歩み寄る力
「コウスケ!大丈夫!?」
怪物から血が吹き出す中、ミリンは痛む身体をたたき起こすと、とてつもない勢いで崩れ落ちた怪物の下敷きになっているコウスケの元へと駆け寄った。
「あぁ…大丈夫だ。ありがとうミリン」
「ありがとうって…そんな…」
怪物の下から這い出し、ミリンにそう言うコウスケ。ミリンが照れるように身体を捩らせると、コウスケはその言葉を続けた。
「あの時、ミリンがトドメをさしてくれなきゃ生きてたかもわかんねぇ…」
「え?トドメ?なんのこと?」
「…え?」
ミリンの反応に困惑するコウスケ。話の噛み合わない2人はしばらくお互いの顔を見合わせていると、不意に背後から何者かの足音が聞こえてきた。
「…所詮この程度ですか。まぁ人工魔物にしては上出来ですが」
聞こえてきた声に慌てて振り返る2人。その視線の先には血の滴るペンデュラムを持ったユウにローズ、そして一匹のアラクネが立っていた。
「ユウさん…」
「ユウ…」
「あれは…」
「虐殺の女神…」
物陰に隠れていたスズナとライムはコウスケ達の前に現れたユウ達を目に、勢いよく立ち上がるとそう呟いた。
「ユウ…」
足元の魔法陣を消したスミレはその物陰から身を乗り出すと、まるで何かに乗っ取られたかのようにユウの姿を見つめながらその場に立ち尽くした。
「…あら、これはこれは…あの時の御二方ではありませんか」
真顔のままどこか煽るような言葉でそう言うローズ。
自身の左手首にある傷が塞がったのを確認したユウは、持っていたペンデュラムを光の粒子のように消滅させると、外していた手袋をつけ直した。
「…虐殺の女神、ですか。…我ながら酷い二つ名を付けられたものですね。…まぁ、私は男なので女神ではないんですけど」
そう言って不敵に笑うユウ。
コウスケとミリンはそんなユウを見ながらゆっくりと立ち上がると、言葉を投げるように口を開いた。
「ユウさん、やっぱり貴女がこの村を襲って…」
「…だったらどうだと言うのです?」
「…ッ!」
ユウの言葉に思わず唇を噛むコウスケ。
2人はしばらく無言のまま対峙していると、コウスケがそっと2本の剣を構えた。
「もし…もしユウさんが襲ってたと言うのなら…俺は全力で貴女を止める…ッ!」
「コウスケ…」
覚悟を決めたコウスケを前に思わず声を漏らすミリン。
ユウはそんな2人を前に小さくため息を吐くと、呆れた様子で口を開いた。
「…せっかく生き延びることができたと言うのに…愚かなものですね」
「…兄様」
「えぇ、向こうの足止めは任せますよ。ローズ」
言い終えると同時にスミレ達の方へと歩き出すローズ。
こちらを睨むコウスケを前に、ユウは自身の胸に手を当てると、ゆっくりとペンデュラムを引き抜いた。
「ストレリチア、貴女は逃げなさい」
「で、でもユウ様…」
「ここで貴女に死なれる訳にはいかないのです。今は貴女自身が生き延びることを優先しなさい」
「わ、わかりました…」
どこか寂しそうに、ゆっくりとユウから離れるストレリチア。
ユウはストレリチアが森の中へ消え去るのを確認すると、再び視線をコウスケ達へと戻した。
「さて…貴方達がその気なら、いくらでも相手してあげますよ」
ーーー
「─ん!──ねさん!姐さん!」
「…は!?な、何!?」
「何じゃないですよお姉様!いい加減現実に戻ってください!」
ライムとスズナの声によって現実に引き戻されたスミレは慌てた様子で視線を戻すと、こちらへと歩いてくるローズ前に杖を構えた。
「…まさかそんなに警戒されるとは…予想以上の反応ですね」
3人の反応を前にそう呟くローズ。
スミレは足を止めたローズを前にそっとその口を開いた。
「…君は、一体ユウの何なんだ?僕のユウに何をした」
「僕の…ですか。面白いことを言いますね、貴女。…しかし、名前で呼ぶと言うことは貴女も…」
スミレの言葉に静かにそう呟いたローズは、警戒を解かない3人を前に、不意に自身のスカートの裾を掴むと、足を下げてお辞儀をした。
「…自己紹介が遅れました。私はローズ。魔王ルインの娘であり、兄様…いえ、貴女方の言う虐殺の女神の妹です。以後、お見知りおきを」
「ユウの妹…?兄様兄様って…馬鹿なことを言うんじゃない!ユウは男でも魔王ルインの娘でもない!」
ローズの言葉に思わずそう返したスミレ。
