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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
第2部.フェイク・ライユージャン
32/112

竜人



 ユイがコウスケ達のパーティに加入して早二週間、コウスケの『暴走』はあれ以降一度も起きず、何事もなく日常が過ぎていった。


「コースケさん!コースケさん!」

「ん?どうしたのユウさん?」


 ギルドに来ていたコウスケ達はそろって依頼掲示板クエストボードを覗き込んでいると、何を見つけたのかユウが興奮気味にそう言った。


「これ見てください!どうやら私達以外にも竜人がいるみたいですよ!」


 ユウが指差した先には、『竜人を名乗る集団に村が占領されたのでどうにかしてほしい』と書かれた紙が貼り付けられていた。


「ユウさん、これってなんか竜人が悪いみたいになってるけど…それでいいの?」

「…まぁ、もしそうなったら止めればいいじゃないですか。それよりも私は同じ種族が他にいることが嬉しいんです!一体どんな人達なんでしょう…」


 そう目を輝かせるユウにコウスケが苦笑していると、不意にトントンとその肩を叩かれた。


「コウスケ。ちょっといいかな?」


 ミリンに手を引かれ、ユウと距離をとったコウスケはどこか難しい顔をしているミリンを前に不思議そうに口を開いた。


「…どうしたんだ?新しい依頼クエストも見つかってこれから行こうってときに…」

「…いや、ちょっとね。ユウには悪いんだけどさ…ユウとユイさんにはこっちの依頼クエストをやるように説得してくれないかな?」

「なんでだよミリン。せっかくユウさんが仲間を見つけたって喜んでるのに…」


 ミリンはコウスケの返しに一瞬言葉を詰まらせたが、短く息を吐くと口を開いた。


「たしかにそうなんだけどね…なんか嫌な予感がするのよ。あくまで『竜人を名乗る』ってだけで竜人と確定した訳じゃないしね。強いて言えば… 女の勘、かな」

「…ミリンがそんなことを言うのも珍しいしな…わかった。ちょっと聞いてみるよ」


 コウスケはそう言うと、ユウのほうへと歩きだした。


「…夢で見たからなんて、信じてもらえないよね…」


 離れる彼の背を見ながら、ミリンはポツリと呟いた。



ーーー



 翌日の早朝。

 コウスケ、ミリン、ユリ、サクラの4人は、依頼主のいる北の町を目指すべく災いの森を歩いていた。


「しっかしほんとジメジメしてんな…」

「まぁここはろくに開発もされてない湿地帯だからね。噂に聞いてたくらいでわたしも初めて来るんだよ」


 コウスケとミリンがそんな会話をしていると、不意に周囲の茂みがざわめきだした。


「リーダー、ミリン、ユリ。どうやら魔物モンスター達のお出ましみたいだよ」


 サクラがそう言うと、4人は各々の武器を取り出すとそれを構えた。


「さぁ…本日最初のりますか…!」



ーーー



「コースケさん達…大丈夫でしょうか?」


 宿屋フラワーの厨房で朝食の支度をしているユウはボソッとそう呟いた。


「まぁそう心配しなくていいと思うぞユウちゃん。今までも無事だったんだ。何かあったら連絡くらいくれるだろ」


 チーフはユウが調理し終えた食事を盛り付けながらそう言った。


「まぁ俺はユウちゃんがいてくれて助かるけどな!連絡がきたらすぐ駆けつけてやればいいさ。お姉さんと一緒にな」

「そうですね」


 ユウは短く返事をすると、盛り付けられた料理をそれぞれのテーブルへと運び始めた。



ーーー



 災いの森の湿地帯を抜け、北の町に到着したコウスケ達は、依頼主のいる役所を探すべく町を散策していた。


「たしかこの町はエルフが人口の大半を占めていたはず…リーダーとミリンはともかくユリはちょっと厳しいかもね」

「サクラ?それってどういうことかなぁ?あたしがそんなに怖いとでも言いたいの?」

「違うって…まぁそれもあるかもだけど」

「オイ」


 ユリとサクラはそんな会話をしていると、不意に先頭を歩いていたコウスケが足を止めた。


