痛みの記憶
(ー痛い。痛い痛い痛いッ!)
全身を走る激痛にユウはその意識を取り戻すと、閉じていたその両目を開けた。
「いたぞ!あの女だ!」
「おい、アレは魔物だ!見た目に騙させるな!」
(一体…何がどうなって…)
まるで何かに抉られたようになくなった周囲の景色。その中心にへたり込んでいるユウを見た冒険者と思われる人々は、まるで親の仇でも見るかのような目で武器を構えると、一斉にユウへと攻撃を開始した。
「痛ッ!や、やめて下さいッ!」
「うるせぇ魔物め!お前のせいでどれほどの犠牲者が出たと思ってんだッ!」
冒険者の1人がそう叫びながら剣を振るうと、ユウは咄嗟に左腕を出してそれを受け止めた。
「クソッ!この化け物め…なんつー防御力してんだッ!」
そんな冒険者の声にユウはその左腕へと目を向けると、今まで人と同じだったソレとは全く違う、赤黒い鱗を纏った竜の腕が冒険者の剣にヒビを入れながらそれを受け止めていた。
「…ッ!…ぁ…嫌ァァァァ!」
ユウは視界に入った左腕を振り回すと、冒険者を弾き飛ばして再び地面へとへたり込む。
「オイ!大丈夫か!?」
「ああ…一応な…」
冒険者は駆けつけたもう1人の冒険者に回復魔法をかけられるも、余程傷が深いのか全く回復する気配が無かった。
その光景を見たユウが震えるその両手に目を向けると、その右手もユウが知っている人のその腕とは違う、赤黒い鱗を纏った竜の腕そのものだった。
「ぁ…あぁ…ぁぁぁぁ…ッ!」
ユウの頭の中は様々な感情でぐちゃぐちゃになると、まるで何かに取り憑かれたように頭を掻きむしった。
「なんだ…アレ…」
側からそれを見ていた冒険者の1人がそんなユウの変化に気付くと、不意にユウはその両手を地面につけてどこか悲鳴じみた咆哮を上げた。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
──ビリッ…ズルッ…
不快な音と共に、ユウの身に纏っていた服の背中部分が破れると、大量の血を吹き出しながら、そしてまるで蛹から何かが翼化するように血で赤く染まった竜の翼がユウの背中に出現した。
「ッ!みんな!やれェェェェッッッッッッ!」
誰かがそう叫ぶと、集まっていた冒険者達は魔法、あるいは弓矢を使って泣きながら咆哮をあげるユウに向かって一斉に攻撃を開始した。
ユウはそれらの攻撃を浴びるも、まるで何も受けていないかのようにそれを弾き返した。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
ユウは攻撃の雨が止まぬ中そんな声を上げると、生えたばかりの血だらけの翼を広げ、半壊している街の外へと飛び立った。
「はぁ…はぁっ…」
訳もわからぬまま本能的にあの場を離脱したユウは、災いの森上空をしばらく飛んだのちにとある湖のそばへと着地した。
ユウはヨロヨロとした足取りで湖に向かうも、その水面に映った自分の姿を見てその足を止めた。
「これが…私…?」
水面に映ったそれは、全身血まみれで破れたスカートから所々見える足もまたその腕と同じように赤黒い鱗を纏った竜のものとなっていた。
ユウは動揺した様子で水面に顔を近づけると、まるで夢から醒ますようにバシャバシャと水をかぶった。
「嘘…私、なんでこんな…」
改めて水面に映った自分を見たユウはどこか絶望したような声をあげると、しばらくの間放心状態でその場に固まっていた。
ザクッ…ザクッ…と、不意に足を踏むような音が聞こえると、ユウはゆっくりと顔を上げた。
「貴様が街で暴れ回った魔物か…」
「…誰ですか…私に…何か用ですか…」
ユウがそう言うと、その足音はユウとしばらく距離を置いた場所で止まった。
「…驚いた。まさか我々の言葉が通じるとはな」
ユウはそんな声を聞くと、ゆっくりと声のする方へと振り向いた。
「…言葉が通じたら何なんです?貴方が…私を逃すとは思えないのですが」
「あぁ…たしかにな。我々の言葉を分かる魔物なんて脅威でしかない。故に我は民のために貴様をこの場で斬り殺す」
ユウの視界に入ったその男は、その手に持っている大剣を握りしめるといきなりそれを振り回した。
ユウは咄嗟に腕を出して防御するも、その圧倒的な勢いを殺せずに湖の中へと突き飛ばされた。
「なんという防御力…あの一撃で粉々どころが鱗の一つも破壊できないとは…」
男はユウの座っていた場所を見てそう呟くと、不意に湖の中から一つの水柱が立った。
「やはりな…」
「…はぁ…はぁ…ぅッ…ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
水中から飛び出したユウはその翼を広げて空を舞うと、本能に従うように咆哮し、男へ向かって突進した。
「小癪な…ッ!」
男は飛んできたユウに大剣を向けると、その腕を弾き飛ばすように振り回した。
ユウは左腕でそれを受け止めると、身体を捻って尻尾を男の脇腹へと叩きつけ、その身体を突き飛ばした。
「ガッ…ハ…ッ…!き、貴様ァ…ッ!」
本能に従ったユウはその手足で地面に着地すると、苦痛に歪む男を睨み付けた。
男はヨロヨロと立ち上がると、腰からダガーを取り出してそれを両手に構えた。
「ッ!」
まるで雷の如く、男は俊敏な動きで地面を蹴り、ユウに接近するとその両手に持ったダガーを次々に振り回してユウに攻撃を仕掛ける。
ユウがそんな一瞬の攻撃を次々と交わし、まるで反撃の姿勢を整えるように男から距離をとった瞬間、不意にダガーを投げ捨てた男は地面に突き刺さっていた大剣を引き抜くと、遠心力に身を任せてそれを振り抜いた。
「…ァ…ッ!」
咄嗟のことに反応できなかったユウは、まともな防御をできず、致命傷ではないとはいえその首に一撃を食らってしまった。
「…ッ…ァ…ッ!?」
(声が…でない…!?)
喉元に手を当てたユウはその手を付いた自分の血を見て急激な激痛に襲われた。
「…はぁ…はぁ…死ね、人の言葉を使う化け物め」
(こ、殺される…ッ!)
ユウは力の入らぬその身体で必死に後退りをするも、男は手に持った大剣を振り上げた。
「やめて!お父様ッ!」
男がそれを振り下ろそうとした瞬間、不意にそんな声が聞こえてくると、ユウと同い年くらいの少女が2人の間に割って入った。
ユウは自分を庇うように両手を広げるその姿を見ると、静かに意識を手放した。




