屍の殺戮者
「ル、ルイン様!これは一体…」
魔王城の一室、ルインと四天王の4人は集まると一つのテーブルを囲むように座っていた。そして、水晶玉に映る人魔対戦の中継を前に、不意にエボラが立ち上がった。
「何故あの小僧が前線にいるのです!?」
「落ち着けエボラ。お前にはあの男の利用価値がわかtt…」
「黙れこの死体がッ!」
どこか馬鹿にしたようにそう言うエイズの頭を流れるように跳ね飛ばしたエボラ。
ルインはエボラが落ち着くのを待つと、再び水晶玉へと視線を戻し、そっとその口を開いた。
「エボラ、今回は俺が発案したことだ。…エイズを殺すのは筋違いではないか?」
「し、しかしルイン様…元々捕獲する予定だったとはいえ、捕獲した竜人をいきなり戦闘に向かわせるというのは…それも、あの小僧と親しかった奴らに対峙させるというのは…」
「まぁそうか…貴様はそういう性格だったな。…だが、心配する必要はない」
ニヤリと笑みを浮かべ、そう言うルインを前に頷くペストとマラリア。
エボラは腑に落ちないといった様子で拳を握りしめると、腰を下ろして返り血のついた水晶玉へとその目を向けた。
ーーー
「ユウさん、どうして…」
「私の名前を呼ぶなと言ってるでしょうッ!」
再び飛んできたペンデュラムの攻撃を2本の剣で受け止めたコウスケ。
しかし、その一撃はかつて戦ったどの相手よりも重く、コウスケの身体は簡単に後方へと弾き飛ばされてしまった。
「コウスケッ!」
屍に埋もれたコウスケの元に駆け寄るミリン。
ユウはしらけたように息を吐くと、出現させていたペンデュラムを消滅させた。
「貴女、何故その男…いえ、人族を庇うのです?貴女だって私達と同じ、竜人だというのに」
「それは…」
ユウの言葉にミリンが言い返そうとすると、不意にユウとローズ背後から現れた一つの影が無抵抗のローズに向かって飛びかかった。
「魔王軍めッ!成敗ッ!」
影から現れた人物はそんな声と共に大槍を突き出すも、ローズ触れることもなくユウの左手によって摘むようにして防がれた。
「…軽い」
吐き捨てるようにそう呟いたユウは次の瞬間、その手を捻るようにして槍を捻じ曲げると、その人物の頭を掴んで地面へと叩きつけた。
「コーン騎士団長!」
その光景を前に、屍から這い出たコウスケはその人物─コーンに向かってそう叫ぶと、慌てて近寄ろうとした。
「ローズ」
「はい、兄様」
コウスケが立ち上がった瞬間、一瞬にしてコウスケとミリンの背後に現れたローズは身体を捻ると、回し蹴りをするようにして2人の身体を屍の中へと吹っ飛ばした。
「…き、貴様さえいなければ…ッ!」
「へぇ…まだ息がありますか…」
地面に頭をめり込ませても尚、反抗的な目でユウを睨みつけるコーン。
ユウは反射的にその頭を潰そうと右手に力を入れようとすると、不意にローズがその肩を叩いた。
「兄様、ジフテリア達は撤退しました。なので、ここはアレを使うべきかと」
「…それもありですね」
そんなローズの言葉を前に口元を緩めたユウは、その背中にある翼を広げると虫の息のコーンを片手に戦場の空へと舞い上がった。
「なんだあれは…」
魔物の数が減り、戦況が好転し王国軍が有利となり始めた頃、不意に上空に舞い上がった女の影に王はそんな声を漏らした。
「あれは…!コーン騎士団長!」
「そんな!騎士団長が負けたのか!?」
「嘘だ!」
続々と聞こえてくる兵士達の声。
王が目を凝らすと、上空に浮かぶ影のその右手にはもはや生きているのかも判断できないコーンがまるでゴミでも持つかのようにぶら下げされていた。
