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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第3部.始まる旅の行き先は…
47/112

特異魔物



 ミリンの父親に断りを入れ、宿のことをハルナ達に任せたコウスケ達5人は、ギルドに申請するとエルフの街に荷物を届けるという名目でアール王国を出ていた。


「では、私は先にこの荷物を届けてきますね。アヤメさんやエルフのみなさんに挨拶をしたらすぐに戻ってきます」

「おう。任せたユウさん」


 ユウはそう言うと、街に届ける荷物と一緒に影の中へと沈んでいった。


「さて、俺達は予定通り町を探そう。とは言ってもこの霧の中迷わないようにしないといけないけど」


 コウスケが指示するようにそう言うと、ミリン、ユリ、サクラの3人は一瞬各々の顔を見合わせるとコクリと頷いた。


「コースケよ、ちょっといいか?」

「ん?どうしたんですユイさん?」


 コウスケが探索を始めようとした瞬間、不意に周囲を警戒していたユイがコウスケに声をかけた。


「もう囲まれてるぞ」

「「「「えっ」」」」


 ユイのその言葉に4人の声が重なった。

 それもそうだろう、何せここは森とはいえアール王国を出てすぐの場所である。霧が酷いため入る人は多くないが、ギルドにここでの依頼クエストがいくつもあったことをコウスケ達は知ってるからだ。

 4人が困惑していると、ユイの言った通り周囲から草木をかき分けるような音が聞こえてきた。


「…チッ…ゴブリンの群れか…オークじゃなくて残念だ」

「…義姉さん、食べる気満々ですね…」

「さすがというか…やっぱりユウのお姉さんなだけあるというか…あたし達には理解しがたいね」


 ユイのボソッと吐いたその言葉に、ユリとサクラが若干呆れ気味にそう言った。まぁユイにとってはそんなこと些細なことだが。

 3人がそんなことをしていると、周囲を囲んでいたゴブリン達がいよいよその姿を表した。見えるだけでもざっと30以上はいるだろうか。彼等ゴブリンは霧で身を隠すようにコウスケ達に近づくと、絶好の獲物を見つけたというように薄気味悪い笑みを浮かべていた。よく見ればオークの武器のような大斧を持った個体が何体かいるのが確認できる。


特異魔物ユニークモンスターか…」


 ユイがボソッとそう呟くと、ゴブリン達は一斉に襲いかかってきた。



ーーー



「なんですか…これ…」


 影移動を使い、エルフの街にやっきたユウは、変わり果てたその街の光景を前にそんな声を漏らした。


「…!これはあの時の竜人様…!」


 立ち尽くすユウに不意に背後からそんな声が聞こえてきた。ユウは反射的に構えるような姿勢で振り返ると、そこには傷だらけのままボロボロになった衣服を見に纏ったレンゲが瓦礫に横たわるようにしながら立っていた。


「えっと…レンゲさん、でしたっけ?一体、何があったのですか?」


 周囲を見渡したユウがレンゲに回復魔法をかけながらそう言うと、レンゲはどこか躊躇う様な表情をしながらゆっくりと口を開いた。


「実は…あなた方が帰ってから数日後、『サーズ』『マーズ』を名乗るオーガと『ローズ』と呼ばれる魔人がこの街を襲っていったのです。それからアール王国に支援物資を頼んだのですが何せここから王国までは相当時間がかかるみたいで…」


 エルフの街とアール王国の間には凶暴な魔物が多く生息する『災いの森』が存在する。そしてこのエルフの街周辺の森は常に特に濃い霧に覆われており、安全に物を運搬するためには迂回する必要がある為、とても時間がかかるのだ。


