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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第4部.動き出す、新たな波
63/112

失われし、禁忌の術

「…これはひどいですね」

「えぇ…」


 浴びていた血を落とし、廃墟の村に開いた大穴を伝って地下にある研究所へと降りてきたユウとローズ。

 研究所は既に放棄されていたようで、まるで何かが暴れまわったかのような瓦礫だらけの悲惨な状態だった。


「…兄様、これではもう…」

「いえ、あの奥に一つだけ、微かな生命反応を感じます」


 そう言って瓦礫の山を指差すユウ。

 ローズは相変わらず無表情のまましばらくソレを見つめると、まるで興味を失ったように視線をそらした。


「…では、そちらは兄様に任せます。…私はこの施設の探索をするので」

「…くれぐれも、無理はしないように」

「心配いりませんよ兄様」


 そう言って施設の奥へと進んでいくローズ。

 ユウはそんな妹の背中を確認すると、瓦礫の山へと歩き始めた。


「…さて、どうやってここを突破しましょうかね」



ーーー



「2人共、一旦止まって」


 災いの森上空を飛んでいたコウスケ達は、不意に止まったスミレの声にその場で静止した。


「どうしたのスミレ?」

「何かあったのか?」


 不思議そうに首を傾げる2人を前に、スミレは乗っていたワイバーンから身を乗り出すと、大きな素振りで下を指さした。


「あれは…」

「…どうやら野宿とか言ってる場合じゃないらしいな」


 霧の中に微かに見える、目下に映る光景を前にそう言うコウスケとミリン。

 状況を理解出来ず3人に釣られるように下を見たスズナとライムは、そこにあった目的の村に隣接した赤く染まった木々を目に、その表情をこわばらせた。


「姐さん…」

「お姉様…これって…」

「スズナ、ライム…僕から離れるなよ。まずは一度、状況を確認する」


 スミレはそう言うと、2人がしがみついたのと同時にワイバーンを急降下させ、赤くなった木々から少し離れた場所へと降り立った。


「コウスケ」

「あぁ…」


 ワイバーンに続くように森の中に降りたコウスケとミリンは顔を合わせると、その周囲に漂う不気味な気配を前にそっと身構えた。


「コウスケ、ミリン。とりあえずあの赤く染まった場所へ移動しよう。目的地はその少し先だし、何があったのか状況も確認したい」


 ワイバーンを魔法陣の中へと戻し、そう言ったスミレの言葉に4人は頷くと、コウスケを先頭に例の木々へと歩きだした。




「これは…アラクネか?」


 赤く染まった木々の中心へとやってきたコウスケは、足元に転がる無数の首の無い死体を前にポツリと呟いた。


「真っ赤に染まってる理由はコイツらの返り血だったのね…」


 周囲の木から下垂れ落ちる血を見てそう言うミリン。

 そんな不気味な光景を前に、一度コウスケが離れようとすると、不意に死体を漁っていたライムが何処か不思議そうに声を上げた。


「なぁ姐さん、コイツだけ首が飛んでないんだが…」

「…?どういうことだ?」


 ライムの一言に駆け寄った4人。

 スズナはライムを退けるようにして死体(ソレ)を確認すると、何か分かったようにその顔を上げた。