「総員!遠距離魔法でヤツを撃ち落とせッ!俺たちの手で騎士団長を解放するんだッ!」
副団長のそんな声が戦場に響き渡ると、魔物と交戦をしていない数多くの兵士達が次々と遠距離攻撃魔法を放った。
しかし──
「うわぁぁぁぁッ!」
「何がどうなっ…」
上空に向かって放たれたそれらの魔法は全て、その影に触れることもなく弾き返されると、地上で交戦している兵士達に次々と直撃していった。
「なんということだ…」
断末魔の響き渡る戦場を前に、ただ唖然と立ち尽くすことしかできない王。
そんな中、不意に上空に巨大な赤い魔法陣が出現すると、そこから現れた大量の炎槍がまるで雨のようにその下の戦場に立つ兵士達へと降り注いだ。
「…これくらいあれば足りるでしょう」
上空に展開した魔法陣を消し、真下に広がる湿地帯の一角へと目を落としたユウ。先程の魔法により干上がった湿地帯は、敵味方関係なくもはや誰かもわからない屍に埋め尽くされていた。
「ここに存在する全ての生命を蹂躙し、死を自らの力へと変える屍の殺戮者…さぁ、この男を核に顕現しなさい。〈骨の巨人〉」
右手に持ったコーンを投げ捨て、呟くようにそう叫ぶユウ。
すると、この声に反応したのか周囲に広がる屍の中から次々と骨が飛び出すと、空中を落下するコーンを中心にひとつの大きな巨体を形成した。
「なんだ…コイツは…」
周囲にあった屍をどかし立ち上がったコウスケは、目の前に降ってきたその白い巨体を前に背筋が凍るような感覚を覚えるとそう呟いた。
「それでは私達はこれで。ごきげんようコウスケともう1人の同族さん。生きていたらまた会いましょう」
上空から降り立ったユウはそう言ってスカートの裾を上げてお辞儀をすると、ローズと共に空気に溶けるように消えていった。
『─────ッ!』
ユウとローズが居なくなった瞬間、コウスケ達の目の前に立つ骨の巨人は奇怪な声と共に動き出すと、いきなりコウスケへと殴りかかった。
「ッ!」
「コウスケ!」
「…大丈夫。ちょっと腕をかすったくらい」
反射的に後方へ退き、ミリンと肩を並べて体勢を整えるコウスケ。
周囲の屍から飛び出した骨を吸収し、その身体をより強固なものにしながら2人へにじり寄る骨の巨人はどこか苦しそうなうめき声を上げると、その腕の一部を槍のような形状へと変形させた。
『───ッ!』
声を上げ、2人に向かって槍を振る骨の巨人。その動きは洗練されていて、ゴーレムとは思えない俊敏さによって、疲弊しているコウスケとミリンはまるで反撃をする余裕も無くただただ一方的に攻撃を受け止めるほかなかった。
「あそこだ!打てーッ!」
不意に2人の背後から聞こえる副団長の声。そして次の瞬間、大量の攻撃魔法が骨の巨人に直撃すると、その身体は黒煙と共に爆散した。
「大丈夫か、2人共!援軍も来たしこれで──」
受け身を取り、爆発から身をかわした2人の元に駆け寄った副団長がその台詞を言いかけた瞬間、不意に背後から突き出された骨の槍によって一瞬にしてその頭を貫かれた。
「副団長!」
「副団長さん!」
目の前で絶命した男に向かいそう叫ぶ2人。そして副団長の死体から骨という骨が吸い寄せられるように飛び出すと、爆散したはずの骨の巨人へと吸収された。
『───ッ!──ッ!』
副団長を吸収した骨の巨人は、再び苦しむような声を上げると、転がる屍から骨を吸収しながら、周囲で交戦している魔物や兵士達を次々とその槍で薙ぎ払い、敵味方など関係なく戦場を蹂躙し始めた。
ーーー
「骨の巨人か…アレはまずいことになったな…」
目の前の光景に、ふとそんな声を漏らすガウラ。
