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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第2部.フェイク・ライユージャン
34/113

制御不能な力



「ッ!さっきまでとはまるで違う…!」


 向かってくるラッサの槍に、コウスケはそれを剣で受け止めるような体制をとっていたが、徐々に押され始めていた。


「どうした人間。我の強さを見縊みくびったか!」

「…ッ!誰が、お前なんかに負けてたまるか…!」


 コウスケはソレをなんとか弾き返すと、体制を崩したラッサを蹴り飛ばす。


「お前みたいに嘘吐いてなきゃ強さを証明できないようなやつに何がわかるんだよ!」

「戯け!貴様に我の何がわかる…!変異して生まれた我らの身を!リザードマンというだけで罵られ!虐殺される世の中を!」

「ッ!」


 叫びながら振ったラッサの槍は、コウスケの右腕を擦るとコウスケの剣に弾かれた。

 コウスケは宙返りをするように後方に下がると、腰を落として体制を整えた。


「…だから我は〈デッド・プレイバック〉を作り上げたのだ。対象の魂を吸収し、我に譲渡する…対象は我の血肉となり我はさらに強化されるという究極の魔法!我が初めて使ったときのあの味、悲鳴…どれもが最高だった!」


 語り続けるラッサにコウスケが顔を歪めるも、ラッサはそんなこと関係なしに言葉を続けた。


「だがそれも数百年前の話…この時代で我らが『竜人』を名乗った瞬間、今まで我らを罵っていたあの人族が怯えながら生贄を差し出す姿は滑稽だったわ!」


 ラッサは身体をそらしながらそう言うと、前傾姿勢に戻してコウスケを睨み付けた。


「だが、久々に上玉と出会えたんだ…どんな味がするのか楽しませてくれよ」


 舌で唇をペロリと舐めて言うラッサにコウスケは若干寒気を覚えると、再び剣を構えた。

 ラッサはコウスケが構えたと同時に地面を蹴ると、一瞬でその距離を殺した。


「ッ!」


 瞬時に反応したコウスケは、剣でラッサの攻撃を弾いたが、槍はコウスケの左腹部を舐めるように斬りつけると勢い余って地面に突き刺さった。

 コウスケは痛む腹部に目もくれず、突き出したままのラッサの両腕を切り落とした。


「貴様…!」


 ラッサが忌々しげに声を上げると、コウスケの背後に現れた手下の1人が、奇襲をかけるようにコウスケの右腕から背中にかけてを切りつけた。

 コウスケはラッサを突き飛ばし、素早く身体を反転させると、左手で手下の頭を掴みながら叫んだ。


「ぐっ…サンダーァ!」


 コウスケの意識が途切れ途切れのせいか、スタンガンほどの電流が手下に流れると、手下はその場に気絶した。


「はぁ…はぁっ…」


 コウスケはフラフラする足を動かしながら、噴水に刺さっている《ダークスレイヤー》に向かって歩き出した。


「まだだ…まだやられる訳には…!」


 両腕を失ったラッサは気絶している手下の元に向かうと、その胸部に右足をかけた。


「心臓さえ潰せれば…ッ!我は、また…!」


 ラッサはその足に力を入れると、肋骨を降りながらその心臓を潰した。


「〈デッド・プレイバック〉ッ!」


 手下の身体から鮮血が吹き出すと、ラッサは生えてきた腕を上にかざして笑い狂った。


「アハハハハハハッ!次は貴様だ人間ッ!貴様の味…楽しませてもらうぞッ!」


 噴水の近くにいたコウスケは、ラッサの叫び声に振り返ると、《ダークスレイヤー》の回収を諦めて《ドラゴソード》を構えた。

 ゆらりゆらりと歩いてくるラッサに、コウスケが嫌な汗をかいていると、不意に背後うしろから声をかけられた。


