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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第2部.秩序の管理者
37/112

闇の街トレーター




「すみません父様。例の蜥蜴を逃してしまいました」


 魔王城にて、ローズは相変わらず無表情のまま膝を立ててそう言った。

 ルインはそんなローズの言葉に少し驚いたような表情をすると、すぐさまローズの後ろに膝立てしているサーズとマーズを睨みつけた。


「ローズが任務を失敗するとはな…大方貴様らがヘマでもしたんだろう。言え」

「ひっ…は、はいィ!イヨ様が現れて蜥蜴を拐っていきましたッ!ハイ!」


 睨まれたサーズは思わず立ち上がると、早口でそう叫んだ。


「そうか…イヨがな…今回はこれで許してやろう。ただ、次は無いぞ貴様ら。その時はローズの護衛役から外れてもらう」

「「ぎ、御意!」」


 2人が慌てた様子でそう叫ぶと、ルインはその部屋から退出していった。



ーーー



「東の町トレーター?どんなとこなの?」

「あー…そういや俺も知らん…」


 いつものように依頼クエストを終えたコウスケ、ミリン、ユウ、ユイの4人は、昨夜の話をしながらギルドへと向かっていた。


「トレーター…裏切り者ですか?」

「いや、町の名前らしい。そこに行けばこの力について何か他にわかるかもしれないって」

「…コースケさん、それって本当に信頼できる情報源なんですか?騙されてたりは…」

「大丈夫、大丈夫だから!少なくともあの人達は間違った情報を俺に教えたことはないし…多分、間違った情報のほうが都合が悪いんだと思うけど。それでも信頼はできることは確かだよ」


 ユウは納得いかないといった様子でしばらく顔をしかめていたが、ユイに肩を叩かれると諦めたように息を吐いた。


「わかりました。では、早速明日にでも行きましょうか?明々後日以降は宿屋の予約がいっぱいらしいので…」

「俺とユウはその時の接客とかで忙しくなりそうだからな」

「あー…そっか。ん、わかった。じゃあユリとサクラにはユウさんのほうから伝えてくれると助かる」


 そんなコウスケの言葉に、3人は顔を見合わせると小さく首肯した。



ーーー



「トレーターか…あそこは物騒だからなぁ…」

「叔父さん、どんなところか知ってるの?」

「あぁ…」


 翌朝、早めに支度をしたコウスケ達は、足りない荷物を買い足すため『アイテム屋KAZU』を訪れていた。


「商人ならみんな知ってる話だよ。あそこは裏取引が多いらしく、下手したら一国家を滅ぼしかねない…ってな。まぁそんな町だからこそアイツがいるってことなんだろうけど」

「アイツ…?」


 コウスケが不思議そうに首を傾げると、カズヤは少し頷いたのち、再び口を開いた。


「まぁ行けばわかるさ。あ、そうそう…あそこまで行くには空を飛んでいったほうが早いぞ。あの森は霧が多くて遭難する奴が多いからな」


 カズヤがそう言うと、ユウとミリンはお互いの顔を見合わせた。


「叔父さん、わたしとユウは飛べないんだけど…」

「大丈夫大丈夫、俺のワイバーン貸してやるから…って、2人だけなの?あんちゃんとその姉ちゃんはわかるけど…その嬢ちゃん達は空飛べんの?」


 その言葉に首肯するユリとサクラを見て、カズヤは一瞬驚いたような表情をした。


「色々と聞きたいところだが…まぁ今はいいや。ミリンと姉ちゃんはちょっとこっちに来てくれ」


 カズヤはそう言うと、店の裏口から外へと出ていった。

 2人はお互いを見合わせたのち、カズヤについていくように外へ出ると、そこには4人は乗れるであろう巨大なワイバーンがいた。


「これが…ドラゴンに1番近いと呼ばれている存在、ワイバーン…」

「私も実物を見るのは初めてです…」

「なーに2人共驚いてるのさ。コイツは俺の冒険者仲間の相棒でな、何回かトレーターに行ってるから道案内も兼ねて、って感じかな。まぁ召喚獣だから向こうに着いたら勝手に戻ってきちゃうんだけどね。まぁ…」


