蘇った宿敵
コウスケ達はその魔物…否、何かに取り憑かれた怪物を倒すべく、各々の武器をその怪物にぶつけていた。
『ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
怪物はその触手が斬られ、千切られる度にその悲鳴のような咆哮をあげると何もなかったかのように再生してみせた。
「何よコイツ…切っても切ってもキリがない!」
「ユウの言うことが本当なら、あの大魔法でも傷ひとつつかないって…」
「何そのとんでも能力…どうりでわたし達の攻撃にびくともしない訳ね…」
向かいくる触手を薙刀形状にした杖で次々と切り裂いているミリンは、背中合わせで戦っているサクラが放った言葉に衝撃を受けていた。
サクラはそんなミリンの様子を見る余裕もないくらいに迫ってくる触手を右手に持ったダガーで切り落とした。
「きっとどこかに弱点があるはずなんだけど、それがわかるまで持ち堪えるしかないね」
「えぇ…!」
2人が互いに励まし合っていると、不意に2人に向かっていた触手から液体が飛び出してきた。
「ひゃっ!?」
「きゃっ!?」
液体は2人の身体にかかると、その水着を全て溶かしてしまった。
「わ、忘れてた…そういえばコイツ、こんな能力を…」
「うぅ…せっかく買った水着なのに…」
裸になった2人はそれを隠すようにその場にへたり込んだ。
怪物はそんな様子を見て興奮したように咆哮をあげると、2人を拘束しようとしたのか粘液だらけの触手を伸ばした。
2人はそれに気付くも、足元に広がる液体のせいか滑って立ち上がることができなかった。
「ミリンッ!サクラッ!」
そんな声と共に2人に向かう触手は上空から急降下してきたユイの鎌によって切り落とされた。
「義姉さん!」
「ユイさん!」
「大丈夫か2人とも?」
「はい」
「水着がなくなってしまいましたけど…」
ユイは2人が無事であることを確認すると、2人の壁になるように立ち塞がった。
「2人は俺の影の中に入れ。そこにあるのを服の代わりに身につければ、コイツのあの攻撃にも耐えられるはずだ」
2人はユイのその言葉に頭を捻ったが、ギリギリで堪えているユイを目にすると、その影の中へと飛び込んだ。
ユイは2人が消えるのを確認すると、地面を蹴って大きく後退した。
「とりあえず2人はこれで大丈夫か…あとはユリとスミレだけか」
鎌を振り回し、迫ってくる触手を一掃したユイはそう呟くとその翼を広げて宙を舞った。
ーーー
「…ッ!キリがありませんね…ッ!」
ユウはコウスケの後ろ着くように立つと、2人に迫ってきた触手をその銃で撃ち落としながらそう言った。
「あぁ…でも、あと少しで本体なはずだ!」
コウスケはユウの援護を受けながら目の前の行手を阻む触手を切り裂いて怪物へ向かって突き進んでいた。
2人がしばらく進んでいると、不意に触手の壁が無くなっている空間へと出てきた。そう、どうやら2人は怪物の内部に侵入したようだった。
「フハハハ…ッ!歓迎するよ2人とも」
内部を見渡していた2人の前に現れた影はそう言うと、両手を広げて高笑いをした。
「どうだコイツは!この俺の最高傑作と言っても過言でもないッ!」
ユウはその声を聞くと、まるで苦虫を噛み潰したような表情で黒剣を取り出した。
「…エイズッ!なんで生きて…」
「フッ…なんでかって?…そんなことはどうでもいいんだよ!ただ、お前らじゃ俺は倒せん」
まるで勝ち誇ったようにそう言エイズを前にユウは持っている剣さらに強く握りしめると、感情に任せて足元を蹴った。
「貴方だけはッ!貴方だけは許せないッ!」
「あ、待ってユウさん!」
コウスケは咄嗟にユウの身体にしがみつくと、それを止めるようにユウを押し倒した。
