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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第3部.兄を超えたその先へ
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竜の里

「さぁ…抜け殻は退場の時間だ」


 再び上空に翼ばたいた竜人は双頭竜の拘束を解くと、怒りに任せるように向かってくる双頭竜へ向けてその右手を構えた。


「────さようなら…兄さん…────」


 竜人がそう呟くと、双頭竜の身体が一瞬にして光の粒子に分解され、竜人のその手の中へと吸い込まれた。



ーーー



「…ッ!なんだこれ…ッ!」


 双頭竜と別れた翌日、方針どおりユウとユイの影移動を使って竜の里近くの森へとやってきたコウスケ達は、ダークエルフの街(先程まで)とは段違いの魔力濃度にそんな声を漏らした。


「大丈夫コウスケ?」

「あ、あぁ…ちょっと足が重くて頭がガンガンして吐き気と眩暈がすごいけど…なんとか大丈夫だ」

「絶対大丈夫じゃないよ!?」


 真っ青なままそう言うコウスケに、ミリンは思わずそう叫んだ。

 ユウがチラリと横を見ると、ユリやサクラもコウスケほどではないがどこか辛そうな表情をしていた。


「えっと…とりあえずしばらくここで休みましょう。魔力酔いでしょうし、慣れれば楽になりますよ」


 ユウはそう言うと、影の中からいくつかのコップと水筒を取り出して辛そうにしている3人にそれぞれ水を注いだ。


「…ミリン、やはりお前は平気か」

「はい…そうみたいですね」

「俺とユウはともかく、ミリンは来たことはなかったからな…少し心配だったんだが」


 コウスケ達とは対照的にむしろピンピンしているミリン。ユイはそんなミリンの無理をしていない様子を見て静かに安堵した。




「よし、もう大丈夫だ」

「…本当ですか?」

「ぅ…いや、身体は重いけど眩暈も吐き気もおさまったからな。動けないわけじゃないし大丈夫」

「ならいいんですけど…辛くなったら言ってくださいね?」

「わかってるってユウさん」

「…絶対ですよ?」


 顔色の優れないコウスケのその言葉に、ユウはどこか疑いの目を向けながらそう言うと、小さくため息を付いた。


「じゃ、もう行くぞ?少しずつだが魔力濃度も濃くなるから辛くなったらすぐに俺かユウに教えてくれ」


 ユイがそう言うと、コウスケ達はコクリと頷いた。

 それを確認したユウとユイは一度目を閉じた後、最短距離と思われるルートを見つけると、周囲に生えている木々などを次々と薙ぎ倒しながら直進した。



ーーー



 コウスケ達が歩くこと12時間。登っていた日は沈みかけ、いよいよ夜を迎えようとしていた。


「姉さん」

「あぁ…よし、今日はこの辺にしておこう。このペースなら明日の昼には着く」


 ユウに促されたユイはくるりと振り返ると、今にも死にそうな表情をしているコウスケ達にそう言った。


「はぁ…はぁ…ぅ…も、もう限界…」

「お疲れ様ですコースケさん、ユリ、サクラ。とりあえずこれを」

「はぁ…はぁ…ありがとユウ」

「助かったよ…」


 3人はユウから水の入ったコップを受け取ると、側にある倒木に腰掛けてそれを飲み干した。


「あぁ〜生き返るぅ…」

ドラゴンってなんでこんなところで生活できたんだろう…」


 ユリ、サクラはそれぞれそんな言葉を漏らすと、お互いに寄り掛かるようにしてその力を抜いた。

「ミリン。大丈夫ですか?」

「あ、うん…一応大丈夫…かな?流石にちょっと気持ち悪いけど…」

「とりあえず今は休んでください。ミリンの場合は一晩経てばきっと慣れてますよ」


 ユウは「私が保証します」と、それだけ付け足すと、ミリンの元を離れてぐったりと木陰で休んでいるコウスケの元へと向かった。




「…ユウさん。なんかごめん…俺が足引っ張ってるみたいで…」

「いえ、そんなことはありませんよ?そもそも人族がここに立ち寄ろうとすること自体が自殺行為ですからね…ダークエルフやエルフであるユリとサクラとは勝手が違いますし、ここまで早く順応できれば大したものですよ」