「あの、もしかしてその物資ってこれのことでは…」


 ユウが持ってきた大量の荷物を指さすと、それを見たレンゲはそれだとでも言うようにコクコクと頷いた。


「まさかこんなに早く届けてくださるとは…流石竜人様です…!」

「あ、いえ…私達は旅の一環としてこれを届けるだけなので…」


 ユウはそこまで言いかけると、人っ子1人見ない街の様子を見てその言葉を遮った。

 エルフの街はすでに前回ユウ達が訪れたときの姿は消え失せ、あの噴水は愚か街のどの建物も半壊又は全壊状態という有様だった。


「あの、差し支えなければ残った人達のいる場所へ案内していただけないでしょうか?何か手伝えることがあるかもしれませんし」


 ユウのその一言に、レンゲの今までどこか絶望していたような表情が一瞬にしてパァッと明るくなった。


「いえいえとんでもない!竜人様のその言葉が今のわたくしどもにとってどれほど心強いか…」


 レンゲは深く感謝するようにそう言うと、残った街の人達が避難したシェルターのような施設へとユウを案内した。



ーーー



サンダーァァァァ!」


 コウスケは次々と迫り来るゴブリン達をことごとく蹂躙していた。


「ミリン!数は後どれくらいいる!?」

「まだコウスケが倒した3倍以上は軽く超えてる」

「数が多すぎるッ!俺もそろそろ魔力が切れそうだ…ッ!」


 広範囲に雷を連発していたコウスケだったが、いくら倒しても減る気配のないゴブリン達を相手に早くも魔力が底をつきかけていた。


「コウスケ!後ろ!」

「…ッ!」


 ミリンの声にコウスケが咄嗟にその場を離れると、その直後に立っていた場所が抉り取られるように消滅した。


「なんだこの威力…」


 コウスケがそれに目を向けると、そこには1匹の大斧を持ったゴブリンがいた。

 コウスケは背中を流れる冷や汗を悟られぬように魔法陣から2本の剣を取り出すと、ゆっくりとそれを構えてみせた。


「よせコースケ!特異魔物共ソイツらは俺が引き受ける!あの力は温存しとけ!」


 コウスケの背後から攻撃してきたゴブリンを一掃したユイは、特異ユニークゴブリンと戦おうとするコウスケに向かってそう叫んだ。


「でも…!」

「今のお前じゃ無理だ。ユウならともかくレベルが違いすぎる。もっと冷静になれ」


 ユイのその言葉にコウスケは言葉を詰まらせると、ユイの尻尾によって弾き飛ばされるようにその場を離脱した。その瞬間、いつのまにか2人に近づいていた数体の特異ユニークゴブリン達がコウスケに襲いかかろうとしていたのかコウスケの立っていた場所に大穴を開けた。