「なんですかコースケさん!アイツだけはッ!アイツだけはこの手で…ッ!」
「落ち着けユウさん!冷静じゃない今のユウさんじゃ勝てる相手にも勝てないッ!」
「ッ!」
コウスケのその言葉に、ユウは言葉を詰まらせるとそっとその身体に入った力を抜いた。
「すみませんコースケさん」
エイズはそんな2人の様子を見ると、白けたような表情で呟いた。
「いい加減にしろ…」
「あ?」
「え?」
そんなエイズに2人が素っ頓狂な声を上げると、エイズは何やら納得いかないといった様子で口調を荒げた。
「そんなところでいい雰囲気になってんじゃねぇよ!そんなんより見ろよ!俺の最高傑作をッ!」
エイズの言葉を聞いた2人は咄嗟に距離を取ると各々の武器を構え直した。
「何がいい雰囲気ですか!コースケさんなんかと…ふざけないでください!」
「ユウさん!?」
「第一、今は女ですけど私は男ですよ!?それなのに男であるコースケさんとなんて絶ッッッッ対にありえません!」
ユウは顔を真っ赤にしながらそう叫ぶと、持っていた銃をエイズに向けた。
「さっきから最高傑作最高傑作うるさいんですよ!こんな迷惑なもの作って何が最高傑作ですか!誰一人そんなの賞賛しませんよ!」
「ッ!言わせておけばこの小娘…ッ!この俺の最高傑作を侮辱するだと!?ふざけんじゃねぇ!」
エイズはユウの挑発に乗ったのか、その懐から大きめなメスのような刃物を取り出した。
「貴様らまとめてホルマリン漬けにしてやるぜ…!」
ユウはその光景を目にすると、ちらりとコウスケの顔を見て呟いた。
「エイズは私が引き受けます。その間に、コースケさんはコイツの核となる部分を破壊してください」
コウスケの返事をする間もなく、ユウは向かってきたエイズの刃を〈アベンジャー〉で受け止めると、そのまま壁を破壊して外へと飛び出した。
ーーー
「エボラ、あれは?」
「大方エイズの作った怪物だろ。気にする必要はない」
コウスケ達のいる入江に面した崖の上で、四天王の一人、ペストと同じく四天王のエボラは、暴れ狂う怪物を目にそう呟いた。
「ねぇねぇ、あたしは遊んできちゃだめ〜?ほら、エボラの仕事は邪魔しないからさ、ね?」
エボラはにじり寄るペスト引き剥がすようにその肩をつかむと、小さく溜息をついた。
「俺の仕事じゃない、俺達の仕事だ。…まぁ、お前がそれでこれを達成できれば俺は何も言わん。好きにしろ」
「やった〜!ありがとエボラ!」
「…ッ!」
「じゃ、行ってくるね〜」
ペストはエボラの頬にその唇を当てるとどこか嬉しそうに笑いながら崖から飛び降りた。
「…クソ!これだから女は苦手なんだ…」
「義姉さん、この服は?」
「木の樹脂をイメージの具現化を使って形状を変えたものだ。これならヤツのあの液体を浴びても溶けて無くなったりはしない」
ユリとスミレを回収し、岩場に隠れたユイは影の中から出てきたサクラの台詞にそう返した。
「ユウの予想が本当ならヤツには前にお前達が戦った砂の巨人と同じように核があるはずだ。俺達女性陣とあの中二病男は出来るだけ外から攻撃を仕掛けてヤツの判断を鈍らせる、わかったか?」
ユイが改めて作戦を説明すると、影から出てきた4人は互いの顔を見合わせてコクリと頷いた。
「それじゃ、作戦決──」
「へぇ…面白そうな作戦だねぇ〜?」
ユイの掛け声に合わせて5人が解散しようとしたところ、不意にそんな声と共に5人が身を隠していた岩が破壊された。
5人は咄嗟にそこを離れると、後方に下がって体制を整えた。
「へぇ〜今の避けられるんだ!これは楽しみだなぁ〜」
「…ペストか。悪い、みんなは俺に構わず作戦を続行してくれ。この女は俺が引き受ける」