「そう…なのか…?たしかにあの2人も辛そうだけど、ユウさんとユイさんを見てると実感が…な」

「はぁ…」


 不思議そうにそう返すユウ。コウスケ姿勢をずらすと、倒木の上に倒れ込むように寝転がった。


「おい、そんなところで寝るなコースケ(馬鹿野郎)。テント出したからせめてそこで眠れ」


 2人がそんなやり取りをしている間、いつのまにか影からテントを出現させたユイは、意識を手放そうとしていたコウスケ向かってそう言った。


「コースケさん、とりあえず今はここに入りましょう?」

「…わかった」


 コウスケはユウの肩を持ちながらヨロヨロと立ち上がると、先日ミリンと寝た小さなテントの中へと入り込んだ。


「あぁ…リーダーいいなぁ…あたしもユウに介抱してもらいたい…」

「リーダー…有罪ギルティ…ッ!」

「お前らはコースケ(アレ)よりはマシだろ。ほら、休むならさっさと休め。お前らがテントに入らなきゃ結界をはろうにもはれないからな」


 ユウに介抱されるコウスケを羨ましそう(そしてどこか恨めしそう)に眺めていたユリとサクラはユイにそう言われると、どこか残念そうに渋々テントへと入り込んだ。



ーーー



「もうそろそろですよ。気を引き締めてくださいね」


 翌日の昼前。野宿を済ませたコウスケ達は再び、ユウとユイ先導の元、竜の里へ向かって足を動かしていた。


「はぁっ…はぁっ…ユウさん、ちょっと待っ…」


 道中、幾度かの交戦の後、すでに限界が近かったコウスケがユウに声をかけようとしたところ、不意にばたりと倒れ込んだ。


「…!?コウスケ!?大丈夫!?」

「…」


 慌てて駆け寄ったミリンはコウスケの肩を掴んでその身体をユサユサと振るも、コウスケは白眼を向いたままピクリとも反応しなかった。


「ミリン、ちょっとどいてください!コースケさん?聞こえますかコースケさん!?」


 ユウは返事のないコウスケの呼吸や脈拍が正常であることを確認すると、流れるような動作でその身体を倒して回復体位をとらせた。


「ユウ、コウスケは大丈夫なの…?」

「えぇ、一応。むしろこんな魔力濃度の高い場所にいて今まで意識を失わなかっただけすごいですよ。しばらくはこの体制で安静にしておきましょう」


 ミリンはユウのその言葉を聞くと、安心したのか力無くその場にへたり込んだ。


「…姉さん」

「あぁ…ミリン、ユリ、サクラ…俺達は先に進むぞ。コースケ(コイツ)は影の中に入れて俺が運ぶ。幸い竜の里はもうすぐそこだからな。魔力濃度は尋常じゃないが…こんなところで魔物共に襲われるよりは安全だからな」


 ユイがそう言い終えるか否か、意識のないコウスケの身体はまるで水に沈むようにズブズブと影の中へと沈んでいった。


「本当にコウスケは大丈夫なんですか?もし、これでコウスケが一生目が覚さないとかだったら私…」

「はぁ…何を言ってるんだミリン」

「そうですよミリン。きっとすぐに目覚めて『お腹すいた』とかいうに決まってますよ!」


 ユウとユイがそれぞれそう言うと、ミリンは先程までの険しい表情を捨てて安心したように肩の力を抜いた。




 ユイがコウスケを影に入れてから数分。そろそろ竜の里を包んでいる結界が見えてくると、不意にユウはその全身の毛が逆立つような異様な気配を感じるとその場に立ち止まった。


(この嫌な感覚…前にもあったような…)


「…姉さん」

「ん?どうした」

「私、ちょっと行ってきますッ!」

「あ、おい!ユウ!」


 突然そう叫んだユウは竜の里と反対方面に走り出すと、ユイ達の声を無視して影の中へと飛び込んだ。

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