宿敵との対面
「身体は戻りましたけど…昨日は危うく新しい何かに目覚めるところでしたよ…」
「あはは…それは災難だったねユウさん…」
翌朝、いつもの特訓を終えたコウスケとユウは宿に戻ると朝食を並べながらそんな会話を交わしていた。
「そういえば昨日吉田が遺跡がどうのとか言ってたけど…今日行ってみない?」
「遺跡…ですか?私も行ってみたい感じはしますけど…おそらく巨人がたくさんいると思うので他の人がそれでも大丈夫ならいいんじゃないですか」
ユウはコウスケの言葉にそう返すとちょうど起きてきたのか食堂にやってきたミリン達のほうへ目を向けた。
「まぁこれから聞いてみましょう」
「そうだな」
ーーー
「なんか気味が悪い場所ね…」
遺跡跡にやってきたコウスケ、ユウ、ミリン、ユリの4人はユウを先頭に警戒態勢をとりながら遺跡内を散策していた。
「吉田もあとで合流するって言ってたけどあいつらどこにいるんだ?」
「私に聞かないでくださいコースケさん…あの男ならきっとそのへんで巨人と戦ってるじゃないですか?」
「えらく投げやりだなユウさん…」
2人はそんな会話を交わしているとユウが不意に何かに気付いたのか足を止めた。
「どうしたのユウ?」
「いや…ここってさっきと同じ場所をぐるぐる回ってる気がして…」
ユウに指摘されコウスケ達も周りを見回すとみんな納得したような不思議な反応をした。
「たしかにさっさと変わんない…もしかしてあたし達…道に迷ったとか?」
「ゲームとかでありがちな罠だな…まさか本当に起きるとは…」
コウスケがそう呟くと何か思いついたのかユリがポンと手を叩いた。
「要はこの罠ごと破壊すればいいんですね!」
「ちょっとユウさん!?そんなことしたら遺跡自体が壊r…」
「冗談ですよ、コースケさん。こういうのは壁を辿ったりすれば隠し通路とかがあるっていうのが定番…ですよね?」
「お、おう…たしかにゲームのあるあるだな…」
冗談を言うユウにコウスケは早まる動機を抑えながらそっと胸を撫で下ろした。
ーーー
「なんで私が…」
サクラは宿のエントランスを掃除をしながらひとり呟いた。
「仕方ないよ。おねぇちゃんにあんなことして…しばらく一緒に行動とかしちゃいけないんでしょ?」
エントランスで接客の手伝いをしていたハルナはぶつぶつ言っているサクラの背後にぬっと現れると悪い笑みを浮かべながらそう言った。
「ハルナ?ちょっと今日あたりがきつくない?」
「気のせいじゃな〜い?」
ハルナはサクラから離れると笑いながらその場を後にした。
「はぁ…なんで私あんなことしたんだろ…」
ーーー
「ここは…?」
壁をつたって遺跡内を進んでいたコウスケ達は隠し扉を見つけるとその中に広がる大きな空間に言葉を詰まらせた。
「なんだ…この匂い…」
コウスケがまわりを見渡すと薬品のようなものが入ったケースがずらっと並んでいた。
「これは…ホルマリンですね。中に何か入ってるものもありますね…」
ユウはそのケースをしばらく眺めると何かに気づいたのかピクリと眉を動かした。
「コースケさん。これ、古代遺跡という割には最近使われたもののようにも見えませんか?」
コウスケはユウに言われケースをジッと見つめるとたしかにと呟いた。
「ねぇねぇコウスケ、ユウ。あれは何?」
「ん?」
ミリンに肩を叩かれたコウスケはその指差す方向に目を向けると、そこにはたくさんの配線のようなものに繋がれた獅子のような生物が寝転がっていた。
「人工魔物…」
ユウはそれを見てひとり呟くようにそう言った。
「ユウ、人工魔物って何?」