 カズヤが説明をしている中、ワイバーンはユウを視界に捉えるとジーッと見つめていた。


「あの、私何故かずっと見られてるんですけど…」

「あー…これ多分、姉ちゃんがコイツの相棒にそっくりだから」

「えっ…私とそっくりなんd…きゃぁ!」


 ユウが言葉を返そうとしていると、不意にワイバーンがその長い舌をユウのスカートの中に突っ込んだ。


「ちょ、やめ…やめて下さ…あぁっ!私のニーソ脱がさないでぇ…」

「えっ…何が起きてるの…?」


 必死にスカートを押さえるユウを前に、ミリンが状況を理解出来ずにいると、カズヤはどこか懐かしむようにうんうんと頷いていた。


「おーい!2人共ー!一体何やっ…て!?」


 そんな中、2人が戻らないのを疑問に感じたコウスケ達が2人を呼ぼうと外に出ると、目の前の光景を目に固まってしまった。




「うぅ…もうお婿にいけません…」


 コウスケ達の意識が戻ると、目の前には下半身のスカートとニーソックスを脱がされ、ホットパンツのみになったユウが涙目でへたり込んでいた。


「いやぁ…懐かしいものを見たなぁ…」

「いやそんなこと言ってる場合じゃないだろ!?ってかなんなのこのワイバーン?ってやつ。発情したオスみたいなことして…」

「え、こいつメスだけど?」

「ウッソだろオイ!?」


 そんなカズヤの台詞にコウスケが怒涛のツッコミを入れていると、ワイバーンはユウのニーソックスを咥えたままどこか楽しそうにしていた。


「私のニーソぉ…」

「はいはい、俺が今度また買ってやるから。とりあえず今はスカートだけでも履いてろ…」


 ユイはそう言うと、影の中からタオルと新しいスカートを取り出してそれをユウに渡した。


「ね、姉さん…!」


 ユウは唾液だらけになった足を拭くと、ホットパンツの上からまたスカートを履いた。




「んじゃ、客も来たみたいだし俺ぁこの辺で。治安良くないから気を付けろよ」


 ユウとミリンがワイバーンにまたがると、カズヤはそう言って店の中へと戻っていった。


「道案内よろしくお願いしますね、ワイバーンさん」


 ユウの声に、ワイバーンは喜ぶような声を上げると、その翼を広げて飛び立った。


「さて、俺らも行きますかね」


 コウスケはそう呟くと、魔法陣から取り出した箱に頭突きをしてその背中に銀色の翼を顕現させた。

 ユリとサクラは飛翔魔法を使い、コウスケとユイはその翼を広げて空を飛ぶと、先導するユウ達を乗せたワイバーンを追いかけた。



ーーー



「道案内ありがとうございました」


 トレーターに到着したコウスケ達は街の中でもひときわ人気ひとけのない広場のような場所に着地した。

 ユウがワイバーンに礼を言って撫でようとすると、ワイバーンは召喚魔法の効果が切れたのか足元に出現した魔法陣の中へと消えていった。


「ぁ…」

「あはは…もうお役御免ってことだよユウ。こんな時もあるさ」

「姉さん…だからってことタイミングはないですよ…」

「もう会えないわけじゃないんだからいいだろ?まぁ今度会ったときもまたニーソ脱がされるかもだけど」

「…!そ、それは言わないでくださいよ姉さん!」


 そんな姉弟の会話を見ていた4人は苦笑すると、お互いの顔を見合わせた。


「…で?トレーターまでは来たけどこれからどうすんの?」

「あー…おっちゃんは『アイツ』に会えば良いって言ってたけど…」

「まぁ叔父さんがそう呼んでるってことは知り合いだと思うんだけど…」

「話の流れ的に相当ヤバい相手ってことだよな。まぁそれが当たってたら探すのは楽なんだろうけど…」


 ユイの質問にコウスケとミリンがそう返すと、そのやり取りを見ていたサクラが口を挟んだ。


「ねぇ、リーダーが言ってた情報源とやらと連絡とれないの?それが出来たら1番早いと思うんだけど…」

「いや、いつも俺1人のときに現れるから多分今は厳しいと思う…それに、毎回夜中だし」

「そう…じゃあしらみつぶしに探すしかないね」


 こうして、コウスケ達の方針は決まっていった。




 コウスケ達は荷物を全てユウの影の中に預けると、トレーターの散策がてらくだんの『アイツ』について聞き込みをしていた。


「あー…おまいさんたちの言うやつかわかんねぇけど、やべぃやつなら知っとるど」

「本当ですか!?」


 コウスケとユウの話を聞いていたどこかガラの悪そうな男は、ユウの姿を見てそう言った。

 コウスケの後ろに隠れていたユウはその男の言葉を聞くと、目を輝かせてその身を乗り出した。


「ま、ただでという訳にはいかんど。おまいさんみたいなねぃちゃんがおでらとちと遊んでくれたらよかど」