ローズはそんな指摘を前にしばらく黙っていると、表情を変えぬまま、微かに呆れるように声を漏らした。
「…わからない人ですね。兄様は正真正銘私の兄様ですよ。もっとその目でしっかり見ることですね」
「…ッ!言わせておけば…!」
淡々とそう語るローズに対し、スミレは声を荒げながらそう言うと、持っていた杖をより強く握りしめた。
ーーー
「ユウさん!目を覚ましてくれ!なんだってこんなことを…ッ!」
軋む身体を動かしながら、次々と剣を振り回すコウスケ。
ユウはそんなコウスケの攻撃をひらりひらりと受け流すと、不意に背後から飛んできたペンデュラムをかわすように地面を蹴って宙へ舞った。
「…少し、鬱陶しいです…ねッ!」
「…ゥ…ァ…ッ…」
「コウスケッ!」
宙返りをするように流れる動作でコウスケを蹴飛ばしたユウ。
ミリンが瓦礫の中に飛ばされたコウスケに駆け寄ろうと翼を広げた瞬間、着地したユウはペンデュラムを鎖のようにしてミリンの足を絡め取ると、その身体を地面に叩きつけるように撃ち落とした。
「…やはり、進化していましたか。通りで前回よりも動きにキレがあると思いましたよ」
カツカツと踵を鳴らしながらミリンに近づくユウ。
ミリンは手放したペンデュラムに手を伸ばそうとするも、あと数ミリメートルというところでいつの間にか白い鱗で覆われていたその手をユウに踏みつけられた。
「アァ…ッ!」
「…貴女、いい加減人族の味方するのを辞めたらどうですか?あんな非常識人、守る価値もないと思いますが」
「…ッ!…そんなこと、ない…ッ!」
語尾を荒らげながらユウを睨むミリン。そんな表情を前にユウは一瞬眉間にしわを寄せると、踏んでいたその足をどかしてミリンの伸ばした腕に一発、蹴りを入れた。
「…ッ!」
「…この際なので問います。貴女、私達についてくる気はないのですか?」
「…そんなの…ッ!ついてく訳無いでしょう!?」
睨みながらそう叫ぶミリンの姿に、ユウは小さくため息を吐くとミリンの胸ぐらを掴んで起き上がらせた。
「…非常に残念ですよ」
ユウは冷たい声でそう耳打ちをすると、そのままミリンの身体を怪物の死体の転がる方へと投げ飛ばした。
ーーー
「お姉様っ!」
「姐さんッ!」
スズナとライムの声を振り切り、杖を鈍器のように我武者羅に振り回すスミレ。
ローズは無駄のない動きでそれをすべてかわすと、一瞬の隙きをついてスミレの身体を後方へと突き飛ばした。
「…ッ!」
「…この程度なんですか。父様の術を防げたというのに、期待はずれですね…」
「…どういう…ことだ?」
ローズの言葉に、声を上げながらヨロヨロと立ち上がるスミレ。スズナとライムはそれを支えるように駆け寄ると、鋭い視線でローズを睨みつけた。
「いえ、貴女達には関係のないことです」
「…ッ!」
ローズの一言に言葉を詰まらせるスミレ。
3人はしばらくローズを睨みつけていると、不意にスズナがその口を開いた。
「…貴女、一体何のために私達と戦うのですか…?貴女の実力なら、私達など一瞬で殺せるでしょうに…」
スズナの言葉によって生み出されたしばらくの沈黙。そんな中、不意にローズは無表情のままため息を吐くと、回答をするようにそっとその口を開けた。
「貴女、面白いことを言いますね…そう、たしかに私は今の疲弊した貴女方なら一瞬にして殺すことはできるでしょう。…ですが、私が兄様に頼まれたのはあくまでも貴女方の足止め。何より裏切り者という訳でもない貴女方を殺す必要はありません」
「裏切り者…?」
「えぇ…私達の任務は裏切り者や危険因子の抹殺。貴女方が襲ってさえこなければ争う義理もありません」
ーーー
「あぁぁぁぁぁッ!」
ミリンが地面に叩きつけられた瞬間、コウスケは悲鳴を上げる身体をたたき起こすと、乗っていた瓦礫をすべて跳ね除け、叫びながらユウの元へと突っ込んだ。
「…!?」
飛びかかるように剣を振り下ろすコウスケを前に、ユウは咄嗟に足元に落ちているミリンのペンデュラムに手をかけると、コウスケを薙ぎ払うようにしながらそれを拾い上げた。
「…ァ…ッ!」
2本の剣を盾のようにしてすんでのところでそれを凌ぎ、後方に大きく弾き飛ばされたコウスケ。その瞬間、まるで相打ちとでも言うようにユウの持っていたミリンのペンデュラムは光の粒子となって消え去った。
「…貴方、一体どこにそんな力が…」