「お姉様。この死体、首を締め上げられてますね…暴れまわった様子も無さそうですし、よっぽど強い相手だと思います」

「ここ周辺を牛耳っていたアラクネより強い相手か…相当厄介なことになったぞ…」


 スミレがそう呟いた瞬間、不意にその背後から気配を感じたミリンは、一瞬にして銃を取り出すと飛んできた糸のようなものを次々と撃ち落とした。


「今の攻撃…あの村の方から…?」

「…どうやら向こうも僕らの存在に気付いたらしいな」

「ここで立ち止まってる暇は無いってことね」


 ミリンの呟きに続くようにスミレとコウスケがそう言うと、5人は各々武器を構えて目的地である村の方へと足を動かしだした。



ーーー



 ユウと別れたローズは並んでいる壊れた培養カプセルの間を通り抜けるように先に進んでいると、不意に足元に散らばっている大量の紙を前にその足を止めた。


「…不用心なものですね。さしずめ研究中の人工魔物オモチャが暴走し、逃げて行ったというわけですか」


 紙をかき集めたローズはしばらくソレらに目を通していると、不意に現れた恐らく1番古いであろう色褪せた紙を前に、その紙をめくる手を止めた。


「これは…」


 その紙を読み終えたローズは持っている他の紙を全て自らの影の中に放り込むと、施設を再度見渡した。

 不自然に壊れていない2つの培養カプセルの間に立ったローズは、その奥にある壁に手をのばすと、その腕は何にも触れなかったかのように壁の中へとめり込んでいった。


「…そういうことですか」


 感情の無い声でそう呟いたローズは、手に持った紙も影に放り込むと、壁にめり込むようにして消えていった。




「…と…かげ…?」


 瓦礫の山の向こう側でグッタリとしていた一匹のアラクネは、不意に瓦礫の間から現れた来客を目に、欠損だらけその身体を起こそうとした。


「…そんな身体で起き上がれる訳無いじゃないですか」

「…ぇ…?」


 アラクネの前まで来た蜥蜴は不意にそう言うと、煙に包まれ、一瞬にしてその姿を変えてみせた。


「竜…人…?」

「えぇ…私はユウ。貴女をここから救出しに来ました」

「あて…助かる…?」

「安心してください。私の命にかけてでも保証しますよ」


 蜥蜴から元の姿へと戻ったユウはそう言うと、安心したのか意識を手放したアラクネの身体に手を当てた。


「…足の損傷が5本、皮膚や内蔵ももはやボロボロ…少なくとも1週間以上は生きていると考えると相当な奇跡ですね…」


 アラクネの状態を理解したユウは、その両手につけている手袋を取ると、鋭利なその爪で自身の左手首を貫いた。


「荒治療ですが…あとは貴女の回復力次第ですね」


 ユウは自身の手首から流れ出した血を飲ませるようにアラクネの口に腕に近づけると、何処か祈るようにそう呟いた。



ーーー



『────────ッ!』


 コウスケ達が村(だったもの)に到着すると、まるで獲物を待っていたかのように一匹の巨大な怪物が咆哮を上げた。


「なんだコイツは…」

人工魔物コンストラクト・モンスターか…これはまた面倒くさいものを合成されたものだ…」


 全身を鎧のような鱗で包み、蜘蛛の下半身から生えた人型の上半身、そしてその背中に生えた大きな翼と計10本の手足からなる怪物の巨体を前に、コウスケとスミレは思わずそう呟いた。


