を止めたジフテリア。

 突然怒鳴るように叫んだユウに対し、ジフテリアが抗議の声を上げようと後ろを振り返った瞬間、目にも留まらぬ速さでその足元に数本の羽根が突き刺さった。


「…ッ!そこですかッ!」


 唐突の事に固まるジフテリアを余所に、客車から飛び降りたユウは、自身の手から糸を出すと、それを使って近くにあった岩を振り回すようにして羽根の飛んできた方へと投げ飛ばした。



ーーー



『──それで、貴方達はどうして戦っているの…?』


 しばらくの沈黙。

 ミリンは未だに少女の言語を理解できることに戸惑っているも、少女の放ったその言葉を前にピタリとその動きを止めた。


「それは…」

『あの竜人のため?それとも、自分のため?』


 コウスケが言葉を紡ごうとした瞬間、まるでそんなことわかっているとでも言うように言葉を遮った少女。

 どうにか言葉を繋ごうとして、コウスケは言葉を詰まらせると、ガシガシと自らの頭を掻きむしった。


『…その反応は肯定、と捉えてもいいんだよね?』


 淡々とそう言う少女。

 コウスケはしばらく頭を抱えたまま固まっていると、そっと何かを決めたように顔を上げた。


「…確かに君の言うとおりかもしれない」

「コウスケ…」

「…少なくとも俺は、ユウさんに戻ってきて欲しいと思ってる」

『…殺されかけたのに?』

「あぁ…確かに元の関係に戻すのは難しいかもしれない。…でも、ユウさんが生きていたから、まだ取り戻せる余地が少しでもあるなら、俺は全力でそれを取り戻そうとするし、全力でそれを守るために戦う」

「わたしも…今の生活じゃない、ユウと、ユイさんと、それからユリとサクラがいたあの頃の、大変だけど楽しかったあのパーティに戻りたい…!だから…」

『…』


 まっすぐとそう言う2人の言葉に黙り込む少女。

 再び流れる沈黙は、まるでそんな2人の決意が響き渡ったかのように、その部屋に流れる無駄な雑音を全てかき消していた。



ーーー



「…ッ!お前達だけは許さんッ!お前達のせいで…ッ!」


 全身を糸で拘束され、ズルズルとユウに引きずられるようにされたハーピィの男は、ジフテリアの足元に転がされると、その顔を見るなりそう叫びだした。


「ユウ様…これは…?」

「先程の襲撃者です。…ジフテリア、どうやら貴女と面識があるようですが?」


 ユウの言葉に、ジフテリアは睨みつけてくるハーピィの顔をマジマジと見つめると、何かを思い出したように手をポンと叩いた。


「あー!思い出しました!!この雄、この前食料輸送中に襲ってきたハーピィ集団の一匹ですよ。あの時殺しそこねたので、そのせいかもしれませんね」


 ジフテリアの言葉に、呆れたようにため息を吐くユウ。

 ハーピィの男はようやく思い出したかといった様子で口を開こうとすると、不意に満面の笑みを浮かべたジフテリアの前足に思い切り踏みつけられた。


「…ァ…ッ…!」

「ジフテリア」

「はい、ユウ様」


 ユウの声に、そっと足を戻すジフテリア。

 くすんだ瞳でこちらを見つめるハーピィを前に、ユウはそっと歩み寄ると、しゃがむようにしてその顔を覗き込んだ。


「…!!ま、待ってくれ!俺達はただ、里のみんなに食料を…」

「どんな理由があれど、反乱因子である以上貴方を生かしておく必要はありません。…それに、もしその言葉が本当なのであれば今回私達を襲う必要は無かったはずです」

「そ、それは…」

「客車と貨車の見分けのつかないほど、ハーピィは馬鹿なんですか?」

「そんなこと…!」


 ハーピィが言い返そうとした瞬間、ユウは巻き付いけていたその糸を締め上げると、ギチギチという音とともに白い糸が赤く染まり始めた。


「あるわけ無いですよね。わからないのなら、ジフテリアだけでなく私にも攻撃をしてくるはずでしょうし」

「…ッ…ァ…」


 ゴキゴキと、骨が折れるような音とともに悲痛な声を上げるハーピィ。

 立ち上がったユウはゴミを見るような蔑んだ瞳でソレを見つめると、興味を失ったように振り返った。


「ローズ」

「はい、兄様」


 ユウの声を待っていたかのように客車から飛び出したローズ。

 ジフテリアはそんな2人の意図を測りかねると、困惑した様子で口を開いた。


「ユウ様、一体何を…」

「ジフテリア、貴女達は先に行ってください。私達は少し、用事ができたので」

「しかし、それでは任務が…」

「その必要はない。俺だけで十分だ」


 ハーピィを無視するように淡々と述べるユウに聞き返そうとしたジフテリア。しかし、エボラはそんなジフテリアの言葉を遮るようにそう言うと、早くしろとでも言うようにジフテリアを睨みつけた。


「わ、わかりました…では、私達はこれで」

「えぇ…念の為、警戒は怠らないようにしてくださいね」

「はい」


 ユウの忠告を受け、何処か気の進まない様子で再び馬車を引き出したジフテリア。

 ユウとローズは見えなくなるまでそれを見送ると、思い出したかのようにハーピィへと視線を向けた。


「ひっ…ま、待ってくれ!もう二度とこんなことしないから!!こ、殺さないでくれ!!」


 全身の痛みも忘れ、命乞いをするハーピィ。

 2人は呆れたように視線をそらすと、そっとソレから背を向けた。


「お願いします!!殺さないでください!もうあんn…」

「兄様」

「えぇ…行きましょうか」

「ま、待ってください!!せめてこn─」



「〈デッド・プレイバック〉」



 懇願するハーピィを背に、歩き出しながら吐き捨てるようにそう言ったユウ。

 その瞬間、ハーピィに巻き付いていた糸はその身体を絞り上げるように急激に締め付けると、全身から血を吹き出すハーピィの断末魔と共に真っ赤に染まり上がった。

 血も涙もない。


 皆さんこんにちは、赤槻春来です。


 …と、言う訳で第22章、いかがでしたか?

 本当はハーピィのお姉さんを出すつもりだったんですけど、役柄もあって今回は出せなかったので、ここで一応謝罪を…


 さて、気を取り直して次回は23章!コウスケに戦う理由を聞いた少女は一体何者なのか…!?そしてユウ達はこれから…お楽しみに!


 感想や意見、アドバイスなどありましたら感想欄やツイッターのほうに書き込んでくれると幸いです。


 またのんびりと更新していく予定なので気長に待っていただければ幸いです。


 それでは皆さん、またどこかであいましょう。


 アディオス!

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