「名前のとおりあれは誰かが作った魔物ですよ。頭がいくつもありますから…さしずめキマイラと言ったところですかね」
頭に疑問符を浮かべているユリにユウはそう言い放つと影から銃を召喚した。
「どうしたんだユウさん?急に銃なんか構えて」
「コースケさん…私にはここが…何故かとてつもなく嫌な予感がします」
ユウが言葉を言い終わるのと同時に寝ていたキマイラの瞳がそっと開かれた。
「ユウ、これは目が覚めたみたいじゃない?」
「一旦下がりましょう」
ユリがユウに言われ後ろに下がるとキマイラは配線を引きちぎりながら立ち上がると咆哮をあげた。
「《ダークスレイヤー》!」
コウスケは反射的にそう叫ぶと魔方陣から黒剣《ダークスレイヤー》を右手にとった。
『オォォォォォォォッ!』
キマイラはコウスケ達を目にすると全身に黒いオーラのようなものを纏いコウスケに襲いかかってきた。
「危ない!コースケさん!」
ユウは咄嗟に銃の引き金を引くとそこから発射された弾はオーラに阻まれたように起動を変えるとそのまま後ろのケースを破壊した。
「これは…あの時と同じ…」
「ユウさん!前!」
キマイラの攻撃わ交わしたコウスケは、驚愕の表情で固まっているユウの腕をとるとそのまま後方に退いた。
「すみませんコースケさん…」
「大丈夫大丈夫。…それよりあいつは一体なんなんだ?ユウさんの攻撃も効いてないみたいだし…」
2人はキマイラの死角となるケースの裏に隠れると無造作に暴れ回るキマイラを覗いていた。
「…コースケさん?いつまで私の手を握ってるつもりですか?お触り厳禁ですよ」
「へっ?あっ…ごめんユウさん!」
コウスケはギュッと握っていたユウの左手を離すとそのまま土下座をした。
「何やってんのリーダー…」
コウスケが顔をあげるとゴミを見るかのような目をしたユリがこちらを覗いていた。
「それで?どうやってあれを倒すの?」
ミリンはユリの後ろから顔を出すと不思議そうな表情でそう言った。
「とりあえずアイツを倒さないには何もできないんだけど…」
「おそらくですけど、あのオーラは攻撃を阻害する効果があると思います。前回ユートピアに出現した魔物のものと同じものとみていいかと」
ユウはそういうとユリのほうへ目を向けた。
「多少ですが物理攻撃は通用するので…ユリ、トドメの一撃は任せていいですか?足止めは私達がするので」
ユウの言葉にユリは頼られたことが嬉しかったか若干顔を赤く染めると力強く頷いた。
「じゃあわたしはアレの足止めをすればいいってこと?」
「えぇ」
ミリンが確認をとるようにそう言うとユウは首を縦に振った。
「防御魔法などでもいいですからできるだけユリを視界に入れさせないようにするのが最優先です」
「あ、ちょっとユウさん!?」
ユウは言い終えるのと同時に物陰から飛び出すといつのまにか召喚した銀色の剣でキマイラを切りにかかった。
「仕方ねぇ…久々に殺りますか」
コウスケは自分に言い聞かせるように呟くと2本の剣を両手にキマイラのほうへと呼び出した。
ーーー
「やっと終わったぁ〜!」
宿全体の掃除を終えたサクラは何かから解放されたように手足を伸ばすとユウのベッドに倒れ込んだ。
「あぁ…ユウの匂いがする〜」
普段しないことをした疲れのせいかサクラはすぐに深い眠りに落ちていった。
ーーー
「〈パワーブースト〉!」
ユリはミリンに守られながらひたすら身体強化魔法をかけているとキマイラに攻撃していたユウが2人のもとへやってきた。
「ユリ。そろそろ大丈夫そうですか?」
「えぇ。バッチリよ!」
