影竜 スカーレット・ドラゴン
干上がり、もはや湿地帯とも言い難い森の一角。
カズヤのかざす《ドラゴソード》は、まるで周囲の光を奪うようにその空を雲で覆うと、カズヤの身体を巨大な影の繭へと包み込んだ。
「カズヤ兄さん…」
骨の巨人から距離をとり、繭の後ろへと陣取ったガウラはその目の前に映る懐かしい光景を前に、ふとそんな声を漏らした。
──ピキィ…
雲の間から差し込んだ光に当たり、影の繭に次々と亀裂が走る。
雲が晴れ、その繭が光に包まれた瞬間、強烈なプレッシャーと共に繭の中から1匹の赤竜が姿を現した。
『久しい我が本当の姿…ガウラ、トドメは任せたぞ』
赤竜はそう言うと、飛び乗ったガウラを背中に、その翼を広げて空へと舞い上がった。
ーーー
「…ここは一体…」
お腹の上に何かがのしかかる感覚を感じ、目を覚ましたコウスケ。
ぼやけた視界の中、視界に映る見たことのない白い天井を前に、コウスケはゆっくりと上体を起こした。
「傷口が塞がってる…そうか、お前が治してくれたんだな…ミリン」
コウスケの腹の上で気持ちよさそうにスヤスヤと眠るミリン。
服こそ破れているものの、抉り取られていたコウスケの右腹は傷一つない綺麗なそれへと戻っていた。
「ありがとな…」
無意識のうちにミリンの頭を撫でているコウスケ。
そんな中、不意に2人の足元に蟠っていた影の中から王がヌッと這い出てきた。
「お、王様…!?」
「あ、いやすまない…邪魔をするつもりはなかったのだが…」
「いえ…それは別にいいんですけど…」
そう言っていきなり出てきた王を前に固まるコウスケ。
王はしばらく周囲を見渡すと、立ち上がってコウスケの方へと視線を戻した。
「お主…確かコウスケといったな」
「えっ…あ、はい」
「すまないが娘がどこにいるか知らないだろうか?」
「姫様を…?」
「うむ。城に戻っているはずなのだが…」
王がそう言った瞬間、まるでタイミングを見計らったかのように部屋の扉がバンと勢いよく開かれると、焦ったような表情をしたアネモネが部屋へと入ってきた。
「お父様!」
「おぉアネモネ…!無事だったか…!」
「無事だったかじゃないわよ!なんでいきなり戦場に飛び出して…死んだらどうするつもりだったのよ!」
「…いてもたってもいられなかったのだ」
王がそう言った瞬間、声を荒らげていたアネモネは、握っていた拳をそっと下ろすと、安心したように王の胸へとしがみついた。
「心配…したんだからね…」
「…すまないな。アネモネ」
アネモネを安心させるように抱き返し、頭を撫でる王。
コウスケは撫でていたその手を止めると、しばらくの間空気のようにそんな親子の様子を眺めていた。
ーーー
『────ッ!』
咆哮を上げ、次々と槍を突き出す骨の巨人。
影竜は、骨の巨人のそれをひらりとかわすと、その身体を見下ろすように宙へと舞い上がった。
『今から俺が奴の装甲を破壊する。お前は核が見えた瞬間、奴に刺さったあの大剣を引き抜いてくれ。そうすれば、奴はもう再生できない』
「でも…それじゃあの男は…」
『骨の巨人の核にされた瞬間、あれはもう死んだのも同じだ。殺されなければ永遠に苦痛を味わうことになる』
「…ッ!」
影竜の言葉に声をつまらせるガウラ。しかし、苦しむような咆哮を上げる骨の巨人を前にその唇を噛むと、その拳を強く握りしめた。
『…任されてくれるか?』
「…あぁ、任せろッ!」
覚悟を決めたようなそんなガウラの返事に、影竜どこか満足気に頷くとその大きな口で息を吸い込んだ。
『───〈地獄竜の吐息〉───』
影竜の放ったその竜の吐息は、骨の巨人をめがけて飛んでいくと、一瞬にして周囲を地獄のような火の海へと変えた。
『ガウラ!今だッ!』
火の海の中、骨の巨人の纏っていた骨が灰となって剥がれ、核となったコーンがむき出しになった瞬間、影竜の背中から飛び降りたガウラはコーンの肩に突き刺さった大剣を掴むと、その身体を真っ二つにしながらそれを引き抜いた。
