新たな街での一夜
「これは…食べれそうですねぇ…」
野宿を終え、移動を開始したコウスケ達。
ユウ以外の5人は各々空から、ユウは食材集めも兼ねて森の中を移動していた。
「しかし…このままは流石に…焼いてシンプルに食べるのもなかなか…いや、火を通してきのこシチューにするのも…」
ユウは移動中に見つけたキノコを手に取ると、夕飯のメニューを考えながらしばらくその場に止まっていた。
『ユウ、なにボーッとしてんだ』
「あ、姉さん。あのですね、キノコをたくさん見つけたんですよ。だから今日の夕食を…」
ユウはそこまで言うと、言葉を止めて警戒するように腰を下げた。
『どうしたユウ?』
「いえ、豚さんを見つけたのでちょっと狩ってきます」
『あ、おい!』
ユウは聞こえてくるユイの声を無視するようにその場を蹴ると、数百メートル先にいるオークの群れに向かって移動を開始した。
「…はぁ…」
「どうでした?」
「いや、オークの群れを見つけたっぽい。合流はもう少し先かな」
森の上空を飛行していたユイは同じく隣を飛行しているミリンの質問にそう返すと、再び小さな溜息を吐いた。
「それにしても便利ですね。思念伝達」
「俺もこんなあっさり使えるようになるとは思わなかったけどな。エルフから教えてもらった技術とはいえそれを一瞬で使いこなせるようになるあたり我が弟ながらさすがだと思う」
「まぁ不満点と言えばユウとユイさんの間でしか使えないってことですね…わたし達には聞こえないので」
「…とりあえず街探しに戻るぞ」
ミリンのその言葉に、ユイは納得のいくようないかないようなそんな表情を一瞬浮かべると、その話題をやめるようにその移動速度を上げてみせた。
「あ、ユイさん!?ちょっと待ってくださいよ!コウスケ達を待たないんですか!?」
ーーー
「今日も野宿か…」
「何言ってるんですかコースケさん…まだ3日目ですよ?」
影の中から完成済のテントを引き摺り出すユイを横目にコウスケがそういうと、ユウが呆れた様子でそう返した。
「いやでも…」
「でももなにもありません。早く街を見つければいいじゃないですか…」
「だって…」
「だってじゃないですよ…空中で何度も何度も回転して遊んでたって姉さんから聞いてるんですからね。絶対街探しに関係ないじゃないですか」
「ぅ…」
ユウのその言葉に、コウスケは言葉を詰まらせた。
それもそのはずである。昼間、ミリン達女性陣が街を探している中、コウスケはただ1人空中で回転したり、滑空の練習(キメポーズまでワンセット)をしていたのだ。もちろん街探しなどやっているわけがない。
「なのでコースケさんの今日の夕食はこれだけです。働かざる者食うべからず…ね?」
ユウは可愛くそう言うと、いかにも毒々しい顔のような模様の入った手のひらサイズのキノコをコウスケに手渡した。
「えっと…ユウさん?これ、どう見ても怪しいんだけど…」
「あ、ちゃんと火は通してくださいね?生だと流石にお腹壊しますよ」
ユウはそれだけ言うと、コウスケの元を離れて女性陣のいるテントの中へと入っていった。
「嘘だろ…マジでこれ食えって言ってんの…?」
コウスケがそう呟きながらキノコを見ると、ふとその顔のような模様がニンマリと怪しい笑みを浮かべたような気がした。
「ねぇ…あれ本当に大丈夫なの?」
女性陣のいるテント内でユウのとってきたキノコと肉(もちろんどちらも調理済み)を食べていたミリンはコウスケに渡されたキノコを見てそんな声を漏らした。
「大丈夫ですよミリン。あれは『ジンメンダケ』と呼ばれるキノコですから。ちょっと見た目はアレですけど…毒性はないですし、あれ一つで三日間は不眠不休で働ける希少キノコです。ポーションの原料だったりします」
「はぇぇ…なら大丈夫かな」
「強いて言えば、炒めたり切ったりする時に断末魔が聞こえてくるくらいですね」
ユウがそう言った瞬間、テントの外から『ギャーッ‼︎』という断末魔と共にコウスケの慌てふためく声が聞こえてきた。
「あぁ…」
「ほら、ね?」
「ど、ドンマイコウスケ…」
ーーー
「…では、いってきます」
玉座に座るルインを前に、ローズはいつものように表情を何一つ変えることなくそう言うと、空気に溶けるように消えていった。
「…ルイン、ローズに何を頼んだの?」
