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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第2部.フェイク・ライユージャン
33/112

偽者



「…わかりました。今から向かいますね」


 ユウはそう言うと、通話を切ってその電源を落とした。


「姉さん、どうやら私達が行かなきゃまずそうです」

「ん、了解。影移動は使えないから一緒に飛んでいくか?」

「え?」


 ユイの一言にユウが固まると、ユイは大丈夫大丈夫と言わんばかりに口元をニッと歪めた。



ーーー



 教会を出たコウスケ達は、大きな噴水のある中央広場に向かって走っていた。


「リーダー、あれ見て!」


 コウスケはユリが指差す先にある無数の黒い人影をとらえると、地面を蹴ってその速度を上げた。


「悪い!俺はちょっと先に行く!ミリン達は様子見て生贄にされたエルフを救出してくれ!」

「わかった!気をつけて!」


 そう言いながら中央広場に向かうコウスケを前に、ミリン達は一度その足を緩めると、近くの路地へと入っていった。




「オイ!お前ら!生贄を離せ!」


 中央広場の噴水前、エルフの青年が貼り付けにされていた。


 コウスケは大声を上げながら正面から突っ込もうとすると、その周囲にいた黒い布を纏った『人影』に道を阻まれた。


「まさか人間が1人突っ込んでくるとは…馬鹿なやつもいたものだ」

「ッ!何者だお前ら!さっさと正体現しやがれ!」


 多くの『人影』の中から1人、他のソレとは全く違う雰囲気を出す者が、『人影』を割いてコウスケの前にゆっくりと歩いてきた。


「何者か…と、人間、貴様は今そう言ったな」

「…それがどうした」


 その『人影』は笑ったように息を漏らすと、その黒い布に手をかけた。


「その度胸に免じて教えてやろう。我らの姿を!」

 そんな声と共に、その『人影』達の纏っていた黒い布が宙に舞い上がった。


「我らは竜人。かの神話で世界を滅ぼしたあのお方の子孫である」



ーーー



「姉さん、私、重くないですか?」

「んー?全然重くないよ?」


 ギルドに依頼達成クエストクリアの報告をしたユウとユリは、コウスケ達のいるエルフの村へと向かっていた。


「でも…私だって男ですから、さすがに女性である姉さんばかりに負担をかけるのは…」

「大丈夫大丈夫。これは俺が好きでやってることだし、こうすれば合法的にユウに抱きつけるしね」 


 ユイはユウを背中から抱きしめるようにしながら、その翼を広げて災いの森の上空を飛んでいた。

 ユウは右手に銃を構えると、飛んできたガーゴイルを次々と打ち落としていた。


「にしても災いの森ってほんとに広いですよね。私は水晶の洞窟周辺は詳しいつもりですけど、こんな湿地帯は初めてです」

「まぁこの辺に関しては他の冒険者達のほうが詳しいかもな。特に俺は最近まで城にいただけだから」


 2人はそんな緊張感の無い会話をしながら、湿地帯の上空を通り過ぎた。



ーーー



「は?」


 コウスケはそんな声を漏らすとほうけた顔を見せた。

 それもそのはずである。緑色の鱗に細長い尻尾、そしてトカゲのような頭部を持ったソレはコウスケの知っている『竜人』の姿とまるで違う存在だったのだ。

 彼等はそんなコウスケの心情を理解するはずもなく、話を続けた。


「そして我はこの竜人族のおさ、ラッサである。命知らずの人間よ。貴様、一体何様だ?」


 ラッサは手に持った槍の先端をコウスケに向けると、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

 コウスケはあきれたように息を吐くと、挑発するように鼻で笑った。


「はっ!俺は人間様だよ。見ればわかるだろ?」

「…!貴様…この我に向かって…!」

「なんだよその口の聞き方、お前ら竜人の子孫ってやつは相手を敬うこともできない集団だったのか?」

「き、貴様…ッ!さっきから言わせておけば…!」


 コウスケはラッサに対し、煽るように大袈裟に身振りをすると、思惑通りラッサは冷静さを失い始めた。


 コウスケや竜人(自称)達の様子を建物の上から眺めていたミリン、ユリ、サクラの3人はお互いの顔を見合わせると、コクリと頷いた。


「じゃあ行ってくるね」

「うん、気をつけてミリン」

「私達もここから見てるから、何かあったら援護するよ」

「ありがと」


 ミリンはそう言うと、その気配を消して建物から飛び降りた。