ユリが大きく首肯するとユウはキマイラとコウスケを指差しながら口を開いた。
「今から私達がアレをここに誘導しますから私が合図をしたらあの一番大きな頭を真上から攻撃してください。おそらくですがあそこが急所のハズです」
「了解」
ユウはユリの返事を聞くと再びコウスケのほうへと飛び出した。
『オォォォォォォォッ!』
ユウに気付いたキマイラは誘導するユウを追うように攻撃を開始した。ユウはその攻撃を綺麗かかわすとユリに合図をするように銃を鳴らした。
「はぁぁぁぁぁッ!一・撃・粉・砕ッ!」
ユリは勢いよくキマイラの背後から飛び出ると奇妙な叫び声を上げながらキマイラの頭に拳を叩きつけた。
「えっ?今なんて言ったの?」
ユリの攻撃によって粉々に消え去ったキマイラを前に、先程まで誘導を行っていたコウスケはそんなことよりもユリが発した言葉に口をポカンと開いていた。
「一撃粉砕…ですか。まぁユリらしいといえばそうですけど」
ユウは自分でキマイラを倒したことに喜んでいるユリを横目に苦笑するとドロップアイテムを拾い上げた。
「さぁ、この部屋はこれ以上荒らしようがありませんし…そろそろ帰りますか?」
「どうするコウスケ?わたしもはやく帰りたい気分なんだけど…」
「ユウ…ここ荒らすつもりだったんだ…」
コウスケはそんな3人を見て帰ろうと考えをまとめたとき、コウスケの後方…正確にはキマイラが寝ていた場所から小規模な爆発が起こった。
「ほう…まさかキマイラを倒すとは…自信作だっただけあってこれは期待以上だ…」
煙のあがる中、そんな不気味な声とともに白衣を纏った男がコウスケ達のほうへゆっくりと歩いてきた。
「魔族…あのときの…」
ユウはその男を見てそう呟くと普段見ないような物凄い形相で男を睨みつけた。
「ほう…これはもしかしてあのときの生き残りか…俺はディザスター帝国四天王の1人、エイズ。さぁ…そこの竜人を渡してもらおうか」
エイズはそう名乗るとユウを手招くように右手を動かした。
「はッ!誰がお前なんかについて行くとおm…」
「アァァァァァァァァ!」
コウスケが言い返そうとした瞬間、奇声を上げたユウはその場に銃を投げ捨てると右手に《アベンジャー》を構え、エイズに向かって突っ込んでいった。
「よくも…ッ!よくもよくも…ッ!イヨを…ッ!姉さんを…ッ!母さんを…ッ!返せェェェェェッ!」
ユウは感情のままに叫ぶも、冷静さを失った単調な攻撃はエイズにヒョイヒョイと避けられてしまった。
「そんなもの効かん」
「ぐ…ぁ…」
エイズはユウに回し蹴りを喰らわすとユウは背後にあったケースを破壊しながら壁まで突き飛ばされた。
「さぁ…ホルマリン漬けにしてやるぜ…」
エイズはコウスケ達のほうを向きながらそう言うと唇をペロリと舐めた。
「仕方ない…ユリ、ユウさんを頼んだ!」
コウスケはそう言うと2本の剣を振り回しながらエイズのほうへと走っていった。
「…チッ」
エイズはコウスケの攻撃をたやすくかわすと床を蹴って宙にまった。
「まずは…お前からだ」
「…ぁ」
ユウのほうに向かうユリの正面に着地したエイズは右手をユリの目の前に突きつけるとものすごい勢いでユリを壁まで吹き飛ばした。
「ユリ!」
ユウは痛む身体を引きずりながら飛ばされたユリの元に駆け寄るも辺りは血の海と化していた。
「そん…な…」
ユウは膝から崩れ落ちると息ひとつしないユリのからだを抱きしめた。
「わかったか?大人しくついて来い。拒むのなら次はあいつらも殺してやろう」
エイズはそんなユウの背後に立つと不気味な笑みを浮かべながらそう言った。
「ユウさん!これ借りるよ!」