王はそんな前戦に出られないという自分の気持ちを抑えるように、その大剣を強く握りしめていた。
「ガウラ、我にも戦わせてくれ」
「…それは、できない」
「どうしてだ!民を守る為にただただ蹂躙され続ける兵士達を!我には指を咥えて見ていろというのかッ!」
「そうじゃないッ!俺達じゃ…ヤツには勝てないんだ…」
「だからと言って黙って見ていろと!」
「違う!奴は戦場において最強…骨の巨人は死体がある限り無限に再生と強化を繰り返す!もし、俺達が足止めをしたとしても…俺達が死んだら更に強くなるんだぞ!そんなの相手をわざわざ強化させに行ってるようなものだ!」
必死にそう叫び、王をいかせまいとするガウラ。
その声を聞きながらも、王は蹂躙されている戦場の光景を前に更に強く大剣を握りしめると、我慢できないといった様子で口を開いた。
「だからなんだッ!我は行く!」
「義兄さんッ!」
王はそんなガウラの静止を無視すると、大剣を担いで戦場へと飛び出した。
ーーー
「アイツ…死体から骨を取り込んでるのか…?」
ミリンの回復魔法により幾分か回復したコウスケは、辺りを蹂躙している骨の巨人の元へと向かいながら、ふとそう呟いた。
「多分、そうだと思う。…ゴーレムってことは核を破壊するか、使用者が魔法を解くかの2択だけど…」
「核にされた騎士団長を倒さないといけない、ってことか」
「そうなるね」
ミリンのそんな言葉に、コウスケは歯を食いしばると、今にも兵士を殺そうとしている骨の巨人の懐に飛び込み、その槍を持った右腕を切り落とした。
「逃げて!」
コウスケの言葉に慌てて逃げ出す兵士。
「せめて…コイツの足止めだけでも…」
攻撃の阻害された骨の巨人は、周囲の骨を取り込み、腕と槍を復元すると再びコウスケへと襲い掛かった。
「…ッ!」
咄嗟に身を晒して2本の剣でそれをいなすも、その一撃はコウスケの頬を掠めて後方で逃げる兵士の心臓を貫いた。
『──────ッ!』
槍を振り回し、次々とコウスケに攻撃を仕掛ける骨の巨人。
コウスケはその一撃一撃をすんでのところで受け止めるも、反撃する間もなく徐々に後退していった。
「コウスケッ!」
不意に聞こえたミリンの声と同時に、空から振り下ろされたペンデュラムが骨の巨人の手足を切り落とす。しかし、すぐさま回復するその姿を前に、コウスケは地面を蹴って距離をとった。
「ミリン、助かった」
「油断しないでよ。わたしも、けっこうギリギリだから」
動き出した骨の巨人は、再び苦しむような声を上げると、新しくもう1本の槍を作り、コウスケ達へと襲い掛かった。
「ッ!」
ユウの愛用していた黒い銃を取り出し、向かいくる骨の巨人を打ち抜くミリン。
コウスケが向かってくる槍をかわそうと地面を蹴ろうとした瞬間、不意に骨の巨人のその腕が変形すると、コウスケの右腹を貫いた。
「──ッ…ァ……ッ!」
「コウスケッ!」
多量の出血と共に地面に崩れ落ちるコウスケ。
対抗することもままなくなった今、目の前で振り下ろされたその槍は、コウスケに突き刺さる寸前、横から飛んできた大剣によって弾かれた。
「ええいッ!」
バランスを崩した骨の巨人に持っていた大剣を振り回した王。骨の巨人の身体はその重い一撃を受け止めるも、勢いよく後方へと突き飛ばされた。
「お主、大丈夫か!」
「…おう…さ…ま…」
朦朧とする意識の中、目の前で自分を呼ぶ王を見たコウスケ。そして、ミリンが駆け寄って来たのを確認すると、コウスケは安心したようにゆっくりとその意識を手放した。
「コウスケッ!」
「まだ息はある!早く治療を!」
