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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第4部.彼だけのいない世界で
57/112

混沌の幕開け



「ユウさん…」


 手に持つそれら(・・・)を抱え、誰もいない部屋でひとり呟くコウスケ。

 どれくらい時間が経ったのだろうか。もはや長いはずの昼は終わりを告げ、コウスケのいる部屋は吹き込む風の音と光の差さぬ暗闇に包まれていた。


「…コウスケ?」


 不意に聞こえたギィっという扉の開く音と共に、廊下から差し込んだ光は赤くなったコウスケの顔を照らし出した。


「ミリン…」

「大丈夫…?泣いてたみたいだ…けど…」


 コウスケの抱えているソレが目に入ったミリン。そして、コウスケと同じように流れてくる数日の違和感の正体(・・・・・)を前に、無意識のうちにその場にへたり込んだ。



ーーー



「みんな…忘れてたな」

「うん。もうわたしとコウスケしか覚えてないみたい…」

「ユウさん…一体、何がどうなって…」


 翌日、ギルドや普段ユウの通っていた店を回っていたコウスケとミリン。しかし、誰一人ユウのことを覚えている人は現れなかった。


「これじゃまるでユウさんのいない異世界に迷い込んだみたいだ…」

「わたし達だけ思い出したってのも気になるけど…」

「そうだな…」


 前日のユリとサクラを思い出しながらそう言う2人。コウスケは脳裏にチラつくユウの去っていく光景に、ひとりその拳を握りしめていた。




「あ!先輩!おーい!」

 何の情報も得られず、帰路についていたコウスケとミリンは、不意に背後からかけられたその声に振り向くと、そこには普段より重武装なカイトとスミレが立っていた。


「おう…ってお前どうしたんだ?そんな重武装で…」

「えっ?先輩、もしかして知らないの?」

「知らないって何が?」

「さっきギルドがレベル150以上の冒険者を召集してたことだよ」


 そう言ってギルドを指差すカイト。

 コウスケはゾロゾロとギルドへ向かう冒険者の波を前に、驚愕した様子で固まった。


「なんでも魔物の軍勢がこちらに向かってるらしいんだ。ミリン、君たちも一緒に参加してくれないか?」

「魔物の軍勢ね…わかった。ほら、いくよコウスケ」


 スミレの言葉にミリンはそう返すと、固まっているコウスケの手を取ってギルドへと歩き出した。




「──と、言うわけで1週間後、我々と協力をしていただきたい」

『コーン騎士団長様、ありがとうございました』


 コウスケ達冒険者が集まったギルドの中庭。

 召集された理由は、『魔王軍が攻めてきたので騎士団の人達と協力してほしい』という内容を冒険者達に呼びかけるものだった。

 全身を銀色に光る鎧で覆ったコーンと呼ばれた男は、どこか申し訳なさそうな表情で集まった冒険者達へ頭を下げた。


『うぉぉぉぉぉ!』


 どこからともなく聞こえる雄叫びのような声。

 コーンは突然のソレ(・・)に驚いたような表情をすると、不意にポン、と隣に立っていたギルドマスターがその肩を叩いていた。


「ま、俺らも魔物退治のエキスパートだしな。この国に住まわせてもらってるんだ、全力で協力するに決まってるだろ!」


 気前のいいギルドマスターに続いて歓声を上げる冒険者達。


「魔王軍、か…」


 コーンが説明中に言っていた言葉に、コウスケは脳裏にチラつくユウの姿を思い出すと、その拳を力強く握りしめていた。



ーーー



「魔王軍の様子はどうだ」

「…明日の朝には予想されていた例の湿地帯に着く。第一、第二騎士団は既に現地に待機済み、戦い慣れた冒険者もいる。…敵が見え次第このまま奇襲をかけるのも一つの手かもしれない」

