力の理由
エルフの村の一件から早2週間。
コウスケはひとり、宿のテラスで夜空を見上げていた。
「…『竜人』、そこにいるんだろ?また前みたいに姿を見せてくれ」
コウスケがそんな言葉を放つ、カツカツと足音を鳴らしながら何かがその背後に現れた。
「ごめんね。主人じゃなくて」
その影が発したのは、いつか聞いたことのある女の声だった。
コウスケが慌てて振り返ると、そこには角の生えた美しい女…そう、『魔人』が立っていた。
「…久しぶりです、魔人…さん?」
「ふふっ…私としては久しぶりってわけでもないんだけどね」
「ぇ…?」
魔人はコウスケのそんな反応に一切目も向けずに言葉を続けた。
「主人を呼んだってことは多分、その『力』についてだよね」
「…はい。でもなんでわかって…?」
「それは…私達が与えた力だもの。予想以上に人間の身体には負担が大きかったのだけどね」
「予想以上…ってことはあんたたちはこうなることを知ってたのか!?」
コウスケがつい、カッとなってそう叫ぶと、魔人は申し訳なさそうに首を縦に振った。
「えぇ…ただ、私達が予想していた段階では主人の力でなんとかなる程度だったのよ。貴方と私達の力の適合率がこんなにも高いとは思わなかったから」
「適合率…?なんの話だよ」
「いえ、こっちの話…別に貴方が気にしなくてもいいよ。その力の暴走については私のほうでも何か解決策がないか当たってみるから」
魔人はそう言うと、その場を離れようとしたのかくるりと背を向けた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!あと一つ、あんたらに聞きたいことがある!」
「…聞きたいこと?」
その一言に、魔人はピタリと足を止める。
「あぁ…!俺が暴走したとき、心の中に俺の妹を名乗るアザミってやつが現れたんだ。ソイツが何者なのかあんたらは知ってるのか?」
「アザミ…?うーん…同じ名前の人は知ってるけど、貴方の思ってる人じゃないと思うわ。力になれなくてごめんなさいね」
「そう、ですか…」
淡々と話す魔人にコウスケが肩を落とすと、魔人は人差し指を立てて再び口を開いた。
「そうそう、今回私が来た理由なんだけどね。東の町『トレーター』…そこならその力について私達が知らないこともわかるんじゃないかって思ってね」
「東の町…わかりました。みんなに聞いてみます」
コウスケがそう言うと、魔人はニッコリと笑ってその場を後にした。
「アザミ…まさかあの子がね…まぁ主人の手助けって理由ならなんとなくわかるけどさ…まさか世界の壁を越えるとはね…」
魔人はブツブツと呟くと、暗い部屋の中、空気に溶けるように消えていった。
「『トレーター』…一体どんな町なんだろうか…」
コウスケはひとりそう言うと、夜空を仰いだ。