『───ッ!』


 再び咆哮を上げながら飛びかかる怪物。

 コウスケ達が咄嗟にそこから退くと、怪物は周囲に残っていた建物を破壊しながら地面に大穴を開けた。


「なんという火力…」

「あんなの食らったらひとたまりもねぇよ…」


 目の前の光景に思わずそう呟くスズナとライム。

 スミレはズレた眼鏡をかけ直すと、そっと手に持った杖を前に構えた。


「…どうやら早く駆除しとかなきゃまずいみたいだね。出てきなさい!〈ダークスライム〉ッ!」


 スミレの掛け声と共に、魔法陣から姿を表す闇色のスライム。


『───────ッ!』


 怪物がソレを目にした瞬間、スライムは怪物を飲み込むようにして多いかかるも、不意に怪物から発せられた謎のオーラのようなものにその巨体は弾かれた。


「ダークスライムッ!」


 咄嗟に叫んだスミレ。ダークスライムはしばらく怪物に襲いかかろうとしたものの、怪物の腕から繰り出された斬撃をいなすことなく食らって消滅してしまった。


「あのダークスライムが一瞬で…」


 衝撃的な光景に言葉を失う4人。

 ミリンはひとりそう呟くと、不意に目が合った怪物を前に咄嗟に銃を構えた。



ーーー



「…これは…一体…?」


 目を覚まし、周囲を見渡したアラクネは、傷一つ無く元通りの姿になっている自身を見ると、その手足を動かしてムクリと起き上がった。


「…目が醒めましたか」


 背後に腰掛けていたユウの声に驚いた様子で振り向くアラクネ。

 ユウは腰掛けていた瓦礫を払うように立ち上がると、どこか怯えたように萎縮しているアラクネの方へと視線を向けた。


「身体の調子はどうですか?」


 ユウの言葉に改めて自らの身体を見回したアラクネは8本の足を起用に動かすと、動く身体を確認するようにゆっくりと立ち上がった。


「えと…大丈夫、です…」

「それならよかった」


 アラクネの返事に笑いかけるユウ。

 そんなユウの反応にアラクネはしばらく戸惑った様子で顔をそらすと、不意に視界に入ったユウの左手首からポタポタと流れる血を前に、ゆっくりとその口を開いた。


「あの…」

「…?どうしました?」

「その手首…どうしてあてなんかを助けて…」


 途中まで言いかけたアラクネの口を塞ぐように人差し指を当てるユウ。

 アラクネは開いた口をそっと閉じると、ユウの方へと視線を向けた。


「貴女、名前は…?」

「ストレリチア…です…」


 アラクネ─ストレリチアがそう名乗ると、ユウは唇に付けていた指を離して微笑んだ。


「ストレリチア…私は、貴女だから助けたんですよ。心が腐りきっていない貴女を…ね」

「ぇ…」

「純粋な貴女ならきっと、まだまだ進化(成長)できるはず…そう、私が予想するよりもずっと、ね?」


 ストレリチアはしばらくの間口をパクパクさせていると、その両手を自らの胸の前で握りしめた。



ーーー



『─────ッ!』


 咆哮と共に襲い来る怪物の攻撃を逃げ回るように回避するコウスケ達。

 不意に飛びかかってきたその攻撃をかわした5人は咄嗟に物陰に隠れると、息を潜めてへたり込むように腰を落とした。


「なんだアイツ…早すぎる…」


 物陰から怪物の様子を伺っているコウスケはそう呟くと、あがった息を整えるように瓦礫の山にその背中を預けた。


「少なくとも、僕のダークスライムよりも強い。あのオーラに魔法が弾かれる以上、悔しいけど攻撃魔法を持たない僕はこれ以上参加するのは難しそうだ…」

「お姉様…」

「姐さん…」


 現状を見てそう言うスミレ。

 ミリンはコウスケと交代するように怪物の様子を見ていると、どこか思い立ったようにポツリと呟いた。


「せめて、弱点さえわかれば…」

「弱点…!?それだ!」


 ミリンの言葉に思わず反応したスミレ。

 その声が聞こえたのか、怪物はコウスケ達の隠れる物陰へその視線を向けると、再び咆哮を上げて一直線に突進してきた。


『───ッ!』

「…ッ!ゲート!」


 怪物がコウスケ達の隠れていた瓦礫の山に触れる瞬間、咄嗟にミリンが魔法陣を展開させると、コウスケ達は怪物に弾かれるようにその魔法陣の中へと飛び込んだ。



「いてて…助かったよミリン」

「間一髪だったよ…間に合ってよかった…」


 ゲートによって村から少し離れた森の中に飛ばされた5人。

 コウスケは倒れている上体を起こすと、打ち付けた背中をさすりながら口を開いた。


「それで…スミレさん、さっき何か思いついたんですか?」

「あぁ…まぁそんな余裕ができれば、って話だけどね」


 スミレの言葉に顔を見合わせるコウスケとミリン。

 スズナとライムはミリンの台詞を思い出すようにしばらく頭を動かすと、思い立ったようにその手を叩いた。


「姐さん、それって…」

「お姉様!わたくしの出番ですね!」

「そうだよ。スズナならあの怪物の弱点、見極めてくれると思ってね」


 ようやく役目を与えられたのが嬉しかったのか、スミレの台詞に胸を張るスズナ。

 一方、うんうんと頷いているライムと対象的にコウスケとミリンは理解していない様子で首を傾げていた。


「…?どういうことだ?」

「スズナは相手の弱点を見極めるのが得意なんだ。本人が戦闘に参加できないのは弱点だけど、弱点さえつけばどんな強敵も相手できるからね」


 コウスケの質問にそう答えるスミレ。

 スズナは任せてくださいとでも言うように胸を叩くと、得意気に胸を張った。


「じゃあ…わたしが囮になってアレをひきつけておくから、スズナはアレの弱点を見つけてもらえるかな?」

「ちょ、ミリンの姐さん!?正気っすか!?」

「大丈夫、わたしはこれでも竜人の一人なんだから、ね?」

「姐さん…」


 心配そうにそう言うライムに優しく言い掛けるミリン。

 スミレはそんな2人の様子を見ると再び口を開いた。


「ミリンになら安心して任せられるさ。それに僕らはスズナの護衛もしないといけないしね」

「お姉様…」

「…大まかな作戦はこうだ。スズナが弱点を見つけ次第、僕とスズナの2人で君達に強化、支援魔法をかける。僕らは戦力にはならないと思うけど、あの怪物の攻撃をかわしつつ、君達に助力する」