「…?どうしたのコウスケ?」

「いや…なんか不気味じゃないか?人っ子一人いない町を歩いてて…」

「たしかに…」


 4人はしばらく周りを見渡すと、一際目立つ教会へと向かった。


「すみませーん!誰かいませんかー!」

「わたし達、アール王国から来た冒険者なんですけどー!」


 コウスケとミリンがゴンゴンと扉を叩きながらそう言うと、神父のような男がゆっくりと扉を開けた。


「…あなた方は本当に冒険者様でございますでしょうか?」

「あ、神父さん!本当ですよ!ほら、ちゃんとギルドカードもありますし」


 コウスケが神父にカードを見せると、神父は不安げな顔をふっと緩めた。


「おぉ…!冒険者様!ささっ…こちらにお入りください。状況は中でお話ししましょう」


 神父に促されたコウスケ達が教会に入ると、中には大勢のエルフ達が期待に、あるいは不安に満ちた眼差しを一斉に向けてきた。


「ダークエルフだ…」

「おい、コイツらほんとに大丈夫なのか…?」

「あぁ…神よ…!」


 エルフ達は口々にそう言っていると、コウスケ達のもとに1人の年老いたエルフがやってきた。


「冒険者様、ようこそおいでいただきました。わたくし、この町のおさを務めさせていただきますレンゲと申します」


 レンゲはそう言うと、そっと頭を下げた。


「レンゲさん、ご丁寧にありがとうございます。俺はコウスケ。このパーティのリーダーをさせてもらってます」

「わたしはミリン」


 コウスケ、ミリンがそう言うと、ユリとサクラはお互いの顔を見合わせた。


「あたしはユリ。なんかみんなから警戒されてるみたいだけど…まぁよろしく」

「私はサクラ。ユートピア出身のエルフよ。ユリは私の幼馴染だし襲ったりしないから安心して」


 サクラがユートピアの地名を出すと、警戒していたエルフ達はそっと胸を撫で下ろした。


「では、わたくしのほうから状況を説明いたしますのでこちらまでどうぞ」


 レンゲはそう言うと、コウスケ達を教会の奥にある資料室へと案内した。



ーーー



「…ユウ?この建物は一体…」

「ここは依頼クエストにあった数百年前の研究所らしいですよ。なんでもこの世界の成り立ちについて研究していたとか」


 ユウとユイは災いの森に隣接するツタに覆われた3階建ての建物を見ると、そのおぞましい外観に足を止める。

 ユウはそっと深呼吸をすると、ユイの手を取った。


「よし、行きましょう姉さん。コースケさんの予想が当たっていれば私達『竜人』に関する何かしらの情報が得られるかもしれません!」


 2人は鍵のかかっていた研究所の扉を破壊して中に入ると、埃のかぶるくらい室内の奥へと足を運んだ。




「姉さん、これって…」


 研究所の二階。ユウは壊れかけたデスクに広がる紙を拾い上げると、その足を止めた。


「この研究所の研究レポート…なのか?」

「『神話における竜人とその生態について』だそうです」

「…神話?なんだそれ?」



ーーー



「では、現状を説明させていただきます」


 レンゲがそう言うと、神父は数十冊の古びた書物を取り出した。


「まずは竜人という種族がどういう存在で何を意味しているかを知っていただきたい」

「あ、はぁ…」


 レンゲの言葉にコウスケは反射的にそんな声を漏らすと、神父は軽く咳払いをして一冊の本を開いた。



ーーー



『かつて、この世界には3人の神がいた。


 1人は〈魔神〉と呼ばれ、その圧倒的な力で多くの魔族を従えていた。


 1人は〈竜神〉と呼ばれ、この世に存在する最強種…ドラゴンを束ね、世の中の秩序を守っていた。


 そして、最後の1人は何とも呼ばれず、人族の中でのんびりと暮らしていた。後に〈名も無き神〉とも呼ばれたが。



 そんな神が支配する世の中で、魔族と人族は互いを忌み嫌い、神同士のいがみ合いも続いていた。


 そんな中、種族の壁を超えた存在、〈竜人〉が出現した。竜人は最強種である竜の力を人というその器を使って最大限に引き出すことができ、その力は時間をも超越し、その概念を破壊した。