「チッ…特異魔物ユニークモンスターのくせに何体いるんだ…」


 数体の特異ゴブリンを前に、ユイは一筋の汗を垂らすと愚痴るようにそう呟いた。




「コイツら、一体一体は弱いのになんでこんなに数がいるの!?」

「それはあたしも聞きたいくらいよ!」


 ユリとサクラの2人は背中合わせになるように立つと襲いくるゴブリン達を各々の武器で蹴散らしていた。

 彼らの戦う亜種と呼ばれるその個体は、個々の戦闘能力こそ低いものの通常のゴブリンよりも繁殖力が非常に高く、数による集団攻撃が主な魔物である。

 2人はそんな亜種ゴブリン共を次々と殺すも、その圧倒的な数に押されつつあった。


「…ッ!」

「そろそろこっちも限界…ユリ、アレ使っとく?」」

「…仕方ない、出し惜しみはできそうにない、な!」


 ユリはサクラの言葉を聞くと、はめていたグローブ状の武器を外してみせた。


「いくよユリ!」

「ええ!」

「「〈水の巨人アクアゴーレム〉!」」


 2人がそう叫ぶと、周囲を覆っていた霧や血が2人を包み込むようにして巨大な『人型』を形成した。




「…ッ!なんて数ッ!」


 亜種ゴブリン達を1人で相手していたミリンは、持っているペンデュラムで目の前のゴブリンの頭をはねるとそんな声をもらした。

 それもそのはず、ミリンは今自分の姿を維持する擬態魔法を使用しているため、魔法を使うことができなくなっていたのだ。


ペンデュラム(これ)を使えるから良かったけど…やっぱりいい魔法が使えないのはキツい…」


 ミリンは苦虫を噛み潰したような表情でそう呟くと、思い切って擬態魔法(その制限)を解くことにした。

 その瞬間、ボンっという音と共にミリンの身体に白い竜の翼と尻尾が出現した。


「できればやりたくなかったけどねッ!」


 ミリンはどこか複雑そうな表情でそう叫ぶと、身体を捻って背後に襲いかかってきたゴブリンをその尻尾で弾き飛ばした。



ーーー



「これは、よく生きてますね…まるで怪我した状態から時間が止まってるみたいで…今、治しますからね」

「…すみません竜人様。わざわざこんなことをしていただいて…」


 シェルター内に案内されたユウは、レンゲ同様に大怪我をしているエルフ達に次々と回復魔法をかけていた。

 今、ユウの目の前にいる少女エルフはまるで何者かに抉り取られたように腹部を激しく損傷していた。


「気にしないでください。これは私が勝手にやってることですから」

「し、しかし…それではあなたの魔力が…」

「…私の魔力総量、なめないでくださいね?それに、どんな怪我さえわかれば作業も効率化できますし、これくらいすぐに回復しますよ」


 心配するレンゲにユウが笑ってそう返すと、丁度回復魔法をかけていたエルフの意識が回復した。


「…ッ!アヤメ!?アヤメは!?」


 目を覚ましたエルフの少女は、起き上がるなりそう叫ぶと周囲をキョロキョロと見渡した。


「あの…今アヤメって言いました?」


 ユウはその少女エルフが発した『アヤメ』というワードに思わずそう聞き返してしまった。少女エルフはそんなユウの言葉にピクリと反応すると、その視線をユウに向けてきた。


「貴女…アヤメをしってるの?」

「あ、いえ…勘違いだったら申し訳ないのですが…リザードマンの…」


 ユウがそこまで言いかけると、少女エルフはその大きな瞳を広げて驚くように固まった。


「本当にアヤメの知り合いだなんて…」

「ええ、まぁ一度しか会ってはいないんですけどね。よければ後でアヤメさんのこと少し教えてください。あの後どうなったか知りたいので」


 ユウは少女エルフにそう言うと、隣に横たわっている別の怪我人に回復魔法をかけはじめた。




「これで全員ですか?」

「え、えぇ…まさかお一人で全員治してしまわれるとは…!ありがとうございます竜人様!」


 シェルター内にいたエルフ全員を治療したユウは、彼等に物資を渡し終えるなりレンゲに頭を下げられた。


「いえ、私が勝手にやったことなので…それよりも疑問なんですが、いいですか?」

「質問…ですか?えぇ、なんでも聞いてください!お礼と言ってはなんですがわたくしが答えられる範囲ならなんでも答えますよ」


 レンゲはそう言うと、かかってこいとでもいうようにピシッと背筋を伸ばした。


「では…ここが襲撃されたのはもう1月ほど前ですよね?それにもかかわらずどの怪我人もまるで怪我した状態から時が止まっているみたいで…一体どうやってあの状態を保っていたのですか?普通なら助からないほどの大怪我なはずなんですけど…」


 ユウがそう聞くと、レンゲは一瞬驚いたような表情をすると、ゆっくりとその口を開いた。

「さすが竜人様、アレに気付くとは…えぇ、教えて差し上げましょう。アレはこの街に伝わるわたくし達エルフの秘伝魔法、《ダメージストッパー》です。効果のほうは…」

「致命傷を受けた時に死ぬギリギリの状態で持ち堪える、と?」

「えぇ、正確には『魔力が続く限り生体機能を停止し、仮死状態としてその一命を取り留める』というものです。その間は出血、腐敗等は抑えられる代わりに意識がなくなるのですが」


 レンゲはそこまで言うと、小さく溜息のようなものをついた。そして、気を取り直すように咳払いをすると再びその口を開いた。


「ここにいるエルフ達はみな、基本的に交戦的ではないので戦わない限り魔力自体は相当量残っておりました。しかし、それでも1ヶ月が限度。その間に回復魔法などで治療に当たらなければ命を落とすことになります」

「では、もし私が来なかったら…」

「全員、死んでいたことでしょう…」


 レンゲのその一言にユウは言葉を失った。

 レンゲの話が本当なら、ここにいる怪我人は抵抗すら間もなく虐殺されたと考えるのが妥当だからである。

 ユウは顔も見たことのないこの街を襲った3人に対し、激しい怒りのような感情が湧き上がると、その拳を力強く握りしめた。



ーーー



「…はッ!みんな、ゴブリンはどうなっt…」


 ユイの一撃によって伸びていたが目を覚ますと、覗き込むように目の前に映るミリンと頭に伝わる柔らかい感触を前にその言葉を止めた。


「あ、コウスケようやく起きた?」

「あ、うん…えっと、これはもしかして俺、膝枕されてる?」

「そんな改めて言わないでよ恥ずかしい」


 そう言って嬉しそうに身体をくねらせるミリン。その反応はコウスケの予想が当たり、自分が膝枕をされているということを意味していた。


「ご、ごめんミリン!今離れるから!」

「あっ…」


 状況を理解したコウスケは飛び跳ねるように立ち上がると、どこか残念そうな表情をしているミリンのほうを見た。


「ミリン、その翼と尻尾って…」

「あ、コレ?えっと…」


 コウスケの一言にミリンが言い淀んでいると、不意に周囲の草むらからガサガサという物音が聞こえてきた。


「この際だ、話してやれ」


 2人の前に現れたユイはそう言うと、未だに座っているミリンの手を取って立ち上がらせた。


「ユイさん、大丈夫でしょうか?」

「問題ないだろ。ユウもそう言ってたしユリとサクラ(アイツら)もそうだったんだから」


 ユイのその言葉にミリンは一度息を吐くと、覚悟を決めたように口を開いた。


「コウスケ、あのね?この姿のことなんだけど…」

「…あ!わかった!もしかしてあの時はすぐ元に戻ったけど今回は元に戻らなくなったとか?旅に出たいって言い出したのはもしかしてその通りだったり…?」


 思いついたようにそう言うコウスケ。ほとんど当たりを引いているソレに2人は思わず顔を見合わせると、呆れたような、疲れたような表情でため息をついた。


「…お前、こういう時は妙に鋭いのになんで鈍感なんだ?」

「ユウも大概だけどコウスケも相当だよ…」

「あれ?俺今褒められてんの?なんか言葉に棘があるように感じるんだけど…」

「皮肉に決まってんだろ。いい加減気づけ」


 状況を理解しきれていないコウスケに、ユイは呆れたように息を吐くとミリンの肩にポンと手を置いた。


「頑張れよ」

「あ、はい…」


 ミリンは咄嗟にそう返すと未だに頭にハテナを浮かべているコウスケにことの顛末(旅をしようとした理由やその姿のこと、ゴブリン共のこと)を説明しはじめた。




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