ユイはそう言うと、影から鎌を取り出した。
「義姉さん!私達も戦いm…」
「早く行け!俺はユウと違って、守りながらじゃ…戦えない」
「ッ!わかり…ました…」
声を上げたサクラだったが、ユイの汗が浮かべた表情を見ると、大人しく怪物のいる方へ向かって走り出した。
「なぁ〜んだ、君しか残らないのか、つまんなぁ〜い!」
子どものようにそう言うペストに、ユイはどこか苛立ちを隠せない様子で口を開いた。
「…目的はなんだ。また俺とユウを拐いにきたのか」
「あははッ!違う違う!いくらルイン様の命令でもあたしはそんな面倒なことする気ないも〜ん!ってかわざわざそんな向いてない仕事あたしにやらせるわけないじゃん」
「…なら一体なんのためにここに来たんだ」
「う〜ん…暇つぶし?」
戯けた様子でそう言うペストに、ユイはついに堪忍袋の尾が切れたのかその歯を食いしばると地面を蹴って鎌を振りかざした。
ーーー
「貴様、まさか海の上でも普通に立っていられるとは…なッ!」
怪物の中から飛び出したエイズは、水面を滑るように移動するユウの剣を弾き返しながら呟いた。
ユウは素早く体制を整えると、まるでスケートをしているかのように水面に着地した。
「生憎私はこのような応用に関しては得意なんですよねッ!まぁこんなところで使うとは思いませんでしたが」
エイズは足に付いた器具を使って水面に立つと、そのメスを構えたままユウと向き合った。
(男の状態であればともかく、女のままの私では力でエイズに勝てない…何か、別の突破口があるはずですが…)
ユウが頭の中でその対処法を模索していると、不意にエイズが口を開いた。
「ふむ…やはり貴様の能力は興味深い。ルイン様が欲するのもよくわかる」
「…なんですかそれは」
「ふん、貴様には関係ない…今は、な。それよりもいいのか?貴様の相方はアレの中にいたままで」
「どういう意味ですか!」
ユウは挑発するようなどこか含みのあるエイズの言葉に、一瞬冷静さを欠くと、その剣先をエイズに向けた。
「おぉ…その痴女のような格好で言われても全く怖くないな」
「ち、痴女ですって!?私はおt…いや、今は女ですけど!この水着をボロボロにしたのは間違いなく貴方ではありませんか!」
「おお、怖い怖い。それじゃ責任とって俺がいただくことにしましょうかねッ!」
エイズは一瞬戯けたように笑うと、その言葉と一緒に興奮気味のユウに向かって水面を蹴った。
「ッ!」
ユウはそのメスをすんでのところでかわすと、水面を滑って後退した。
「貴方、コースケさんに何をッ!」
「フッ…そんなにあの男が心配か」
「だったら何がッ!」
ユウが叫んだ瞬間、エイズがニヤリと口元を歪めると、その背後から飛んできた『何か』がユウの足元に着水すると大きな爆発を起こした。
反応できなかったユウはその爆風に巻き込まれると、そのまま海の中へと沈んでいった。
ーーー
「へぇ〜これがあの死神の実力かぁ〜」
ユイの鎌をかわしたペストはニマニマと笑うと楽しそうにそう言った。
ユイは体制を整えると、再び鎌をペストへと向けた。
「俺とユウが目的じゃないなんて信じられるわけないだろ。いい加減本当の目的を教えてもらおうか」
ユイはその握る力を強めると、ペストを睨み付けた。
「あははっ!やっぱりあたしを疑うんだねぇ〜♪ま、そんなこと言ってるのも今のうちだけだけど」
「…どういう意味だ」
楽しそうに笑うペストは冷たいユイの言葉を聞くとその表情をピタリとやめた。
「あのユウって子、多分もうやられてるよ」
「貴様ッ!何を言tt…」
「もう気付いてると思うけど、あの怪物エイズが作ったやつだよ。まだ死神ほどの力を持ってないあの子じゃ、まだエイズを殺すことすらできない」