「ぇ…」


 ユウは男の舐め回すような視線を感じて下がろうとすると、男はその左腕をがっしりと掴んできた。


「ささ、おでらと楽しいことしようど」

「ひぃ…っ!」


 ユウが悲鳴じみた声を上げるも、その男の言葉に釣られるように周囲のガラの悪そうな男共が群がってきた。


「おい!その手を離せよ!嫌がってるだろ!」

「情報を教える対価は払ってもらわんと困るど。ってかおまいさんに要はないから帰ってよかど」

「テメェ…ふざけんなよ!」


 男の言葉に痺れを切らしたコウスケが殴りかかろうとすると、周囲の男共があっという間にそれを組み伏せた。


「ハッ!おまいさんはそこでこのねぃちゃんの艶姿えんしでも見てるがいいど」

「ふざけn…」

「ははっ!滑稽だど!」


 口を塞がれ、抵抗できなくなったコウスケに男はおかしくて仕方ないと言った様子で笑うと、その手を引っ張って恐怖で固まっているユウを引き寄せようとした。


「オイ」

「…ん?誰だど?」

「お前…俺の弟に手を出そうとしたな…」


 背後から聞こえた声に男が反応すると、次の瞬間にはその首にはユイの大鎌の刃が当てられていた。


「お、弟…?嘘つくなど!おではこのねぃちゃんt…ヒッ!」

「早くその汚れた手を離せ」

「ひぃ…ぁ…ぁ…」


 男は首から一筋の血が流れると、慌ててユウを掴んでいた手を離した。


「姉さん!」

「ユウ!大丈夫か!?」

「ぅ…だ、大丈夫…です」

「ほら、落ち着け。俺がついてるから」

「姉さぁん…」


 ユイは優しくユウを抱きしめると、周囲に群がる男共を睨み付けた。


「治安が悪いとは聞いていたが、まさかこっち方面にも腐っていたとはな…」

「…!よ、よく見たらおまいさんもなかなかのべっぴn…」

「は?」

「ひ、ひぃ…!」


 コウスケを組み伏せていた男共は、そんな男とユイのやり取りを見て背筋を震わすと、コウスケを離して逃げようとした。


「ふふっ…ユウをあんなにしてそう簡単に帰れると思って?」

「リーダーはともかく私のユウに手を出そうとした罪は重いぞ」


 黒い笑みを浮かべ、その両手に武器を構えたユリとサクラを前に、男共は声にならない悲鳴を上げると目にも留まらぬ速さでその場から逃亡した。




「さぁ、答えろ。貴様の知っている情報を全て吐け」


 安心したのか気絶したユウをミリンに預け、その大鎌を男に突きつけたユイは、その怒りを隠し切れない様子で男に向かってそう言った。


「き、北にある遺跡っ!そこにおまいさんたちが言うみたいなヤバいドラゴンがいるど!」

ドラゴン?」

「ほ、本当だど!あのドラゴンはおでらが何をしてるのか全部お見通しなんだど!何人か倒しにいった奴らがいたけど誰一人帰ってこなかったど!」


 ユイは身体を震わせながらそう言う男をしばらく睨み付けると、突きつけていた大鎌を影に投げ捨てた。


「そうか。それだけ聞ければ貴様にもう要はない。さっさと失せろ」

「ひ、すびばせんでじだぁ!」


 ユイの冷たい一言に、男はそう叫びながら逃げるようにその場を後にした。


「あの、ユイさん。逃しちゃっていいんですか?」

「…まぁ本当ならあの世に送ってやりたいところだが、ユウはそれを望まないと思うからな」

「たしかにユウならそう言いかねないけど…」

「ま、俺はそれを防げなかったコースケのほうに腹が立ってるけどな」

「ぅ…」


 そんなミリンとユイのやり取りに、コウスケが声をつまらせていると、ミリンに背負われていたユウが目を覚ました。


「…?この状態は一体…ってわわ!ミリン、ごめんなさい!今すぐ降ります!」

「ちょ、ちょっと慌てないで!そっちのほうが危ないから!」


 ユウがミリンの背中から降りると、待っていたとばかりにユイが口を開いた。


「次の目的地は北の遺跡。そこにその『アイツ』だと思われるドラゴンがいるらしい。なんでもそいつは全てを見通せるらしい」

ドラゴン!?姉さん!それって私達の知り合いかもしれませんよ!」

「落ち着けユウ。まぁ可能性としてはあり得なく無いが、会ってみないことには何も言えないよ」


 興奮した様子でスカート越しに尻尾を振るユウに、ユイはそう言った。


「ま、コースケの暴走についても何かわかると思うから行って損はないと思う。またあの蜥蜴みたいに俺達を襲ってこなきゃいいんだけど」


 ユイの冗談に聞こえないような台詞に5人は渇いた笑いをすると、件の遺跡に向かって歩き始めた。



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