 人族はその竜人を慕い、竜人は人族との共存を願い、平穏な時代が続いていた。


 それから数百年、魔族の中に〈魔人〉と呼ばれるヒトの姿をし、理性というものを持つ魔族が現れた。魔人は魔法とはまた違った技術を作り出し、急速な発展を遂げていた。


 3人の神は自分達の存在をも危うくするそのイレギュラーな存在に対し、天使、悪魔と呼ばれるヒトの姿をした遣いを送った。


 しかし、神々の目的に反した悪魔は〈魔王〉と呼ばれる魔人に魅入られ、契約を交わした。


 一方天使は竜人と接触したのち、竜人が神々の考える脅威ではないと判断すると、神々のもとへと帰っていった。


 天使の報告を受けた神々は、竜人への警戒を緩めた。その頃、悪魔と契約した魔王はその新技術を使い、竜人を操り世界を支配しようと考えていた。


 竜人が出現してから数百年。神々が警戒を解いている中、魔王、悪魔はその力を使って竜人を騙し、操った。

 抑えていた力を強制的に引き摺り出された竜人は、自らの意思と関係なく人族、魔族をこの世から消し去ると、神々や魔王自身をも無きものにした。


 魔王の支配から解放された竜人は、自らの行いを悔み、この世界を作り直した』



「『…この神話内容を受け、存在しないはずの竜人が再び現れたときに再び世界が滅ぶと言われている。そこで我々は何故このように強力な魔物モンスターである竜人が何故、存在していないのか。そして、存在していたとするならそれはどのような生態なのかを研究していた』」


 レポートを読んでいたユウは、そこまで読むと一度手を止めた。


「姉さん。これ、どう思います?」


 ユイはユウがそう言うと組んでいた腕を戻し、その資料に手を伸ばした。


「俺としてはにわかに信じがたい話だが…」


 ユイはしばらくレポートと睨めっこをすると、諦めたように溜息を吐いた。


「憶測とはいえこんな詳細なデータを取れる機関はどうかしてる。筆跡が古いから俺達と干渉できるわけもないしな。でも現段階で俺とユウに起きてることは全て的を射ているから…情報源としては信用しても問題ないと思う」

「姉さんがそこまで言うなら大丈夫そうですね」


 ユウはそう言うと、資料を自らの影に投げ入れた。


「コレは私達のプライバシーにも関わりそうな情報ですからギルドに持っていく義理は無さそうですし、他の資料を探しましょう」

「あぁ」


 2人は何も無かったかのようにそう言うと、部屋を掃除してから上の階へと繋がる階段を上がった。



ーーー



「…というように神話の内容から『竜人は世界を滅ぼす存在』と言われているのです」


 神父は本を閉じると、一拍置いてからその顔を上げた。


「…まぁそんな魔物自体我々が存在する今でも、その存在を確認できていないので誰もがそれを『存在しない幻の魔物』と呼んでいるのですが」


 神父がそう言うと、それを頷きながら聞いていたレンゲが口を開いた。


「そんな竜人を名乗る集団が先日、この村を襲撃してきたのです。わたくし達も村の総力を上げて抗ったのですが、ご覧の有り様です…」

「我々の信仰する神々をも倒したと言われる幻の魔物です。我々としてはこれ以上下手に動いて消されるよりはここで身を守るのを最優先にしていたのですが…」


 2人はそこまで言うとお互いの顔を見合わせた。


「一昨日、『1週間猶予をやる。そのかわりこれから毎日人質を1人出すように』と。このままではいずれこの村は滅びてしまいます。どうか…あの竜人達を追い出してはいただけませんでしょうか…!」