「ッ!それは…」
「諦めなよ。あたしは君たちがルイン様の脅威になるかどうかを確認しに来ただけ。それで、あの子は勝手な行動をとったエイズに生捕にされる。…どう?これで満足した?」
ペストはどこか突き放すようにそう言うと、その両手に禍々しいオーラのようなものを放つナイフを出現させた。
「嘘だ…嘘だッ!ユウがやられるだって!?そんなことあるわけないッ!」
ユイはその鎌を手放すと、光を失った目でペストを睨み付けた。
「ふふっ♪そうそう、その目…私は愛する人が絡むと周りが見えなくなるその目を、心を!ズタズタに切り刻むのが何よりも大好きなのよ…ッ!」
ペストが興奮気味でそう言うと、ユイはその胸元からペンデュラムを出現させてそれを振り回した。
まるで意思を持った生き物のようにうねるペンデュラムは、ペストの首を刈り取ることしか考えてないかのように動くもすんでのところでナイフによって弾かれた。
「さぁさぁ!あたしをもっと楽しませてよ!」
ーーー
怪物の中にいるコウスケは『核』を見つけるため粘液のような液体が噴き出す空間を警戒しながら奥へと進んでいた。
「しかしなんだこの空間…なんだか体力がどんどん削れてる気がする…」
いくら歩いても終わるが見えないその空間の中、コウスケが頭を回転させていると、不意に何か思いついたようにピタリとその足を止めた。
「ここ…たしかさっきも通ったはず…もしかして俺は今あの怪物の中をぐるぐる歩き回されてたってことか。なら、あの噴き出す液体はおそらく…」
コウスケは持っていた剣を構えると、その空間の『壁』を切り裂いた。
ーーー
『ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』
飛ばされた液体をかわしながら、向かいくる触手を引きちぎっていたユリは、不意に叫び出した怪物を前に思わず後退した。
「ユリ!」
ユリが警戒していると、サクラがそう叫びながら走ってきた。
「サクラ、どうやら中で何かあったみたいだよ」
「えっ?それってどういう…」
「詳しいことはわからないけど、なんか苦しんでいるみたいに見えない?さっき千切った触手も再生してないし」
ユリが手に持った触手の位置をサクラに見せると、サクラは反射的に後ろにさがった。
「ちょっとそんなの見せないでよ!」
「いいじゃん別に。サクラだってそのダガーで切ってるだし」
「切るのと千切るのは全然違うからね!その、グロさとか…生々しいじゃない!」
「そう?」
2人はそんな会話をしていると、急に攻撃の手を止めた怪物の行動に疑問を持った。
『ぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』
攻撃を止めた怪物は咆哮をあげると、どこかもがき苦しむようにその触手を動かすとその巨体を捩った。
「…ユリ、これってチャンスなんじゃない?」
「うん…きっとリーダーとユウがどうにかしてくれたんだよ」
2人は互いの顔を見合わせると、抵抗しなくなった怪物に向かって走りだした。
ーーー
コウスケは切り裂いた壁の間を抜けると、先程とは違う開けた空間に出た。コウスケが周囲を見渡すと、その中央に何やら色々な管で繋がれたコウスケと同じくらいの大きさの赤い樹木のようなものがなっていた。
『フヘッ…何か俺のニューボディーに入ったと思ったら、珍しい客人じゃねぇか』
「…!?だ、誰だッ!」
コウスケはどこかから聞こえてくるそんな声に反射的にそう返すと、その剣を握りしめて警戒を強めた。
『酷い男だ…フヘッ!まぁ俺からすればあの女の痴態さえ拝めれば言うことはないんだが』