「じゃあ俺達は準備が整い次第全力でアレを潰しに行けばいいってことね。了解した」


 コウスケの言葉に続くように4人は頷くと、各々武器を構えながら再びミリンの作った魔法陣の中へと飛び込んでいった。



ーーー



「…死体の数が合わないのはこれに使われたせいですか」


 研究所の一室。

 ホログラムでできた壁をすり抜けたローズは、床に描かれた闇色に光り輝く巨大な魔法陣を前にひとりそう呟いた。


「悪魔を呼ぶ禁忌の魔法…しかも既に発動済ですか…この感じは失敗…とは言い難いですね…」


 魔法陣に手を当て、瞳を閉じたローズは頭に流れてくる映像(・・)を目に静かにそう言った。




「ユウ様…一体何を…」


 瓦礫の山へと手をあて目を瞑っていたユウを前に、ストレリチアは困惑した様子でそう言うと落ち着かない様子で手足を動かしていた。


「…妹も仕事が終わったみたいなので私達もここを出ましょうか」

「ぇ…でもあて、ユウ様みたいに蜥蜴になったりとかは…」

「いえ、安心してくださいストレリチア。もうここを壊さずに通る理由は無いので」


 ユウの言葉に理解が追いついていないストレリチアを前に、ユウは伸ばしていた右手を振りかざすすと、道を塞いでいた瓦礫の山を殴りつけるようにして木っ端微塵にした。


「ここも間もなく崩壊します。脱出しますよ、ストレリチア」

「ぇ…あ、はい…」


 ユウに手を引かれ、ストレリチアが開かれた瓦礫の上を通り過ぎた瞬間、先程まで2人がいた空間は音を立てて崩れ去った。



ーーー



『──────ッ!』


 怪物の腹部から飛んできた糸をかわし、翼を広げて空を舞ったミリン。

 怪物はそれを追いかけるように翼を広げると、8本の足で地面を蹴って飛び上がった。


「ミリンの姐さん!」

「わたしは大丈夫!それより早く、コイツの弱点を!」


 銃を発砲しながら、ひらりひらりと攻撃をかわすミリン。

 コウスケ達が地上からそれを見上げていると、不意にスズナがスミレの肩を叩いた。


「お姉様、あの魔物…恐らく弱点は体内にある2箇所の心臓だと思います」

「2箇所の心臓…?どういうことだ?」

「あの人型の上半身に一つ…それと、あの蜘蛛型の下半身にもう一つ。装甲が厚いので下から貫いた方が可能性としては高いと思われます」


 スズナの台詞に再び視線を戻すスミレ。

 ミリンはその様子を察したのか、勢いよく飛びかかってきた怪物をかわして距離を取ると、4人の元へと着地した。


「スミレ、アイツの弱点は!?」

「上半身と下半身にある2箇所の心臓だ。僕らが魔法で援護するからタイミングを見て離れた場所にとばしてくれ」

「わかった」


 一瞬にして言葉をかわした2人はそのまま頷くと、上空から急降下してくる怪物へと視線を向けた。


「さぁ…りますか…!」


 武器を構えそう呟くコウスケ。

 怪物が5人をめがけて地面に衝突する寸前、コウスケ、ミリン、ライムの3人は飛ぶようにして後方に下がると、各々の剣やペンデュラム、槍で怪物の蜘蛛の足を切り落とした。


『───ッ!』


 悲鳴のように奇声を上げる怪物。切り落とされた蜘蛛の足はすぐさま再生されると、コウスケ達を蹴るようにして弾き飛ばした。


「…ッ!やっぱすぐに再生されるか…」


 かろうじて2本の剣で攻撃をしのいだコウスケは、剣を突き刺すようにして立ち上がると怪物の方へと視線を戻した。


「にしてもあの再生力は反則すぎるだろ…」


 コウスケはひとりそう呟くと、向かってくる怪物の攻撃を前に再びその剣を構えた。