そう言って骨の巨人の元へと駆け出す王。
ミリンが瀕死のコウスケに回復魔法を唱え始めるも、コウスケの抉り取られた右腹は止血こそするものの一向に再生する気配はなく、ミリンの残り少ない魔力をとてつもない早さで削っていった。
「どうして!?どうして治らないの!?」
どうにもならない現状を前にただただ反響するミリンの悲痛な声。
すでにミリンの魔力は底をつき、再びコウスケの身体から血が流れ出していた。
「お願い!治って!ねぇ!治ってよ!」
ポロポロと涙を流し、懇願しながら使えなくなった回復魔法をかけようとするミリン。
いよいよコウスケの息が危なくなった頃、不意にミリンの全身が光み包まれると、コウスケの傷口が見る見るうちに塞がっていった。
「フッ…!ハァッ!」
骨の巨人を前に大剣を振り回し、次々と向かいくる槍を弾き飛ばす王。しかし、骨の巨人のその身のこなしによって王の攻撃は届かず、ただ体力を削るだけの消耗戦となっていた。
『────ッ!』
縦に、横に、大剣を自在に操り、骨の巨人から一定の距離を保っていた王。
そんな中、不意に骨の巨人がその一撃をかわさず受け止めると、肩に突き刺さったその大剣を掴み、一瞬にしてその距離を縮めた。
「ッ!」
骨の巨人が槍を突き立て、王の胸部を貫こうとした瞬間、不意に横から飛んできた金色の竜剣《ドラゴソード》によってその攻撃は弾かれた。
「義兄さん!」
王が一瞬唖然とし固まっている中、気配を殺すようにして王と骨の巨人の間に飛び込んできたガウラ。王の胴を掴んだ彼は骨の巨人の胸部を蹴飛ばしてその距離をとった。
「ガウラ!お前、アネモネはどうした!?」
「アネモネの嬢ちゃんなら無事だ。残った兵達と一緒に城にいるさ」
「城だと!?嘘を吐くでない!ここからどれだけ離れてると思っているのだ!」
ガウラの言葉に疲れなど忘れて問い詰める王。ガウラが言い返せずにいると、不意に背後からポンと王の肩に手が置かれた。
「話は後でする。今は奴を倒すのが先だ」
「…!カズヤ、お主、一体どうして…」
「話は後だと言っただろ」
王を背中に回し、再生する骨の巨人の前へと出るカズヤ。
ガウラは腰から短剣を引き抜くと、カズヤに並ぶようにしてそれを構えた。
「幸い、アンタの一撃のおかげであの大剣の刺さった場所は回復できないからな。後は俺達に任せて離脱しろ」
「…わかった」
カズヤの言葉に返事をすると共に、足元に蟠っていた影へと飲み込まれる王。
2人は王が居なくなったのを確認すると、ちょうど身体を再生し終えた骨の巨人と対峙した。
「…久々にいけるか、ガウラ」
「俺の成長、見せてあげますよ」
「はは…それは、頼もしいなッ!」
そんな会話を終え、2人は軽く笑ってみせると、地面を蹴って骨の巨人へと突撃していった。
『───ッ!』
骨の巨人の周りを攪乱するように、絶妙な息の合ったタイミングで攻撃をする2人。
振り回された骨の巨人の槍はガウラの頰かするような軌道を描くも、その度に横から飛んでくるカズヤの拳によって接触することすら許されなかった。
「行くぞガウラッ!」
「はいッ!」
カズヤの声と共に骨の巨人に叩き込まれた2人の蹴りは、その身体を後方へと突き飛ばすと、パラパラとその骨でできた装甲を砕いていた。
『────ッ!』
再び咆哮を上げながら周囲の骨を取り込み再生を始める骨の巨人。
カズヤは地面に突き刺さっていた金色の竜剣《ドラゴソード》を引き抜くと、ガウラから距離をとった。
「さて…久々に戻るとするか…」
カズヤはそう呟くと、《ドラゴソード》を空へと突き上げた。




