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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第3部.新たなる目的へ
45/112

その姿を隠して

(これは一体…)


 暗闇の中、目を覚ましたユウは横たわっているその身体を起こそうとすると、ガシャンという金属音とともに動かそうとした腕の動きが止められた。

 見れば、その両腕にはいかに頑丈に作られているのか目に見えてわかるような手錠がつけられていた。


(手錠…ということは、これは捕まったと考えるのが妥当ですかね…助けを呼ぶのは絶望的ですか…)


 ユウはそう考えると、全身の力を抜いて柔らかな床の上に再び横たわった。


(…落ち着かない)


 ユウが眠れずにしばらくすると、不意にガチャリという音と共にその暗闇に光が差した。


「あ、目覚めた?」


 女性の声。ユウは目を細めながら光の差す方へと顔を向き直すと、そこにはどこか高級そうなドレスを身に纏った17くらいの女が立っていた。


「──…───ッ!──!?」

(声が…出ない…!?)


 ユウがその女に話しかけようとするも、声帯がやられているのかただただ口から空気が漏れるだけだった。


「…やっぱり喋れないか。ごめんね。私のお父様が」


 女はそう言うと、持っていた水の入ったカップをユウの顔近くまで持っていった。


「手…動かせないと思うけど、これ飲んだかないと死んじゃうよ」


 否が応でも飲ませようとする女。ユウはしばらく渋っていたが、折れるようにその水を口にした。


(毒は…入ってないみたいですね)


 女はユウがカップから口を離すと、残った水を自ら飲み干した。


「ほら、大丈夫でしょ?毒なんて入ってないよ」

(そういうのは普通先にやるのでは…)


 ユウが心の中でそんなツッコミを入れると、女はどこか楽しそうに口を開いた。


「私、人の考えてることがわかるの。生まれつきなんだけどさ。だから貴方が何を考えてるのか、声を出さなくても伝わるよ」

(ハッタリですよね。そんなこと)

「ハッタリなんかじゃないよ。でも、信じてもらえないのは重々承知だけどさ」


 女はそう言うと、カップを持ってスッと立ち上がった。


「また明日来るから」


 どこか寂しげな表情でユウを見る女は、それだけ言い残すと静かに部屋の扉を閉じた。

 再び1人になったユウは、改めて状況を整理することにした。


(あの女の言葉…もし本当だとするなら今の声の出ない私でもなんとか交渉できるか…しかし、ここは一体?私のも尻尾も手足についた赤黒いも…切り落とされるどころか何一つ欠かていませんし研究所という可能性は低い、と考えるのが妥当ですかね)


 いずれにせよユウのやることは変わらない。ユウの頭にあるのは、『どんな状態であれ生き延びる』…それだけだった。

 



「やぁ。どうだい今日の気分は」

(…この状況で気分の良い人なんていませんよ)

「ははっ…やっぱり貴方は面白いや。その姿で『人』を語るなんて」

(…)


 女は初日に言った通り、その翌日も──否、あれから毎日のようにユウの元を訪れていた。もちろん、食事を持っていくという建前のようなものもあるのだが。

 いつのまにか、ユウにはそんな毎日に微かな安らぎのようなものを感じていた。


「…それで、そろそろ話す気になった?」

(話す…?一体、なんの話です?)

「何って…


────貴方が、私達の国を滅ぼした理由───


 だよ」



ーーー



「また…あの夢?いや、もしかするとこれはあの続きなのでは…」


 宿に帰還してから1週間。

 みんなが寝静まる深夜、不意に目を覚ましてしまったユウはムクリと起き上がると、かかっている掛け布団をどかして自らの身体を見た。もちろんその背中に赤黒い翼は生えておらず、手足は鱗で覆われてなどいなかった。