コウスケはそんなユウに聞こえるように叫ぶと先程ユウが投げ捨てた銃を拾い上げた。
「これでも…喰らえッ!」
コウスケはその引き金を引くと反動で銃を持っていた右腕が悲鳴を上げながらコウスケの身体を回転させながら後方に吹き飛ばした。
「…チッ」
エイズはその弾をすんでのところでかわすとミリンの目の前に着地した。
「次はお前だ」
ミリンがそれに反応するより早くユリと同じように壁に身体を叩きつけた。
「ミリンッ!」
コウスケは骨や筋肉も粉々になったであろう内出血で赤くなったなった右腕を引きずりながら立ち上がると朦朧とする意識の中、左手に握りしめた《ドラゴソード》をエイズに向かって振り下ろした。
「効かん」
エイズはそれをはたき落とすと右手でコウスケの首を掴んだ。
「その勇気…気に入った。後で俺のコレクションに入れてやる」
「…ッが…ぁ…そんなの…ごめんだね…」
「そうか…なら死ね」
コウスケは左手でそれを引き剥がそうと抵抗するもしばらくするとその腕をだらしなく倒して動かなくなった。
「…ぁ…そん…な…」
ユウは膝から崩れ落ちた。
首を絞められ動かなくなったコウスケやもはや助からないほどのダメージを受けたミリン達を前にユウは絶望に浸っていた。
「さぁ…俺についてきてもらおう。もうお前の仲間はいないからな」
エイズはコウスケの身体をそのへんに投げ捨てるとユウのもとへゆっくりと近づいた。
『お前…やり直したくないか?』
不意にユウの頭の中にそんな声が響いてきた。
「そんなの…やり直したいに決まってるじゃないですかッ!」
『即答か…だが、それでいい』
普通ならその声を疑うべきかもしれない。だが、今のユウにはそれを信じるしか方法は残されていなかった。
「一体…何を…」
その声はそれ以降聞こえなくなりユウの意識はゆっくりと闇の中に沈んでいった。
「コウスケ…ユウ…」
ミリンは全身を襲う激痛に耐えながら見渡すように目を見開くと、膝をついて動かなくなったユウと曲がってはいけない方向に関節の曲がったコウスケの姿が視界に入ってきた。
「コウスケッ!」
「…ほう…ダークエルフも耐えれなかったあの攻撃に耐えるとは…面白い人間だ…」
ミリンの声に気づいたエイズは視線をこちらに変えると不気味な笑みを漏らした。
「ソレはもう死んでるさ。さぁ、お前が俺のコレクションになってくれるのか…?」
ミリンは近くに落ちていた《ダークスレイヤー》を拾い上げると怒りをぶつけるようにエイズに向かってそれを振った。
「まだ戦えるのか…仕方ない」
エイズはその攻撃を左手で受け止めると空いた右手に力を込めた。
「死ね」
エイズの拳はミリンに触れる直前、何者かによって遮られた。
「ようやく私の出番だと思ったら…何よ、この最悪のタイミング…」
ミリンが瞑っていた目を開くとそこには頭に人間にはないような黒い角つのを生やした白い肌の美しい女がエイズの拳を受け止めていた。
「…チッ」
エイズは後方へ退くとその女を睨みつけた。
「誰だ…」
「さぁ?誰でしょうね?答えは彼に聞くといいわ」
女はユウのほうに目をやるとユウは何かに操られるようにゆっくりと立ち上がった。
ミリンは2人の視線につられるようにユウを見た。
ユウの足元に時計の盤面のような魔方陣が出現し、ユウの身体はそこから出た闇に包まれると中から黒い竜のような翼や尻尾が生えていて女のような顔立ちをした男が立っていた。
「ユ…ウ…?」
ギリギリつないでいたミリンの意識はそれを目にするとゆっくりと闇に飲まれていった。
「俺達は『キャンセラー』。歴史を…作り替える者」




