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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第4部.彼だけのいない世界で
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忘却の先へ

(…柔らかい…?)

「ふふっ…おはよう、ユウ」

(…!?えっと…これは一体…)


 頭のしたに伝わる感触によって目を覚ましたユウは視界いっぱいに映る女の微笑む顔を前に混乱した様子であたりを見渡した。


「膝枕だよ。…もしかして嫌だった?」

(膝枕…いえ、そんなことはありません。なんか、母さんと姉さんを思い出します…)

「そう…喜んでくれたならよかったんだけど」


 そう言って静かに微笑む女。その暖かさに包まれたユウは再び襲いかかってきた睡魔を前にウトウトしながら女の顔を見つめた。


(また…眠くなりそうです)

「そう?じゃあ寝るまでこうしてあげるね」


 女はそう言うと、どこか愛おしそうにユウの頭を撫で始めた。


「…おやすみ、ユウ」

(…)


 ユウは久しく感じたその心地の良い感覚を前に、ゆっくりと、再びその意識を手放した。



ーーー



「…また、変な夢を見た」


 魔王ルインとの対決から2日。

 コウスケは寝ぼけた視界の中、見慣れた天井を見つめながらゆっくりとその上体を起こした。

 ─不思議な感覚。いつもと同じ朝のはずなのに、コウスケはどこか寂しいような感覚を覚えていた。




「あ、コウスケおはよう」

「おはようミリン。朝食はもうできてる?」

「えっ?サクラが作ってくれたんじゃないの?」

「あれ?」


 朝食を取る為、いつものように食堂に来ていたコウスケは、既に座っていたミリンの言葉とまるでもぬけの殻となっている台所を前に混乱していた。


「いつもミリンが作ってくれてなかったっけ…?」

「わたし?いやいや、いつもわたし達が起きた時にはもうできてたじゃん」

「それも、そうなんだけどさ…」


 平然と言うミリンに対し言葉に詰まるコウスケ。

 2人がお互いに首を傾げていると、食堂の扉がガチャリと開いた。


「おはよう」

「おはようございます」


 寝ぼけた目を擦りながら食堂へ入ってくるユリとサクラ。

 2人は料理の並んでいないテーブルへと目を向けると、不思議そうに口を開いた。


「あれ?ミリン、朝食は?」

「えっ?いつもユリが作ってたんじゃないの?」

「いやいや…あれぇ?」

「ユリはいつも私と一緒だからそれはないですけど…」


 お互いの噛み合わない言葉に、4人は再び首を傾げた。



ーーー



 その後、やってきたハルナの作った朝食を食べたコウスケ達4人(・・)は、いつものように依頼クエストに参加すると、災いの森へとやってきていた。


「ミリン!援護をお願い!」

「えっ…ちょっとコウスケ!援護を頼みたいのはこっちもよ!」


 襲いくるオーク共に対し前線で剣を振るコウスケ。次々と襲ってくるオークの群れに、ミリンはその身体を翻すと、薙刀形状の杖で一匹一匹確実にその頭を跳ねていた。


「…ッ!」

「コウスケ!」


 オーク共を一掃して振り返ったミリンは、珍しく劣勢のコウスケの元へと駆け寄ると、斧を振り下ろそうとしているオークの首を跳ね飛ばした。


「ミリン、助かった…」

「危なかったね…」


 差し出されたミリンの手を取り、立ち上がるコウスケ。それとほぼ同じタイミングでオーク共を片付けたユリとサクラが2人の元へと合流した。


「リーダー、今日はもう帰ろう」

「私も…少し、気になることがあるので」


 2人の台詞に顔を合わせるコウスケとミリン。

 4人はミリンのゲートを使うと、そのままギルドへと戻っていった。




「「パーティ解散?」」


 宿屋に戻ったコウスケ達は、ユリとサクラに呼び出され、リビングへと集まっていた。


「うん。なんか一昨日からずっと気分が晴れなくて…」

「なんというか、なんであたし達はこのパーティにいるんだろうって…」

「わざわざここにいた理由がよくわからなくなったんです」


 申し訳なさそうに言うユリとサクラ。

 コウスケとミリンはしばらく考え込むように頭を押さえると、そっとその口を開いた。


「…わかった。寂しくなるけど、無理強いすることじゃないしね」

「うん。わたしもコウスケに賛成かな。それにわたし達、離れても友達だもんね?」

「…!ありがとうミリン、リーダー」

「ありがと」


 2人はそう言うと、荷物をまとめる為か再び自身の部屋へと戻っていった。


「…また、2人だけになったな」

「うん…なんか、寂しくなるね」

「…そうだな」


 ポツリと呟くコウスケとミリン。

 リビングに残された2人はしばらくの間、どこか心に穴が空いたような感覚と共に、いつもと何一つ変わらないリビングの天井をただただぼぅっと見つめていた。



ーーー



「この部屋、妙に綺麗だな…」


 2人が帰り、何故か晴れない気分を紛らわすように宿の掃除をしていたコウスケ。

 ほぼ全ての部屋がおわり、残る最後の一部屋に入ったコウスケは、その空間に妙な既視感を覚えていた。


「…疲れてるのか、俺」


 つい最近まで誰かが使っていた形跡のある部屋。

 コウスケは掃除用具をその場に置くと、流れるように部屋のベッドに腰掛けた。


「また、この感覚…」


 まるでいつもやっていたかのように、どこか空虚な感覚と共に身体を倒すコウスケ。

 思えば一昨日から…否、正確にはこの最近の記憶が曖昧になっている。どうやって魔王と対峙して、どうやって無事ここに戻って来れたのか…どこか霞がかったように、楽しかったはずの記憶すらも何故か思い出せなくなっていた。


「今日の依頼クエスト…いつもはあんなに簡単だったのに…」


 溜まっていたその違和感を吐き出すように、一つ一つ呟いていくコウスケ。

 高かった日はもう沈みかけ、蝋燭の日の無い室内が差し込んだ夕日に照らされ出した頃、脱力感と共にコウスケがベッドから降りると、不意にその足に何か当たる感触がした。


「…?」


 ベッド下引き出しからはみ出したボロボロの布。

 コウスケはゆっくりとその引き出しを開けると、そこには黒い銃と銀色の竜剣《ディザスター》、そしてボロボロになった懐かしい女性服があった。


「これは…っ!?」


 女性服(ソレ)を目にした瞬間、まるで引き寄せられるようにそれらを手に取ったコウスケ。


「…そうだ…俺は、なんで忘れて…」


 思い出したように呟くコウスケは、それらを強く握りしめると、頭の中に蘇る記憶と共に一筋の涙を落とした。

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