 それを確認したユウはベッドから降りると、ひとまず落ち着こうと水を飲みにリビングへと向かった。




「…誰?こんな時間に」


 ユウがリビングに着くと、すでに先客がいたのか声をかけられた。


「ユウですよ。あなたこそどうしたんですか、ミリン?」

「…いや、なんでもない。ちょっと怖い夢を見た…ってことにしといて」

「はぁ…」


 ユウはそんなミリンの声に気の抜けたような返事をすると、目当ての水をくんでそれを喉に流し込んだ。


「…ねぇユウ」

「ん?なんですか?」

「ユウはさ、もしわたしが人間じゃないって言ったらどう思う?」


 ミリンの普段とは違うそんな声音に合わせるように、ふと差し込んだ月明かりが闇に隠れていたミリンその姿を照らし出した。


「ミリン…その姿…」

「そう。先週コウスケと一緒に戦ってたときに初めてこの姿になったの。でもね、あの時はすぐに元の姿に戻ったし〈イメージの具現化〉の影響なのかなって思ってたんだよ」


 ユウは翼と尻尾の生えたミリンを前に、ゆっくりと足を動かすとミリンが立っている場所のすぐ横にある椅子に腰かけた。


「…ユイさんはさ」

「…姉さん?なんで姉さんが出てくるんです?」

「いや、この話をさ、前にユイさんにしたことがあるんだよ。そうしたらさ『お前の母親ならきっと、その身体の異変について知ってるはずだ』って。ユイさんはこの姿のことを『異変』って呼んだんだよ」

「それはつまり…」

「そう、〈イメージの具現化〉なんかじゃない。ただただわたしの姿が変わったってことになる」


 ミリンはそう言うと、どこか寂しげな、不安そうな表情をすると、月明かりの差し込む窓へと視線を向けた。

 しばし沈黙。2人は何を言うでもなく、しばらくその状態で固まっていたが、不意にユウがその口を開いた。


「いいんじゃないですか?別に元の姿に戻らなくても」

「…え?」


 ユウのそんな一言に、ミリンは豆鉄砲を食らってような表情でそう返すと、ユウは何かおかしいと一体様子で口元を緩めた。


「なんですかその反応。私は別に変なことは言ってませんよ?」

「いや、わたしにとっては十分変なことだから!?っていうかなに笑ってるのよ!」


 ユウはひとしきり声を凝らして笑うと、どこか落ち着いた様子で自身を落ち着かせた。


「ふぅ…ま、まあ真面目な話、元に戻らなくていいって言うのはあくまで私の意見です。でも、仮に元に戻る方法が無かったとして、コースケさんがミリンをどう思うかは別の話です」

「…どういうこと?」

「ミリンは自分の姿が変わっただけでコースケさんがいつもと違う接し方をすると思いますか?」

「それは…ない、と思うけど」

「そう、つまりはそういうことです。別にわざわざ元の姿に戻らなくてもコースケさんがミリンを嫌ったりなんてしませんよ。…まぁ過去に似たようなことをして散々な目にもあってますが」


 どこか笑い飛ばすような口調でそう言うユウ。ミリンは心のどこかに引っかかっていた何かが取れたような感覚を覚えると、ユウにつられて静かに笑い出した。


「なんか、コウスケらしいね」

「はい。コースケさんはそういう人ですから」

「コウスケの記憶を持ってるユウが言うんだから間違いないね。あーあ…なんか心配して損したわ」


 ミリンはそう言うと、気が抜けたように椅子に座った。


「まぁミリンが本当に元の姿に戻りたいのなら、一時的にですけど〈イメージの具現化〉を使って外見を変えることくらいはできますよ」

「えっ…?そんなこともできるの?」

「えぇ。魔力は消費するのであまりオススメはしませんが…ちょっと見ててください」


 ユウはそう言うと、自らの尻尾を消してみせた。


「ほんとだ…ユウが普通の人間になってる…」

「まぁ擬態魔法の応用です。仕組みさえ覚えてしまえば簡単ですよ」


 それからしばらく、ユイはミリンにやり方を教えると、ミリンが元の姿に戻れるようになる頃にはすでに日が上り始めていた。

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