『────────────────ッ!』
再び咆哮を上げ、崩れ落ちるコーン。
再生しかけていた周囲に散らばった骨は、そんなコーンと共に重力にしたがって地面へと落ちていった。
「…」
燃える戦場の中、影竜がその場に降り立つと、大剣を握ったガウラはそっとその目を空へと向けた。
ーーー
「大変だ!赤竜がものすごい勢いでこちらへ向かってきてるぞ!」
城内の一室、コウスケが目の覚めたミリンやスミレと共に怪我を負った兵士達の治療へとあたっていると、不意に見張りをしていた兵士の一人がものすごい勢い形相で叫びながら部屋へと飛び込んできた。
「赤竜が…?奴は半年近く前に討伐したはずじゃ…」
「クソッ…こんな時にッ!」
怪我をしている為、自らが動けないことに次々と愚痴を言う兵士達。
コウスケの心がざわつく中、そんな気配に気付いたのか、ミリンは不意に立ち上がると、その肩へと手を添える。
「コウスケ」
「あぁ…すみませんスミレさん。後は任せてもいいですか?」
「気にしないで。僕は僕にできることをするだけだから」
「そう言ってくれると助かる」
変わらず怪我人の対応にあたるスミレを前にコウスケはそう言うと、2人は嵐のように部屋を後にした。
「無事だったか、2人共」
城内に広がる庭の一角、王はガウラを乗せて空から舞い降りる影竜をアネモネと共に眺めていた。
『俺達は…な』
「…どういうことだ?」
地上に降り立った影竜の言葉にそう聞き返した王。
ガウラは影竜の背中から飛び降りると、王の前に手に持っていたものを差し出した。
「…ッ!これは…」
「コーン騎士団長だ。あの、骨の巨人の核にされてた、な」
ガウラの右手に乗ったコーンの頭を前に、王はその手を合わせると、その死を惜しむようにそっとその目を閉じた。
「…すまないコーンよ。お主は立派な人間だった…せめて安らかに、眠っておくれ…」
王の横で同じように手を合わせるアネモネ。
王がそう言い終えると、2人の思いが届いたのかコーンの頭はまるで役目を終えたかのように光の粒となって空気へと溶けていった。
「…!あれは…!」
降り立った影竜を視界に捉え、広い庭へとやってきたコウスケとミリンは、空気に溶けた光の粒を目印にするようにその場へと駆け出していた。
『…ん?まさかこのタイミングで鉢合わせることになるとは…』
2人の気配を感じ取った影竜は下げていたその頭をゆっくりと上げると、どこか安心したような、そしてどこか驚いたようにそう声を上げた。
「この赤竜って…まさか…影竜?…いや、影竜はたしか死んだはずじゃ…」
間近で見た影竜を前にそんな声を漏らすコウスケ。
気配に気付いた王は振り返ると、その2人の姿を見て驚いたように口を開いた。
「君達、どうしてここに…」
『安心しろ。コイツらは俺の知り合い…いや、家族だからな』
「…どういうことだ?」
影竜の言葉に思わず声を漏らす王。
コウスケとミリンも不思議そうに首を傾げていると、影竜は一瞬、光りに包まれるとその姿を人間の『カズヤ』の姿へと変えた。
「叔父さん!?」
「おっちゃん!?」
目の前に立つ、《ドラゴソード》を片手に頭をかくカズヤのその姿に、2人は思わず声を重ねて驚いた。
皆さんこんにちは!赤槻春来です!
第20章、いかがでしたか?
というかもう20章か…早いようなそうでもないような…更新遅くてすみません。
衣装チェンジしたユウに、手も足も出なかったコウスケ達。
カズヤが影竜だったりガウラとカズヤが知り合いだったり…これから一体どうなるの!?
さて、次回は21章!新しいパーティができたり、新しい魔物が登場したり…あれ?またエイズがなにかやって…お楽しみに!
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それでは!みなさん!またどこかでお会いしましょう!
バイバイ!




