終末へのカウントダウン
コウスケが異世界に召喚されてから2日が経った。
ミリンと2人でパーティを組んだコウスケは依頼を順調にこなしていった。
「これでっトドメだッ!」
コウスケは黒い剣は振りかざし、ゴブリンの首をはねると剣に付着した血を拭いた。
「やったねコウスケ。これで依頼達成だよ」
ミリンの明るい声にコウスケは微笑み返すと2人は並んで歩き出した。
災いの森を抜ける直前、コウスケは不意に足を止めた。
「なにか忘れているような…」
「どうしたのコウスケ?」
「あ、いやなんでもないよ」
召喚される前よりも充実した2日間を過ごしたコウスケは自分に託されたはずの目的を忘れつつあった。
翌日。
コウスケはギルドの依頼掲示板に貼ってある紙を見て足を止めていた。
「『赤竜討伐』?」
「あ、その依頼は『水晶の洞窟』に行ったっきり帰ってこないって噂になってるんだよ。洞窟に赤竜が住んでるのがわかったから討伐してほしいっていう依頼らしいんだけど…もう10年も前の話なんだけどね…」
ミリンは声のトーンこそ高いが複雑そうな顔をしていた。
しかし、コウスケにはそれ以上に引っかかることがあった。
「『水晶の洞窟』…」
そんなコウスケのモヤモヤは晴れないまま、2人は災いの森へと向かった。
スライム討伐クエストを終えたコウスケ達はギルドにある食堂で昼食をとっていた。
「どうしたのコウスケ?今日は全然キレがなかったけど…」
心配そうにするミリンを前にコウスケは首をブンブンと振るとニッと歯を見せた。
「なんでもないよ。ただ、なにか忘れてる気がしてね…大事なことだったはずなん──」
──ドォン!
コウスケが言い終わるより前に大きな爆発音が響いてきた。
「な、なにッ」
「なにが起きたんだ⁉︎」
「森のほうからだぞッ!」
ギルドにいた冒険者達も突然のことに驚いたのかざわめき立っていた。
「とりあえず外に出よう!」
コウスケはミリンの手を取るとギルドを飛び出して商店街へと向かった。
「ちょっとコウスケ!なんでこっちなの!」
ミリンはコウスケの手を振り払うと災いの森を指差しながらそう言った。
「手を握ってくれるのは嬉しいけど…ってそうじゃなくて!なんで街に逃げるのよ!なにが起きてるかわからないのに!」
ミリンの叫び声は街を歩く人たちの注目を集めてしまったようで街の人々も慌て始めていた。
人々が混乱する中、商人の指差す方向によって状況はさらに残酷なものへと姿を変えた。
「なんだ…あれ…」
コウスケが振り向くと先ほどまであったギルドの建物がまるで“原子レベルまで時間を戻された”かのように『消滅』していった。
「何よ…あれ…」
遅れて気付いたミリンの顔は絶望の色に染まっていた。
そんな『無』はゆっくりと街を侵食していった。
『3日後『水晶の洞窟』にいる人物を連れ出してほしい』
コウスケがこの世界にやって来た理由…
コウスケが頼まれたこと…
あの『竜人』が放った言葉を思い出したコウスケはその『無』の中心部にある『人影』を認識した瞬間──
その意識は『無』へと飲み込まれた──