「あの、これ…」


 コウスケがそちらを見ると、アヤメが噴水に刺さっていた《ダークスレイヤー》引き抜いてコウスケに向かって差し出した。


「父上を止めてください…!」


 泣き出しそうなアヤメにコウスケは静かに頷くと、空いている左手でそれを受け取る。


「アヤメッ!この我の言うことが聞けんのかッ!」

「私は父上に従うつまりはありませんッ!」


 アヤメが叫ぶと、ラッサはその頭を掻き毟って咆哮のようかもを上げた。


れ!あんなやつ娘でもなんでもないわ!」

「し、しかし…」

れと言っているッ!貴様も裏切るのかッ!」

「そ、そんなわけd…」

「〈デッド・プレイバック〉」


 ラッサの言葉に躊躇いを見せた手下2人がそれぞれ言葉をいい終わる直前、ラッサの腕が2人の胸をえぐるように突き刺さると、その心臓を潰された。

 絶命した2人は全身から血を吹き出すと、ラッサにゴミのように投げ捨てられた。

 他の手下達はその光景を前にしばらく動けずにいたが、ラッサの鋭い眼を見ると、各々の武器を持ってアヤメに向かって襲い掛かった。


「…なんで味方をあんな簡単に殺せるんだよ…!」


 コウスケは襲いくる手下をなしながら、どす黒い何かが心に溜まっていくのを感じていた。


「味方?そんなもの我に必要ないわ!我に逆らう下等生物ゴミ共に私が何をしようが関係ないだろ」


 ラッサの言葉に、コウスケの中で何かが途切れる音がした。

 コウスケは持っていた剣を落とすと、虚な瞳で向かってきた手下の1人の首根っこをその両手で締め上げた。




「ミリン、そっちは片付いた?」


 そんなユリの声にミリンは相手していた手下の首を落とすと、辺りを見渡してから大きく頷いた。


「こっちは片付いたよ。あとはコウスケのほうに残ってるやつらだけかな」


 ミリンがそう言うと、2人の元に合流したサクラが噴水のほうを指差した。


「ねぇ…あれ、リーダーの様子おかしくない?」


 サクラに促され、手下のリザードマンの首を素手で締め上げているコウスケを遠目にとらえたミリンは、とてつもない胸騒ぎと共にコウスケのほうへ走り出した。


「あっ!」

「ミリン!」


 2人は突然のミリンの行動に、顔を見合わせると、それを追いかけるように走り出した。



ーーー



「ここは…」


 コウスケの意識がはっきりすると、あたりは真っ暗な不思議な空間にいた。


『コウスケ…だったかな?どう?今の気持ちは』

「だ、誰だッ!」


 どこかから聞こえる幼い声に、コウスケは警戒体制をとると、真っ暗な辺りを見渡した。


『ボクはアザミ。君とは…兄弟みたいなものかな』


 そんな声が聞こえると、コウスケの視界に1人の赤い瞳をした幼女が現れた。


「アザミ…?馬鹿言え、俺は一人っ子だし両親は3つの時にとっくに死んでる。お前くらいの歳の子は存在できるはずもない」

『ハハハ…面白いこと言うね。ボクの父さんと母さんの力を貰った力、制御できないクセに』

「父さんと母さん…?」


 コウスケが眉をピクリと動かすと、アザミはスッとその背後に現れた。


『ここは貴方の心の中…貴方は自分に溜まったこの黒い感情を振り払ってその力をものにできる?』

「俺の感情…?そんなわけあるか!俺はこんな黒い感情持った覚えは…」

『ない、とは言えないでしょう?目の前にいたラッサに対して抱いたのは悪感情そのものなんだし』


 クスクスと気味悪く笑うアザミに、コウスケは反論できないでいると、アザミはコウスケの正面に現れた。


『人の身体には収まらない力…きっと父さんが助けてくれると思うけど。それはあくまで一時的なもの…貴方はいつか、究極の2択を迫らせるわ』

「究極の2択…?」

