新たなる仲間
「ローズ、何故あんな攻撃を誘うような真似を」
魔王城の一角、ローズの部屋でシャワーを浴びていたユウはそのお湯を止めると、扉の向こうに寄りかかっているローズに向かってそう言った。
「それは…」
扉越しにそれを聞いたローズは、「彼等に絶望を見せるため」という言葉を言いかけると、無表情のまま慌ててその言葉を飲み込んだ。
「…兄様の活躍の場を増やしたかったから。ということにしておいてください」
「…そういうことにしておきますね」
ローズの台詞を聞いたユウはそれ以上の詮索を辞めると、再びシャワーを浴び始めた。
ーーー
「…えっと、つまりはおっちゃんがあの時の赤竜で、ユウさん達の父親で、ミリンとユウさん達は従兄妹同士だったってこと?」
「そういうことだ」
一通り説明を終えたカズヤの言葉を復唱するようにコウスケがそう言うと、カズヤはゆっくりと首肯した。
「あの日、力の大半を失ったせいで中々元の姿に戻れなくてな…勝手ながらあんちゃんを利用して《ドラゴソード》を成長させてもらった。…まだ一部だけだが、おかげでようやく元の姿に戻れるようになったからな」
そう言って右手に持った《ドラゴソード》をコウスケに見せるカズヤ。
コウスケは色々な事実を前にパンクしそうになる頭を押さえると、一度大きく深呼吸をした。
「…じゃあ、ユウさんがおっちゃんに妙に懐いてたのは…」
「父親だったから、だな。まぁずっと人間程度の力しかなかったし本当に俺だとは思ってなかったとは思うが」
「死んだ父親に重ねてたって訳ね…」
コウスケがポツリとそう呟いた瞬間、不意に何処かから1羽の美しい鶴が飛んでくると、カズヤの足元へと着地した鶴は手のひらサイズの折り鶴へとその姿を変えた。
「鶴…?」
「折り鶴…?」
突然の状況にそう呟くコウスケとミリン。
一方、ガウラ、王、アネモネの3人はガウラの拾い上げたソレの中身を見ると、何かを察したように顔を見合わせた。
「ガウラ、この案件はアンタらに任せる。どうやら俺はもう少し、あんちゃん達と話さなきゃいけないみたいだ」
「…わかった。迅速に対処させてもらうよ」
カズヤの台詞に頷いたガウラは王とアネモネに視線を送ると、2人と共に足早に城へと戻っていった。
「叔父さん、今のは…」
「妻からのラブレター、と言ったとこかな。…ま、そんな縁起のいいもんではないけど」
カズヤの言葉に首を傾げる2人。
カズヤは一瞬ため息をつくように息を吐くと、2人の斜め後ろにある生け垣を見ながらそっとその口を開いた。
「…そこに隠れてる嬢ちゃんも出てこいよ。この話は嬢ちゃんも少なからず関係があるからな」
カズヤの台詞に2人が振り返ると、その視線の先にある生け垣の裏からやれやれといった様子でスミレが姿を現した。
「スミレさん!?」
「スミレ!?」
「ははっ…流石に僕の存在はバレてたか…みんなユウの事を急に忘れるしカイトは攫われるし…きっとこの話も何か関係があると思ったんだけどな…」
何処か悔しそうにそう言うスミレはゆっくりとカズヤの元へと歩いていくと、驚いている2人の横に並ぶようにしてその足を止めた。
「…それで、僕達に言う話ってのは?」
「あぁ…それはな──」
スミレの言葉に答えるように口を開くカズヤ。その内容を前に、コウスケとミリンはただただ立ち尽くして聞くことしかできなかった。
ーーー
魔王軍との全面戦争から1週間。
戦死者の供養などを終えたガウラ達は、再びギルドへと足を運んでいた。
「すみませんガウラさん、遅れてしまって…」
「いや、気にしなくていい。それにまだ約束の時間にもなってないからな。別に遅れたわけじゃないだろう」
応接室のソファーに腰を掛けていたガウラは、そんな声と共に入ってきたコウスケ、ミリン、スミレの3人を目にすると、一度立ち上がって3人を向かいの席に座るように促した。
「…仕事、ですよね?…僕達を呼ぶってことは」
「あぁ…」
スミレの言葉に頷いたガウラは、真剣な目でコウスケ達を一瞥すると一度息を吐いてからその口を開いた。
「…アネモネから聞いたんだが、君達はどうやらあの虐殺の女神のことを知っているらしいね」
『虐殺の女神…?』
ガウラの言葉を理解出来ず復唱する3人。
ガウラは一瞬痛くなる頭を押さえると、説明をするように再び口を開けた。