「そうか…」


 ガウラの報告に王は振っていた大剣を担ぎ直すと、用意された水を一気に飲み干した。


「では、その奇襲作戦をコーン騎士団長へ伝えてくれ。我は第三騎士団と共にその湿地帯へ向かう」

「御意」


 覚悟を決めた王の言葉に、ガウラはそう言うと一瞬にしてその姿を消した。


「…さて、我も本気を出すとするか」




「敵軍確認!作戦開始ィィッ!」


 早朝、大量の魔物が湿地帯へ足を踏み入れると同時に、騎士団長であるコーンの声が響き渡った。


『おぉォォォォッ!』


 雄叫びと共に湿地帯に現れた魔物達へ突撃していく騎士達と、地形を生かし、隠れながら続く魔物達を倒す冒険者達。

 湿地帯は既に戦場となり、断末魔と血飛沫だけが周囲に飛び交っていた。




「コウスケ、あれって…」

「馬車、なのか…?」


 第三騎士団と共に王の護衛についていたコウスケ達。

 翼を広げ、コウスケとミリンは上空からその様子を観察していると、不意に多くの人型魔物に囲まれたいかにも重要そうな、馬車のようなものが後方からやってくるのが目に入った。


「王様!騎士団長より入電!敵の大将を確認とのことです!」

「…そうか」


 2人の下から聞こえてくるそんな言葉に、コウスケは一度地面に降り立った。


「先輩、どうしたんすか?」

「いや…ちょっとあの大将騎を直接ぶっ潰したいって思っただけさ」

「ちょっとじゃないっすね!?」


 コウスケの言葉にすかさずツッコミを入れるカイト。しかし、その決意のこもった瞳を前に小さく溜息をつくと、その言葉を続けた。


「先輩、本気っすか?」

「あぁ…あそこにいるのが魔王でないにしろ、俺の決意は揺るがない」

「なら、行ってくるといい。友を…助けたいんだろう?」

『王様!?』


 コウスケが語った直後、不意に背後から聞こえた声に2人が振り返ると、そこには武装をした王とアネモネの姿があった。


「しかし、俺達は王様の護衛も…」

「そんなことは気にしなくてもよい。どのみち敵の大将が潰れればこの争いは終わる。なら、お主らに任せても問題なかろう」


 そう言う王に続くようにコクコクと頷くアネモネ。

 コウスケは王の言葉に孕んでいる意味を察すると、再び頭を下げた。




「サーズ、マーズ」

「はいローズ様」

「何か御用でしょうか」


 無表情のまま、馬車の中から戦況を除いていたローズは2人のオーガを呼ぶと、そのまま立ち上がった。


「目標を確認しました。回収してきてください。対象以外は切り捨てても構いません」

「し、しかし…」

「それでは、ローズ様が…」

「私は何も問題ありません。それよりも任務を優先しなさい」

『御意』


 相変わらず動かない表情の中で、得体の知れないプレッシャーのようなものを放つローズに、2人は慌てて姿勢を戻すと、嵐のように馬車を出ていった。




「…!あれは…!」

「どうしたミリン?」

「あの馬車から2人、幹部クラスのオーガが両兵を薙ぎ倒しながらこちらに向かって進行中!」

「何…ッ!?」


 上空から観察していたミリンの声に、反応するコウスケ達。

 戦場は突如現れたサーズとマーズにより、次々と陣形を取っていた兵達が蹂躙されていった。


「なんということだ…」


 その惨状を前に頭を抱える王。

 そんな中、不意に何かに気付いたカイトがコウスケの肩を叩いた。


「先輩、あれって…」


 カイトに促されるように例の馬車へと視線を戻すコウスケ。そこには、混乱に乗じて現れた、こちらを見据える無表情の少女の姿があった。


「あれは…」


「ローズ。魔王ルインの娘」


『えっ…』


