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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第3部.魔王の強襲
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動き出す者達



「王様、報告があります。入ってもよろしいでしょうか?」

「…入れ」


 アール王国城内。コンコンと大きな扉をノックし、中からの返事を聞いた男は一言「失礼します」と言いながらその扉を開けると、目の前の玉座に座る人物を前に膝をついた。


「…そんなに堅苦しくするな。我とお前の仲ではないか」

「ですが、これは公的な報告で…」

「我が良いと言ったのだ。誰もお前を咎めたりはしないさ」

「…わかった。俺も腹を括ろう」


 男は王様と呼ばれた人物にそう言われると、どこか諦めたように立ち上がった。


「…して、ガウラよ。しばらく見なかったが…一体どこで何をしていたのだ?」

「ちょっと海底に飛ばされた都市の探索をな。わかったことと言えば、まるまる一つの国が地図から姿を消し、周囲の国や街はその時に飛ばされてきた海水によって大規模な水害にみまわれてる上にその損害賠償を求める国が無くなって大打撃を受けてるってことだな」

「…一体あの馬鹿な王は何をやって怒らせたのだ…」

「…まぁ、置き換えられた部分が綺麗にあの国の領土だけだったから、空間竜の能力は俺達の想像を容易に超えてくることが改めて感じたな」


 男─ガウラのその言葉に王は頭を抱えると、やれやれといった様子でため息をついた。


「1番注目しなきゃいけないのがそのドラゴンはまだ生まれてから十数年クラスの若造ってことだ。過去にこれより大きな規模で空間を操れたドラゴンはいなかったし、同じことができても数百年クラスを超える奴らですらまだそんな記録になかったからな」

「…規格外の力だな」

「あぁ…ドラゴンが秩序の管理を行ってるだけで済んでよかったよ。あんなの敵に回したらそれこそあの国の二の舞だ」


 淡々と、しかしどこか楽しそうに語るガウラを前に、王はその話のスケールの大きさに頭を悩ませていると、不意に扉がたまノックされた。


「お父様、入ってもよろしいでしょうか?」

「アネモネか。入って良いぞ」


 王の言葉と共に扉が開かれると、どこか高級そうなドレスを身に纏った17くらいの女が「失礼します」と言いながら入ってきた。


「よっ!アネモネの嬢ちゃん」

「あ…ガウラ叔父様、お久しぶりです」


 軽く声をかけるガウラに、女─アネモネは軽く一礼をすると、再び王のほうへと視線を向けた。


「お父様、今日の縁談もお断りさせていただきます」

「…またか。どうしてだ?あの男なら富も名誉もある。決して悪くない条件だと思うのだが?」

「どこがよっ!あんな屑よりそこら辺にいる地を張って精一杯毎日を生きてる平民のほうがよっぽど素敵だわ!」

「あの男が屑だと言うのか!?」

「えぇ、屑ですよ!なんでもかんでも権力でどうにかしちゃうああいう男なんて結婚しても私にとってメリットが何一つ存在しないわ!それに欲しいのは『私』じゃなくて『王』という立場…お父様は戦場に出たら真っ先に味方や部下を盾にして逃げるような男と私が結婚して幸せな人生を送れるとでも思ってるわけ!?」