「…そう、虐殺の女神。…あの日、戦場で骨の巨人を召喚したあの女のことだ。…俺達の記憶には残ってないが、一応それらしき記録も見つかった」
そう言って1枚の写真のようなものを差し出すガウラ。その写真は先日行われた大会のもので、コウスケとユウが表彰されている瞬間が写っていた。
「この写真…」
「あぁ…例の砂の巨人が出現する直前のものだ。…何故か俺達にはあのときどうやって収束したのか覚えていないんだが、ここに写ってる虐殺の女神と何か関係があるのかと思ってな。…さて、本題なんだが」
写真を机の上に置き、不意に立ち上がったガウラは話題を変えるようにそう言うと、「まぁカズヤ兄さんから一通り聞いてると思うけど」と呟きながら手元に現れた魔法陣から何枚かの資料のようなものを取り出した。
「…これは一体?」
「最近再び増えはじめた死神騒動と魔物の居住区域への侵入報告、それと…」
そう言ってガウラが指差した先にある1文を読んだコウスケ達は一瞬、その言葉を失うと、信じられないといった様子で口を開いた。
「『虐殺の女神による村の強襲』…」
「嘘でしょ…?」
コウスケの言葉に続いてそう呟くミリン。
そんな2人を横に、スミレは何処か呆れたようにため息を吐くと、そっとその口を開いた。
「こんなの、ガセに決まってるよ。…それに、あの戦場で彼女を直接見たのは僕達だけだ。他の兵士が物言わぬ屍となった今、隣国が彼女の噂を使って何かを隠そうとしたに違いないさ」
「スミレさん…」
「スミレ…」
スミレのその台詞に思わずそう呟いた2人。
ガウラはそんな3人の様子をしばらく見ていると、話を続けるように再び口を開いた。
「彼女の言う通りだ。そもそも、虐殺の女神というのはこの戦争で流れた単なる噂…彼女がその噂でそう呼ばれてるだけに過ぎないしな」
「じゃあ、一体誰がこんな…」
「そう…そこで、だ。今回、君達3人にはこの噂に隠された何かを探してほしい。…まぁ、俺の尊敬するカズヤ兄さんの娘がそんな事してないと信じたい個人的な気持ちも多少はあるんだが。…頼まれてくれないだろうか?」
そう言って頭を下げるガウラ。
コウスケとミリンはお互いの顔を見合わせると、小さく頷いた。
「わかりました、ガウラさん」
「わたし達がその真実を突き止めてきます!」
「2人共…!」
「及ばずながら僕達も参加させてもらうよ。彼女を追えばカイトの行方も分かるかもしれないしね」
3人の言葉にガウラは再び頭を下げると、コウスケ達と固い握手を交わした。
「紹介するよ。彼女達は僕の後輩で、学園が休みのときは一緒にパーティを組んでいる実力者だ。今回の一件、カイトの事で一緒に付いてきてもらうことにした」
ガウラとの話が終わり、ギルドを後にした3人が宿屋に戻ると、その客間にはいつか見たことのあるいかにもお嬢様な少女と何処かギャルを思い出させるような金髪の少女が待っていた。
「お初にお目にかかります。私、スズナと申します。お二人のことはお姉様から聞いております。今回はお姉様に頼まれてここへやってきた次第です」
「アタシはライム。一応、槍使いとして活動してる」
スズナ、ライムと名乗った2人がそう言って頭を下げると、その隣でうんうんと頷いていたスミレがそんな2人の背中を叩いた。
「2人の実力は僕が保証する。仲良くしてやってくれないかな?」
スミレのその言葉に、コウスケとミリンは顔を見合わせると、それぞれ手を出して口を開けた。
「2人共、これからよろしくな」
「頼りないかもしれないけどよろしくね!」
ミリンの言葉を聞いた2人は勢いよく顔をあげると、コウスケを無視して差し出されたその手を握り返した。
「いえいえ!とんでもありません!」
「ミリンの姐さんと一緒はとても心強いですよ!」
「えっ…あ、ありがとう…」
困惑するミリンを横にコウスケが唖然としていると、不意にスミレがポンとその肩を叩いた。
「あの娘達は元々僕と同じようなものだから、気にするんじゃないよ」
「スミレさん…」
「ま、カイト相手にも同じような反応してるし、なんだかんだで上手くいくさ」
そう言って2人をミリンから引き剥がすスミレを前に、コウスケは一瞬過ぎった不安を振り払うように頭を振ると、前に出していた手をそっとズボンのポケットへ突っ込んだ。