コウスケが声のする方へ目を向けると、その先にある樹木のようなそれがぐにゃりと形を変えるとどこか人型を思わせるような怪物へと姿を変えた。
「この特徴的な笑い…どこかで聞いたような…」
『この俺を忘れるとはいい度胸じゃないか!フヘッ!あの時は不覚をとったがエイズ様から貰ったこの力で…この体で!今度は貴様をぶっ殺す!』
樹木のような怪物はその足元を蹴ると、一瞬にしてコウスケとの距離を殺した。
コウスケはその攻撃を咄嗟に剣で凌ぐも大きく後方に跳ね飛ばされた。
「…この攻撃方法…お前、まさかガリか」
『フヘッ!思い出したか!あの時の屈辱、今晴らさせてもらうッ!』
怪物はそう叫ぶと、その両腕のような部分を地面に突き刺した。
怪物のその行動を見たコウスケは咄嗟にその場を離れるも、その足元から出現した細い柱のようなものがその右肩を貫く。
「ウッ…ァ…」
『フヘッ!フヘヘッ!あの時の借りは返させてもらったぜ兄ちゃん。この力を得た俺はもうお前に負けることなどあり得ないッ!フヘッ!』
コウスケは刺さっている柱をへし折ると、それを右肩から引き抜いた。
「ッ!…お前、人間を辞めてまでそんなことする必要はあるのか?」
『あぁ?』
コウスケは鮮血の噴き出る肩を押さえながらユラユラと立ち上がると、怪物を睨み付けた。
(使えるのはあと3回…30分が限界か。怪物の体内にいる以上このままじゃ負けるのは確定。使うべきなのか?いやでも…)
コウスケの頭の中ではそんな考えがぐるぐると回っていた。
怪物は睨み付けたまま動かないコウスケに何かを感じたか、その隙を狙って再びその腕を地面に突き刺した。
「…ッ…」
数本の細い柱が全身を貫き、宙吊りになったコウスケは鮮血を垂らしながらそのまま動かなくなった。
ーーー
「ふっ…フハハハハッ!倒した…ッ!倒したぞ!あの最強と呼ばれた竜人をッ!」
ユウが沈んだ海面を覗きこんだエイズはユウの姿が見えなくなると、ひとり海の上で高笑いを浮かべていた。
「これで竜人なんかよりも俺が強いことは証明されたッ!もう誰も俺のことを雑魚呼ばわりできるやつはいないッ!」
「エイズ。ルイン様の命令を忘れたのか」
エイズが笑っていると、不意に上空からそんな声が聞こえてきた。
「…!?エボラ!?何故ここにッ!」
エイズが慌てて振り返ると、黒い翼を広げたエボラがエイズを見下ろしていた。
「ルイン様から貴様が何をするのか見張るように言われただけだ。それよりも貴様、ルイン様の竜人を生捕りにしろという命令はどうした。決して殺してはいけないとそう言われていただろう」
「ッ!それは…」
「貴様が最強?笑わせるな雑魚が」
エボラの言葉にエイズはカチンと何かが切れると、持っていたメスをエボラに投げつけた。
「貴様ァ…訂正しろッ!俺は雑魚なんかじゃねぇッ!」
「ふん。命令すら聞けない雑魚が何をほざいてやがる」
その左手の人差し指と中指でメスを受け止めたエボラはそれを海に投げ捨てると、冷酷な目でそう言い放った。
「俺は最強だッ!竜人を倒した今の俺ならルイン様にだって…」
エイズがそう言いかけた瞬間、不意に2人の下にある海面からボコボコと気泡が出てくると、大きな水柱を立てて何かが飛び出した。
「ッ!?」
「チッ…一時撤退か…」
エボラは海上に現れた影を見ると、舌打ちをしながら空気に溶けるように消えていった。
「エボラッ!クソッ!逃げやがった…」
水柱に巻き込まれたエイズは体制を整え周囲を見渡してからそう言うと、海上に現れた影へと目を向けた。
「フッ…まさかアレで勝ったつもりだったのか?エイズ」
「何ッ…!?貴様ァ…俺を馬鹿にしやがってッ!許さねぇッ!」