「…人間なのにこの高さから飛び降りて無傷って…」

「うちのパーティは相変わらず規格外の人が多いよね」


 自分達もその1人であることを知ってか知らずか、2人はそう呟くとエルフの青年を拘束から解いているミリンを見つめた。




「アァァァァァァッ!貴様よくもよくもよくもよくもッ!この我を侮辱しおって!」


 コウスケの口車に乗せられ、見事に我を失ったラッサは宥めようとする手下を振り払うと、その槍をコウスケに向かって投げつけた。


「ッ!」


 コウスケはすんでのところでソレをかわすと、ラッサの背後を見て口元を歪めた。


「貴様!何がおかしいッ!」

「いや、まさかこんなに簡単に成功するとは思わなくてさ」

 コウスケは逆上するラッサの背後に向かって指差すと、こみ上げてくる笑いを必死に堪えた。


「後ろ後ろ。お前らほんと単細胞だな」

「あ?そんなことを言って我に隙を作らせようなどt…」

「あー!ラッサ様!生贄が!生贄がいなくなってます!」


 ラッサの言葉を遮るように、後ろを振り返った手下が声を上げた。



「作戦成功ね」


 2人のもとに戻ったミリンは、担いでいた生贄にされ、気絶している青年を降ろすと「ふぅ…」と息を吐いた。


「ミリン、お疲れ様。一応ユウと義姉おねえさんに連絡しておいたから終わったらこっちくると思うよ」

「ん、ありがと」


 ミリンは〈ゲート〉を使って青年を教会へ送ると、2人の顔を見て小さく頷いた。




「何故!何故だ!」


 ラッサは怒りを抑えずに自身の頭をかきむしると、キッとコウスケを睨み付けた。

 コウスケは短く息を吐くと、ラッサに向かって地面に刺さっていた槍の先端を向けた。


「ラッサとか言ったな。言っておくけど俺は別にお前らと戦う気はない」

「…ほぅ?」


 槍を下ろしたコウスケにラッサがどこか含みのある笑いを見せると、コウスケは再び言葉を繋げた。


「俺達が受けた依頼はお前らを『どうにかする』こと。なら、倒すことが全てじゃない。他に何か方法があるはずだ!」

「…フッ!フハハハハハハッ!甘い!甘すぎる!人族のくせに言いおるわ!」


 ラッサはコウスケのそんな言葉に盛大に笑うと、部下たちに向かって命令をした。


「あの人間をれ」


 部下たちは頷くと、それぞれ武器を持ってコウスケのほうへと足を動かそうとした。


「待って父上!私はその人間に賛成です!争う必要なんt…」

「黙れアヤメ!父親である我に逆らうというのか!」


 ラッサの背後から現れたアヤメと呼ばれた竜人(自称)の少女が発した言葉は、ラッサの荒い言葉によって遮られた。


「ですが父u…」

「黙れと言っている!」


 アヤメはラッサに殴られると、広場中央にある噴水に飛ばされた。


「オイお前、アヤメを見張ってろ。あそこから一歩も動かすな」

「は、ハイィ!」


 手下の1人は睨み付けるラッサに顔を青くすると、悲鳴じみた返事をして噴水へと向かった。



「父上ってお前…自分の娘を…」

「娘?何を言ってる。あんな出来損ない我の娘では無い」


 コウスケは一連のラッサの行動にギリッと歯を噛み締めると、ラッサを睨み付ける。


「コウスケ!」


 コウスケが一瞬、怒りに身を任せそうになると、背後から聞こえたミリンの声に我を取り戻した。

 ミリン達はコウスケの方に駆けつけると、ラッサのほうを見て武器を構えた。


「そうかそうか…貴様、仲間がいたのか…」


 ラッサは笑い出すと、右腕を上げてコウスケ達を指差した。


れ」

『オオォォォォォォォ!』


 ラッサの一言に、手下達は各々の武器を持ってコウスケ達に襲い掛かった。


「チッ…やっぱ戦わなきゃダメなのか」


 コウスケは軽く舌打ちをすると、手元に作った魔法陣から2本の剣を引き抜いた。


「コウスケはラッサをお願い。手下はわたし達が引き受ける」

「了解」


 ミリンの声にコウスケは短く応えると、やってくる手下を前に口元を歪ませた。


「さぁ…本日2度目のりますか…!」


 コウスケはそう言うと同時に地面を蹴ると、手下の集団を飛び越えてラッサの頭上に剣を振り下ろす。

 ラッサはコウスケを視界に捉えると、体を捻って綺麗に2本の剣の間をすり抜けた。


 標的に当たらなかった2本の剣はその勢いを殺さずに地面を叩くと、周囲に瓦礫と砂埃を撒き散らし、2人の視界を奪った。


「…チッ」


 ラッサは舌打ちをすると、跳躍して砂埃の中から飛び出した。


「人族如きが…小賢しい真似を…!」

「やっぱ避けられたか…」