ローズが去った後、まるでタイミングを見計らったかのようにそんな声が響くと、全身を闇色の着物で覆い、口元の見える狐の面を被った黒髪の女が部屋へと入ってきた。
「…影竜の息子のところだ。お前でない母親の、な」
ルインのその一言に、女は呆れたように溜息を吐くと、ゆっくりと口を開いた。
「…やっぱり最低ね。貴方」
「貴様が俺のモノにならないからな」
「私の娘を洗脳してる男がよく言うわ…」
「…そう言っていられるのも今のうちだぞ」
女はルインのその言葉に再び溜息を吐くと、ゆっくりとその部屋を出ていった。
「今の貴方じゃ…私に触れることすらできないのにね」
闇の中に響く女のその声は、ルインの耳に入ることはなくただただその場に響き渡った。
ーーー
『姉さん!アレじゃないですか!』
「アレ…?何処だ?」
『ここから北西、30キロくらい先です』
「ん…?おぉ!アレか!」
野宿を始めてから3日目。上空から街を探していたユイは、思念伝達により頭の中に響いてきたユウの声に従うように目を凝らすと、微かではあるが確かに霧の向こうに街が見えた。
「おい、コースケ。街があるぞ」
「えっ?どこですかユイさん?」
ユイの言葉にコウスケはあたりを見渡すも、その濃い霧に阻まれて街どころか自分がどこにいるかも怪しかった。
「さすが義姉さん!」
「あたし達じゃ見つけられませんでした…」
「いや、見つけたのはユウだ。俺はそれを伝えただけに過ぎない」
2人の元にやってきたユリとサクラにユイはそう返すと、未だに捜索を続けているミリンを連れて一度、地上に降り立った。
「ユウ、この場所からよく見つけられたね」
「そうですか?」
「うん。だってここ、霧と木で覆われてほとんど見えないじゃない」
「あー…いえ、私、獣道とは違う明らかに人為的に作られた道があったのでそれを辿っただけですよ?」
「えっ?」
驚くようなミリンを横に、ユウはさらっとそう返すと、明らかに何者かによって折られたような木が連なる道のようなものを指さした。
「確かに人為的だな。魔物なら自分の存在を気づかれないようにするからこんなふうに折ったりしないもんな…」
「ま、今考えている必要はない。とりあえずあの街に向かうぞ」
「じゃ、また空からいきますかね…」
コウスケとユイのその言葉に4人はコクリと頷いた。
「ここが…ダークエルフの街…」
「まさか結界で覆われてたなんてね…」
街の門前に降り立ったコウスケ達は、門の中に見えるその街の光景にそんな声を漏らしていた。
「あの、姉さん?いい加減下ろしてもらえませんか?」
「嫌だ」
「なんでですか!?この格好、結構恥ずかしいんですけど!?」
「あ、こら!暴れるんじゃない!」
移動中、空を飛べない為にユイにお姫様抱っこをされていたユウは、未だに下ろしてくれないユイの腕の中でジタバタと暴れまわっていた。
「あの、義姉さん…いい加減ユウを離してあげてください」
「どうしてだサクラ」
ユイがそう聞き返すと、サクラはそっとユイの耳元に口を近づけた。
「そのままじゃユウに愛想つかれて嫌われちゃいますよ」
「…それもそうか」
サクラの言葉に、ユイはゆっくりと抱き上げていたユウを下ろした。
「ありがとうございますサクラ」
「気にしないで。私が勝手にやったことだし。ちょっと羨ましかっただけだから」
「羨ましい…?」
「いや、こっちの話」
「は、はぁ…」
サクラの台詞に、ユウは納得のいくような、いかないような表情を浮かべると、それ以上は言わなかった。
「みんな!入っていいって!」
5人がそんなことをしている中、門番との交渉を終えたユリがそう叫びながら戻ってきた。
「随分とあっさりですね」
「いやぁ…あの男の人、ユウとミリンと義姉さんを見た瞬間速攻でオーケーしてくれたよ」
ユウの疑問に、ユリはどこか決まりが悪いように目を逸らしながらそう言った。
「…それはどういう意味だ?」
「私達が竜人って言っても信じてくれる人はまぁ少ないですしね。一般の人なら特に」
「あー…うん。多分2人の思った通りだと思うよ」
そんなユリの言葉に、2人はやっぱりかとでも言うような表情をすると、小さく溜息を吐いた。
「私達の能力を視認したということですか…まぁ門番ですしわからないこともないですが…」
「ま、見られるのは嫌だが仕方ない。とりあえず中に入るぞ」
「金貨6枚か…結構高いなぁ…」
「まぁまぁ…6人分ですし、私も半分出しますから」