『そう、貴方自身の未来について、ね?』


 アザミはそう言うと、固まっているコウスケを前に闇の中へと消えていった。


『ごきげんよう。またいつかボクと会えるといいですね』



ーーー



 手下の首を締めるコウスケの身体から、黒いオーラのようなものが立ち込めた。

 それはコウスケの身体にある傷口をなぞるように広がると、それを塞いでいった。


「貴様…なんの真似だ」

「…」


 ラッサの言葉にコウスケはピクリと反応すると、両手に持っている手下をハンマー投げのようにしてラッサに投げつけた。


「ッ!何しやがる…」

「…」


 ラッサは咄嗟にそれを蹴り飛ばすと、何も言わぬコウスケを睨みつけた。


『…ッ!アァァァァァァッ!』


 しばらく無言だったコウスケが突然、苦しむような咆哮をあげると、周囲に立ち込めていたオーラを纏ってその姿を前に暴走した化物のソレへと変えた。

 ラッサはそんな突然の出来事に身を構えると、こちらを捉えたコウスケが一瞬にしてラッサの懐へと現れた。


「な、何ッ!」


 咄嗟に退こうとしたラッサだったが、ラッサが地面を蹴ろうとした左脚は瞬きもしないうちに『コウスケ』によって引き裂かれた。

 ラッサは尻尾を使って辛うじて体勢を保つと、コウスケに向かって槍を持った右腕を突き出した。


「な…ッ!」

『ヴァァァァッ!』


 コウスケの腕に弾かれた槍が音もなく砕け散ると、次の瞬間にはラッサの右腕は大量の血を吹き出しながら曲がってはいけない向きへと曲がっていた。


「ラッサ様ッ!」

「助太刀します」


 手下2人がコウスケの背後からそれに割って入ろうとすると、コウスケはラッサを踏み台のようにして宙を舞い、その両手で2人の頭を掴み、地面に叩きつけた。

 2人の頭は破裂するような音と共に、地面に鮮血の花火を咲かせると、それ以降動かなくなった。


「き、貴様…一体、どこにそんな力が…」


 ラッサのそんな声はコウスケに聞こえるはずもなく、コウスケは襲いくる手下をその両手で引き裂き、握り潰し、あるいはその足で踏み潰すようにしてその命を次々に刈りとっていた。


「コウスケッ!」


 手下が全滅したころ、コウスケの目の前に現れたミリンは、周囲の光景と、コウスケの有様を見てその足を止めた。

 ミリンの声に気付いたコウスケは、動かぬ手下共を漁るのをやめ、そちらへと視線を向けた。


「これは…あの時の…いや、あの『匂い』がないからまた別の原因…?」

『…ヴァァァァッ!』


 ミリンが頭を回していると、低い咆哮と共にコウスケがミリンに肉薄した。


「早ッ!」


 ミリンは咄嗟に襲ってきたコウスケの両手を掴むと、強く踏み込んで力比べのようにその攻撃を受け止めた。


「コウスケ…いつもより力強い…ッ!」


 ミリンは徐々に押し負けるように後退すると、不意に、その上空に魔法陣が出現した。


「「〈スコール〉ッ!」」


 ユリ、サクラの声と共に、魔法陣から降り出した大雨が2人に降り注ぐと、コウスケが一瞬怯んだのか腕の力が抜けた瞬間、ミリンは突き飛ばすようにその手を離して後方へと退いた。


「ミリン、大丈夫!?」

「ごめん、巻き込んじゃったけど…」


 心配して駆け寄ったユリとサクラは、雨でびしょびしょになったミリンの手を取るとそう声をかけた。


「大丈夫大丈夫。巻き込まれたのは仕方ないし、あれがなきゃそれこそどうなってたかわからないしね」


 ミリンはあからさまにホッとする2人を横目にコウスケのほうへ視線を向けた。

 攻撃対象を見失った『コウスケ』は全身を震わせて全身に付着した血と共にその水滴を飛ばすと、体勢を低くして周囲を見渡していた。


 ──ガタンッ!