突然のコウスケの復活に動揺するユウ。
崩れるように地面に落ちたコウスケは、軋む身体を無理矢理起き上がらせると、その目つきの悪い、真っ直ぐな瞳でユウの姿を捉えた。
「ユウさん…こういうのはな…火事場の馬鹿力って言うんだよッ!」
全身の痛みを堪え、叫びながら何度もユウに飛びかかるコウスケ。
ユウはその一撃一撃をするりとかわすと、不意にコウスケの手首にカウンターを入れて持っていた2つの剣をはたき落とした。
「…だからいい加減…鬱陶しいんですよッ!」
「…グ…ァ…ッ…」
声を荒らげながら、スカートの下から見えた尻尾によって弾き飛ばされたコウスケ。まるで腹をえぐり取るようなその一撃は、コウスケの身体を怪物の死体が転がる方へと飛ばすと、音を立てて瓦礫の下へと埋もれさせた。
「…さて、思わぬ邪魔が入りましたがまぁいいでしょう」
スカートについた埃を払ってそう呟いたユウはミリンの方へと視線を向けると、ゆっくりと歩き出した。
「敵であるとはいえ、一応血縁者です。苦しまないように楽に殺してあげますよ」
倒れているミリンを見ながら、怪物の死体に刺さったスズナの槍を引き抜くユウ。
瓦礫の下からコウスケが這い出す中、ユウは血だらけの槍を手にミリンの前に立つとゆっくりとその槍を振り上げた。
「やめろォォォォォォッ!」
ユウが槍を振り下ろした瞬間、コウスケは反射的にそう叫ぶと、ミリンを庇うようにしてその間に割り込んだ。
ーーー
「…どうやら、おしゃべりもここまでのようですね」
ローズとスミレ達はしばらくの間お互いに黙って向かい合っていると、不意にローズがその沈黙を破るようにして口を開いた。
「どういうことだ」
「いえ、これ以上貴女方を足止めする必要が無くなった、というだけの話です」
ローズの言葉に息を呑むスミレ達。
ローズそんな3人を一瞥すると、ゆっくりとその足を後ろに下げた。
「…最後に一つ、私達がここに来たときは既にこの村は壊滅状態でした。…これが何を意味するのかは、貴女方にお任せしますよ」
置き土産のようにそう言い、空気に溶けるように消えていったローズ。
3人はしばらく無言のままその場を見つめるていると、不意に我に返ったようにその視線を外した。
「…!そうだ、ミリンの姐さん達は…!」
ライムの言葉に辺りを見渡すスミレとスズナ。
スミレが倒れている2人を目にした瞬間、不意にその視界に映った人影を前に、3人はまるで何かに足を掴まれたかのように駆け寄ろうとするその足を静かに止めた。
ーーー
額に流れる赤い液体。
コウスケは瞑っていた目をゆっくりと開くと、硬直する身体のままその視線を上に上げた。
「…ッ!何故…!何故殺せない…ッ!」
コウスケの顔を掠めるギリギリのところで小刻みに震えるスズナの槍。
ユウはもう一度、その槍を振り下ろそうとするも、コウスケに触れる寸前でピタリとその槍は止まった。
「…何故、こんな人間ごときに…ッ!」
声を荒げながら、怒りに任せるように槍を地面に突き刺すユウ。
コウスケは力の抜けていく感覚と共にゆっくりとその場に倒れ込むと、困惑しているユウの方へと視線を向けた。
「…次こそは必ず殺します」
ユウは何処か怒りのこもった声でそう言い放つと、振り返りながらゆっくりと空気に溶けるように消えていく。
『──そんなにあの人は大切なの?』
遠のく意識の中、不意に聞こえた声と共に、視界いっぱいに除きこむ少女の顔。
「あぁ…俺達にとって…欠かせない存在だ…」
朦朧とした意識の中、幻覚とも呼べるその光景を前に、コウスケは静かにそう呟くと、そっと意識を手放した。
最後の少女は誰なんですかねぇ…
皆さんこんにちは!赤槻春来です!
最近は特にいつも以上に更新遅い気がします…(受験終わるまで多めに見てください)
今回は21章だったかな?いかがでしたか?
ユウちゃんいなくなってからコウスケ達は早くもピンチの連続…誰か助けて上げて!(全部私のせいだけど)
さて、次回は第22章!謎の少女が出てきたり、ハーピィのお姉さん達が出てきたり…お、お楽しみに!
感想や意見、アドバイスなどありましたら感想欄やツイッターのほうに書き込んでくれると幸いです。
またのんびりと更新していく予定なので気長に待っていただければ幸いです。
それでは皆さん、またどこかであいましょう。
バイバイ!




