依頼達成
「…ん…むぅ…」
明るい光を浴びたユウはゆっくりとその瞼を上げると、ガバッと布団からその身体を起こした。
「腕は…!翼は…!?」
ユウは自身の身体を確認するも、全身を走る激痛も、赤黒い鱗を纏った腕も、血に染まった翼も、そして首元についた傷も、何一つ存在しなかった。
「無い…なら、アレは一体…」
落ち着きを取り戻したユウは一度冷静になると、自分のいる部屋へと目を向けた。
そこにあったのは宿屋にあるユウの部屋ではなく、小さなテーブルとベッドが一つ置かれただけの知らない部屋と、若干胸元がぶかぶかではあるが女性用の寝巻きを見に纏った自分だけだった。
「…?私、まだ女のままだ…」
ユウは自分の身体に起きている感覚でそう呟いていると、不意にガラガラっと部屋の扉が開かれた。
「あ、ユウ。起きたんだ。…大丈夫?いきなり気を失ったらしいけど」
「いえ、私は大丈夫です」
「…ほんとに?」
扉から入ってきたスミレは、持っていた水の入ったコップをテーブルに置くとユウの座っているベッドへと腰掛けた。
「なんでそんなこと聞くんですか…?私の身体には何もありませんけど…」
「そうじゃないよ。ユウ」
スミレはそう言うと、未だにハテナを浮かべているユウの手をとった。
「義姉さんのこと、だよ」
「姉さん…?姉さんがどうしたんですか?」
そう聞き返すユウにスミレは一瞬驚いたような表情を見せると、どこか躊躇うようにゆっくりと口を開いた。
「…義姉さん、亡くなったのよ。ペストって女から僕達を守って」
「…」
スミレが静かに涙を流しながらそう言うと、ユウはしばらくの間固まっていたが、しばらくすると泣いたりする代わりに微かに笑いはじめた。
「ゆ、ユウ…?なんで笑ってるの…?悲しくないの?」
そんなユウの様子を見てスミレは混乱した様子でそう言った。
それも当然の反応である。姉が死んだと聞かされて笑うという今のユウを見れば誰だって困惑するだろう。2人の仲が悪いならまだしも、ユウとユイは危ないくらいに仲良しだから尚更だ。
ユウはそんなスミレの手を握ると、どこか申し訳無さそうに口を開いた。
「スミレ。何か勘違いしてるみたいですけど…姉さんは普通に生きてますよ?」
スミレは再び混乱した様子で頭を働かせるも、やはりユウの言葉が理解できずに再び口を開いた。
「えっ…でも、あれはたしかに義姉さんの…」
「勝手に俺を殺すんじゃない。俺は生きてるぞ」
「嘘だよね?義姉さんだって見たでしょ?血だらけになって殺された義姉さん死t…え?義姉さん!?」
スミレが驚くと、いつのまにか2人の前に立っていたユイはやれやれと言った様子で首を振った。
「何そんな慌ててるんだ?俺はピンピンしてるぞ?」
「だから姉さんは死んでないって言ったじゃないですか。スミレ」
「えっ?なんで!?だってあれはたしかに…あれ?」
混乱しているスミレをよそに、ユウはベッドから降りるとユイに抱きついた。
「どうしたユウ?なんか怖い夢でも見たのか?」
「…まぁ、そんなところです」
「はいはい…俺に甘えてもいいけど、先にみんなに顔出しとこうな。みんなスミレみたいにユウが倒れたって心配してるから」
「…はい」
ユウはそう言うと、ユイから離れて身だしなみを整えた。
スミレはしばらくの間トリップしていたが、ユウが立っていたことに気付くとベッドから立ち上がった。
「えっと…義姉さん?」
「わかってるよ。状況の説明だろ?」
「えっと…はい」
「任せとけ。ちゃんと全部説明するから」
ーーー
民宿のリビングにいたコウスケ達はやってきた3人の姿を目にすると、驚きのあまり声を失っていた。
「どうしたんですかみなさん?そんなに固まってしまって…」
ユウがそんなコウスケの顔を覗き込むと、コウスケはまるでいきなりスイッチが入ったおもちゃかのように座っていた椅子から転げ落ちた。
「こ、コースケさん!?大丈夫ですか…?」
「…いてて…大丈夫、大丈夫…」
コウスケはそう言って立ち上がると、ユウとユイの顔を交互に見た。
「えっと…こっちがユウさんで合ってるんだよね…?」
「えっ?」
「は?お前、俺とユウの区別もつかないのか?」
「いや、そういうわけではないんですけど!ユウさん髪落としてるからユイさんとそっくりだったから一瞬見分けがつかなかっただけで…」
「やっぱ見分けられてねぇじゃねぇか!」
弁解が終わると同時にユイの拳がコウスケの左頬を殴り飛ばした。
「ガハッ…!」
「コウスケ!?」
「姉さん!?何やってるんですか!?」
「すまん、つい…衝動が抑えられなかったわ」
右ストレートを食らったコウスケは、ミリンに回復魔法をかけてもらうと、おぼつかない足でよろよろと立ち上がった。
「…それで、義姉さんはなんでここに…?あたし達はてっきり…」
「死んだと思った。ってか?」