 何かの倒れる音に、コウスケは視線を向けると、そこにはゆっくり逃げようとしたのだろう、アヤメが噴水の横で尻餅をついていた。


『ァァァァ!』

「い…や…来ない…で…」


 奇声を上げ、ジワジワと近づいてくるコウスケにアヤメは全身を震わせながら後退りすると、ゴン、とその背中を噴水のそれにぶつけた。


『ヴァァァァッ!アァァァァァァッ!』


 それを絶好のチャンスと言わんばかりに、コウスケは地面を蹴ると、目にも留まらぬ速さで襲い掛かった。


『ゥゥゥゥ…?…アァァァァァァッ!』


 コウスケの一撃がアヤメに触れる寸前、まるでアヤメを守るようにペンデュラムがドーム状に展開されていた。


「ふぅ…間に合いました。姉さん、ここで下ろしてください」

「まさかあの距離で正確に…我が弟ながらさすがだ…」

「あ、あの、姉さん?早く下ろしてほしいんですけど…」


 そんな気の抜ける会話と共に、ミリン達の元に降り立ったユウとユイは、コウスケとミリン達を交互に見ると、その状況を理解できないといった様子で首を傾げた。


「あの、コースケさんは暴走してるのはわかるんですけど…何故ミリンはそんなにびしょ濡れなんですか…?」

「あー…後で詳しく説明するよ。それよりも、コウスケをどうにかしないと!前みたいに変な匂いが原因じゃないみたいだし、わたし達だけじゃ止められなかったから」


 ミリンの言葉に、ユウとユイは顔を見合わせると小さく頷いた。


「では、私はコースケさんと戦って時間を稼ぎます。その間に姉さんは観察して暴走の原因を探してみてください。予測とかでもいいのでやれることは全てやりましょう」

「了解。んじゃ、ミリンはとりあえずこれで身体拭いとけ。風邪ひくぞ」


 ユイが影の中からタオルを取り出してミリンに渡すと、ユウは走ってコウスケのいる方へと向かった。




「な、何が起きて…」


 ドーム状のペンデュラムに囲まれているアヤメは、混乱した様子でその場に留まり続けていた。

 コウスケは攻撃が通らないにも関わらず、アヤメを攻撃しようとするが、どれもペンデュラムによって弾かれていた。


「コースケさん!こっちですよ!」


 不意に、そんな声が聞こえると、コウスケは攻撃をやめてそちらに意識を向けた。


『ヴゥゥゥゥゥ…』


 コウスケは唸るように声を出すと、自分を蹴ってユウに接近した。

 2人とアヤメがある程度の距離を取ると、アヤメの周りにあったペンデュラムが光の粒になって消えていった。

 そんな唐突な出来事にアヤメが唖然としていると、ユウはコウスケの攻撃をスルリスルリとかわしながら「今のうちに逃げろ」と、こちらに目配せをしているように見えた。


「あ、ありがとうございます…」


 アヤメは小さな声でそう呟くと、2人の死角になる物陰へと素早く逃げ込んだ。




 ユウとアヤメの行動を見ていたユイは、コウスケの暴走の原因を探るべく再びコウスケのほうへと視線を戻した。

 先程から、コウスケはユウを攻撃しようとしているのだが、ユウは軽い身のこなしでそれを避けると、コウスケの体力を奪うように動き回った。


「…攻撃力、素早さは桁外れだが…攻撃が単純すぎる…何か、原因となるものは…」


 と、ユイが思考を凝らしていると、一つ頭の中で何かが引っかかった。


「攻撃が単純…?暴走しているとはいえ何も考えずに攻撃してるのか?あるいは別の何かによって衝動的に動いているかだが…」




「コースケさんっ!いい加減目を覚ましてください!できれば貴方を傷つけたくありません!」


 コウスケの一撃一撃を踊るようにかわしているユウは、一度後方へ下がるとコウスケに向かってそう叫んだ。

 コウスケはそんなユウの声に耳を傾けるはずもなく、一瞬の隙ができたユウに向かって体当たりをかました。


「ッ!」


 その攻撃がユウに当たる寸前、不意に現れた黒い魔法陣によってコウスケの身体は弾き返された。


「い、今の魔法陣は…」

「ユウ!〈イメージの具現化〉を応用してあの子の意識に潜り込め!そしたら暴走を抑えられるかもしれない!」