 感情の爆破ともいうべきだろうか。アネモネはまるで先程まで溜めていたヘイトを全て吐き出すようにそう叫ぶと、切らした息を整えるように一度、深く深呼吸をした。


「あ、アネモネ…」

「はぁ…もう私は結婚相手くらい自分で探すことにしたから。お父様?もしこれ以上お見合いとか持ってくるんだったら勘当するわ」

「ぅ…」

「…では、私はこれで」


 アネモネはそう言って部屋を出ると、しんとした室内にバタンと勢いよく閉まる扉の音がしばらくの間反響した。

 ガウラは言葉を失い固まっている王と廊下へ繋ぐ扉を交互に見ると、重苦しい空気を断ち切るように閉じていた口を開いた。


「…アネモネの嬢ちゃん、まだアレ(・・)治ってないのか」

「…あぁ…貴族の間じゃ悟り姫だなんて呼ばれてることもあるらしい」

「…人の心を読める、か…きっと今日の見合い相手は上っ面だけは立派な屑だったんだろうよ」

「だろうなぁ…これでもう全て貴族へと当たった。せめて18になるまでに後継者ができれば良いと思っていたのだが…」

「平民と結婚したあんたが何言ってんだ…」


 王の発言に対しそう言うガウラ。その言葉に王は一瞬バツの悪そうな表情をすると、考え込むようにその手を額に当てた。


「しかし心を読めるとなると厄介だぞ…変な奴に引っかかったりはしないだろうが、揃いも揃ってあんな屑ばっかだといつか人を信じられなくなっちまう」

「そうだな…アネモネがあそこまで反応するということは我も人を見る目を間違えたかもしれん。しかし後継者がいないのも…」

「ま、その辺の問題は後で考えればいいさ。アネモネの性格は絶対姉ちゃん譲りだし、一度言ったら折れないのは知ってるだろ?」

「…そうだな。我もしばらく様子を見るべきか…」


 ガウラの言葉に折れた王。ガウラは玉座に深く座り込む王を見ると、やれやれといった様子で小さく息を吐いた。


「…それで、報告のことなんだが」

「あぁ…そういえば本命はそちらであったな」


 ガウラの一言に再び姿勢を伸ばした王。ガウラはそんな王の変わり身の早さに一瞬関心をすると、再び口を開いた。


「…魔王軍─いや、ディザスター帝国と名乗っていたか…最近ディザスター帝国で妙な動きがあってな。ダークエルフの街とエルフの街が落とされた」

「…何?あの2つの街が落とされただと?」

「あぁ。どちらも街は壊滅状態で瓦礫だらけ。エルフの街は一応生き残りはいたみたいだがダークエルフの街は生存者1人すら聞いてない」

「…なんということだ」


 ガウラの言葉に再び頭を抱える王。ガウラは自らの感情を必死で抑えると、再び報告を続けた。


「…問題なのはこれだけじゃない」

「…どういうことだ?」

「今朝受けた伝令によれば、その魔物の大群はここ、アール王国へと向かっているらしい。俺の予想が正しければこのままだと2週間後には災いの森を抜けてここに到着するぞ」

「…うかうかしてならんな」

「一応、ギルドのほうには話は既に付けてある。目的は同じだし声さえかかれば協力はしてくれるらしい」

「さすがガウラ。仕事が早いな」

「幸い予想されるルートには森が開けている湿地帯もある。狙うならそこで迎え撃つ方がいいだろうな」

「…わかった。今すぐ軍を集めるとしよう。ガウラ、任されてくれるか?」

「あぁ…任された」


 そんな王の言葉にガウラは頷くと、「失礼しました」と一礼してから部屋を出て行った。


「…魔王ルインと魔王軍、そして背後にいるであろう皇帝の存在…久々に我も動かねばなるまい」


 誰もいなくなった部屋でひとり、王はそう呟くと、玉座の横に立てかけてある大剣をその手に取った。



ーーー



「…あれ?魔王ルインは?」

「あの男ならさっき出て行ったわ」

「うひぁ!?」


 魔王城の一室。マラリアは空っぽになった玉座を覗き込むようにそう呟くと、不意に背後からかけられた声にその身を翻した。


「あら、ごめんなさい。そんなに驚かすつもりはなかったんだけど」

「はぁ…びっくりした…」


 マラリアは目の前で謝る狐の面を被った女の姿を見ると、どこか安心したように息を吐いた。


「全く、あたしの魔力感知に引っかからないってどういうことよユア」

「…今はその名前で呼ばないで」

「あ、ごめん…」


 ユアと呼ばれた女はどこか不機嫌そうに口を歪めると、小さく溜息をついた。


「マラリア、ひとつ頼まれてくれないかしら?」

「…?あんたがあたしに頼み事?…一体どういう風の吹き回しよ」

「私がここで頼める相手が貴女くらいしかいないからよ。それとも何?それだけじゃ不安かしら?」

「…いや、かつて殺し合った相手に頼られるのも悪くないわ」


 女はそんなマラリアの言葉に一瞬安心したように口元を緩めると、真剣な声音で言葉を続けた。


「それで、貴女に頼みたいことなんだけど───」



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