 唐突に口を開いたアネモネに驚くコウスケ達。アネモネはそんな3人の反応を気にするでもなくその右腕を上げると、遠くに映るローズを指さした。


「あの女なら、貴方が探している人の居場所を知ってる」


 アネモネは何かを悟ったようにそう言うと、それ以上は何も喋らなくなった。

 …しばらくの沈黙。

 戦況が入り乱れる中、その沈黙を破ったのはカイトだった。


「…先輩!我が道を開きます!先輩はあの女のところは行ってくださいッ!」

「吉田…」

「上空のガーゴイル共はわたしに任せて!」

「ミリン…」

「我らなら大丈夫だ。安心して行ってくるがいい」


 王の言葉にコウスケは気合いを入れるように自らの頬を叩くいた。そして、王や騎士達へと一礼をすると、再びローズのほうへと姿勢を戻した。


「吉田、頼む」

「任された!」


 コウスケの言葉にカイトは頷くと、その足を開いて担いでいた大剣を構えた。そして──


「フハハハハハハッ!食らうがいい!師より受け継ぎし我が究極奥義…ッ!〈超光星砲スターライト・ブラスター〉ッ!」


 そう叫びながら大剣を振り下ろしたカイト。

 まるでふざけたような名前と裏腹に、その剣筋から一直線に伸びた黒い刃が、光線のように直線上の全ての魔物を粉砕し、ローズの元へと繋がる一本の道を形成した。


「お前、その技って…」

「そんなことは後でいいっす!先輩は早くあの女の元へ!」

「あ、あぁ…!」


 コウスケは一瞬頭の中を横切った黒歴史を振り払うように首を振ると、地面を蹴って湿地帯の先、ローズの元へと走り出した。




「あの男…あれが兄様の…」


 馬車の前に立ち、こちらへ向かって来るコウスケとミリンの姿を前に、ローズは感情のない表情でそう呟くとその赤い瞳をそっと閉じた。


「どうしましょうローズ様」


 馬車を引いていたケンタウロスの女の言葉に、ローズは再びその瞳を開くと、周囲を見渡してから口を開いた。


「貴女は引きなさい、ジフテリア」

「し、しかし…」

「あの男と竜人の相手は私がします。貴女は一通り暴れたサーズとマーズを回収して撤退しなさい」

「わ、わかりました…」


 女─ジフテリアはローズに頭を下げると、馬車から離れて後退した。




「はぁっ…!」


 次々と襲いかかるガーゴイル共を薙ぎ払い、カイトの作った屍の道を進むコウスケとミリン。

 2人が湿地帯の7割を横切った頃、不意に攻撃が止むと同時に、先程まで馬車前にいたローズが目の前に現れた。


「はじめまして御二方。私はローズ。現在、この魔王軍の指揮を取っております」


 表情を変えぬまま、そう言って頭を下げるローズ。

 2人はそんなローズの姿に一瞬呆気にとられるも、すぐさまその武器を構えてみせた。


「魔王軍だと…!」

「そんなに警戒する必要はありませんよ。別に私は貴方達をとって食おうなんて思っていませんから」

「…そんな言葉が信用できるとでも?」

「あら、手厳しいですね」


 赤い瞳を閉じ、無表情のままそう言うローズ。そこから放たれる得体の知れない威圧感は、気付かぬうちにコウスケ達の膝を笑わせていた。


「さぁ御二方、回れ右をして戻っていった方がいいですよ。国が…いえ、大事なご友人がどうなっても知りませんよ」

「なんだと…ッ!」


 そんな煽るようなローズの言葉に、コウスケは沸々と湧いて来る怒りを抑えきれなくなると、唇を噛んでその口を開いた。


「ふざけるなぁぁぁッ!《アベンジャー》ッ!」


 雄叫びのような声と共に手元に出現した魔法陣から銀色の竜剣《アベンジャー》を引き抜いたコウスケは、震える足で踏み込むとローズに向かって2本の剣、《アベンジャー》と《ダークスレイヤー》を振り抜いた。


