表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第4部.謎の少女
65/112

デビル・アプロア

「ねぇ…」

(はい?なんでしょうか)


 日の差し込む広い庭園の中、不意にユウの隣の席に座っていた女はその肩に頭を預けるようにしながら口を開いた。


「ユウは…もう、この暮らしには慣れた?」

(この暮らし…)

「そう。貴方がここに来てからずいぶん経つしね。こうやって、いつものように貴方と一緒に外でのんびりする…そんな生活」


 女の言葉に、しばらく考えるのをやめて想像するユウ。

 拘束具が外れてから約一ヶ月、ユウと女は特に理由もなくそんな生活をおくっていた。


(…慣れた、のでしょうか…?)

「なんで疑問系なの…?」

(いえ、深い意味は無いんですが…今でも、あの時逃がした子たちが元気にやっているか、心配な時があるんです)

「そう…」

(でも、貴女と一緒にいる今の生活も、悪くないと思ってますよ)

「ふふっ…ありがと。確かにユウが逃げ出そうと思えば簡単に逃げ出せちゃうもんね」

(はい)


 それだけ言い残し、静かに寝息をたて始めた女。


(逃げていない事実が答え、ですか…)


 そう思ったユウは肩に乗った女の頭に手を伸ばしかけると、その髪に触れる寸前、鱗で覆われたその手をそっと下ろした。



ーーー



「一体どういうことだって言うんだ!」


 廃墟の村で一夜が明かしていたスミレはあたりに日が差し込みだした頃、不意に癇癪を起こしたようにそう叫ぶと、弱くなりかけた焚き火に再び火を付けた。


「姐さん、落ち着いて…」

「そうですよお姉様。ここは一旦冷静に…」

「落ち着いてなんていられないよ!だって──


 ──ユウが男な訳無いじゃないか!」


「えっ…?」

「はい…?」


 スミレの言葉に思わず固まるスズナとライム。

 スミレはそんな2人の反応もお構いなしに頭を掻きむしると、その言葉を続けた。


「スズナ、ライム、2人もそう思うよな?」

「あ、いや…」

「えっと…」

「だって僕は一緒に風呂に入ったことだってあるんだよ!?付いてないものはついてなかったし、男なはず無いんだよ!なのに兄様!?なにそれ意味分かんない!?」


 フーフーと息を吐きながら一通り叫び終えたスミレ。

 スズナとライムはしばらくお互いの顔を見合わせると、落ち着いたスミレに向かって口を開いた。


「姐さん、アタシ達には虐殺の女神が男か女かなんてあんまり関係ないんだけど…」

「お姉様が女性だと思うなら女性、ということで良いのではないでしょうか…?」

「…たしかに」


 2人の言葉に一理あるといった様子で頷くスミレ。スズナとライムは落ち着いたスミレを前にそっと胸を撫で下ろすと、本題に入るように口を開けた。


「それで、姐さん」

「うん、わかってる。あのローズって女のことでしょ?」

「はい…」


 スミレの言葉に何処か躊躇うように返事をするスズナ。

 2人は目の前にある火を見つめながら、その言葉を続きを待った。


「あのローズという魔人…確かに虐殺の女神の妹、というのは事実だと思います。ただ…」

「ただ…?」

「あの魔人としての力はきっと、彼女の本来の力ではない気が─」



「その話、私にも詳しく教えてくれないかしら?」



 不意にスズナの言葉を遮るように聞こえてきた女の声。

 3人は反射的に飛び退くと、武器を構えて声のする方へと振り返った。


「…ま、当然警戒するよね。安心して。私は別に貴女達と戦いに来た訳じゃないから」


 3人の視界に映る、全身を大きめのローブで覆い、フードを深く被った女は何処か笑いながらそう言った。


「…誰が魔人・・の言う事を信じろと…?」

「そうね…じゃあ、これでどう?」


 警戒するスミレの台詞に、女は持っていたクロスボウと矢を取り出すと、それを3人の足元へと投げ捨てた。


「これは…?」

「私の武器だけど?別に戦うわけじゃないから持ってる必要も無いしね」

「…」


 あっけからんとした様子でそう言う女を前に、3人はお互いの顔を見合わせると、そっと武器を下ろした。