「ミリンの姐さん、下半身の方はあたしに任せてもらっていいっすか?」

「どういうこと…?」


 怪物の攻撃を受け、後方に飛ばされたミリンは同じく飛ばされたライムの言葉に不思議そうに視線を向けた。


「あの怪物、多分何度腕を切り落とそうが頭を落とそうがすぐさま再生されると思うんすよ」

「うん…」


 ライムの言葉を聞きながら怪物の方へと視線を戻す2人。

 コウスケと交戦している怪物はライムの言う通り、何度コウスケに頭や手足を切り落とされるもすぐに再生、反撃を繰り返していた。


「スズナが言ってた2つの心臓…それさえ砕ければ勝機がありそうだね…」

「上半身の鱗はあたしの槍じゃ貫けないんで、せめてこのリーチを活かして真下から蜘蛛側の心臓を貫ければ…と」


 真剣な表情でそう言うライム。

 ミリンは少し考えるように眉間を寄せると、何か思いついたようにその口を開いた。


「おっけー、そういうことならわたしに任せてよ!」




「…ッ!きりがねぇ…」


 怪物の腕を切り落とすも、回復されたそれによって弾き飛ばされたコウスケは、次々と仕掛けてくる怪物の攻撃をなんとか剣でいなしながら体制を整えていた。


『───ッ!』


「…!そこだッ!」

 怪物が咆哮を上げた瞬間、一瞬だけ攻撃の止むそのタイミングを待っていたかのようにコウスケは飛び込むと、2本の剣でその胸を切りつけた。


「…ッ!嘘だろ…ッ!」

『───ッ!』


 ガキンという重い音と共に、コウスケの一撃は怪物の装甲に弾かれると、不意に横から飛んできた怪物の拳に、その身体はすこし離れた崩壊寸前の建物へと突き飛ばされた。


「…っ…ぁ…」


 建物と共に瓦礫の中に崩れ落ちるコウスケ。

 怪物はそんな光景を前に翼を広げると、コウスケに追い討ちをかけるように飛びかかってきた。


「今よ!ライムッ!」


 怪物がコウスケの上に着地する寸前、不意に聞こえたミリンの声と共に、コウスケの目の前に現れた魔法陣からライムが飛び出すと、怪物の腹の下をスライディングをするようにしながら手に持った槍を怪物の身体の中へと突き刺した。


『────ッ!──ッ!』


 腹部への一撃を喰らい、苦しそうな様子で今まで出さなかったような声を上げる怪物。

 コウスケは痛む身体を起き上がらせると、墜落する様に落ちてくる怪物からそっと距離をとった。


「コウスケ!大丈夫!?」


 ヨロヨロと歩くコウスケに駆け寄ったミリン。

 コウスケは持っていた剣を地面に突き刺すと、手を回すミリンにその身体を預けた。


「スミレさん達のおかげでなんとか…」


 コウスケがそう言った瞬間、不意に先程までその場で藻掻いていた怪物がその上体を起こすと再び咆哮を上げた。


「…休んでる暇は無いってことね」


 コウスケは徐々に回復していくその身体を無理矢理起き上がらせると、地面に刺した剣を引き抜いた。


「…行けるか、ミリン?」

「こっちの台詞よ。コウスケ」


 ミリンはコウスケに釣られるように立ち上がると、再びその手にペンデュラムを出現させた。


「…さぁ、りますか…!」



ーーー



「悪魔召喚、ですか…」

「みんな、その生贄にされたって…」


 研究所の一角、ローズと合流したユウとストレリチアはローズの放った言葉を前にそう呟いた。


「いえ、正確には生贄というよりは器ですね。ここに捕虜にされていたアラクネは皆、その悪魔の器として犠牲になった、ということです。まぁ、一部の個体はエイズの人工魔物オモチャにされた可能性もありますが」