「はい…ユウもアレをみて気を失ってたし…」
ユリとサクラのそんな言葉に、ユイはどこがおかしいのか笑いが堪えられないと言った様子でしばらく笑い出した。
ユウ以外の5人がそんなユイの様子に首を傾げていると、不意にユウが口を開いた。
「えっと…私が気を失ったのは確かにアレのせいですけど…アレに触った瞬間、姉さんが考えてたことが一気に頭の中に過ぎって、安心したら意識が…って感じだったんですよ」
「え?じゃあユウさんはあの時、ショックで気絶したわけじゃない…?」
「はい」
ユウのその言葉にコウスケ達は一気に身体の力が抜けると、座っていた椅子の背もたれにもたれかかった。
「ま、騙すときは味方からって言うしな。俺はあの女と戦ってるとき、影を使って移動したように見せかけて代わりの魔法人形と入れ替わったんだ。まぁ人形って言っても、痛覚とか色々再現してるから相当キツかったけどな」
「まぁ簡単に言えば姉さんは代えの身体を使ってわざと負けを演じたって感じです。確かにアレはリアルでしたけど、私には姉さんじゃないことくらいすぐにわかりましたよ」
コウスケ達は2人のそんな会話に、してやられたというか気持ちと、生きていてよかったという気持ちが同時にやってくると、安心した様子でその胸を撫で下ろした。
ーーー
依頼を終わったコウスケ達は、民宿のお爺さんオススメの観光スポットを幾らかまわると、残りの滞在時間を潰していた。
「ユイさん」
「ん?どうしたミリン?」
夕日が沈みかけ、浜辺で遊んでいるコウスケ達を眺めていたユイは、不意にこちらにやってきたミリンを前に不思議そうに首を傾げた。
「隣…座っていいですか?」
「ん、あぁ、構わないけど…」
ユイは座っていた岩の上から少し腰をずらすと、一人分空いたそこにミリンを座らせた。
2人はしばらく無言のままコウスケ達を眺めていたが、不意にユイが口を開いた。
「ユウがああやって遊んでるところを見るとさ、10年前に俺達が一緒に遊んでた時のことを思い出すんだ。あの時は俺とユウと、あとイヨって女がいつも一緒ですっごく楽しかったんだ。…今のユウもその時と同じくらい明るい笑顔をしてる。ユウをこっちに出してくれたのはお前達なんだろ?これでも俺は感謝してるんだぜ?」
「ユイさん…」
自白のようにそう言うユイ。ミリンはしばらくその横顔を見つめていると、不意に横を向いたユイとばっちり目が合った。
「…ミリン、何かあったのか?俺で良ければ話を聞くくらいはするぞ?」
どこか心配するようなユイの視線に、ミリンしばらく言い淀むとそっと口を開いた。
「…昨日、あの怪物と戦ってる時にその、ユイさんみたいな白い翼と尻尾が急にわたしの身体から生えてきて…ユウが戻ってくる頃には元に戻ってたんですけど、自分でも何が起きたのか分からなくて…」
「そう…」
ユイはしばらく考え込むような素振りを見せると、不意にミリンの頭にポンと手を置いた。
「…?ユイさん?」
「ミリン。お前の母親ならきっと、その身体の異変について知ってるはずだ」
「お母さんに…?でもわたし、お母さんと離れてもう10年以上も経ってるんですよ?場所もわからないのに一体どうやって…」
ユイのその台詞にミリンが驚きの表情を見せながらそう言うと、ユイは何も心配はいらないと言った表情でニッと笑ってみせた。
「いや、俺の推測が正しければ俺達の叔母とお前の母親はなんらかの関わりがありそうだからな…そう手こずらないと思う。うん」
「…それって確証がないんじゃ…」
「ま、霊竜みたいな例もあるからなんとかなるだろ」
ユイはそのままワシャワシャとミリンの頭を撫でると、再びコウスケ達の遊んでいる浜辺へと視線を戻した。
あえて気楽に言っているようなユイの口ぶりにミリンは僅かな疑問も抱くも、それを口に出すことはなかった。
実は生きていた!ってね。
はい、みなさんこんにちは赤槻春来です。
第13章、いかがでしたか?
今回の内容は短めで12章の後日談といった形になっています。私的にはこれにて第2部終了って感じですかね。
前半の内容はよくわからないことだらけで、なんでユウはあそこにいたのか、あの男は一体誰だったのか…はたまた現実なのか夢なのか…それはこれからのお楽しみということで。
後半は目を覚ましたユウと無傷のユイ姉を見てみんなが驚く、というだけの割とほのぼのした回となってます。まぁたまには息抜きをしないとね。
そんなこんなで次回は14章!個人的にはまた新しい物語の始まりのような感覚です。第3部といった感じで大きくストーリーが動いていくぞ…!
面白いと思ったら今後も読んでくれると嬉しいです。
感想やアドバイスなどありましたらコメント欄やツイッターなどに書き込んでくれると幸いです。
それではみなさん、またどこかでお会いしましょう。
ちゃお〜‼︎