 パチパチと音をたてる焚き火を挟み、お互いの顔を伺うスミレ達。

 しばらくの沈黙の中、差し込んだ光が女の姿を照らし出した瞬間、不意にライムがその口を開いた。


「アンタ、一体何者なんだ?」


 そうね、と相槌を打ちながらそっとフードを取ると、服の裾を掴んで小さく会釈をした。



「私はイヨ。ユウの─いえ、虐殺の女神の幼馴染よ」



ーーー



「…ん…」

「あ、コウスケ。目が覚めた?」


 野宿用のテントの中、不意に目が覚めたコウスケはぼんやりとした視界の中、しばらくの間目をぱちくりさせると、声のする方へとその視線を向けた。


「ミリン…?」

「そうだよ。おはよう」

「あぁ…おはよう…」


 ミリンの声を聞きながら、ぼーっとした様子で上体を起こしたコウスケ。寝ぼけた目を擦りながら辺りを見渡す中、不意にその視界に映りこんだ少女を前に、コウスケは一気に眠気が吹き飛ぶような感覚を覚えた。


「君は一体…」

「…」


 コウスケを見つめながら、ピクとも反応しない少女。

 そんな少女の対応をよそに、ミリンは足を引きずるようにしながらコウスケの元へと移動すると、注意を引くようにその肩を叩いた。


「ミリン、その怪我…」

「あぁ…わたしの怪我は気にしないで、すぐ治るから」

「そう…なのか…」

「うん。…それよりコウスケ、この娘の事知ってるの?ずっとコウスケにくっついてたらしいんだけど、何を聞いてもだんまりだし、一切反応が無いんだけど…」


 そんなミリンの言葉に、再度視線を少女の方へと戻すコウスケ。

 その視界に映る少女はただ何をするでもなく、人形のように座りながらコウスケを見つめていた。


「すまない、遅くなった」


 しばらくの沈黙が過ぎ、テントの中が明るく照らされると、不意にそんな声と共にスミレがテントの中へと入ってきた。


「あ、スミレ」

「お…君も起きたのか」

「あの、スミレさん…」

「あ、先に言っておくけど、君達の怪我を治してくれたのはそこにいる彼女だ。回復の早いミリンはともかく、君が動ける状態まで回復してるのは彼女がずっと回復魔法を使っていたおかけだからね」


 テントに入るなりそう言い放つスミレ。

 コウスケとミリンはそんなスミレの言葉に信じられないといった様子で少女を見返すも、少女はピクリとも反応をしなかった。



ーーー



「只今帰りました」


 魔王城の一角。そんな声と共に静かに椅子に座っていたローズの影から姿を現したユウ。

 ローズはユウの顔を見るなり席を立つと、無表情のまま静かに抱きついた。


「お疲れ様です兄様。何か収穫はありましたか」

「えぇ…彼女達・・・からは良い返事をもらってきました。…しばらくは様子を見る必要はありそうですが、邪魔したりなどはしないでしょう」

「…わかりました」


 まるで子をなだめるようにローズの頭を撫でながらそう言うユウ。

 ローズはその言葉に返事をすると、無表情のまま、しかし何処か名残惜しそう身体を離した。


「…では、私は父様に報告に行ってきます」

「えぇ、よろしくおねがいしますね」


 淡々とそう言い残し、部屋を出ていくローズ。

 ユウはそんなローズの後ろ姿を見送ると、振り返ろうとしたその身体をピタリと止めた。


「さて…誰ですか?そこに隠れているのは…」


 部屋に響き渡るユウの声。

 しばらく間を開けて、不意にユウの視界にいくつかの青白い火の玉が映り込むと、狐の面を被った女が壁をすり抜けるようにしながら現れた。


「ユウ…本当に全て忘れてしまったのね…」

「忘れる…ですか?一体何を…」

「ルインもホント酷い人…私の息子達をなんだと思ってるのかしらね、ユウ?」


 ユウの言葉を塞ぐようにそう言う女。

 ユウがその言葉の意味を測りかねていると、不意に女は被っている狐の面をそっと外すと、面の下から現れた赤い瞳でユウを見つめ直した。


「貴女は…」


「久しぶり、ユウ。こんな状況だけど、息子・・の元気そうな顔が見れてよかったわ」


 女はそう言うと、黒い髪を揺らしながらユウと瓜二つのその顔で笑ってみせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