 レンゲはそう言うと、頭を深く下げた。


「分かりました。俺達に任せてください。俺達もそのつもりでここに来たんですから!」


 コウスケがそう言うと、ミリン、ユリ、サクラの3人も続けて頷いた。



ーーー



「ユウ、ちょっとこっちに」

「…?どうしたんですか姉さん」


 研究所3階を見てまわっていたユイはユウを呼ぶと、壊れたショーケースに向かって指差した。


「コレは一体…」


 ユウはショーケースの中にある栓のついた試験管を取り出すと、その中にある黒っぽい物体軽く振った。


「ユウ、ちょっとごめん!」

「え?」


 ユイはそう言うと、ユウの持っていた試験管を奪い、それを自らの影に投げ込んだ。


「ね、姉さん!?何をやって…」

「…!ユウ!伏せて!」


 ユイがユウに覆い被さるように押し倒すと、その瞬間、大きな爆発音とともに建物が大きく揺れ、周囲に窓ガラスなどが散乱した。


「…やっぱりね。俺の思った通りか…」

「姉さん、ちょっと苦し…」


 ユウはユイのその豊満な乳房に顔を押し潰されると、苦しむようにもがいていた。


「あ、ごめんユウ」

「…ぷぁっ…」


 ユウの上からユイが退くと、ユウは大きく深呼吸をした。


「酷いですよ姉さん。いきなり押し倒すなんて…」

「悪い悪い…一声かけとけばよかったな」


 ユイは翼を広げて周囲の瓦礫を吹き飛ばすと、ゆっくりと立ち上がった。


「で、姉さん。アレは一体何なんですか?知っているような口ぶりでしたけど…」

「あー…アレは空気に触れると大爆発する薬品だよ。前にサルモネラが使ったあの薬を作るときにできる副産物なんだけど…」

「姉さんが城にいるときに見たことがあるってことですよね」


 ユウの言葉にユイは静かに頷いた。


「…とりあえず残った資料を回収しましょう。それで、依頼クエストにそった内容のものはギルドに預けて依頼達成クエストクリアといきましょう」

「おう」


 立ち上がったユウはそう言うと、2人は瓦礫に埋れてしまった資料を次々と自分の影に投げ込んだ。



ーーー



「大変です村長!」

「どうした!?何事だ!?」


 コウスケ達に状況を説明し終えたレンゲの元に、1人の若いエルフが形相を変えて飛び込んできた。


「竜人が…!竜人が今日の分の生贄を出せと町の中央広場に…!」

「何!?」


 レンゲはそう叫ぶと、悔しむような表情で頭を抱えた。


「…まさか、こんなにも早いとは…すみません冒険者様。さっそくですが竜人を止めてきてはいただけないでしょうか…!相手がとても強いのは重々承知しております。ですが、どうか!わたくし達を助けてはいただけないでしょうか…!」


 レンゲは深く頭を下げてそう言うと、その拳を血が滲まんばかりに握り締めた。


「レンゲさん…わかりました。俺達で出来る限りのことはやってみせます!」


 コウスケはそう言うと、頭を上げたレンゲの瞳をジッと見つめた。


「嗚呼!ありがとうございます冒険者様!ですが、くれぐれも無理はなさらぬように…!」


 レンゲの言葉に、ユリとサクラはお互いを見るとその口を開いた。


「大丈夫ですレンゲさん!私達に任せてください!」

「あたし達にはあと2人、頼もしい仲間がいるんですから!」


 2人の台詞にコウスケとミリンはフッと笑みをこぼすと、コウスケ達はレンゲ達に一礼してからその場を後にした。

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