 砂埃が晴れ、中から姿を現したコウスケは、地面に刺さった剣を引っこ抜くと、右手に持った《ダークスレイヤー》をラッサに向けた。


「フッ…貴様、まさか竜人であるこの我に剣を向けるとは…命知らずなやつよ」


 ラッサがどこかおかしそうにそう言うと、地面に落ちていたラッサの槍が周囲の手下を巻き込みながら宙を舞った。

 槍はそのままラッサに向かって一直線に飛ぶと、コウスケの右頬をかすってラッサの右手におさまった。


「その勇気に免じてこの我が直々に屠ってやる」


 ラッサの一言と同時に2人は地面を蹴ると、お互いに襲い掛かった。




「こいつら…地味に素早いッ!」


 手下を相手しているミリンは、〈イメージの具現化〉で持っている杖を薙刀の形状に変化させると、それを振り回していた。


「ミリン、コイツらやっぱ竜人じゃないよ。あたし達の知ってる竜人とは全然違う」

「むしろドラゴンの固有スキルを使えるミリンとリーダーのほうが竜人っぽいしね」


 ユリとサクラも各々敵を倒しながらそう言うと、戦闘中にも関わらず笑みをこぼした。


「コイツらが何者かは知らないけど、少なくとも今のあたし達でも倒せるってことは絶対竜人じゃないね」


 ユリはからかうようにそう言うと、周囲の手下達を殴り飛ばした。




「なんで、この村を襲うんだ!」


 鈍い音を立てながら、コウスケとラッサは休む暇もなく、互いの攻撃を弾きあっていた。


「フッ…!貴様のような下等生物に教える必要などない!」


 ラッサがそう叫ぶと同時に、その攻撃の重さをいなしきれなかったコウスケは後方へ飛ばされると建物の外壁に衝突した。


「わかったか人間よ。貴様のような下等生物ゴミは我ら竜人に勝てるわけがない」


 ラッサが勝ち誇ったように宣言した瞬間、コウスケの衝突によって発生した砂埃の中から黒い影が飛び出すと、ラッサの右腕を切り落として噴水へと突き刺さった。


「ハッハッh…は?なんだこれ?」


 足元に広がる赤い液体に、ラッサは違和感を覚えて手を動かそうとすると、自分の右腕が無くなっているのに気づいた。


「な、なんだコレは!我の腕が…!」

「…誰が下等生物ゴミだって…?」


 ラッサが若干取り乱していると、砂埃の中から右手を前に突き出してまるで何かを投げ終えたような体制のコウスケが姿を現した。

 ラッサはコウスケを視界に捉えると、歯茎を剥き出しにしてそれを睨み付けた。


「ラッサ…お前は自分のことを『竜人』と言ったな…たかがリザードマンのくせに」

「なに…?」


 ラッサはコウスケのその言葉にピクリと反応すると、その視線をさらに鋭くした。


「神話に登場するこの世界最強の生物、『竜人』…お前らみたいなクズに名乗る資格なんてないッ!」

「ハッ!なにを言っている人間。我は正真正銘の竜j…」

「リザードマンだろ!俺達の知ってる竜人はな!変わった奴だけどお前らなんかよりずっと人のこと考えて思いやりのある存在なんだよ!そんな竜人の名を汚すんじゃねぇ!」


 コウスケは怒りまじりにそう叫ぶと、左手に持っていた《ドラゴソード》を右手に持ち替えてラッサに襲い掛かった。


「ラッサ様ッ!」


 剣先がラッサに触れる瞬間、近くにいた手下の1人がラッサを庇うように現れると、コウスケは勢いのままその背中を切り裂いた。

 コウスケは手下を振り払って蹴りを入れてこようとするラッサを避けるように後方に退いた。

 ラッサに振り払われた手下は、重傷を負っているにも関わらずによろよろと立ち上がると、ラッサに懇願するようにしがみついた。


「…ぅ…ラッサ様…どうか私を…お使いくださ…い…」


 手下の一言に、ラッサは盛大に笑い飛ばすと手下の胸部にその左手を突っ込んだ。


「…ッ…ハッ…ァ…」

「いいだろう!これで貴様も我と一つになるのだ!」


 心臓を掴まれ、苦しそうに息を吐く手下を横にラッサはそう叫ぶと、握っていたソレを握りまぶした。


「〈デッド・プレイバック〉」


 ラッサがそう呟くと、手下は聞き取れないような悲鳴を上げ、大量の血を全身から吹き出しながらドサッ…と地面に崩れ落ちた。


「フ…フフフ…フハハハハハハッ!この感覚ッ!この感覚だッ!これでまた我は強くなった…!」


 ラッサは再び狂ったように笑い出すと、切断されたはずの右腕が再生した。


「お前…自分の仲間を…ッ!」


 コウスケは目の前の悲惨な光景に唇を噛むとラッサを睨み付けた。

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