 淡々とそう述べるローズ。

 そんなローズを前に、ストレリチアはどこか悲しそうな、そして怒るように拳を握りしめると、不意にユウがその肩に手を載せた。


「ストレリチア、ここは抑えてください」

「ユウ、様…」


 ユウの言葉にそっと手の力を抜くストレリチア。

 ローズはストレリチアが落ち着くのを待つと、再び言葉を続けた。


「仮に悪魔召喚が成功していた場合は…」

「その時はその時ですよ、ローズ。脅威になると確定していない以上、無意味に殺す必要はありません」

「…兄様がそう言うのなら」


 ユウの台詞を前に口を閉ざすローズ。

 ユウはローズを宥めるようにその頭に手を置くと、撫でるようにしながら口を開いた。


「…さて、私達はそろそろここを出るとしましょう。地上にいる人工魔物(オモチャ)の処理もしないといけませんしね」



ーーー



 ライムの一撃を受け、腹部に槍の刺さったままの怪物を前に、コウスケとミリンは連携するようにしてひたすら攻撃を繰り返していた。


「コイツ…硬すぎるッ!」


 怪物の攻撃をかわし、コウスケが飛びかかるようにその胸に剣を突き刺すも、剣先は謎のオーラとその鱗の鎧に阻まれ、手足と違って傷一つ付けることができなかった。


「…チッ!」




 戦場を離れ、怪物の目を盗んでスミレ達のいる物陰へとやってきたライムはその緊張が解けたのか力尽きるようにその場に横たわった。


「ライム、大丈夫かい?」

「姐さん…」


 戦うコウスケとミリンを覗きながら、心配そうに声をかけるスミレ。その足元には、常に魔法を放っているせいかいくつかの魔法陣が展開されていた。


「ライム、流石の戦い方でしたね。まさか捨て身であの怪物の心臓を破壊するなんて…わたくしにはできませんわ」

「…そうかい」


 スズナの言葉にそっと目をそらすライム。

 ライムは徐々に回復していくその身体をゆっくりと起こすと、瓦礫に身体を預けるようにしながら怪物の方へと視線を向けた。


「…あの怪物、だんだん動きが良くなってる」

「ぇ…?」

「どういうことだ?」


 不意に放ったスミレの言葉に対し反射的に聞き返す2人。

 スミレは真剣な目でその戦いを見つめると、そっとその口を開いた。


「たしかに片方の心臓にはライムの槍が刺さったままだ。…たしかに回復速度は下がったのに、それ以上にミリン達の攻撃が読まれ始めてる気が──」


 スミレがそこまで言いかけた瞬間、コウスケとミリンの攻撃をかわした怪物が不意にその上体を捻ると、カウンターを放つようにコウスケの身体に向けてその拳を振り回した。


「…ッ!〈ウォール〉ッ!」


 反射的にスミレがそう叫ぶも、コウスケと怪物の間に現れた魔力の障壁は怪物のその拳によって一瞬にして粉砕されると、その勢い衰えぬままコウスケをその後方へと殴り飛ばした。



「コウスケッ!」

「──ッ!」


 怪物の攻撃を喰らい、地面を打ち付けられるように飛ばされたコウスケ。

 怪物は心配するミリンに反撃の隙きを与える間もなくその巨体をぶつけると、空中を舞っていたミリンを地面に突き落とした。


『────ッ!』


 満身創痍のコウスケを前に怪物が咆哮と共にその腕を振り上げた瞬間、不意に背後から伸びてきた何かがその胸部を貫通すると、怪物は全身あらゆるところから血を吹き出しながら静かに崩れ落ちた。

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