癇癪を起こしたエイズはひとりそう叫ぶと、周囲の霧が落ち着いたのか、その影が姿を現した。
ーーー
ユリ、サクラと再び合流したミリンは、カイトのいるコウスケ達が入った入り口の方へと向かっていた。
「先輩はこの中だッ!もう再生が始まってきているぞ!急げ!」
入り口に立っているカイトは、再生して閉じようとする穴を大剣で必死に広げながらそう叫んだ。
「中二病!ユウは!?ユウも中にいるの!?」
「姫様はエイズと一緒に外に出た!中には先輩しかいないッ!」
サクラの言葉にカイトがそう答えると、穴の様子を見たユリが口を開いた。
「ミリン、ここは任せた」
「えぇ!?」
「あたし達はユウのほうに向かうから、ミリンは早くリーダーのところに行ってきな!どうせもう1人しか入れなそうだし」
ミリンがサクラのほうへ向くとサクラもコクリと頷いた。
「わかった。じゃあ行ってくる!」
ミリンは3人にそう言うと、閉じかけた穴の中に飛び込んだ。
穴はミリンが入るとすぐに塞がり、残る3人の行手を阻むように再び触手が向かってきた。
「2人共!ここは我に任せろ!」
カイトはその大剣を構えると、ユウ向かった沖の方へ向かってそれを振り抜いた。
大剣から放たれた刃はそのまま直線に進むと行手を塞いでいた触手を綺麗に切り裂いた。
「さぁ早く姫様を!」
「わかった」
「ここは任せたよ中二ッ!」
2人はそれぞれそう言うと、飛翔魔法を使って開かれた触手の間を抜けユウのほうへと向かっていった。
怪物の中に入ったミリンはコウスケの進んだ微かな形跡を頼りにしばらく進むと、コウスケが切り裂いた『壁』へと到着した。
「この先に…コウスケが…」
ミリンは閉じかかっている穴に薙刀形状にした杖を突き刺すと、無理矢理それをこじ開けた。
「待っててコウスケッ!」
ーーー
「俺達は『キャンセラー』。歴史を…作り替える者」
海上に立った竜人はそう言うと、黒い魔法陣を出現させて襲いくるエイズを弾き飛ばした。
「貴様ァ!一体なんなんだ!この俺の邪魔をしやがって…!」
「フッ…邪魔してきたのは貴様のほうだ、エイズ。俺はこの20年間、貴様らへの復讐心がなくなったことなんて無いんだよ」
「復讐だァ?なんの話だよ」
「そうか…この時代じゃまだ10年だったか」
竜人がそう言って右腕を上げると、その足元に巨大な時計の盤面のような魔法陣を出現させた。
「さぁ…覚醒の時だ。従姉妹よ」
竜人がそう呟くと、盤面のような魔法陣はまるで時間を巻き戻すようにその時計の針を高速で逆回転させると、周囲を眩い光で飲み込んだ。
ーーー
「嘘…嘘だよね…」
壁の奥へと入ったミリンはその広い空間に出ると、目の前に飛び込んできた光景にその杖を落とした。
『フヘッ!これはこれは…この男と一緒にいた姉ちゃんじゃねぇか』
ミリンの気配に気付いた怪物はそちらを向くと、地面に刺さったその両腕を引き抜いた。その瞬間、コウスケに刺さっていた細い柱が何も無かったかのように消えると、コウスケ身体は鮮血を飛ばしながらドサッと地面に落ちた。
「コウスケ…?ねぇ!コウスケ!嘘って言ってよ!」
ミリンは慌てて駆け寄ると、真っ赤に染まった穴だらけのコウスケを抱き上げた。
『その男はもう死んだ。そう、この俺の手によってな!フヘッ!どうだ姉ちゃん?そんな男のこと忘れてこの俺と楽しいことしようぜ?』
怪物は笑いを堪えるようにそう言うと、ミリンの肩に手を乗せようとその腕を伸ばした。
「…ふざけんなッ!あんただけは…あんただけはッ!絶対に許さないッ!」
ミリンはそう叫びながらその腕を叩き落とすと、光の消えたその瞳で怪物を睨み付けた。
ーが、その瞬間。何やら眩い光と共にミリン達は飲み込まれた。