「ありがとうユウさん」
一通り街を回ったコウスケ達は、街のギルドに隣接する宿屋で一夜を明かすことにした。
コウスケのその声にユウは自身の上着にあるポケットに手を突っ込むと、3枚の金貨を取り出した。
「はい。これで足りますよね?」
「あ、うん…じゃあこれでお願いします」
コウスケがそう言うと、受付嬢のダークエルフはニコニコと笑顔を浮かべながら会計を済ませた。
ユウはそんな受付嬢をしばらく眺めていると、ふと思い出したように口を開いた。
「あの」
「はい?なんでしょう?」
「ここのお風呂って…」
「あー…先程のあの男性とですか?」
「あ、いえ…ちが…」
「生憎ここの大浴場は混浴とかないんですよ。あ、でも部屋に備えてあるお風呂なら使ってもらって大丈夫ですよ」
「そうですか…ありがとうございます」
「いえいえ、どうぞごゆっくり」
ユウは受付嬢に一礼をすると、先に部屋に向かったコウスケの後を追うように部屋へと向かっていった。
「ま、こうなるか」
「あはは…」
「じゃ、俺風呂行ってくるわ。ここ数日入ってなくて気持ち悪い…」
当然のようにミリンと2人で同室になったコウスケは、どこか気まずい雰囲気を打ち消そうとそう言って部屋を出ようとすると、不意にミリンがその裾を掴んできた。
「ミリン…?」
「あ、いや、えっと…一緒に入らない?」
真っ赤にしてそう言うミリン。
コウスケは衝撃のあまりしばらく固まっていると、ようやく状況を理解したのかアタフタし始めた。
『な、何言ってんだミリン!?ユウさんはともかく俺は男だぞ!?』
「私はともかくってどういう意味ですか!私は男ですよ!」
「落ち着けユウ、な?一旦落ち着け」
隣の部屋で聞き耳を立てていた4人。聞こえてきたコウスケの言葉にユウが思わずそう叫ぶと、すかさずユイが宥めるようにユウを抱きしめた。
「ふー…ふー…すみません姉さん、取り乱しました」
『わかってるよそれくらい。大丈夫、わたしもそんな馬鹿じゃないし』
『何が大丈夫なんだよ…』
『だって前に一緒に入ったじゃない』
『いや、アレは事故で…』
『今更そんなの関係ないよ』
「…今日のミリン、なんかぐいぐいいってない?」
「うん、あたしもそう思った」
壁越しに聞こえる2人の会話にユリとサクラがそう言うと、不意に後ろに立っていたユウとユイがどこか楽しそうに静かに笑い出した。
「あれはですね…私が『コースケさんは押しに弱いからさっさと既成事実でも作ったらどうですか』と、ちょっと吹き込んだんですよ。私はおそらくコースケさんよりもコースケさんの事知ってますからね」
「あぁ…ユウはコースケの記憶も持ってるからな。ま、追い討ちとばかりに俺がさっきミリンに少しだけ媚薬を飲ませたのもあると思うけど」
「「絶対そっちが原因じゃない!?」」
2人のそんな言葉に、ユリとサクラは思わずそんな声を上げた。
「しーっ…!静かにしてください2人とも。コースケさん達に気付かれちゃいますよ」
「あ、うん…」
「なんかごめん…」
2人がそう言うと、不意に隣の部屋でバタバタと何か動くような音がした。
「あ、なんか動きがありましたね」
『なんでそんなにこだわるんだ!?っておい!?脱ぎ始めるんじゃない!』
『だって…わたし、こんな身体になっちゃって…コウスケには全部、知っててほしかったから…』
『いや、だからってそんなことしなくても…』
『ダメ…なの…?やっぱりこんな身体じゃ…』
『あ、いや…そういうことじゃなくてだな!…あぁ…もう、わかったよ!一緒に入ればいいんだろう?な?』
「…ミリン、情緒不安定じゃね…?」
「きっと姉さんのせいですよ…」
ユイのその言葉にユウがそう返すと、ユイはバツが悪いようにそっとその目を逸らした。
「はぁ…とりあえずこれ以上聞くのは野暮ですし、私はお風呂に入ってきますね。あ、私は部屋のを使いますけど、大浴場は男湯と女湯で分かれてるらしいですよ」
ユウはそう言うと、その場から逃げるように部屋にあるバスルームへと入っていった。
「…」
「…」
「…よし、コースケ達には明日『昨日はお楽しみでしたね』と言うことにして、今から風呂に突入するぞ」
沈黙を終えるようにそういうユイ。
3人はお互いの目を見てコクリと頷くと、即座に壁から離れてユウのあるバスルームへと直行した。
翌朝、コウスケとミリンがユウ達に冷やかされたのは言うまでもない。