「は、はい!」


 突然の出来事に混乱していたユウだったが、ユイの言葉を理解すると、再び攻撃を仕掛けてきたコウスケの両腕を掴むと、その頭に頭突きをするようにその意識を繋いだ。



ーーー



「…ここが…コースケさんの意識の中…」


 コウスケの心の中に侵入したユウは、その真っ暗な空間に神経を尖らせながら歩いていた。

 しばらく進んでいると、不意に周囲の闇がユウにまとわりつくように重くなった。


「これは…もしかして、この先にコースケさんが?」


 ユウは重くなった身体を動かすと、その闇が濃くなっている方向へと向かって走り出す。


「…」


 闇の中、ひとり蹲っているコウスケは、何を見るわけでもなくその空虚を覗いていた。


「…!コースケさん!」


 不意に、背後から聞こえてきた声に、コウスケはピクリと反応した。


「コースケさん、こんなところでなにしてるんですか?はやく正気に戻ってください」

「…ッ!触るなッ!」


 コウスケの手を引こうとユウが近づくと、先程まで動かなかったコウスケは、その腕を使ってそれを振り払った。


「こ、コースケさん…?」


 突然の拒絶に困惑するユウ。

 コウスケはゆっくりとユウのほうを向くと、光のない目で口を開いた。


「ユウさん…帰ってくれ」

「なんでですか!コースケさん!」


 咄嗟に叫んだユウに、コウスケはしばらく俯くと、ポツリポツリと言葉を続けた。


「…俺、もうみんなのところに帰れない…」

「…コースケさん…」

「俺さ、ラッサの仲間を平気で殺すような戦い方を見たとき、なんであんな残酷なことをするんだって、そう思って許せなかったんだ。仲間を殺して、お前は何も感じないのかってさ…でも、ラッサにとってそれは当たり前で、仲間なんていないって言い張って…そんなこと平気で口にするラッサに、俺の中にある黒い感情が溜まってるのもわかった」


 黙って聞いているユウに、コウスケが顔を上げると、その頬に一筋の水が流れる。


「でもさ、そんな感情に身を任せて…手下のリザードマンを数えきれないほど殺して…衝動のままにミリンやユウさんにまで襲いかかろうとした…」


 コウスケはそこまで言うと、虚な瞳をユウに向けた。


「…ユウさん、お願いだから俺を殺してくれ…」

「ッ!なんでそんなこと言うんですか!コースケさん!なんで殺せなんt…」

「俺はッ!仲間を傷つけたんだ!ラッサと一緒だよ!…もう…ミリン達に顔向けできねぇ…だから!もう殺してくれよッ!」


 コウスケが息を切らしながら叫び終えると、ユウはしばらく沈黙を貫いたのち、カツカツとコウスケに近づいた。


「…もう…殺してくr──」

「ふざけないでくださいッ!」


 ユウがコウスケに平手打ちを食らわすと、バシンッ!という音が、その叫び声と共に響き渡った。


「何が殺してくれですか!ラッサと一緒ですか!コースケさん!貴方はそのラッサというやつと違って自分のやったことを後悔してるんでしょう!?そんな感情も無いような輩と一緒だなんてそんなわけ無いじゃないですかッ!」

「…!ユウさん、なんで泣いて…」

「私達を傷つけた?そんなことないですよ!みんなコースケさんに元に戻ってもらうためにやったことですよ!それが顔向けできないなんて理由で死ぬことを選ぶなんて…それこそ私達のこと何もわかってない!」


 ユウはコウスケの胸倉を掴むと、涙でぐちゃぐちゃになった顔を押し付けた。


「私は…私達は、コースケさんの仲間なんじゃないんですか…?なんでそんなに一人で背負い込もうとするんですか…」

「…でも…俺は…」

「コースケさんが最初、魔物であれその命を奪うことを躊躇っていたのも知ってます。今、リザードマン達の腕を、頭を、その心臓を潰した感覚が残ってることも…この暗い空間から直接伝わってきます」


 ユウは手を離し、涙を拭って顔を上げた。


「何より、あの狭い、暗い世界から私を連れ出してくれたのは…手を出してくれたのは、コースケさんじゃないですか。今度は、私が連れ出す番です。もし、また暴走しても、何度だって私達が連れ戻します」