「父様の慈悲で生き延びたと言うのに…哀れな男…」


 目を瞑り、無表情のままひらりひらりと攻撃をかわすローズ。

 そんな余裕のある姿を前に、コウスケは頭の中にあるぐちゃぐちゃになった感情に従うようにただひたすらに剣を振り続けていた。


「コウスケッ!落ち着いてッ!」


 不意に背後からかけられたミリンの声に、一瞬剣筋が鈍ったコウスケ。

 ローズはその瞬間を待っていたかのようにステップを踏むと、瞳を開けずにコウスケの身体をミリンの元へと蹴り飛ばした。


「コウスケッ!」

「…俺は、大丈夫だ」


 2本の剣を地面に突き刺し、ヨロヨロと立ち上がるコウスケ。

 ミリンは心配そうにコウスケを眺めるも、すぐさまローズを睨み付けた。


「どうですか?頭は冷えましたか?」

「…ッ!アンタねぇ…ッ!」

「いや、大丈夫だミリン」


 ローズの言葉に突っかかろうとするミリンを静止したコウスケは、刺した2本の剣を再び構えるとその口を歪めてみせた。


「あぁ…おかげさまでな。今なら、アンタを倒せる気がする」

「それはそれは。見ものですね」

「…ミリン、いけるか?」

「…!任せて!」


 感情のない声でそう返すローズを前にお互い顔を見合わせたコウスケとミリン。

 2人は各々の武器を構え直すと、口角の上がったその口をそっと開いてみせた。


「さぁ…りますか…!」



ーーー



「…ッ!この我がここまで苦戦するとは…ッ!」


 戦場を一通り荒らしたサーズとマーズは、交戦するコウスケ達を横目に、王のいる第三騎士団の待機場所近くでカイトと剣を交えていた。


「はぁ…久々に(これ)持ったけど使いにくすぎィ…任務遂行するためとはいえここまで手加減するのはねぇ…?」

「いい加減にしろサーズ。その為にローズ様は私達を暴れさせてくれたのだろう」

「まぁそうなんだけどさぁ…」


 苦戦するカイトなど眼中にくれず、会話をしながら適当にあしらうサーズとマーズ。

 不意にカイトが大剣を振りかぶった瞬間、マーズの振り回した大剣の峰がカイトの腹部を直撃した。


「ガハッ…ッ…」


 血反吐を吐きながらその場に倒れるカイト。サーズはそんなカイトを仰向けにすると、再びその腹に一撃、拳を叩き込むとその意識を刈り取った。


「はぁ…殺せないのって大変…」

「そんなこと言わずに帰るぞサーズ。そろそろコイツらが起きる」


 周囲を見渡し、寝ている兵を見てそう言うマーズ。

 サーズはだるそうに溜息を吐くと、気絶したカイトを乱暴に担ぎ上げた。


「いたぞ!アイツらだ!」

「…チッ…」


 時間をかけすぎたのか、2人の前にやってきた援軍を前に舌打ちをするマーズ。

 2人が兵によって囲まれた瞬間、不意に上空からが降ってくると、その顔をゆっくりと上げた。


「ジフテリア!?」

「なんでここに…」

「御託はいいです。サーズ、マーズ。退却しますよ」


 2人の前に現れたジフテリアは持っていた槍を地面に突き刺した。すると、周囲は一瞬にして濃霧に包まれ、それが晴れると共に3人の姿は無くなっていた。



ーーー



「話せッ!ユウさんをどこへやったッ!」


 先程同様、連続で剣を振るうコウスケ。

 瞳を閉じたローズはその一撃一撃を踊るようにかわすと、一撃も反撃せぬままコウスケの体力をゴリゴリと削っていた。


「いい加減諦めたらどうですか」

「…ッ!諦めるわけないだろッ!」


 地面を蹴り、宙を舞ってコウスケの攻撃をかわすローズ。その瞬間、コウスケは不意に口元を緩めると、その背後で待機していたミリンに向かって声を上げた。


「ミリンッ!」

「ハァァァァッ!」


 声を上げながら、上空から薙刀形状の杖を振り下ろすミリン。

 ローズは咄嗟に身体を翻すと、わざとらしくも不安定なまま地面へとその足をつけた。


「貰ったァァァァァッ!」


 ローズがバランスを崩した瞬間、コウスケはその時を待ってきたかのようにその剣を振り下ろし──


──ガキンッ…


 その一撃は、不意に上空からやってきたペンデュラムによって弾き返された。



「妹を護るのは、である私の使命」



 メイド服のような黒いドレスを身に纏い、頭の後ろで2つに結われた赤みがかった茶色い髪。紫色の宝石の付いたチョーカーに、黒い手袋…そして、ローズと同じ赤い瞳。

 赤い翼を広げて舞い降りたその人物を前に、コウスケはまるで自分の意思ではないようにその口から声が漏れ出した。




 ───ユウ…さん…




               to be continued

 第4部始まりました〜!わーぱちぱち!


 みなさんこんにちは赤槻春来です!


 第19章、いかがでしたか?

 怒涛の新展開に新キャラetc…色々モリモリの今回!個人的にテンションが上がりすぎて書くのがめっちゃ楽しいです(文が下手なのは相変わらずですが)


 物語も山場に入って、これからは今まで名前だけの登場だったキャラや、新キャラの戦闘シーンが多くなって…ってかユウちゃんどうしちゃったの!?


 次回はいよいよだ20章!えっ…20章!?この人魔対戦の行方はいかに…!お楽しみに!


 面白いと思ったら今後も読んでくれると嬉しいです。

 感想やアドバイスなどありましたらコメント欄やツイッターなどに書き込んでくれると幸いです。


 それでは!みなさん!またどこかでお会いしましょう!

 バイバイ!

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