「ユウ…さん…」

「さぁ、帰りましょう。それで、みんなに謝ってください。もっと私を…私達を頼ってください。みんな、コースケさんのこと待ってるんですから」


 泣きはらした顔で、笑いながら手を伸ばすユウ。コウスケがゆっくりとその手をとると、暗い空間は静かに崩れ去った。



ーーー



「コウスケ…ユウ…大丈夫かな…」


 お互いの額を合わせたまましばらく動かない2人に、ミリンが心配そうな顔をしていると、ポンと、その肩に手を置かれた。


「大丈夫だよ。あの子も、ユウも…だってユウは俺の自慢の弟だからな。きっとあの子の心を連れ戻してくれるさ」

「ユイさん…」


 2人がそう言っていると、不意に、ユウがその顔を離した。


「「ユウ!」」

「…ユリ、サクラ…?」


 目を覚ますなり飛びつくように抱きついてきた2人に、ユウは受け止めると周囲を見て状況を把握した。


「ユウ、お疲れ様。コウスケは大丈夫そう?」


「えぇ。心配ありませんよミリン。ただ、コースケさんが起きたら1発かましちゃって大丈夫ですからね。今は相当弱ってると思いますけど」

「あはは…」


 ミリンが苦笑すると、ユイがハンカチをユウに差し出した。


「これ、額から血出てるぞ」

「え?…あ、本当だ。ありがと姉さん」


 ユウは2人から離れると、ユイから受け取ったハンカチで額から流れる血を拭いた。


「…ぅ…うぅ…」

「…!コウスケ!」


 不意に、唸るような声を出したコウスケ。その瞳から一筋の涙が流れると、纏っていたオーラが消え、その姿を化物から元の姿へと戻っていった。


「…ミ…リン…?」

「そうだよ!わたしだよコウスケ!」

「ミリン…ぅ…うぁぁぁぁ…」


 元に戻るなりいきなり泣き出したコウスケを、ミリンはゆっくりと抱きしめる。


「ごめん…ごめんみんな…ごめんミリン…俺…俺…みんなを傷つけて…迷惑かけて…」

「大丈夫、大丈夫だから。わたしもみんなも迷惑なんて思ってないから、今は元に戻ってくれただけでいいんだよ」

「ぅぁぁぁ…!」


 再び泣き出したコウスケと、それを慰めるミリンの姿に、ユウ達は顔を見合わせると安堵した。



「…まだだ…ッ!我はここで滅びるわけには…ッ!」



 安心したのも束の間、そんなラッサの声が響き渡る。


「こ、来ないで…!」

「フハハハハハハッ!アヤメ!貴様を生かしておいた甲斐があったわ…!さぁ!我の多肉となる為にその命を捧げろッ!」


 ユウ達が声のするほうへと振り返ると、そこには残った右脚と左腕を使って地面を這いつくばるようにしながら、腰の抜けたアヤメににじり寄るラッサの姿があった。


「ッ!間に合わな──!」


 ユウは慌てて銃を取り出したが、それを構える直前、アヤメに襲いかかるラッサの胸を、どこかから飛んできた矢が貫いた。


「…ガ…ハ…ッ!な、なんだコレは…ッ!」


 ラッサは自身の胸を見て、そんな声を上げると、状況を理解できないのか一瞬動きを止めた。


「ユウッ!」

「わかってますよ!」


 ユイの声に合わせ、ユウは銃の引き金を引くとラッサの頭部を撃ち抜いた。

 頭部を失ったラッサは、崩れるように倒れるとそのまま動かなくなった。


「大丈夫ですか!蜥蜴トカゲさん!」

「…!は、はい…私はなんとか…」


 駆け寄ったユウにアヤメはそう返事をすると、目の前にあるラッサとユウを交互に見た。


「あの、父上は…貴女が…?」

「…『父上』?もしかして私、とんでもないことを…!?」

「い、いえ!そんなことないです!いずれにせよ私は父上に殺されるところだったので…助かりました」

「そう、なんですか…」


 露骨にホッとするユウを見て、アヤメは小さく微笑むと、緊張が途切れたのかそのまま意識を失った。



ーーー



「…ここは…?」


 アヤメが目を覚ますと、そこは見知らぬ空間だった。


「あ、目が覚めましたか蜥蜴さん」


 アヤメが辺りを見渡していると、それに気付いたユウが濡れタオルを持ってやってきた。


「貴女はさっきの…」

「えぇ、私はユウ。冒険者ですよ」


 ユウはそう言いながらアヤメの頭に乗っていたタオルをとると、それを影の中に投げ入れた。


「それは魔法ですか…?」

「え?あ、今のやつですか?魔法じゃないですよ。〈影操作〉っていうスキルです」

「スキル…?貴女、人間じゃないのですか?」


 アヤメが驚きの表情を見せると、ユウはコクリと頷いた。


「私、竜人ですよ。まぁ、尻尾隠してるのでわかりづらいとは思いますが」

「り、竜人!?いや、でもそんな…」

「そういう貴女こそ、意思疎通のできる蜥蜴さんは私も初めて見ました」


 2人はそう言ったのち、お互いを見つめ合うとどちらともなく笑い出した。


「私、アヤメって言います。他のリザードマン達はどうか知りませんが、少なくとも私は意思疎通のできる人族と共存したいと思っていたんですが…父上は全く聞く耳を持っていなくて、今回のようになってしまいました。すみません」

「謝らないでくださいよアヤメさん。たしかに事件にはなりましたが大体の事情はコースケさん達から聞いてますし、貴女もあのラッサなるリザードマンの被害者であることに変わりはありません」

「…え?」

「事情を説明したら、この村の村長や住民であるエルフのみなさんも理解してくれたみたいで、身寄りのない貴女を保護してくれるそうなのでその辺は大丈夫そうですよ。…何よりこれ以上ことを荒立てたくないという大人の事情もあるそうですが」


 アヤメはユウの言葉にしばらく目をパチクリさせていたが、その言葉の意味を理解するとベッドから飛び降りて深く頭を下げた。


「見ず知らずの私のために…ありがとうございます!そしてすみません!」

「いえ、気にしないでくださいアヤメさん。私達のただのお節介ですから。まぁこの村の人達はみんな優しいのですぐに生活に馴染めると思いますよ」


 ユウは濡れタオルをアヤメに渡すと、お大事にと言って部屋を出た。


「冒険者、ユウ…竜人…」


 アヤメは誰もいなくなった部屋で、タオルを握りしめながら1人、そう呟いた。




「冒険者様、この度は誠にありがとうございました。あの子はわたくし共で面倒を見させていただきます。また機会があればあの子に顔を出してください。きっと喜ぶと思います」

「いえ、今回は俺も迷惑をかけたみたいなので被害者が出なくてよかったです。また今度は依頼クエスト関係なく遊びにきますね」

「えぇ!是非ともお待ちしております」


 コウスケはレンゲから報酬を受け取ると、ガッシリと硬い握手を交わした。


「コースケさん。こちらの支度も終わりました。ミリン達が待ってますよ」

「あぁ!今行く!」

「レンゲさん。アヤメさんのことよろしくお願いしますね」

「えぇ」


 ユウはレンゲに会釈をすると、コウスケと共にその場を後にした。


「あれが本当の竜人…わたくしレンゲ、その使命任されましたぞ」


 コウスケ達が出ていくと、レンゲは拳を胸に当てて自分に言い聞かせるようにそう言った。



ーーー



「あー…疲れたぁ…」


 ミリンのゲートを使い、ギルドへ報告を済ませたコウスケ達は、宿屋に戻ると夕食を待っていた。


「みなさん、お待たせしました。今日はガーゴイルの肉を使った唐揚げですよ」


 両手に大皿を持ち、笑顔で向かってくるユウの台詞にコウスケ達はピタリと動きを止めた。


「え、ガーゴイル…?」

「えぇ!そうなんですよ、あの村に行く途中たくさん手に入ったので。さぁ、召し上がれ!」


 コウスケ達はお互いの顔を見合わせると、いつのまにか食べ始めていたユイを見て驚愕しつつも両手を合わせた。


「「「「い、いただきます」」」」

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